クエスト24 おじーちゃん、ちゃくちゃくと『キルケー』で準備中?
『 ミナセ / 鍛冶師見習いLv.8
種族:ドワーフLv.6
職種:鍛冶師Lv.2
性別:女
基礎ステータス補正
筋力:1
器用:4
敏捷:1
魔力:0
丈夫:1
装備:見習い冒険者ポーチ、小兎と森狐の毛皮鎧
スキル設定(3/3)
【強化:筋力Lv.1】【暗視Lv.2】【鍛冶Lv.2】
控えスキル
【交渉術Lv.4】【収納術Lv.4】【盾術Lv.3】【斧術Lv.7】【槍術Lv.1】
【剣術Lv.1】【解読Lv.2】【翻訳Lv.2】【鑑定Lv.2】【槌術Lv.1】
称号
【時の星霊に愛されし者】【粛清を行いし者】 』
現実世界で1時間ほどの小休止を挟み、再度ログインして≪ステータス≫を表示。内容を確認しながら、これからのことを考える。
――ログアウト休憩のまえ。陽が落ちてから夕食までご馳走になったあとで、ザーガス師匠とは別れた。
その別れ際にお礼を言ったら軽く拳骨を落とされたが、それはさておき。
いったん冒険者ギルドに行き、『預かりシステム』にて預けていた武器防具すべてを引き出して【鑑定】で見直し。耐久値が減っているものはTPの続く限り『修復』。それから再度引き出したアイテムをほとんど預けてログアウト、と。
そして、現在のAFO内の時刻は23時半をわずかに過ぎた頃。今晩これからの予定は、海辺の街キルケーで〈漁師〉に転職。【水泳】の取得を目指して少し狩りをすることに。
セットする【スキル】は【強化:筋力】、【暗視】、【翻訳】の3つにして、まずはキルケーの冒険者ギルドへ。
そこでさっそく〈漁師〉に転職。【翻訳】を【槌術】に代え、今晩からは【槌術】を中心にレベルを上げていくつもりで持ってきた『量産武器:槌』を装備して街の外へ。
……ちなみに、なぜ『槌』なのかと言えば、それは【鍛冶】の『修復』という行動が一種の攻撃であり、鉱石などを対象にした『創造』にいたっては破壊作業のようなもので。対象アイテムのシンボルをクリックして『〇〇しますか?』の選択肢を呼び出し、『YES』とコマンドしたあとで対象アイテムを攻撃。そのダメージが『修復』であれば本来とは逆に耐久値を回復させるものになり、『創造』の場合は対象を破壊したあとで事前に選択していた武器ないし防具が取得できるという、現実世界ではありえない、まさにゲーム的な法則がAFOでは発生しているわけで。この、対象の耐久値を効率よく削りつつ、その作業に使用する武器の方の耐久値を必要以上に減らさないのが『槌』という武器種で。ザーガス師匠曰く、〈鍛冶師〉の主武装が『槌』系統なのはそのためだと言う。
ゆえに、【鑑定】を取得してから彼に言われるがまま最初の『創造』のために鉱石系アイテムの破壊に使用したのは、事前に借りた小さなハンマーで。それで、まずは自身で使うための『自作:小槌』を作り出してから、店内に置かれた武器のなかで材料費的に安そうなものを一通り自作のそれで叩いて作り、それをザーガス師匠に売ることで材料費と相殺――しようとしたら拳骨を落とされ。できた『量産武器』は小槌とあわせてすべて無理やり渡されてしまったが……それはさておき。
こうした【鍛冶】の仕様に『槌』系統の武器が有効なのに加え、『蒼碧の洞窟』に出るという蟹のモンスターに対して打撃武器が有効ということもあり、その攻撃力を上げる【槌術】をこの際上げてしまおう、と。つまりはそういうわけで今回は『量産武器:槌』を幾つか持ってきたのだった。
ちなみに、既に【槌術Lv.1】を取得しているのは、【鍛冶】のレベル上げの際に『自作:小槌』を片手に『創造』や『修復』のために振るい続けていたためで。〈鍛冶師〉のような戦闘とは無縁だろう〈職〉のままで武器攻撃系だろう【槌術】が取得できた辺り、本当に【鍛冶】と槌系武器の相性は良いのだろう。なにせ【槌術】をセットして【鍛冶】の『修復』を使った方が『本来は与えるはずだったダメージ分、耐久値が逆に回復する』仕様上、耐久値回復作業が短時間で済むうえに使用武器の耐久値をその分余計に減らさずに済むという。
ゆえに、今後のことを考えれば【槌術】のレベルを上げることは無駄ではないように思えるのじゃが……前回までの、美晴ちゃんたちと狩り場にしていた草原や、そのあとのPK狩りに赴いた森林エリアでは、重量があって取り回しに難がある『槌』系の武装は合わないゆえ、そこではやはり主武装は『斧』のままとなりそうじゃのぅ。
と、それはさておき。今夜は、以前に冒険者ギルドの職員に聞いて回った際に教えてもらった、『キルケー周辺の水場でレベルの低そうな場所』へと向かうことに。
目標は、【水泳】の取得。それが済めば〈職〉を〈戦士〉に戻し、あらためてレベル上げを。できれば、ここまでに要した三度の転職代ぐらいは朝までに稼いでおきたい――と、そう思って始めた狩りだが、
[ただいまの行動経験値により〈漁師〉のレベルが上がりました]
[ただいまの行動経験値により【漁】を得ました]
というインフォメーションとともに、まさか[取得可能なスキルの上限を突破しました。【漁】の取得を諦めるか、いずれかのスキルを経験値に還元するか選択してください]なんてインフォメーションが流れるとは思ってもみなかった。
「……いや、待て。落ち着け」
思わず声に出して呟き、深呼吸を数回。あらためて得られた【漁】という【スキル】と『スキルの上限を突破しました』というインフォメーションを見回して考える。
……つまり、あれか。取得可能な【スキル】は最大で13個だけなのか?
てっきり、上限など無いものとばかり思っていたが……。というか、この『スキルを経験値に還元』というのは、つまりは【スキル】を『消す』ということかの?
インフォメーションにはしっかりと『上限』という言葉があり、それを『突破』してしまったから『取得を諦める』か『経験値に還元』かを選ばせているのじゃからして、おそらくは後者の選択肢が現在取得している【スキル】を減らすためのものじゃろうというのはわかる。そして、そうであるのならば、最初に消すべきは効果がダブっていて今後使わないと思える【交渉術】ないし【解読】か。はたまた、今のところ使うことはないと思える【剣術】か【槍術】か。
いや、それ以前に、【漁】という【スキル】の効果は何じゃ? ……わからんが、わからんからこそ取得するべきか?
仮に、今回取得しなかったとして再び【漁】の取得はあるのか? そして、『経験値に還元』した【スキル】も再取得は可能なのか……。
「……まぁ、悩むのも時間の無駄か」
ため息を一つ。どうせ、このさきも取捨選択を迫られるのだろうし、今は再取得の簡単そうな【剣術】にでもしておこう、と。眼前に現れた『経験値に還元するスキルを選んでください』というメッセージ付きの取得済み【スキル】の一覧のなかから【剣術】にフォーカスを合わせて、クリック。『【剣術】のスキルを経験値に還元しますか? YES ・ NO』というウィンドウが表示されるや、『YES』とコマンド。
これにより眼前に表示されていたウィンドウが綺麗に消え去るのを見届け、≪ステータス≫とコマンド。『控えスキル』の項から【剣術】が無くなり、代わりに【漁】が追加されたのをたしかめて、セットする【スキル】を試しに【暗視】、【槌術】に加えて【漁】にしてみる。
……さて、これで何か変わるのかのぅ?
果たして、それからすぐに現れたモンスターは『レッサー・フィッシャーマン』で。『蒼碧の洞窟』にも出現する魚人のモンスターと同じ見た目だが手に銛など無く。ここでは群れではなく単体での出現で、当然、レベルも低い――を瞬殺することで即座に【漁】の効果を知ることになった。
[ただいまの戦闘により『劣魚人の死骸』を得ました]
モンスターからのドロップアイテムを知らせるインフォメーションを見て、「……ん?」と首を傾げる儂。それと言うのも、これまで、レッサー・フィッシャーマンを倒すことでドロップした素材アイテムは『劣魚人の鱗』だけだったからで。ゆえに、不思議に思ったわけじゃが――つまりはこの変化こそが【漁】の効果なのだろうと察して納得した。
要するに、【漁】はドロップアイテムを変える効果、か? 試しにインベントリから『劣魚人の鱗』を出そうとすれば、手に乗るサイズの鱗片が現れ。『劣魚人の死骸』というアイテムを取り出せば、まさしくレッサー・フィッシャーマンの死骸がそのままの姿で現れた。
このサイズ比からして【漁】のあるなしではドロップアイテムの質は雲泥の差に思えるのじゃが……さて、これによってどう変わるのかのぅ?
冒険者ギルドで売りに出せば高く買ってもらえるようになるのか。あるいは、武器防具を造るときに【漁】によって得られた素材アイテムを用いた方が良い物ができるのか。……わからんが、とりあえず一度【漁】を外してみて、これによって再びドロップアイテムが『劣魚人の鱗』になるのかをたしかめ。そのあとで【漁】をセットしたうえでドロップアイテムがどうなるかを検証してみよう、と。
買取額などは冒険者ギルドに戻ったときに職員に訊けばわかるゆえ、まずは【漁】の【スキル】の検証をしつつ第一目標であった【水泳】の取得を目指そう、と。とりあえず手元に出したアイテムをインベントリに仕舞い、狩りの続きへ。
そして――結果から言って、【漁】の効果はドロップアイテムの変化だと判明。それからは【漁】を外して【強化:筋力】をセット。それから【漁】取得から2時間ばかりもかかってだが【水泳】も取得できた。
これによってまた『取得可能なスキルの上限を~』というインフォメーションが現れたが、今回はあらかじめ決めていたので悩むこともなく。さっさと【槍術】を経験値に還元して【水泳】を取得したのじゃが――
[ただいまの経験値還元により〈戦士〉のレベルが上がりました]
――まさかのレベルアップの通知に暫し硬直。
それから、なるほど、と。あらためて『スキルを経験値に還元』という行為の向かうさきに考えがいたる。
おそらく、今回の『就いていない〈戦士〉のレベルアップ』は、【槍術】が〈戦士〉の〈職〉で得た【スキル】だから、だろう。ゆえに、さきに経験値に還元した【剣術】も〈戦士〉の経験値になったのだろう――と、ここまで考えて、では【交渉術】のような『スキル変換チケット』という『任意の【スキル】を取得するアイテム』等で得たものは、いったいどの〈職〉の経験値となるのか。
……まさか素体レベルの経験値に? などと新しく生じた疑問に首を傾げもするが、こればかりはきっと試してみなければわからないだろう、と即座に結論。こんなものは悩むだけ無駄で、いつか【交渉術】を経験値に還元したときに結果は自ずとわかるから良い、と思考を切り替える。
そんなことより、今回取得できた【水泳】について。これが予想以上に取得まで時間がかかった気がするのは……やはり、本当に泳いだりと言った行為をしなかったからゆえか。はたまた、別段遅いというわけでもないのか。
たとえば【収納術】はインベントリの容量ギリギリまでアイテムを持って2時間ばかりで取得できた。そして、【暗視】はまるまる2晩はかかって取得、と。【盾術】や【斧術】などの武器戦闘で得られた【スキル】に関しては別として、この【水泳】という【スキル】は果たしてレベル上げが容易なのか否か。……などと悩むのは、【水泳】さえ取得できればすぐに転職するつもりが、なんだかんだで30近く魚人を倒すことになり、〈漁師〉のレベルを3まで上げてしまったからか。
これまではずっと半身を浸けて槌を振り回していたが……いっそ泳ぎ回っていれば良かったのかのぅ?
さておき。いったん冒険者ギルドへ。まずは買い取りカウンターへ行き、さっそく『劣魚人の死骸』のことを訊いてみれば、返事は――まさかの『買取拒否』。
曰く、【漁】によって得られるこの手の『死骸』系アイテムは日持ちしないうえに専用の【スキル】が無ければ手を加えられないのだそうで。売るのなら、冒険者ギルドではなく商人ギルドで行ってほしいのだそうだ。
……なんとも面倒じゃが、売るとすればいったんアイギパンに戻って、ということかのぅ。
いちおう、各街にもそれぞれ商人ギルドはあるそうじゃが、儂の知っているのは最初の運送依頼で挨拶廻りをさせてもらったアイギパンのみで。ゆえに、行くとしたらアイギパンに戻って、ということになるじゃろうが……まぁ、商人ギルドは今の時間は閉まっているそうじゃし、せっかくなので今回手に入れた『劣魚人の死骸』は【鍛冶】の『強化』用の素材として残すことにして。それ以外のドロップアイテムをとりあえずすべて売り払うことに。
で、まぁ冒険者ギルドでも安売りの防具は売っているのじゃが、さすがに『蒼碧の洞窟』攻略のための物にしては心もとなく。あとで『強化』の素体とする防具は買いに行くとして、とりあえず予定通り〈戦士〉に転職し、明るくなるまでレベル上げを、と。〈漁師〉のときは推奨討伐レベル3程度の場所だったのとは違い、今度は10以上の場所へ向かうことに。
果たして、次に選んだ狩り場も当然、水場で。さらに出現するモンスターが『蒼碧の洞窟』にも現れる、片手が槌のような巨大な蟹――『ハンマー・ジャイアントクラブ』という場所。
ここでしばらくは来たるべき目標の洞窟攻略に必須だろう【暗視】、【槌術】、【水泳】のレベル上げを行いつつ対巨蟹の経験を積む予定じゃが、それも2時間もすれば陽も昇るので【暗視】は【強化:筋力】に変更。ついでに使用する武器も控えとして持ってきた、同じ『練習用武器:槌』に持ち替えることに。
ちなみにここは、さきの腰まで海水に浸かる浜辺のエリアとは違い、膝下までの水と岩礁の多くあるエリアで。浅瀬で波も緩やかな場所でありながらも、やはり【水泳】のありなしは大きく。予想以上に【水泳】の効果で水の抵抗を減らすことができていて戦闘においては非常に助かっていた。
そして、初見のハンマー・ジャイアントクラブの動作についても今ではおおよそ把握し、名前にある大きな左手のハサミを振り上げ、下ろす一撃さえ当たらないよう気をつければ動き自体は遅いので対処は容易。それこそ外殻の硬さのあまり攻撃時に無駄に隙を作るようなことをしなければ相手からの攻撃を受けることはあるまい、と。さきの魚人との戦闘経験もあわせて着実に目標の攻略に必要だろうピースを揃えていくなかで、思わず「なるほど、本来はこうしてMMORPGは進めていくものなのじゃな」と独り言ちる。
やはり事前調査もせず、いきなり目標のエリアに突撃し、初見のモンスターに遭遇するやHPを全損。死に戻る、などありえないと今なら素直に思える。
本来はこうして目的地たるエリアのことを事前に調べ。そこに出現するモンスターを訊き。その攻略法に必要なものを考え。どれだけのレベルが要るのかを調べたうえでレベル上げに効率的なエリアをまた調べ、選択。必要だろう【スキル】や装備を調べ、その取得に必要な情報を集め。最終的に攻略に必要だろう【スキル】に悩みながらレベルを上げる、と。おそらくこれが正しいAFOのプレイスタイルなのだろうとなんとなく理解する。
……そして、美晴ちゃんと志保ちゃんが儂の初日でのプレイ内容に呆れていたようだった理由も、今ならばなんとなくわかろうというもの。なるほど、たしかにレベル上げそっちのけで荷運び依頼を選び、『喋るアイテムバッグ』のごとき背負われて移動するだけだった儂は、こうしてレベル上げを主眼において行動する余人から見たらおかしな行動に映るじゃろうな。
もっとも、儂は最初に物資運搬の依頼を受けたことに後悔なぞ無いが。……そのあとでPK連中に遭遇し、ケチこそ付いたが、それにしたって『山間の強き斧』の四人に『山林を駆け抜ける風』の三人と出逢えた依頼を受けたことは良かったと思っている。
なにせ、その繋がりで件のPKの攻略は成り。今回の『劣魚人の死骸』のようなアイテムを買い取ってくれる『商人ギルド』の場所も『帰りの依頼』で持つことになった物資の運び先だったので、アイギパンに戻ってすぐ『山間の強き斧』の四人と向かったのでわかっており。武器屋の主人であったザーガスというドワーフとは師弟関係となり、目標の『蒼碧の洞窟』攻略に必要だろう装備の目途もたちそうなのだからして、最初の依頼や行動が間違っていたとは思えない。
と、それはさておき。朝の8時を過ぎてすっかり明るくなるや儂はレベル上げをいったん止め。冒険者ギルドに戻って『劣魚人の死骸』以外のドロップアイテムを再び買い取ってもらい、〈鍛冶師〉に転職。これからのレベル上げと攻略すべき場所での戦闘に適した防具や武装の下調べと調達のため、ようやく開き始めた街の店を覗いてみることに。
そして――
「うっひょーーーーーーーーーーッ!! か、神さまだ! あなたが神だぁぁあああ!!」
――果たして儂は、『運命の人』と出逢うのじゃった。




