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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第二章 全プレイヤーに先駆けて最強PKを攻略せよ!
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チュートリアル ロマンとヲタクと運命と

 一言で表現するのなら、それは――ロマン。


 それはときに愛らしく。ときに熱く。そして、狂おしいまでの切なさと言い表せない昂ぶりをもたらす光。


 それは『紙』などという保存性に難のある媒体に記された文字列であったり。ただ『視るだけ』しかできない連続した画の早回しによって描かれた観劇であったり。はたまた、『紙』に描かれた絵と文字による暗号文じみた法則性を持って綴られた物語であったり。


 それは、僕が生まれるずっとまえの、言語の統一すらされるまえ。通信技術は拙く、表現手段すら幼稚にすぎる時代にあって、それは本当に多くのものを魅了してきた物語と作品で。歴史学者や古典文学をこよなく愛するマニアなどに根強い人気を持つ一大ジャンル。


 それが、ヲタク文化であり。それこそが今や忘れられて久しい愛と情熱と英知の結晶。


 つまり――ロマンである。


 今のVR全盛期に、わざわざ二次元の、ただ『視るだけしかできない』それは、たしかに物足りないだろう。そのうえ、保存し続けることすら難しい『紙』などに記された当時の書籍などは見つけることすら難しく。たとえ、運よく画像データなどを手に入れられても現代では『ただ読む』ことすら難しいそれは、まさしく暗号文。


 難解な遺失言語だけで記されたものならまだマシな方で。『漫画』という、絵と文字とで描かれたそれは遺失言語を複数理解するのはもちろん、読み方一つとっても法則性がさまざまで。すべてにおいて当時の文化、風俗を熟知していなければ内容を理解しえない。


 そう、我ら現代に蘇りし『ヲタク』は学者にして賢者。真理の探究者にして、もっとも人の描く神秘を解する神学者。


 ゆえに、僕らは布教する。ロマンを、皆に布教する。


 そのための手段として選んだのが最大手のVRゲーム会社が提供するMMORPG『星霊幻想記~アイテールファンタジア・オンライン~』――通称、AFO。そのなかで生産職に就いて我らがロマンを具現化させよう。ロマンを知らぬたくさんのものに世界の心理を解いてあげよう、と。僕はそう意気込んでAFOのβテスターとなり――




 そして、失望した。




 試験版AFOでは、就くことのできる〈職〉が〈戦士〉、〈狩人〉、〈魔法使い〉の3つだけで。内容も、まさかの迷宮攻略の一本もの。最近流行りのなんでもござれの異世界体験ものだと思って始めてみれば、ただモンスターを倒して、ただレベルを上げる、どこまでもレトロで昨今のVRMMOにしては逆に新しいタイプのファンタジーもので。キャッチコピーの『子供から老人まで楽しめるVRMMO!?』というのは、まぁきっと間違っていないんだと思う。


 でも……正直に言って、ガッカリした。


 アバターやモンスターのクォリティは間違いなく最高峰で。システム面も昔懐かしい単純なスキル制のダンジョンアタックもので、そこに文句は無い。


 でも、生産職に就けないとはどういうこと!? しかも衣装デザインが手抜き過ぎない!?


 それこそ、一度だけチラッと見た、十人が十人『美少女』と呼んで間違いないリアル美少女に、何て味気ない格好させてるのさ、運営。勿体ない。すごく勿体ないよ!


 もうさ、僕にデザインさせようよ。僕がロマンに溢れる衣装をつくるよ。過去の人類が生み出した奇跡を僕が再現してみせるよ! それをあの美少女ちゃんに着せさせてよ!!


 ……あーもう、なんでこんなに残念仕様なのかね、試験版AFOは。


 それでも意地で【鍛冶】と【交渉術】を初期の『スキル変換チケット』で取得して、レベル上げとかダンジョンアタックなんてそっちのけで趣味に走った。それこそ配置された武器防具を売ったり修復したりするNPCに話しかけまくって、まずはNPC相手に布教を開始。


 その情熱にうたれたのか、最後には「……これやるから、もう話しかけんな」と言われはしたが、なんとか武器の生産に必須の素材を融通してもらうことに成功。僕の知るロマンに富んだ武装を生み出そうとして――またもAFOの仕様に阻まれた!!


 なんと、武器防具を造れる【鍛冶】も、衣服を生み出せる【裁縫】も――まったく新しい造形のものは作り出せない、と。独自のデザインに加工するには、素材が革や布などは【革工】、鉄や鉱石類なら【石工】、植物由来のものなら【木工】の【スキル】がそれぞれ要るそうで。それ以前に、【鑑定】で事前に調べたことのあるものしか【鍛冶】や【裁縫】の『創造』で作り出す候補にすらならない、と言う。


 じゃあ、それらの【スキル】はどうすれば取得できるか、と訊けば「加工やデザインの変更がしたきゃ〈細工師〉に。【鑑定】なら戦闘職以外(・・)でなら割と取得できるぞ?」と。〈戦士〉、〈狩人〉、〈魔法使い〉にしか就けない仕様のくせに何言ってんの!? ついでに言って、加工系の【スキル】は全部、『スキル変換チケット』でも取得できなかったやつだよね!?


 百歩譲って、【鑑定】なんて『物の価値がわかる』ってだけの、敵モンスターの弱点とか状態なんかを調べられると思った戦闘職連中にハズレスキル扱いされたそれが必要と言われるのは良い。なるほど、【鑑定】で調べたものを【鍛冶】や【裁縫】で作り出せるのか、と聞かされてすぐの頃は新しく齎された情報に胸を躍らせもしたさ。


 だけどさ、そもそも【鑑定】で『創造』できるようになったところで、素材は売ってないよね? モンスターのドロップなんかも『強化』に使えるのはともかく、加工可能なのは無かったよね? ……なんだよ、これ。本当にAFOは生産職そのものを否定してるよね?


 あーもう、ダメだわー。このゲーム、ハズレですわー、と。試験版をやれる日数の半分を無駄にしたこともあってやさぐれていた僕だったが、それから間もなくして最前線の攻略組が一つの情報を≪掲示板≫にもたらし、萎えかけていた僕のやる気に火を点けた。


 曰く、控えのものも含めて全【スキル】の『合計レベルが50以上になった段階で「スキル変換チケットB」を貰える』と言う。そして、その『チケットB』で取得可能な【スキル】のリストには、なんと! 僕が求めてやまない加工系の【スキル】ががが!!


 何と言うか、もはや諦めて他のゲームやれよ、と我ながら思う。何をそんなにAFOに拘ってるんだよ。そもそもVRMMOにしたって、ただ人気のジャンルだからって理由じゃん、と我がことながら呆れもする。


 たしかに、NPCのAIなんかも他のゲームより断然よくできてるよ? 試験版の抽選倍率だって凄かったし、勿体ないってのもあるよ?


 だけど、このゲームの生産職は職じゃん。どの年齢層にもわかり易くできてる、っていうかダンジョンアタックしか無いじゃん、VRMMOもののくせに自由度とか最悪じゃん。なのに、なんでAFOに拘るのさ? ……なんて、自問自答しつつ。なんだろうなぁ……。この『不自由』さが……キモチイイ? ここまで僕のしたいことをことごとく否定しながら、頑張れば届きそうなところに『餌』をちらつかせる悪辣さが……そんな意地悪さがカイカン?


 よくわかんないけど、まぁ、乗り掛かった舟ってことで僕は頑張った。生粋のコミュ障ながらもなんとか野良のパーティを組んでひたすら自身のレベルと【スキル】のレベル上げを頑張ったさ。


 そして、ついに【石工】を手に入れたんだ。で、さきに売ってもらってた鉱石を『加工』して、ロマン武装の代名詞たる大剣を作ってみた。


 ……まぁ、初めての作品さ。正直に言って、デザイン性にしてもイマイチだった。ああ、こんなもんか、って思いもしてさ。それでも、ここまで苦労して作った僕の――僕だけの武器だ。ちょっとぐらい、最後に試しに使ってみたいって思うじゃん?


 そしたらさ、最終日近くになってだけどさ。僕、【大剣術】なんて取得できちゃってさ。もうね、それが嬉しくって嬉しくって!


 試験版で大剣を造ったのは僕だけで。それを振り回してたのも僕だけ。『スキル変換チケットB』で取得できるもののリストにも無かった【大剣術】。それは他の誰も、最前線の攻略組ですら誰一人持っていない、僕だけの【スキル】! そこに胸を熱くせずロマンを語れるわけがない! 踊りださないわけがない、ってね!


 そんなわけで、僕はAFOを今もやっている。


 正式稼働版のAFOでは〈鍛冶師〉に就けた。どころか『転職』なんて僕が望んでやまなかったシステムまであって、〈細工師〉にだって就けたし、特別な交渉なんかせずともNPCに聞けば加工可能な鉱石や革類は簡単に買えた。どころか、素材アイテムなんて普通にフィールドでモンスターを狩れば手に入った。


 ……もうね。試験版での焦らしプレイは何だったのかと。デレ期? AFOにデレ期きた?


 とりあえず生産にもステが多少なり関わってくるんでレベルを僅かなり上げて。あとは心の赴くまま、作りたいがままに武装を造った。衣装を造った。


 最初は資金調達のために、攻略組の武器防具の『強化』なんかもしてたけど、途中からは僕のデザインを気に入ってくれた幾人かがロマン武装を求めるようになって。≪掲示板≫で作品を晒せば高額で買い取ってくれるプレイヤーや僕と同じようにロマンを介する同志たちが現れて。


 気づけば、僕らは連日連夜集まって。話して、議論して、一人で全部を生み出すのは難しいと結論付けて『武器を作る人』、『防具や衣装を作る人』に『加工する者』に役割を分担することにして。そうしてせっせと稼いだ資金や常連客の援助でもって、気付いたら僕らのお店をオープンするまでになっていた。


 そして、


「ほほぅ。もしや、これは『逆走医療天使ランナーズHIGH』の主人公が纏っていた『ナース服』かの?」


 その日、僕らの内するロマンによるロマンを飾るための店――『運☆命☆堂』に、『彼女』は現れた。


「……ほう。こちらは『ありえんじゃー』の武装と変身セットか」


 美少女だった。信じられないぐらい可愛い幼女だった。


 歳は、たぶんAFOの年齢制限ギリギリの12歳かな? 外見的にはそれより2、3歳幼く見える赤毛の女の子で。耳の形が『人間』のそれとは違うから、たぶん『ドワーフ』で。


 そして何より、彼女の言葉から察するに――彼女は僕らの同士!?


「こちらは『水着舞踏戦姫』の『ペガサス座』の子が纏ってた『舞踏甲冑』か。……懐かしいのぅ」


 瞳を細め、ほんのりと口もとを笑みの形にして呟く幼女は――女神かみだ、と。そのときの僕は直感的に悟った。


「うっひょーーーーーーーーーーッ!! か、神さまだ! あなたが神だぁぁあああ!!」


 気づけば、叫んでいた。


 そして、すぐにハッと目を剥いて硬直。やってしまった、と内心で頭を抱えた。


 ああああああああ! せ、せっかく物陰からコッソリ覗いていたのに! 幼女かみのまえに姿を晒してしまったぁああああ!!


 幼女がこちらを――僕の姿アバターをその紅い瞳に映す。


 ……正直に言おう。もはや、彼女は悲鳴をあげて逃げるのも時間の問題だと思った。


 なにせ、このときの僕は自分で言うのもなんだけど、かなり奇怪な外見をしていた。


 身長が2メートル近い、長身痩躯の中年男性というだけで幼女には警戒されるだろうに、現在のアバターはそれに加えて左右で色の違うアフロヘア―。これに、濃い顎髭に星型のサングラスの、軍服を模したデザインの皮鎧にマントという格好である。まったく、どこの怪人だ、と。……いや、まさしく元ネタは『怪人』の格好なんだけど。それも、ロマンを介する同志たちですら知らない者の方が多い、ドのつくマイナー作品の。


 だから、彼女は僕を見て悲鳴をあげると思っていた。泣いて、店を飛び出して、もう二度と来ることもないと思っていた。


 だから――


「ふむ。なるほど、店主殿は怪人『HGボンバヘッ将軍』か」


 これまた完成度の高い、と。そう瞳を細めて告げる幼女に――むしろ僕が泣いた。


 大号泣である。そりゃあもう、恥も外聞も無く泣きに泣いた。


 なにせ僕らは、どんなに言葉を選んだところで変人で。日陰者で。ほとんどすべての他人に理解されず、眉を顰められる存在だ。


 そして、僕らはそれらをわかったうえで、『それでも』と熱い情熱を胸に宿し、ただ読み、集めることすら難しい古代の遺産を正しく読み解き、当時の文化や風俗を理解したうえで心の底から楽しんでいる者――ヲタクである。


 だから、僕らは子どもに決して理解してもらえない――大人ですら見たこともない者が多い、そのはずなのに眼前の彼女は知っていた。


 だから、これは奇跡で。だから、僕は眼前の幼女かみを称えた。


 貴女が女神かみだと、困惑する幼女に手を合わせて頭を下げ続けた。


 ――それが僕こと、ロマンをこよなく愛する『運☆命☆堂』店主、『デスティニー@アキサカ』と、僕らの女神であるところの幼女――ミナセちゃんとの出逢いであった。

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[気になる点] アキサカ……キャラ濃い(´・ω・`)
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