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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第二章 全プレイヤーに先駆けて最強PKを攻略せよ!
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クエスト25 おじーちゃん、ハイテンションな『ヲタク』と出逢う

 海辺の街『キルケー』にある武器屋ないし防具屋を訪れるまえに冒険者ギルドの職員におおよその場所を訊いてきたのじゃが……そのなかに一つ、不可思議なものが。


 曰く、その店は武器と防具が売っている店であり。


 曰く、その店に売っている武器や防具は、ほかの店とは一線を画すデザインのものばかりであり。


 曰く、店主や店員を含めて一様に面妖な雰囲気のお店で、子どもには近づかないように言っているのだとか。……ゆえに、儂も行かないように、とギルドの受付嬢に言われはしたが、そこはそれ、儂は大人というか老人である。ゆえに、好奇心のままに件の奇怪な店に近づいても自己責任で問題ない――というか、ここまで『変だ、変だ』と言われてはたしかめてみたくなるのは仕方ないというもので。当初の、これからの水場での戦闘に適した防具の選定などは置いといて、まずはその店を確認してみることに。


 そして、いささか以上に胸躍らせて向かったそのさきにあったお店の外見は、思いのほか普通で。看板だろう、入り口と思われる扉に記された文字に『運☆命☆堂』とあり。やはり外観だけで言えば奇抜に富んだデザインの建物には見えなかったが……そう言えば、噂になっていたのは展示物というか商品のデザインであった、と思いだし。扉横のガラスケース――のように見える、透明な建材で中の展示物がよく見えるようになっていたそこに飾られた武器や、防具というより衣装のように見えるそれらを眺め、なるほど、と頷く。


 ……ふむ。たしかに、こうした見栄え重視だろう装備品は、命がけでモンスターと相対しているだろうこの世界の住人には奇怪に映って仕方ない、か。


 たとえば、刃渡り2メートル近い大剣。これなどは、まぁ実用性が皆無というほどではないじゃろうが……もっとも凝っている部分が刃の形状やグリップ部分などではなく、剣の腹の部分の彫刻というか文様の部分などであり。言ってしまえば、観賞用の武器にしか見えないのである。


 そして、それは防具――というより衣服に、申し訳程度に添えられた金属を数か所貼り付けられたようなデザインの『それ』などは特に顕著で。防御力や機動性など眼中にない、と言わんばかりの『見栄えだけ』にとことん拘っているものなど、正直な話、冒険者とそれに関する職に就いたNPCしかいないこの街の住人に受けつけられるわけがない。それこそ、以前、ギーシャンたちが言っていた『貴族』とやらが相手ならば、あるいは、と言ったところだろう。


 なんにせよ、このお店――『運☆命☆堂』には、攻略を速めるための武装を欲する儂や実用性重視だろうNPCには無用で、下手すれば有害にさえなりえる『作品』しかないのだろうことがガラスケース内の展示物を見たところで伺えたわけじゃが……そこはそれ、武器防具屋ではなく一種の博物館ないし美術館のようなものと思えば、なるほど、これほど面白そうな場所もない。


 なにより、ガラスケース内に展示された『作品』の『元となったであろう創作物』を知っている儂からしたら、ここでなかに入らないという選択肢などない、と。逸る気持ちのままに儂は店内へと足を踏み入れた。


 そして、


「お、おお……!」


 思わず目を丸くし、感嘆の声があがる。


「ほほぅ。もしや、これは『逆走医療天使ランナーズHIGH』の主人公が纏っていた『ナース服』かの?」


 店内にあったものは予想を違えず、どれもこれもが子ども時代に祖父に見せられた『過去の創作物』のなかで登場人物たちが纏ったり装備していたりした物で。その再現度の高さから、それを見せてくれたときの祖父のひどく楽しそうな声や、いっしょに胸高鳴らせて鑑賞していた時分などが思いだされて瞳を輝かせる。


「……ほう。こちらは『ありえんじゃー』の武装と変身セットか」


 嗚呼、懐かしい。


 当時、というか儂の祖父の時代であっても既に過去の文化であった『それ』。現代であればちょっと知識のある学生が片手間でも作れるだろう『鑑賞物』や、『紙』などという劣化のし易い媒体を用いて絵や記号に多種多様な遺失言語で暗号めいた記述で記された『創作物』などが星の数ほど存在したという、一部の考古学者が愛し、今も熱狂的なファンすらいるという文化――通称、『ヲタク文化』と呼ばれる時代と、その時分にあったという数多の遺産を収集、管理、解析しては狂喜する人種――通称、『ヲタク』と呼ばれる者が、おそらくはこの店に展示された作品群を卸しているものだろう。


「こちらは『水着舞踏戦姫』の『ペガサス座』の子が纏ってた『舞踏甲冑』か。……懐かしいのぅ」


 ちなみに、今は亡き儂の祖父も自身を『ヲタク』だと鼻高々に公言しており。そんな祖父が収集した『遺産』は、今では大きな美術館に寄贈、展示されており。当然、それらに触れることなど孫にして当時の正当後継者であった儂であっても容易ではなく。


 祖父にじかに見せられ、語られ、魅せられた儂は、ゆえに、この店に飾られた『作品』に関して感動すらしていた。


 そして――変なのが現れた。


「うっひょーーーーーーーーーーッ!! か、神さまだ! あなたが神だぁぁあああ!!」


 果たして、その男は身長が2メートル近い、長身痩躯の中年男性で。左右で色の違うアフロヘア―に、濃い顎髭。これに何の冗談か、星型のサングラスをかけたうえで纏っているのは『軍服』を模したデザインの皮鎧にマントという、普通であればドン引きされそうな姿であったが――しかし、この場所にあっては彼の姿は別段、おかしくはない。


 なにせ、この『運☆命☆堂』にあるのは『ヲタク文化』に存在した作品の再現物ばかりであり。本来であれば奇抜を通り越して通報ものだろう彼の格好は、しかしその『元ネタ』が存在し、それを知る儂にとっては嫌悪の対象たりえない。


 ゆえに、


「ふむ。なるほど、店主殿は怪人『HGボンバヘッ将軍』か」


 これまた完成度の高い、と瞳を細めて告げるだけ。……まぁ、奇声をあげての登場のしかたにこそ目を剥いたが、彼が居たこと自体は店内に踏み入ってすぐに気づいていたでな。じつのところ、その姿を『視て』からこっち、どうにか『ヲタク文化』について話せないものかと考えてもいたのじゃが――




 何故か、そんな彼に土下座され、大号泣されていた。




 ……はて? どうしてこうなった?


「あー……。と、ところで、おまえさんはこの店の『店主』であっておるかの?」


 さきの言葉はそれを確認するためのカマかけのつもりで『店主殿』と呼んだのじゃが……まさかそれに対する反応が跪いての号泣では、な。さすがにわからん。


「は、はははは、はひぃ~……。ぼ、ぼぼ、ぼくが、この『運☆命☆堂』の店主オーナーですぅ……」


 果たして、やや間をあけての彼の返事に「ふむ」と一つ頷き。とりあえず床に膝をつけ、拝むような姿勢になる彼に立つように促しながら、まずは軽く自己紹介をしてみる。


「あー……。儂は『ミナセ』。ここには……まぁ、じつのところ興味本位で来ただけなんじゃがな。もし、水場での戦闘に適した防具でも何かあれば紹介してほしいんじゃが……」


 そう、いちおう訊いてはみるが……正直、見た目重視だろうこの店の品揃えで本格的な戦闘用の防具など期待はできまい。と、内心では思いはしても、ダメもと――とまでは言わんが、ここでは会話の種にでもなればそれで、という大して期待などせずに問えば、


「み、みみみ水場での戦闘なら……! こ、この、『水着舞踏戦姫』シリーズなんか、ど、どどど、どうでしょう……!?」


 そう店主はガバッと勢いよく立ち上がり、紹介するのはとあるカラフルな甲冑群で。その隣に展示された、『旧式女児用競泳水着』さえなければ以外と武骨で実用的なデザインにも見えようが、元ネタのそれが当時の女の子が使っていたとされる学校指定の水着のうえ甲冑を纏うというもので。つまりは甲冑と水着とがセットであり、『水着舞踏戦姫』という『創作物』において劇中の登場人物の一部は、そんな『水着のみをインナーとしてた甲冑姿』で主な戦場が海やプールなどの水中という、現実的に考えて有り得ない設定と世界観のものであったが……つまりは、この『運☆命☆堂』にある再現物であろう甲冑や水着もしっかりと水場に対応しておる、と?


「ふむ。ちなみに、儂としては本気で戦闘をしようと考えておるわけじゃが、これらのスペックについては大丈夫かの?」


 そう真剣な表情と声で問えば、店主殿は視線を泳がせ。彼の特徴なのか、ひどくどもって聞き取り難い言葉で儂の懸念の通り、外見重視で性能は二の次である、と教えてくれた。


「……ふむ。さすがに見た目だけで防具を選ぶほどの余裕は無いからのぅ」


 チラリ、密かに【鑑定】でもって『水着舞踏戦姫』シリーズの防具を視てみれば、性能はともかく『値段』の項目に有り得ない数値が記されており。……師匠ザーガスに曰く、【鑑定】で視える数値――武器なら『攻撃力』、防具なら『防御力』。そして『耐久値』に『値段』といった項目に記された数字それは、〈鍛冶師〉にとっては所詮は目安であり、目標で。品質それをより良くしようと頑張るのは良いが、使い方次第で『攻撃力』や『防御力』なんて変化するんだから冒険者なら『耐久値』含めて過信するな、と教わったが……さすがに似たような性能の防具の10倍以上の『値段』というのは無い。


 見た目からして、それだけ総意工夫を凝らした逸品なんじゃろうが、儂が今欲しているのは『装飾品』ではなく『武装』じゃからな。


 ゆえに、


「うぅむ……。さすがはオーダーメイド、ということか。正直、ここまで値段が高くては性能スペック云々以前に儂の手持ちでは買えそうもないのぅ」


 ちょっと着て、子ども時代に観たそれをこのアバターで再現してみたくもあったが……残念じゃ、と。そう肩をすくめる儂に、「え、ええと……。ち、ちちちなみに、ですが! め、めめめ、女神さまはスペックや値段さえ大丈夫なら、『水着舞踏戦姫』シリーズのものでも着ていただけるんでせうか……!?」と、なぜか勢いこんで問いかけてくる店主。


 対して、わずかに目を白黒しつつも「そ、それはもちろん。これだけ再現度の高い作品を纏えるのなら纏ってみたい、というのはあるが……」と、ぐいぐい顔を寄せて来られたぶんだけ後退りしつつ返せば、


「うっひょーーーーーーーーーーッ!! そ、そそそ、そういうことなら任せてくだしあーーーーッ!!」


 何やら奇声を発して踊りだす店主。そのテンションの高さというか鬼気迫る雰囲気に押され、困惑する儂に彼曰く『そもそも、これらの展示された作品群は本当にただの展示用の物であり、本来は仮装を楽しむためだけの衣装や小道具でしかない』という。


 しかし、だからと言って彼や彼とともにこの店を運営する同志たちが普通の武装が造れないかと言えば、そんなことはなく。聞けば、こうしたデザインの変更や既存の製品にない造形物なんかを作り出すのに必要な『加工』系の【スキル】は当然として、彼らは元となる武器ないし防具を『創造』する【鍛冶】もそれなりに高いレベルで持っているのだとか。


 ゆえに、やろうと思えば最前線の『攻略組』――というのがどこまでのものかはよく知らんが、とにかく最上位に近いスペックは無理にしても、儂が必要としているだろう性能の武装などであれば十分に造れると言う。


「ふむ。そういうことであれば造ってほしくはあるが……」


 しかし、代金を払えるとはとても思えない、と。スペックがおおよそ同じだろう通常の防具から実に数十倍から数百倍もする、正しく『作品』であろう展示物たちを見て眉根を寄せる儂。PK関連の収入は美晴ちゃんたちとの相談無しで使うわけにはいかないゆえ、現在の手持ちなど【水泳】の【スキル】関連で倒した『レッサー・フィッシャーマン』や『ハンマー・ジャイアントクラブ』の素材を売って手にいれた代金に、PK戦以前に持っていた1000G未満を合わせて約3000Gほど。なんであれば『劣魚人の死骸』や儂が造った量産武器なども売ればプラスである程度の額になろうが……それで賄えるものとはとても思えない。


 正直に言って、作品の出来は認めはするものの、この『運☆命☆堂』の商品を買うつもりは無い、と。今はデザインよりスペックにこそ金をかけたい、と真摯に思いを告げれば、「め、めめ女神さまからお代をいただくなんて、とんでもない……!!」と。むしろ代金なんてタダでも良いので是非とも『水着舞踏戦姫』シリーズほか『運☆命☆堂』内にある作品を着てほしい、と。何やらまたしてもよくわからん方向に話が進み、再び土下座までされることに。


「あー……。つ、つまり、店主殿は儂が実際に店内に飾られた作品などを纏った姿が見たい、と。そのためであれば儂の欲するスペックの武装を造ってくれたうえで代金は要らない、と?」


 それは無いじゃろう、と思いつつの確認に、しかし彼は元気よく『YES』と答え。むしろ拝み込む様子で「是非とも!」という構えになっているので、仕方なく「……よし。ならば、こうしよう」と、一つの提案をすることに。


「まず、店主殿の願いである『儂が実際に作品を纏った姿を見たい』というそれじゃが――せっかくなら『店の宣伝のため』に利用しよう」


 とりあえず『店主殿』と、いつまでも他人行儀で呼び合うのはあれなので彼のことはプレイヤーネームである『デスティニー@アキサカ』から『アキサカくん』と呼ぶとして。……なぜか、そう呼ぶことにしただけで再び号泣され、拝まれたりはしたが、代わりに『女神さま』呼びを止めさせ、『ミナセ』呼びを要求。数分の議論のはて、『ミナセ氏』と呼ばれることになったが、それはさておき。


 アキサカくんに儂が纏ってほしい衣装なり武器なりを持って来させ、それらを装備。ついで、元ネタの再現としてポーズなり表情をつくり、それを彼にスクリーンショットで撮ってもらった。……で、その『画像データ』を「家宝にします!」と言って再び号泣、土下座と拝み込み状態となる彼に苦笑しつつ、


「いやいや、この画像データは是非とも≪掲示板≫にあげて、『運☆命☆堂』の宣伝に使ってくれ」


 それで、あらためて水場での戦闘に適した、それなりのスペックの防具の制作を依頼するとして。その外観に関しては自由に変更してくれて良いし、それを纏っての撮影もかまわんが、そのデザインの『変更料』を今回の『広告代』で負けてほしいと頼み込む。


「今のところ、出せる代金は3000Gほどじゃからして、おおよそこれに見合ったスペックの防具をお願いできんかの?」


 もっとも、今日の正午には美晴ちゃんと合流できるし、そこで対PK戦で得たアイテムなどの清算も済むうえに三人で狩りをすればそのぶんだけ手持ちも増えるゆえ、ある程度サービス過剰な彼に払う額は3000Gより多くはなるじゃろうが、と。そんな内心などおくびにも出さず、未だに『女神様から代金など~』というようなことを喚いておるアキサカくんに、ぜったいにこれだけは出すと明言。代金を受け取ってくれないのなら、もうこの店で買い物はせん、と言ってどうにか納得させた。


 そして、


「ところで、その防具なんじゃがな。儂としては『水着舞踏戦姫』シリーズの――」


「おおおッ!! さ、ささ、さすがミナセ氏! し、しししかし、同じ『水着舞踏戦姫』シリーズなら、僕は――」


 果たしてそこからは、にわか『ヲタク』である儂と本物の『ヲタク』であろうアキサカくんによる熱い論争があったとか無かったとか。……とりあえず、作中であった『ダメージによって甲冑だけが剥がれていく』現象について、その再現と実装に関しての議論についてだけはしっかりと結論を出したとだけここに明言させてもらおうかのぅ。

次回、ようやく二人と合流~

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