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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第二章 全プレイヤーに先駆けて最強PKを攻略せよ!
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チュートリアル 水無瀬家の三本の矢

二章開始

 忙しいなか、どうにか捻出した空き時間に指定されたアドレスへとわざわざ五感完全没入フルダイブタイプのVRデバイスを使ってログインすれば、何の冗談か、そこは小洒落た雰囲気を漂わせる居酒屋で。どこかで聞いたことのある音楽クラシックを流す、薄暗いムーディなバーの店内を思わせるそこで、先客というか呼び出したうえにこの会談の席をわざわざ創り出したのだろう姉と妹が、一見すると優雅に見える仕草でカウンター席に並んで座り、カクテルグラスを煽っていた。


「……まさか、本当に酩酊効果のあるものを飲んでいるのか?」


 挨拶もそこそこに、さっさと長姉の隣に座して問えば、彼女――水無瀬みなせ 千春ちはるは切れ長な瞳を細めて「まさか」と言って微笑し。末妹の小春こはるが「味だけ再現してる『なんちゃって』だけど、ケイ兄も何か飲む?」と千春姉さん越しにひょっこりと顔を出して問われ、なんとなく雰囲気に押される形でウェルカムドリンクを適当に

注文してみる。


 ……ふむ。しかし、注文してすぐにその味を再現した『だけ』のそれを瞬時に創り出せるのは、さすがは世界屈指のプログラマーと言ったところか。


 この店というか一室にしても、素人目には粗が見えんし。父さんが現役を退き、あの世代の人間が軒並み鬼籍に入っていく今、あるいはこの一見して能天気の権化のような彼女が世界で最も優れた電子情報制御者プログラマーかもしれませんな。


 もっとも、


「はい、ケイ兄。それで、はい、チー姉も。よし、それじゃあ、お疲れさまの乾杯を――って、なんで二人してさっさと飲んじゃってるのー!?」


 などと騒がしい、実年齢のわりにひどく幼く見える小春いもうとは、その言動が基本的にアレで。持っている技術や特許類などは凄まじいものがあるのだが、如何せん、この子をまえにすると「いったい何の冗談だ?」と思ってしまう。


「――と、そんなことはどうでも良い。私はもちろん、けいの奴も暇じゃあ無いんだからさっさと体感時間を引き延ばして本題に入るぞ」


 果たして、そう真剣な声で告げる千春姉さんと、「はーい。それじゃあケイ兄も、これから送るのに『YES』って返してねー」とお気楽調を崩さず小春。その言葉が終わるかどうかのタイミングで僕の視界に『外部からの体感時間に関する設定変更の要請がありました。受領しますか? YES ・ NO』という選択肢メッセージが映ったので『YES』と思考コマンド


 これでいつもの通り僕ら三人での会談時に流れる時間は現実の100分の1となり。ログアウト後にすこし頭が疲れたような感じになるが、それでも現実での多忙さから三人揃ってまとまった時間を確保するなど不可能なのだから仕方ない。


 それより、


「――で? 父さんは、結局どうなったのかな?」


 今は話を進めるべきだろう、と。早速、僕が一番訊きたかった内容を二人に投げれば、千春姉さんは「さきにメッセージで伝えた通りだ」とため息交じりに返し。要は、『あの』父さんが、小春の造ったものとは言え『たかがゲームをやっただけで意識不明になった』という馬鹿げた報告メッセージ真実すべてだと言うのか?


 ……有り得ない。今でこそ現役だったころより随分と歳を重ね、脳の働きこそ鈍っているかも知れないが――あの人の使っているデバイスは千春姉さんと小春が組んだ特別性だろ? それで、なにをどうしたらVRのゲームをしていただけで気絶すると言うのか。


 僕らの父――水無瀬 修三しゅうぞうという人間がどれだけVRや電子情報と脳のメカニズムについて研究し続けてきたかを知り。その偉大さと、余人からしたら狂っているとしか思えない逸話を多く知っているからこそ、訝しむ僕に千春姉さんと小春は今回の経緯について訥々と語る。


 そして、小春のいつにも増して判り難い説明にイライラしつつ、専門用語だろう意味のわからない単語などをニュアンスで補完したうえで、なんとか理解したのは以下の通り。


「つまり、父さんは小春に勧められて『娘の造ったゲームを孫と一緒にプレイ』し始め。現実で1日近く、ゲーム内時間にして3日以上をログインし続けたうえで自身の意志で体感時間を操作。その蓄積疲労やゲーム内での極度の緊張感の持続から意識不明に陥った、と?」


 自分で言っていて『意志だけで、プログラムを介さず体感時間を操作って何だ?』といった疑問こそあれ、その点に関しては小春姉さんも言及し。そもそも今の『VR空間における体感時間の操作プログラム』の根幹を研究、発表したのが父さんたちで。聞けば、父さんのほかにも研究に携わったメンバーのなかには『意志だけで体感時間を操作できる』人間がそれなりに居たようで。呆れはするが、そこは納得することに。


 しかし、


「……要するに、今回の父さんの意識不明の原因は小春なのか?」


 そうであるのなら、現・水無瀬グループの総帥トップとして、身内相手とは言え然るべき対応をしなければならないわけだが、と。そう言って末妹を睨めば、小春はことの重大さを理解しているのか疑問に思える苦笑いを浮かべ、


「う~ん……。まぁ、お父さんをゲームに誘ったのも、使ってるデバイスを造ったのも私だから、私のせいって言われたら否定はし難いんだけど~……」


「父さんの主治医で、同じく使用中のデバイスの設計をした私から言わせてもらえば――今回の件は、父さん自身の過失が半分。私と小春の過失が半分、と言ったところね」


 そう妹の言葉を引き継ぎ、「第一、こうなる原因と言うか、強制ログアウトするまで無理をしようとしたのは父さん自身の意志だし」と眉根を寄せて告げる長姉。


「私と小春にしても、父さんのデバイスを造った段階では、まさかここまで父さんが無理を通そうとするとは思っていなかった。それゆえに、普通のVRデバイスのような『連続ログイン時間の超過による強制ログアウト』というシステムを組み込んでいなかった」


 それが蓄積疲労の原因で。だからこそ、父さんは一度もログアウトせず最後には無理をして、倒れた。と、そう言ってまたため息を吐く千春姉さんに、「私としても『任意のタイミングで体感時間を自由に操作するプレイヤー』の対策はしてたつもりだったんだけどねー」と小春も続けて言って、ため息。


 ……ふむ。一見、二人して疲れているような、呆れているような風だけど、どちらもそこはかとなく……嬉しそう?


 僕としては正直、疲れるだけと言うか、頭が痛いだけと言うか……。それ以前に、あの『生ける屍』状態だった父さんが、よくもまぁたかがゲームに躍起になって――と、そこまで考えて察した。


 ああ、そうか。二人は、だから『嬉しい』のか。


 父さんの死を認められず、その延命に血反吐を吐くような努力をし続けてきた千春姉さん。そして、父さんにまた笑って欲しい、と。そう言って今日まで独自の方法で頑張ってきたのだろう小春。そんな二人だからこそ、いつかのような『大切な人のためなら自身の状態など二の次、三の次』という、『燃え尽きるまえ』の父さんを思わせるような何かに全力で打ち込んだ結果、それで倒れてしまったのだとしても『嬉しい』と思えるのか。


 ……うん。まぁ、わからないでもない。


 わからないでもない、けど――


「なんにせよ、父さんには定期的にログアウト休憩を挟むよう注意したし、次に強制ログアウトなんてなったら『ひどい目にあわせる』って脅しといたから、二度目はないでしょう」


「……その、『ひどい目にあわせる相手』が私だってとこに異議を申し立てたくはあるけどねー」


 と、そこまで言って再びカクテルに口をつける二人――って、ちょっと!? まさかそれで今回の件の説明終わり!?


「いやいやいや。千春姉さんと小春もちょっと待ってくれ」


 仮に、だ。二人の言う通り、今回の件の原因が本当に『父さんのゲームのやり過ぎ』にあったとして。それを親族一同に説明して納得すると思うかい? 誰かに責任を――今回で言えば、直接的に事件の原因となったゲームを造り、誘った小春はもちろん。主治医にして保護者であり、父さんのデバイスを設計した一人でもある千春姉さんが槍玉に挙げられて。ことによっては父さんの後見人としての責任を追及されかねない。


 そうなったら、小春のゲームや提供元の会社に水無瀬家の責任者として相対しなきゃいけなくなるわけで。千春姉さんにしたって、外様の親族衆に煩く言われると思うよ、と。何故だか『話は終わった、やれやれ』といった雰囲気だった二人に『現実問題、何も解決してないから!』と言った体で告げれば、姉妹は揃って嫌そうな顔をして。


「そもそも親族衆ハゲタカは、恵二あなたの管轄でしょ? 適当に収めなさいよ」


「そもそも父さん自身が今回の件を表沙汰にするつもりなんて無いって言ってたしー。『なんなら会社うち代表だんなが直接謝罪しよっか?』って提案を断ったのも父さんだから、私の責任がどうのって言われてもー」


 黙っておけば良い、と。誰もが思いつつ、隙あらば僕ら三人にとって代わって父さんの後見人になって莫大な特許料や水無瀬家の資産をかすめ取ろうとしている親族連中の意地汚さを良く知っているがゆえに、そのうちどこからか今回の件を嗅ぎ付けて嘴を突っ込んでくるだろうと確信し、『言わなきゃバレない』とは言えない三人。


「わかってるとは思うけど、彼らは何が理由でも父さん自身には文句は言わないから……」


「……これだから内弁慶ヘタレは。父さんが原因で、父さん自身が倒れたのに、何故、私や小春にだけ責任だ何だと――っていうのは言っても無駄なんでしょうね」


「そもそも、あの日、父さんが『からだ』を失くして『あたま』だけになったときから今日まで、連中あんたらが何したの? 責任追及できる立場ですかー? って感じなんだけど……本当に、面倒くさいなぁ」


 頭が痛い、と。三人揃って眉間に皺を寄せ、「そもそもの話。何が理由で、父さんがそこまで無理しようとしたの?」と微妙に話題を変え、すこしでも問題解決の糸口を探そうとすれば、返ってきたのは小春のとこの娘と、その友だちのためで。つまり、美晴ちゃんたちのことが知られれば、僕ら三人以上に強い非難を年端もいかない少女たちが浴びることになると判り、眉間の皺がより深くなった。


「えーと……。ちなみに、父さんは、今?」


「意識戻って少し話したらゲームに戻った」


 ……おい。それはないんじゃないか、と思って半目で二人を睨めば、


「しかし、こうなってくると……『あの子』の件を父さんに頼んだのは失敗だったんじゃないか?」


「う~ん……。でもでもー、父さんにも言ったけど……私が誘った手前、父さんみたいに『彼女』にも倒れられたら個人的にも会社的にも困るしー」


 ……どうやらまた、何かの問題が進行中なようで。


 詳しく聞きだした感じ、まだまだ起爆剤になりそうな案件が幾つも潜んでいそうだったので、


「……よし。いっそ、僕んとこの娘にも父さんのやってるゲームを勧めてみようかな」


 もう自棄だ。面倒だ。出たとこ勝負だ、と。煩わしい親族への対策に頭を悩ませるのにいい加減辟易していた僕は、そう言って話題を打ち切り。


 それで? なんて名前のゲームだったっけ? と、そう訊いた僕に、製作者である小春は意気揚々と胸を張って答えた。


『星霊幻想記~アイテールファンタジア・オンライン~』、と。


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