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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第二章 全プレイヤーに先駆けて最強PKを攻略せよ!
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チュートリアル 叔父と姪と無自覚姫プレイ

 ――引きこもりの姪の相手をして欲しい。


 そんな理由で、それまで親戚一同から空気のように放置されていた僕は、彼女――プレイヤー名『アイチィ』という少女と関わるようになり。もともとVRゲーム狂いで暇さえあれば仮想世界にダイブしていた僕と、中学の受験に失敗して部屋から出られなくなった彼女は、当然のようにゲームで初顔合わせをすることになったわけで。親族からのプレッシャーに追い立てられるがまま、あとから思えばまるで何度も無理やりお見合いをさせられているような、互いにひどくぎこちのない会話のやり取りだけが僕らの繋がりだった。


 そして、そんな他人に強要され、続けさせされた歪な触れ合いではあったが、それでも人間、どんな接触であれ、知り合い、話し合えば多少の変化をもたらすもので。はじめこそ完全オフラインで、自分以外はすべてNPCのゲームでしか遊んでいなかった彼女も、気づけば同じオンラインものを一緒にプレイするようになり。極度の人見知りで、多くの他人と関わってプレイするタイプのゲームは初心者だった彼女をフォローすることが多くなるにつれ、いつからか『僕は彼女の叔父で保護者だ』という自覚が芽生えるようになっていた。


 だから、試験版AFOで、今のパーティに加わるときだってそれなりに事前調査をしたうえで、彼らならば大丈夫だろうと判断してから『野良』から『固定』へと変えたのである。


 そして、だからこれはもう癖のようなもので……今回から僕らのクラン『薔薇園の守護騎士』に入団して、一時的にせよ一緒にパーティを組んでレベル上げをすることになった少女――ミナセちゃんのことを、僕は事前にできるだけ調査することにしていた。


 とは言え、調べる手段など≪掲示板≫で検索してみることぐらいのもので。それにしたって、最初期の『ロリドワーフ』だの『姫プレイちゃん』だのと言った俗称や、今の『乙姫ちゃん』のような別名で書き込まれることが多く。辛うじて『ミナセ』の名前でヒットした内容にしても身内の――友だちで、一緒に遊んでいるらしい『スィフォン』と『みはるん☆』の二人の書き込みばかり。それもまぁ、身内の書き込みでは、正直、どんな情報であれ信憑性が薄い、と言わざるを得ない。


 それでも、どういうわけかミナセちゃんは度々≪掲示板≫で話題になっているようで。それらしい書き込みを拾っていけば、正規版の開始早々に『ナンパされ、即座に断った』なんてものまであり。何気にそのナンパ男から彼女を助けたっぽいのが、我らが愛すべきリーダー殿だったっぽい書き込みがあって、思わず苦笑。さすがは『主人公ヒーロー』。最初の待ち合わせまでの暇つぶしで回ったのだろう街で、速攻で困っている女の子に遭遇して助けるとか、もう呪われているんじゃないかと思われる『主人公』っぷりである。


 ……思えば、彼と組むことになったのも、アイチィが困っているところを助けられたから、だったなぁ。聞けば、エリーゼにしても、他のゲームで困っていたところを助けてもらって、それ以来の付き合いと言うし。そういう意味では、ダイチ君の助けた女の子に悪い子はいないんじゃないか、なんて思わなくもない。


 だけど、ミナセちゃんの場合。どうにも情報が錯綜しているというか、意図的に非難し貶めているような書き込みもあれば、スィフォンを筆頭に「悪く言うのであれば証拠出せ」という擁護派も多く居るようで。直近では、あのネタ武装を造ることで有名な奇人に着せ替え人形にでもされたのか、幾つもの衣装を着せられてポーズをとる画像データまであげられていて……正直、よくわからない。


 ちなみに、直接話した印象としては、歳のわりに古臭い言葉使いをする落ち着いた雰囲気の女の子、といった感じで。以前に、ほとんど表情の変化も無く冷静沈着の権化のようだったスィフォンと出会っていなければ、本当に小学生かと疑っていただろう。


 肩までの赤い髪と『ドワーフ』の特徴である僅かに尖った耳。無表情がデフォのスィフォンとは違うけど仏頂面が常態のような感じではあるけど、一緒に居た、喜怒哀楽が素直に表面に出る犬耳の女の子――みはるんちゃんやスィフォンと接するときなどは、その表情も和らぎ。表情の変化こそ少なそうだが、笑いもすれば呆れもするように映った。


 そして、そんな彼女は、友人である二人の少女たちの書き込みに曰く、『ずっと入院している子』なんだそうで。それは、僕らがよく使う長時間のログインを可能とする専用のVRデバイスと同じだけログインし続けられるらしいことから、たぶん本当のことだろう。……なにせ、医療用のVRデバイス以外で8時間もの連続ログインを可能にするデバイスなんて、そのほとんどがR18指定だしね。


 だから、その手のデバイスを自由に――通常なら病院内だけの、完全オフラインモードになっているのが普通で、本来はオンラインモードの接続など有り得ないはずのそれでAFOをやっていて。しかも、本人の意思で長時間のログインすら許されているような時点で、現実世界の彼女の身体は、おそらく……。


 …………うん。


 なんにせよ、これから一緒にレベル上げをするのだから、彼女のリアルでの事情はさておき、人となりはしっかりと見極めないと、ね。


 そんなわけで、予定通りに集合し、さっそく『レベル15開始』のダンジョンに潜るや1つの提案をしてみることに。


「パーティをダイチ君、アイチィ、ミナセちゃんとその他で2組に分けよう」


 ――ダイチ君とアイチィは総合レベル26で、このパーティのツートップ。


 そして、レベル差10以上ではほとんど経験値の入らないAFOの仕様から言って、最初の数階は僕らレベル25組にしたって同じように取得経験値が微妙な階層。だから、まずは敏捷値の高いダイチ君とアイチィで先行してもらって、僕らは二人が開拓してくれた道を駆け足で移動する――というのが、いつものやり方だったけど、今回はミナセちゃんのレベル上げのために変更。パーティを2つに分け、少しでも多くの経験値を彼女に渡すようにしつつ、リカバリーの容易な最初の方で彼女のプレイヤースキルに関して先行組で確認してきてほしい、と。まずはミナセちゃんに聞かせるための理由を語り。


 次に、いくらミナセちゃんが歳のわりに落ち着いている子とは言え、いきなり年上の人間に囲まれるような状態では萎縮してしまい、変に緊張させてしまう、と。これから少なくとも20時間以上は一緒に居て、レベル上げのために戦闘なども一緒にしようというのだから、まずは少人数で彼女と組み、ある程度仲良くなるべきだろう、と。そのために、以前にナンパ男から助けたことのあるダイチ君と、このなかで一番歳の近いアイチィと組んでもらいたい――なんて仲間向けの理由も語り、納得させた。


 だけど……まぁ、本当の狙いは、あの人見知りが激しい姪が珍しくお姉さんぶって積極的に関わろうとしているから、そんなアイチィの背を押したかっただけ、だったりするんだけどね。


 ≪掲示板≫のスィフォンたちの書き込みによれば、ミナセちゃんはAFOが初めてのVRMMOものだって言うし。きっと、口下手で毒舌気味の姪っ子でも、見るからに年下の女の子になら素直になれるだろう、と。そう思っての叔父によるお節介は――




『……叔父さん、叔父さん。なんかあたし、ちょっと今、軽く死にたくなったんだけど、どうしたら良いと思う?』




 いきなりのアイチィからのSOSに頭を抱えた。


 『フレンドコール』越しに落ち込む彼女に詳しく成り行きを訊けば、なんでも『とりあえず、何か共通の話題でも』と考えてミナセちゃんのことを知ろうとしたらしい。


 それで、まずはミナセちゃんに『普段、何をしているのか』を訊いて。それに『AFOをするまえは、だいたいVR空間でボーっとしていた』と返され、絶句。……うん、そりゃあ言葉を失うね。まさかの、『何もしていない』とか……ちょっとどういうことなの?


 さておき。それでもアイチィはなんとか気を取り直して、次に『AFOをすることになった切欠』を訊いたらしく。これにミナセちゃんは、VRゲームが初めてという子――みはるんちゃんと一緒にゲームをして欲しいと彼女のお母さんに頼まれたから、と。それで、『なんでお母さんの方に頼まれるの?』と、深く考えもせずに質問を重ねてしまった姪は悪くない、って叔父さんは思うよ。……うん。僕だって、それで『彼女のお母さんが、ミナセちゃんの担当医の一人で。いつもぼんやりと過ごしていたのを心配されたのもあって』なんて、さっきのと合わせて重い答えが返ってくるとは思わないって。


 …………うん。なんにしても、ミナセちゃんがどういった状態なのかをこの辺りでようやく悟ったアイチィは、それならばと今どきの小学生女児なら知っていて当然だろう話題を探し。そのほとんどすべてをミナセちゃんが知らず、洋服の話題に至っては『子ども時代は親が用意したものを適当に選んで着ていた』と返され。それで入院中だろう彼女に服の話題が地雷だったことに遅ればせながら気づき、慌てて両親のことに話題を移せば、何年もまえに両親は他界。今は病院の院長が厚意で保護者役をしてくれている、と。そう淡々と言われて泣きそうになったらしい。


 ……敢えて言おう。なぜそうも『地雷トラップ』を全力で踏みに行くのかと。高レベルの〈狩人〉として、こうまで『罠感知』に失敗してどうするのか、と。


 もっとも、この手の機微に関しては人生の経験値がものをいうわけで。元・引きこもりの最終学歴が小卒止まりのアイチィにその辺を察しろというのは酷ではあるのだろうけど……。


 なんであれ、アイチィ『お姉さん』が自分との会話で落ち込んでいる、というのはミナセちゃんにも気を遣わせて逆効果だから。空元気でも良いから、ミナセちゃんには『お姉さん』として明るく頼れる存在であろうとするべきだ、と。特に『お姉さん』のところを強調して説得し、なんとか姪っ子を立ち直らせることに成功。


 ……うん。それにしても、重い。人伝に、第三者を通して僅かに漏れでただけだろう情報でも十分に重いんだけどミナセちゃん。


 というか、『子ども時代は』って何? ミナセちゃん、君は今、自分は子どもじゃないとでも思ってるの? ――なんて、僕まで人知れずどんより暗い気持ちになっていたところに、更なる爆弾が。


 階層を昇る際、合流したリーダーのダイチ君曰く。ミナセちゃんのプレイヤースキルは十分に攻略組にも通用するもので。両手にヌンチャクを持ち、一人で3体のゴブリンを撲殺したと聞かされ、思わず目を丸くした。……そして、「どうしてそんなに強いの?」と訊いたアイチィに「人生の大半をこっちで過ごしているでな。アバターでの立ち回りは慣れている」と返して、また『お姉さん』を無自覚に凹ませる幼女に遠い目になった。


 ……うん。アイチィお姉さん、頑張れ。


 まぁ、それはともかく。そんな予想以上に強かったミナセちゃんとダイチ君は、試しに『決闘』システムで対戦もしてみたそうで。『レベル1で「見習い服」に任意の練習用武器1つのみ』という『ベーシック』ルールでの勝負だったらしいけど……驚いたことにミナセちゃん、『盾』装備でダイチ君に圧勝したと言う。


 ……いや~、ちょっと待とうかミナセちゃん? 普通、12歳の女の子が『人生の大半』をVR空間で過ごしたところでダイチ君が驚くレベルのプレイヤースキルはつかないんじゃないかなぁ。さり気に彼、別のゲームとかじゃあ結構有名なプレイヤーで、幾つかのPvPの大会では優勝してたりもするんだけどなぁ。それをなんでハズレ武器の代表である『練習用武器:盾』で勝てるのかなぁ? ルールが『ベーシック』じゃあ【スキル】も無しで、完全にプレイヤースキルでの対決になるのになぁ、不思議だなぁ……。


 もっとも、件の『決闘』以後、リーダーであるダイチ君はなんとなくミナセちゃんの正体に気づいたようで。


「……カネガサキさん、覚えてます? 今からだいたい3年ぐらいまえに、当時9歳の子どもが『生脳電子体せいのうでんしたい』の手術を受けた、ってニュースになって一時期SNSとかで話題にもなってたんですが」


 あれ、たぶんミナセちゃんですよ、と。ダイチ君は僕にだけ聞こえるような小さな声と暗い表情で教えてくれた。


「今、思いだしたんですけど、僕の妹の『ローズ』が学校で事あるごとに突っかかる子がいまして。その名前が『水無瀬 美晴』ちゃん、っていうんですよ」


 それで、あの『みはるん☆』って子のこと、ミナセちゃんは『美晴ちゃん』って呼んでたでしょ? で、彼女とは親戚だとも聞いてまして……。


 つまり、


「じゃあミナセちゃんは、あの『水無瀬』グループの?」


 思わず、「うわぁ……」と顔をしかめそうになる僕に「……たぶん」と、ため息交じりに返すダイチ君。


「僕も彼女に聞いてみたんですよ、『どうしたらもっと強くなれるかな?』って。そうしたら何て答えたと思います? 『まず視覚情報に頼りきるのをやめた方が良い』んだそうで……」


 ミナセちゃん、実際に見もしないで戦闘できるんですよ、と。そう言って『参った』とばかりに両手を上げて苦笑する彼に、僕の方こそ『参った』だよ。……え? もしかして、彼女ってば普通に最強?


 病弱で、ずっと入院生活の、人生の大半を仮想世界で生きてきた少女とは言え、なにをどうしたらそこまで強くなれるのさ、と。そう呆れ混じりに問えば、


「……ミナセちゃんのステに称号【時の星霊に愛されし者】ってあるんですけど。それ、本人曰く『任意で体感時間を加速させられれば取得できる』んだそうで。じゃあ、どうすれば故意に体感時間を弄れるようになるのか訊いたんですけど……」


 返ってきた答えは、『まず千回ぐらい臨死体験をして走馬燈を見る感覚を掴んでから、次にその感覚を引き出せなければ死ぬような環境で練習し続ければ良い』と。……うん。それ、普通に拷問だと思うんだけど?


「『今なら人格が崩壊しても簡単に治せる』んで、『何度壊れても大丈夫』なんだそうですが……カネガサキさん、やってみます?」


 ……いやいやいや。なんで人格の崩壊が大前提の練習法を知ってるの? やったの? ミナセちゃん、やっちゃったの!?


「いや、僕としても『それ、普通に虐待なんじゃ?』って思ってですね。やんわりと指摘したら、『親戚の、生まれつき目の不自由な子も望んでやっていたが?』と不思議そうにされまして……。そう言えば『水無瀬』の子のなかにU-14のVR戦代表選手が居たなぁ、って」


 ああ、あの『現代の座頭市』って呼ばれてる子ですね。たしか、生まれつき眼前数センチしか見えない子で、名前が『水無瀬 はじめ』っていう。


「……ということは、もうミナセちゃんは確実に『水無瀬』の係累確定?」


「おそらくは。で、そうなると……僕の親戚でもあるんですよねぇ」


 ダイチ君の本名は『大地・A・ローゼンクロイツ』と言い、彼の祖母は現代のVRゲームにおける体感時間加速システムの祖――『天海てんかい・A・ローゼンクロイツ』。旧姓『吾郷あごう 天海てんかい』と『水無瀬』グループの御大将こと、『水無瀬 修三しゅうぞう』氏と言えば、数々のVR技術の基礎を生み出し、『ミナセアゴー式』の名はVR関係の仕様について多少なり調べたことのある者なら誰もが知っている有名なもの。


 そういう意味でも、ミナセちゃんがあの『水無瀬』グループの係累であると言われれば、VRでの戦闘技術が図抜けて高かったとしても納得――……できる、の、かなぁ?


「噂だと、まだ『水無瀬』家の御大将は存命だって言いますし、もしかしたら彼女も……」


「ああ、そう言えば『座頭市ちゃん』も水無瀬の御大に指導を受けた、みたいな噂がありましたねぇ」


 …………うん。


 まぁ、それはさておき。そんな突出したプレイヤースキルの持ち主である彼女であれば、たしかに人数が多く、レベルも倍以上離れていた『だけ』のPK相手に一人で立ち回って全員討伐できる、か。……ある意味、『チート』の体現者っぽいからねぇ、彼女。


 でも、まぁ、そんな少女が仲間になってくれた。そのことは素直に喜ぶべきことだろう、と。思考を切り替え、再び考えこむ。


 ……しかし、そうなると。親戚の子とその友だちというスィフォンと遊んでいたらPKに襲われ、みはるんちゃんが傷つけられたから逆襲した、というのはわかる。……敢えて泣き寝入りではなく逆撃からの殲滅戦という辺り、三人の負けず嫌いっぷりが窺えて苦笑ものだが、それはさておき。


 じゃあ、なんで『亡霊猫ファントム・キャット』を狙う? それも、僕たち攻略組に頼み込んで早急なレベル上げをしてまで。


 いちおう、スィフォンが『亡霊猫ファントム・キャット』について言及していたから、そっちも調べてみた。が、その正体については判然としない――というか、そもそも『誰も見てない、正体不明の敵』とか、本当に居るのか疑うレベルなんだけど。


 ……短い間ながら、ミナセちゃんが悪い子ではないのはわかった。


 あの脳筋で筋肉馬鹿のドークスに対してすら『壁役タンクとは』なんて話題で教えを乞う姿勢を取り、巨漢の筋肉達磨が初孫に対して笑みくずれる好々爺みたいな顔で語っているのを見るに間違いない。


 ……うん、あの子は良い子だ。なんであんな『ずがー!』だの『てりゃあ!』なんて擬音ばかりの説明で「なるほど」と頷けるのか。逆に小さな子が一生懸命に説明しようとしているのを見守るお母さんみたいな目じゃないかな、ミナセちゃん。


 気づけば、なんとか名誉挽回がしたいのかアイチィも少女に対して親身に接しており。いつの間にか「ちぃお姉ちゃん」と呼ばせて密かに喜んでいるし。……そう言えば、彼女、末っ子だったね。名前にしても『相垣あいがき 智衣子ちいこ』の略称で『アイチィ』と決めたわけで。『ちぃお姉ちゃん』呼びは姪っ子的にドストライクなんだろう。


 それに加えて、もともと面倒見の良いエリーゼが、VRMMOの知識に限らず『女の子らしさ』についても不勉強に思われる少女に対して保護欲をくすぐられ続けてでもいるのか、はたまた『エリお姉ちゃん』呼びがことのほか彼女の琴線に触れたのか、いつになく甲斐甲斐しいようで。


 リーダーであるダイチ君は、基本、女の子には優しいのだけど……ミナセちゃんが親戚の、それも大変に重い背景を背負った子どもだと知ってからは一層優しいし。もはや傍目には彼女の蔑称である『姫プレイ野郎』が真実味を帯びるほどである。……というか、たぶんNPC相手にも無自覚に危うい言動で保護欲を呼び覚まし、いつの間にか『姫プレイ』状態になったのだろう、と今ならわかる。


 なにせ、かく言う僕にしても――


「『亡霊猫ファントム・キャット』を狙う理由? ……ふむ。なるほど、まずはそこの勘違いを正すべきか」


 果たして、そんな僕のストレートな質問に対して、少女はまっすぐこちらに顔を向け、


「儂は、件の『彼女』を倒そうなどとは思っておらん。儂は、ただ『おそらくは儂と同じ病院に居るのだろう子』と話して……できれば、友だちになりたい、と思っておるだけじゃ」


 その言葉。それを告げる、どこまでも真剣な少女の瞳に――まるで鈍器で頭を叩かれたような衝撃を受けた。


 ……そうだ。件の『亡霊猫』の名前の由来の一つは『亡霊ファントム』――『現実では肉体を持たず、仮想世界でだけ存在する生霊のごとき存在』という意味での蔑称で。それはつまり、同じく『からだ』を無くしているのだろうミナセちゃんからすれば同類。


 そして、そんな存在は全世界でも極小数。それこそ『最期の病院』と呼ばれる『水無瀬』グループが経営する病院ぐらいしか居ないと言っても過言ではないだろうほどで。つまりは、ミナセちゃんの言う通り、もし『亡霊猫』がPKであれば――それは『同じ病院に居る、同じような存在』ということに。


「『彼女』が何を思い、どうしてPKを続けているのかは知らんし、話し合いたいだけの儂とてこのままでは言葉を交わすまえに討たれてしまう」


 だから、ミナセちゃんはレベル上げを頑張る。


 だから、ミナセちゃんは『亡霊猫』が他人に討たれるより早く、と焦っている。


「ゆえに、どうかお願いします。助けてください」


 ――彼女が、なぜ件の『亡霊猫ファントム・キャット』の正体をPKと断じているのか。


 ≪掲示板≫では単独犯とすら思われていないと言うのに、『なぜ?』と。そう疑問に思いもするが――もう、どうでもいい。


 ミナセちゃんが良い子だというのはわかった。素直で、まっすぐな子だというのは、短い間だけど話して、接して、一緒にレベル上げをして、わかった。


 だから、そんな少女が頭を下げているのに対して、誰が否と言えようか。


 今や多くの者がPKを単なる邪魔者や称号を手に入れられるユニークモンスターの如き扱いをするなかで。『ただ、話して友だちになりたい』と願い。そのために努力し。素直に、真面目に、どこまでも真剣な様子で「助けて」と言って頭を下げられる少女に、もし、そんな心無い台詞が吐けるのなら――……うん。ちょっと顔貸してくれる? 僕の――僕たち『薔薇園の守護騎士』の全力を持って相手するから、今すぐ出て来ると良いよ?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 不謹慎ながら、ちぃお姉ちゃんの地雷原タップダンスに腹をかかえました。 見事に踏んでいくぅ!!!
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