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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第二章 全プレイヤーに先駆けて最強PKを攻略せよ!
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クエスト28 おじーちゃん、レベル上げのために『ダンジョン』へ

 まずはアイギパンの『商人ギルド』に向かって商人登録を済ませ、〈商人〉に就き。次に、≪マーケット≫に不要なアイテムを出品し、エーオースの冒険者ギルドへと向かう道すがらに最低でもレベル1まで上げられる100Gを稼ぐ。


 果たして、〈商人〉を職歴に載せられたら〈探索者〉に転職し。今日の狩り場であるところの『ダンジョン』へ行こう、と。そう提案する儂に「おっけー!」と美晴ちゃんと笑顔で頷き、志保ちゃんも「はい、それでかまいません」と言いながら、


「あの……。登録料に関しては、私たちも――」


「いや、こうした転職代などは個人負担で良かろう」


 なにやら申し訳なさそうにしている少女に軽く言って返し、「それにしても、〈神官〉や〈学者〉のように転職に条件の要る〈職〉を調べとるものは少ないのかのぅ」と、さっさと話題を転ずる。


「どちらにせよ、ちょっとNPCに訊くだけで教えてもらえそうに思えるんじゃが……あるいは未だに【交渉術】が珍しいのかのぅ?」


 すでに、志保ちゃんが儂の情報を≪掲示板≫に流したことで【交渉術】の有用性やNPCによって有益な情報を得られると知れ渡っている筈で。それこそ、情報収集を主にするプレイヤーが――いわゆる『解析班』のなかに【交渉術】取得者が少なからず増えた筈であり。ゆえに、称号が関係していそうな〈神官〉はともかく、〈学者〉などは知れ渡っていても不思議ではないと思うんじゃが、と首を傾げて呟けば、


「さあ? ていうか、【交渉術】ってどの〈職〉で取得できる【スキル】だっけ?」


「えーと……どうにもまだ『スキル変換チケット』以外での取得方法は見つかってないみたい」


 ……ふむ。そうなると、【交渉術】持ちのプレイヤーが増えるのは難しいのか?


「とりあえず、就くことに条件の無い、誰でも最初から就くことのできる〈職〉を『一次職』として。〈学者〉や〈神官〉みたいな転職するのに何らかの条件がある〈職〉は、便宜上『二次職』と呼びましょう」


 と、これまでの話を纏めるように提案するのは我らが頼れる参謀殿で。


「それで、いずれは『二次職』に就けるようになる条件やその〈職〉ごとで取得可能な【スキル】、経験値を得るのに対応した行動などを調べて≪掲示板≫に書き込みたくはありますが……」


 ふぅ、と。ため息を一つ、眉間に指をあてる志保ちゃん。その、そこはかとなく疲れたような様子に儂も申し訳なく思いはするが……なにぶん情報収集能力の高さや≪掲示板≫などでもっとも弁が立ちそうなのが彼女だから仕方ない。


 ……儂は≪掲示板≫特有の言い回しや空気が合わんし。美晴ちゃんに至っては、正直、なにを書き込むのかわからないという不安があって任せられないからの。ゆえに、儂らのなかで判明した情報の開示などは志保ちゃんに一任するしかないのじゃが、


「スマンな。志保ちゃんには苦労をかける」


 もちろん、協力は惜しまない。と、そう言って微笑んで見せる儂。


「……いえ。これも乗り掛かった舟ですし、それは良いのですが――ミナセさんが1日でネタを仕入れすぎな件について、愚痴を言って良いですか?」


 対するは、やはりわかる人にしかわからない苦笑の雰囲気を纏って志保ちゃん。どうやら彼女をもっとも疲れさせているのは儂のようなのじゃが……しかし、儂としても、まさかここまで他のプレイヤーが【交渉術】でもって情報収集をしていないとは思っていなかったでな。申し訳ない。


「そもそも普通のプレイヤーは、そんな頻繁にNPCと話す機会なんて無いしねー」


 ――果たして、そんなふうに話しているうちに商人ギルドには着き。


 儂自身、来たのが二度目ということもあってスムーズに受付に行き、さっさと登録を済ませて転職。〈商人〉に就くや、あらかじめ売りに出す予定だった『量産武器:剣』や『弓』、余った『防具』などを≪マーケット≫に出品。いっそ、一気に不要なアイテムを売り払ってしまおうかとも思っていたが……どうやら登録可能な最大数が3つまでしかないようで、仕方なく順次売りに出すことに。


 そして、できれば次の、〈探索者〉に転職できるようになる頃には最低でも100G分の稼ぎを得たい、と。そんな理由から冒険者ギルドで買えば100Gはする装備を1つ50Gで3種類、適当に選んで登録。そして、ダンジョンのある街『エーオース』を目指して転移魔法陣広場へ。


 そこから冒険者ギルドまでは、既に行ったことのあるという二人の先導に従い。道中の、アイギパンの街並みとは違って土埃などが舞いそうな乾燥した雰囲気の街道や鉱物で造られたろう家々を物珍し気に眺め。ついでに海辺の街エーオースも含めて3つの街の違いなどを三人で語り合うだけで楽しい時間を過ごせた。


「おじーちゃんの場合、素体レベルだけで7はあるし、わたしや志保ちゃんも総合で8レベルだから……予定通り、『最初の階が10レベル』ってとこにする?」


 現在の話題はエーオース周辺のダンジョンについて。出現するモンスターと、そのレベル帯などの情報を載せたウィンドウを志保ちゃんが表示し、儂が〈探索者〉に就いて一時的にレベルが下がることを鑑みたうえで、まずはどのダンジョンに潜るのかを話し合うことに。


「そうね。三人パーティで回復役がいないのが心配だけど、まぁこのレベル帯のダンジョンなら即死は無いでしょうし。最悪、ミナセさんの『緊急回避』もあるから最初の一戦だけはちょっと頑張ろうか」


 レベル10の相手を倒せばすぐにレベルが1に上がれるはずだし、と。そう言って、あらためて顔をこちらへと向け「ちなみに、ミナセさんは称号が取得でき次第、〈戦士〉に転職してレベル上げで良いですか?」と確認。


 対して、「うむ」と頷き。儂としても〈戦士〉のレベル上げを優先したい旨を告げれば、「だったら、最初だけ『レベル5スタートのとこ』に行く?」と美晴ちゃん。


 儂が〈探索者〉のレベルを1以上にすれば称号【七色の輝きを宿す者】が取得でき。その効果で≪メニュー≫に『ジョブチェンジ』の項が追加され、任意のタイミングで『職歴』にある〈職〉なら好きなものに転職可能になる。


 ゆえに、もっともレベル上げをしたい〈戦士〉へと即座に転職するつもりであり。〈戦士〉に就けば、儂の総合レベルは15となる、と。ここまでは良いのじゃが――そうなるとレベル10開始ダンジョンでは『取得経験値が減ってしまう』と告げて「どうせ1回の戦闘でレベル1に上がれるんなら、その方が楽じゃない?」と美晴ちゃん。これから行くダンジョンについて再び志保ちゃんと話し合う構えとなるが……ちょっと持ってくれんか。


「あー……。とりあえず、ダンジョンの仕様について、確認を良いかの?」


 まず、彼女たちが言う『最初の階が〇〇レベル』や『レベル〇〇スタートのダンジョン』という言葉について。これは、ダンジョンが階層構造であり、同じ階層に出現するモンスターはすべて同じレベルで。一階ごとにそのレベルが1つずつ上がっていき、設置されたトラップなどもあわせて徐々に危険度が増していく仕様らしいのだが――聞けば、エーオースには、それぞれ1階に出現するモンスターのレベルが違うダンジョンが4つあるのだと言う。


 ゆえに、プレイヤーは『レベル1から開始のダンジョン』ほか、レベル5、レベル10、『レベル15開始のダンジョン』などというふうに呼び分けをしているらしいのだが――それはさておき。


「その……『取得経験値が減る』というのは、どういうことか訊いても良いかの?」


 果たして、その問いへの答えは、ダンジョンの仕様――というわけではなく。どうやら試験版のときからずっと『レベル差5までの相手を倒しての取得経験値は変わらないが、それより下回ったレベルの相手の場合、レベル差10まで段階的に減っていく』というのがAFOの仕様だったそうで。


 これらは≪掲示板≫をよく利用するプレイヤー間では割と常識らしいし、志保ちゃんからすればその辺りもPKたちのレベルを推測する材料にしていたらしいが……儂などは完全に初耳で。しかし、言われてみれば、前回の対クロード戦で『最初の草むら』に沸く大量の兎を倒してもレベルが上がらなかったことを思い出す。


 ……たしか、あのときの儂は総合レベル10じゃったか? それで、あそこのスモールホーン・ラビットはすべてレベル1ということじゃったから……なるほど、レベル差9で本来より取得する経験値がかなり減らされてしまっていたのか。


 それでも【スキル】のレベルは上がっていたし、目的であったPK討伐も成せたのじゃから完全に無駄だったわけではない、と。散々、苦労させられたが、いちおうドロップアイテムもたくさん手に入ったのだから良い、と自分に言い聞かせる。


 しかし……なるほど、それで儂の素体レベルや〈戦士〉に転職したときの総合レベルを気にして入るダンジョンを相談しているのか。


「うん、だから最初の――おじーちゃんの〈探索者〉のレベルを上げるのには『レベル5開始ダンジョン』で。本番は『レベル15開始ダンジョン』にした方が効率的かなぁ、って」


「ちなみに、〈探索者〉はダンジョン内に出現するモンスター討伐以外では経験値を得られないそうですよ」


 …………ふむ。


「……やはり、二人は儂の【七色の輝きを宿す者】取得に付き合わんでレベル上げをやっていた方が良かったのではないかの?」


 思わず、これまでの行動――商業ギルドに寄って商人登録したり、冒険者ギルドで〈探索者〉に転職したりなどの時間が無駄に思え、申し訳なくなってきた儂の問いかけに、「えー? それは違うよ、おじーちゃん」と美晴ちゃんはなぜか苦笑し。


「だって、もともと今日は『レベル10スタートのダンジョンで頑張ろう!』って、学校で志保ちゃんと話してたんだよ? それが、ちょっとの寄り道で『レベル15のとこ』からになるんなら、べつにそこまで無駄じゃなくない?」


「ですね。……というか、『レベル15開始ダンジョン』の場合、初めの方はミナセさん一人に思いっきり負担をかけてしまいそうなので、むしろ私の方が恐縮なのですが」


 私なんて一撃死も有り得るレベル差ですし、と。軽く肩をすくめて告げる志保ちゃんを見て、ようやく儂も苦笑を浮かべて。


「なるほど。つまりは、悪いと思うのならそのぶん本番ではしっかりと働いて返せば良い、と」


 言われてみればたしかに、二人の今のレベル――美晴ちゃんが〈斥候見習いLv.8〉で志保ちゃんが〈魔法使い見習いLv.8〉なのを視界端の表示で確認し、相手のレベルが15以上となれば儂以外ではまともに相対することが難しいと再認識して、気合を入れた。


 そして、そうこう話している間に〈商人〉のレベルも無事に上げ終え。〈探索者〉に転職するや、さっそく初めてのダンジョンへと踏み入るのじゃった。


「ほほぅ。これが、ダンジョンか……」


 果たして、転移結晶にて移動した先――ダンジョン内は、四方を古びた石材に覆われ、等間隔で壁に設置された仄かに光る石が無ければ完全の暗闇だったろう薄暗い場所だった。


 ゆえに、セットする【スキル】は【強化:筋力】、【暗視】に【斧術】の3つにして。とりあえず〈探索者〉のレベル1を最速で目指すことにしたのだが――さっそく出現した、すべてのダンジョンに共通して現れるという醜悪な顔の小鬼――『ゴブリン』の3体に対して、美晴ちゃんが電光石火の勢いで直行。志保ちゃんが敏捷値を上げる付与魔法を使い、儂がようやく戦線に辿り付く頃には1体をポリゴンの粒子へと変えており。相手のレベルが5だというのもあってか、たった数秒の戦闘でもって、


[ただいまの行動経験値により〈探索者〉のレベルが上がりました]

[おめでとうございます! 称号【七色の輝きを宿す者】を得ました]


 呆気なく、目標達成。


「……ふむ。とりあえず予定通り、〈戦士〉に転職するとして……ゴブリンからは何もドロップアイテムが手に入らんかったか?」


 称号【七色の輝きを宿す者】の取得と同時に≪メニュー≫に加わったらしい『ジョブチェンジ』の項を開き、そこに羅列された儂の『職歴』を流し見て〈戦士Lv.8〉を選択クリック。それでもって自身の〈職〉が本当に変化しているのかを≪ステータス≫を開いて確認しながら呟けば、


「あー……。そう言えば、ゴブリンとかって外のモンスターなんかと違ってドロップアイテムが確定で手に入る仕様じゃないっぽいんだよねー」


「βのときの体感や≪掲示板≫の書き込みによれば、相手のレベルが高いほどドロップアイテムが得やすいみたいなんですが……」


 どうやら、ダンジョン内で出現するモンスターに限って、ドロップアイテムは一定の確率で手に入る仕様で。さらに言えば、ゴブリンは『魔石』という【鍛冶】の『強化専用のアイテム』を落とす以外のドロップアイテムは無いんだとか。


 そして、この『魔石』が1個100Gで売れるのだそうで。レベルが高いほどドロップする確率や数に違いが現れ、運さえ良ければけっこうな額を稼げるらしいが……儂としては、こうしたギャンブル的な仕様はあまり好かんな。


 もっとも、それを言ったら確定で手に入る外でのドロップアイテムにしても『幾つかの種類からランダムで1つ』という仕様であったし、同じモンスターを倒しての素材アイテムであっても種類や値段、価値が違うといったこともあったので今さらと言えば今さらではあるのだが。


 さておき。予定通り、さっさと次のダンジョンへと向かい。これからが本番だ、と気持ちを切り替えることに。


 もっとも、場所を変え、レベルを変えたところで出現するのは同じゴブリンで。動作の早さこそ違うにしても、戦い方は手にした粗末なこん棒による振り下ろしがメインということもあって、さばくのは容易。志保ちゃんの付与魔法で素早く動けるようになったのは勿論、さっそく儂から受け取った『量産武器:短剣』を投げて牽制することにしたらしい美晴ちゃんの働きもあり、レベル15で、一度の戦闘に3~5体の出現とあってもなお余裕をもって対処できた。


「うわぁ……。さすがにレベル差が2倍近いせいか、いきなり素体と〈職〉が同時にレベルアップしたよ……」


「あははー……〈魔法使い〉の経験値取得方法が回数と与ダメなせいか、私の方は素体レベルだけがガンガン上がっていきそうな予感」


 果たして、そんなふうに簡単にレベルが上がってしまった二人の乾いた笑い――志保ちゃんの方は言葉こそあれじゃが、ほとんど無表情のまま――を見て、儂もPKを倒してまわったときの連続レベルアップを思いだして苦笑し。


「二人の今のレベルじゃと下手に注意を引き過ぎるのも怖いゆえ、あと数回は歯がゆい思いをすることになろうが……なに、すぐに一緒に戦えるようになるさ」


 今でこそ、美晴ちゃんは投剣による牽制と高い敏捷値で避ける囮役でしかないが、それもあと2つ、3つ総合レベルが上がれば、きっとダメージを与えられる立派な削り役となるだろうし。志保ちゃんにしても、たとえ『器用』や『丈夫』にSPを振らんでも『レベルの上昇に合わせてステータスが最低限上昇する』仕様によって一撃でHP全損となる可能性が下がっていくはずであり、そのぶん積極的に魔法を使っていけるようになるはずだ。


 ゆえに、そうなってからが儂らの本番であり。


 ゆえに、それまでが儂の踏ん張りどころである。


 ……ちなみに、『レベルの上昇に合わせてステータスが最低限上昇する仕様』について知ったのは、極々最近で。それこそ、まったく『魔力』にSPを振っていない、本来であればMPの上限に変化の無いはずの〈戦士〉へと他の〈職〉から転職した際、毎回最大値より減っているのを見て不思議に思い、さきほど〈探索者〉から〈戦士〉へと転職した際もそうだったことから試しに二人に確認して、判明。つまり、あんなにもPK連中が硬かった理由は、それだけ総合レベルによるステータス差があったからか、と今さらに納得した。


 もっとも、そんなレベルアップによる上昇値は微々たるもので。SPほど劇的でもないのでレベル差が縮まれば大した違いにはならないと言うが、逆に言えばレベルの差があればあるほどステータスに違いが出るのは確実で。だからこそ、レベル差によって取得経験値が減ったりなどの仕様が採用されているのだろう。


 そして――話は変わるが、そんな『レベル差があると経験値が減る』仕様は、目標である『亡霊猫ファントム・キャット』のレベルの最大値がそれだけ伸び悩んでいく、ということで。20レベルの冒険者パーティ推奨という『蒼碧の洞窟』を狩り場にしている限り、『常に取得経験値が最大』となる場所を選べる儂の方が有利で。儂と同じく『長時間のログインが可能』な『彼女』であれ、経験値を稼ぐ時間的な優位性は、この仕様によって崩れ去ったに等しく。つまりは、頑張ればレベルが追いつく可能性も十分にある、ということである。


 もっとも……それは儂以外の、普通のプレイヤーにしても同様で。『彼女』が狩り場を移さぬ限り、いずれは『彼女』のレベルを越えられる。加えて、装備の補充や新調などもできないPKでは、どうしたって詰みとなるまでの時間制限タイムリミットは発生してしまうだろう。


 ゆえに、


「――がんばらねば、のぅ!」


 踏み込み、右手のヌンチャクを振り抜く儂。それによってゴブリンの顎を下からかち上げ、わずかに動作を止めることに成功。即座にがら空きとなった腹部に蹴りをあて、吹き飛ばし――


「おじーちゃん!」


 美晴ちゃんの呼びかけに「わかっとる!」と返し。蹴飛ばされたゴブリンと入れ替わる形で接近、棍棒を振り下ろしてくる別のゴブリンの攻撃をのヌンチャクを振りぬいて弾き。のヌンチャクを側頭部に叩きこむ。


「大丈夫、ぜんぶ『視えて』おるよ」


 ――現在、セットしている【スキル】は【強化:筋力】、【暗視】、そして【槌術】。


 贅沢を言えばパーティの壁役として盾を装備し、【盾術】のレベル上げもしたいところではあるが、【強化:筋力】と【暗視】というレベルの上昇がとんでもなく遅い2つは外し難く。装備の質から言って『山間の強き斧』から貰った鉈を手に【斧術】をセットして戦った方が早く、安全に片付くはずなんじゃ

が……二人の希望が、アキサカくんから貰った2つのヌンチャクを用いた実戦を見たいというのだから、仕方ない。


 ……しかし、それにしても。さすがに元が『観賞用』で、そのうえまだ【槌術】のレベルが低いというのもあってヌンチャクの攻撃力が思いのほか低すぎる!


 おかげで、1体1体の撃破スピードが遅く。現在は壁役としてはまことに不本意なことに、囮役を買って出てくれた美晴ちゃんは元より、後衛である志保ちゃんにまで1体、敵を通してしまう状態で。本人曰く、種族が敏捷値の高い『エルフ』であり、多少は『敏捷』にもSPを振りだしているので、付与魔法の効果もあって易々と被弾を許さない、ということじゃったが……心配なものは心配である。


 ゆえに、


「うむ。やはり、がんばらねば、な!」


 ヌンチャクを振り回し。打ち、弾き、叩いて間合いを保ち。筋力値の高さで武器を素早く振り抜き、歩法を工夫して敏捷値の低さを誤魔化して交戦。『範囲知覚』でもって常に全体像を把握し、動きを止めんように努め。時折、足技や肘打ちなども加えて立ち回っているのじゃが……何故、そんな儂を見て、さきほどから二人は呆れ顔になっているのじゃろう?


「あー……わたし、なんかこういうの見たことある。『あちょー』って感じの映画」


「完全に素人の立ち回りじゃないです、本当にありがとうございました」


 果たして、二人が何に対して半目になっているのかは知らんが……さすがにゴブリンとの戦闘に関しては二人とも儂より慣れを感じるのぅ。


 聞けば、美晴ちゃんは儂がダウンしていた間にいっそう槍を2本持っての戦闘に磨きをかけていたようじゃし。志保ちゃんにしても回避優先ながら相対するゴブリンとの位置関係が絶妙で。二人ともがそれぞれ最低1体ずつ受け持ってくれるおかげで3体以上が纏まって現れることの多いゴブリン相手でもなんとか戦えている。


「ふむ。さすがに儂より多くゴブリンを相手にしていただけはあるの」


 そう、戦闘終了後に労いをこめて告げれば、返ってくるのは何故だか半笑いで。それでも一度顔を見合わせるや気持ちを切り替えたのか雰囲気を明るくし、


「とりあえず、おつかれー!」


「お疲れ様です」


 片手を上げ、手のひらを向けて言う二人に儂も瞳を細め。いったん、ヌンチャクをしまい、同じく片手をあげて、


「うむ、お疲れさん」


 ぱちん、ぱちん、と。二人と笑顔でハイタッチを交わすのだった。

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