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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第一章 制限時間内に目標を殲滅せよ!
24/127

クエスト17 おじーちゃん、ついに『整形男』と対峙する

 連中の位置を再度『山林を駆け抜ける風』の面々に確認すれば、彼らはほとんど場所を移動していなかった。


 曰く、どうにも怒鳴りあうような様子だったそうで。おそらくは不意の襲撃と、儂らの『ブラックリスト』の仕様を用いた戦法がわからずにイラついているのだろう、とは軍師殿の見解。さらには「ざまぁ!」と、それはそれは嬉しそうな声で言っていたが、それはさておき。


 捜索と移動の時間が大してかからないと知れた以上、さきにこれからの作戦行動について入念に話し合い、戦利品や装備に儂のステータスを今一度確認。加えて、称号【粛清を行いし者】についても今後どうするのかを話し、


 そして、


「『パーティ』――『脱退』!」


 ――結論から言えば、三人中二人を撃破するのは大した手間ではなかった。


 果たして、現在はすでに『ブラックリスト』の仕様によって再び彼ら――といっても残るは一人だが――に対して相互不干渉の状態で。さきの、再度の不意打ちと『ケムリ玉』を用いた戦闘でいい加減脳の蓄積疲労が危険域に突入していそうな儂は、パーティ入りなどの処理をこなすやたまらず木にもたれ掛かって荒い息を吐いていた。


「はぁ、はぁ……! す、≪ステータス≫、オープン……!」


 苦労して≪ステータス≫を開き、手に入れたSPを即座に全消費。それから、ついには痛み出した頭を押さえつつ、内容を確認した。




『 ミナセ / 戦士見習いLv.10


 種族:ドワーフLv.5

 職種:戦士Lv.5

 性別:女



 基礎ステータス補正


 筋力:2

 器用:5

 敏捷:1

 魔力:0

 丈夫:1



 装備:見習い冒険者ポーチ、見習いローブ、量産武器(手斧)、小兎と森狐の毛皮鎧



 スキル設定(3/3)

【強化:筋力Lv.1】【交渉術Lv.4】【斧術Lv.5】



 控えスキル

【収納術Lv.4】【暗視Lv.1】【盾術Lv.2】【槍術Lv.1】



 称号

【時の星霊に愛されし者】【粛清を行いし者】    』




 ……はは。ついにはレベルが二桁になってしもうたか。


 四人撃破で素体レベル、〈職〉のレベル双方が3つ、合わせて6レベルアップ、か……。いやはや、連中はどれほどのレベルだったのやら。


 もっとも、志保ちゃんに曰く。後でもう一度レベル上げをやり直すことを知っていて、なお、キャラデリまでの暇つぶしでしかないキャラのレベル上げを真剣にやるわけがない、と。そのあとの「そもそもレベル上げのような面倒で地道な作業を真面目にこなせる人間が赤点野郎になんてならない」という私怨混じりだろう言葉はともかく、前者の『消す前提のキャラのレベル上げを』云々はたしかに頷けるもので。おそらくは、連中のレベルにしても彼女の予想範囲内のものだったのだろうと儂も思っている。


 ……もっとも、それであっても最大で12や13ということじゃったが。対するこちらは、不意打ち前提とは言え最初は〈戦士見習いLv.4〉だったわけで。『山林を駆け抜ける風』の言葉ではないが、そんな連中を複数相手取って儂一人でよく勝てると思ったものじゃ。


 まぁ、しかし、我らが軍師殿の「連中は欲かいて風呂敷を広げた結果、中身を奪われ易くする愚か者」という台詞と、連中が推定レベルより『器用』などの直接的な戦闘力に繋がるステータス補正を上げていない理由の証明として、思いのほか一人一人のアイテムを落とす量が多いという現状がなんとも……。


 代えの武装や回復アイテムは勿論。予備用だろう防具に自身で狩ったか奪ったかしたのだろう、モンスターからドロップしたと思われる素材アイテムが大量で。それこそ、素の筋力値に優れた『ドワーフ』の儂ですらインベントリの容量を増やすため『筋力』の補正を考えるほど。


 ゆえに、『人間』や『エルフ』であった彼らはキャラデリ後のために直接的な戦闘力に繋がらないと知りながら『風呂敷いんべんとり』を広げるべく『筋力』に多くのSPを消費してきたのじゃろう。その結果、すべてを失ったわけじゃが……しかし、それを知る儂もまたたくさんの戦利品を持てずに放置し、再利用などされるのも怖いから仕方なく『筋力』にSPを使わされている、というのものぅ。


 できれば『器用』や『丈夫』に、もしくは『敏捷』をどこかで上げたかったが……仕方ない、か。


『……大丈夫ですか?』


 心配げな志保ちゃんからの問いかけに『ぜー、はー』と荒い息まじりに「だいじょうぶ」と返したが……どう考えても余計に心配をかけるだけになっていそうで、苦笑せざるをえない。


『ミナセさん。これを私が言うのは間違っているのかも知れませんが、言わせてください』


 うむ、と小さく頷き。そっと瞳を閉じて、少女の声に耳を傾ける。


『ありがとうございました。私たちを襲ったPK集団五人のうち四人撃破できました。それもこれもミナセさんのお力があってこそ。……だから』


 もう、十分です。お疲れ様でした、と。そうわずかに声を震わせて告げる彼女に「ああ、お疲れ様」と。ようやく整った息で返しながら、ふと、視界の隅に表示されたAFOの現在時刻を確認。


 もうすぐ19時か。つまり現実世界では18時すぎ。


「志保ちゃんと美晴ちゃんは、たしか現実での19時までだったの? ……儂はもうしばらく動けんから時間になれば二人とも勝手に『ログアウト』してくれてかまわんよ」


 ああ、体が重いのぅ……。瞼が、開けんほど疲れるとは……、いつぶりのことか……。


 ああ、眠い……。脳が、情報を……読み取れな、ぃ……。


『――――』


 果たして、志保ちゃんがなんと言ったのか。


 そのときには既に意識を失っていた儂は、終ぞ知ることはできず。そして、儂が再び目覚めたのは、彼女と言葉を交わしてから3時間はゆうに経ってからじゃった。


「……起きた?」


 眼前に居たのは、黒豹の女獣人――リュンシー。


「ふむ。どうやら長いこと守ってもらっていたようで、助かった」


 ありがとう、と。礼を言って立ち上がり、アバターと脳の状態を確認。……ふむ。あと1戦であれば、問題無さそうじゃの。


「……逃げたプレイヤーは?」


「アイギパン南の草原に居る、って」


 ≪インベントリ≫を呼び出し、これまでの戦闘で消耗した武装を交換。最後の1つとなってしまった『ケムリ玉』を『ポーチ』へとしまいつつ、さきの、視界情報を奪っての戦闘を思い返す。


 ……あれは、多対一の戦闘にはたしかに有効じゃったが、のぅ。知覚できる情報のなかで相手の状態を把握し、視界情報以外で範囲内の地理情報を精査しての戦闘行為は思いのほか脳への負担が多くなってしまった。


 ゆえに、できるなら再びの使用は控えたいところじゃが……はてさて、どうなることやら。


「追うの? ミナセ」


 手に下げた、今しがた≪インベントリ≫から取り出した斧を軽く振るって調子をたしかめながら「うむ」と頷き。五人いたPKのなかで唯一の生き残りの男を――いの一番に逃走を図った『クロード』という名のプレイヤーの姿を脳裏に思い描き、わずかに顔をしかめる。


 ……思えば、あれとの因縁は儂から続いたものだったのかも知れんのぅ。


 最初の最初。始まりの『広場』にて声をかけてきた男は、儂に拒絶されて笑いものとなった。それが、彼がほかのプレイヤーを害するようになった原因ならば――その因果は儂が清算すべきじゃろう。


 ほかの、名も姿も知らなかったPK連中ならいざ知らず。彼は――彼だけは儂個人としても逃がすわけにはいかない。


 男が『クロード』の名と姿を作り替えるまえに。彼があのときの男であるうちに。儂は彼と再び対峙せねばならない。


「現在時刻は22時すぎ。そして奴が『キャラデリ』できるまで残り13時間以上、か」


 十分じゃ。そう呟き、ふとリュンシーのあとを追うようにして歩きながら≪メニュー≫を開き。『フレンド』の項を確認して美晴ちゃんと志保ちゃんが『ログアウト』しているのをたしかめて瞳を細める。


 ……これで『ブラックリスト』の仕様を用いた緊急回避はできなくなったわけか。


 で、あれば。いったん街に戻って連中から奪ったアイテムを換金してくるのも手か? と迷うのも一瞬。よくよく考えれば、今、先導してくれている彼女ほか『山林を駆け抜ける風』の三人をこうまで長時間、それも破格の値段で雇い続けるのは流石に悪い。これからの戦闘で勝つにしろ負けるにしろ、いい加減、彼らは開放すべきじゃろう。


「……リュンシー」


 黒豹の獣人を呼び止めながら、視線を振り向いた彼女の肩ごしに彼方へ。もうすぐ森のエリアは終わりという場所で立ち止まり、あの男が居るとされるアイギパン南の草原を視界に収めながら、


「これより向かうは決戦の地。ゆえに、おまえさんたち『山林を駆け抜ける風』もここまでで良い」


 顔を彼女へとあらためて向け、深く頭を下げながら「ありがとう。とても助かった」と心からのお礼を告げる。


「……姿は見えんが、近くに居るじゃろう二人にも、後日、あらためて礼を――」


「ンなもん別にいらねーよ」


 気づけば、本当に近くの木陰から狼の獣人が。そして、また別の方向から黒い熊の獣人が姿を見せるのを『視て』、顔を上げる。


「それより、ほら。拳、突き出せ」


 ふむ? ギーシャンに言われるがまま、とりあえず彼に倣って拳を突き出せば――こつん、と。狼青年は儂の小さな拳に自身のそれを軽くあて、口角を吊り上げるようにして言った。


「負けんじゃねーぞ」


 ……ああ。なんか良いな、こういうのは。


 彼の気遣いに思わず瞳を細め、胸を温かくしながら頷き。


「……ミナセ」


 呼び声に振り向き。眼前に突き出された、今の儂の頭蓋より大きなジングソーの拳にもそっと拳をあて、


「俺たちの報酬は、お前の自慢の『参謀』を紹介してもらうことだ。だから、それまで――死ぬなよ、ミナセ」


 対して、軽く苦笑して「……さて。確約はできんが善処はしよう」と冗談半分といった体で返せば、彼もまた苦笑したようで。その大きな手のひらを儂の頭へと置き、やや乱暴に頭を撫でまわしてきた。


「ふっ……。まったく、戦いをまえにそれだけ言えれば上等だ」


 頑張れ、と。その言葉を最後に頭から手を退け、一歩離れるジングソー。そして、順番的には彼女だろうとリュンシーの方へと向き、これまで通り拳を――


「……がんばれ」


 そんな言葉とともに、抱きしめられた。……そして、空気を読めぬ[ハラスメント防止機構に抵触しています]という警告文が視界隅に流れるのに内心でだけ顔をしかめ、


「うむ。がんばってくる」


 そう告げ、そっと抱擁を解き。彼女にも拳を突き出して見せ、その返礼として突き出されたリュンシーの拳と軽く打ち合わせて、


「では、行ってくるでな」


 最後にニヤリと笑って見せ、立ち止まり見送る構えの彼らから完全に草原へと視線を移し、歩きだす。


 ……まったく。決戦の場を『最初の草むら』とするとは、の。いやはや、ずいぶんと皮肉が効いているのぅ。


「≪ステータス≫、オープン」


 果たして、セットする【スキル】を【強化:筋力】、【暗視】、【斧術】へと換え。得られる視界情報に【暗視】の補正が入るのを一度の瞬きで甘受しながら、


「――やぁ。待たせてしまったかの?」


 草原へと踏み入り、やや陽気に聞こえるだろう声での挨拶に対する返礼は、言葉ではなく――矢。


 ……まぁ、これまで散々、不意打ちで会話無く切り捨ててきたでな。仕方ないか。


 飛来する矢をいつものごとく手にした斧で切り払い。ゆっくりと、しかし着実に彼我の距離を詰めながら内心で苦笑。それでいて表面上は男を挑発するように嘲りの笑みを貼り付けて言葉を投げる。


「おうおう、学ばんのぅ。そも、五人がかりで一矢も浴びせられなんだのに、おまえさん一人で儂の身に届かせられると思うな」


 知覚範囲を前面に集中。


 それによって飛来する矢は勿論。道中に彼が仕掛けたのだろう『トラップ』――だろうか? その確信こそ無いが、なにやら不可思議な情報を拾うことに成功したので進路をそちらから逸らす。


「はッ! ははっ、ははっははっはははははっははっは!!」


 果たして、彼我の距離が20メートルを切るころ。ようやく矢を射かけるのを止め、男は――クロードは笑い声を響かせた。


「なるほど! なるほどなるほどなるほど! やっぱりか! やっぱりお前か、お前か、お前かクソ餓鬼がぁぁぁあああああッ!!」


 そう吼える男に、内心でまた苦笑。これは、思ったより精神的に追い詰め過ぎたかも知れんのぅ。


「お前が! お前のせいで俺はッ!!」


「――それは無いのぅ」


 遮り、返礼として『ポーチ』から『短剣』を取り出して投擲。それがことのほかあっけなくクロードの喉へと突き立ち、彼が目を剥くのを見るとはなしに見ながら、


「おまえさんが他者を傷付けるのを選んだは儂のせいではない。……否。誰かのせいにして良いことだと思うな! この、痴れ者がぁあああ!!」


 怒鳴り、駆け出す。


 途中、やはり『トラップ』だろうと思える違和感からは進路を逸らし。さりとて、こちらを血走った目で睨む男からは視線を逸らさず。


「はッ! はははッ!! お前は! 相変わらずの気持ち悪ぃキャラしてやがんなぁああオイ!!」


「なに、おまえさんとて相も変わらず醜悪な顔をしておるでな! お互い様じゃろう、クロード!!」


 斧を振るう。が、やはり一撃ではHPを削り切れず。クロードはさっさと背を向けて駆け出し、腰の『ポーチ』から何かを――『HP回復ポーション』を取り出して使用。彼のHPこそ窺い知るすべこそ無いが、おそらくは全快を許してしまった。


 ゆえに……さて、どうしたものか。


 さきの短剣の投擲にしても【スキル】の恩恵のない攻撃だ。無意味とは言わんが、さすがに致命傷とするにはおそらく威力が足らなかったろうし。敏捷値の差は如何ともしがたく、逃げられてしまえば捉えるすべもない。


 ゆえに、


「ふっ! また逃げるか! そうやって『キャラデリ』できるようになるまで逃げ続ける気か、クロード!!」


 言葉を投げる。挑発する。


「そんなおまえさんに朗報じゃ。じつは、お前さんたちを討伐したことで『称号』なるものを得てな。【粛清を行いし者】というのじゃが、聞き覚えは?」


 ――さきに、志保ちゃんに確認している。


 曰く、『称号』なんてものはβ版では無かった要素だという話で。効果こそわからないが、そんな新要素があると知れればプレイヤーはこぞってそれを――【粛清を行いし者】を狙い、それを取得するために今まで以上にPKを狩ろうとする、と。


 ゆえに、


「ああ? お前は何言って――」


「PKを狩れば『称号』を得られる、と。そんな情報を目にしたプレイヤーすべてにおまえさんは狙われるようになる、と言うとるんじゃよ!」


 ……もっとも。その情報の開示は、折を見て、という話止まりであり。儂自身でそれを≪掲示板≫に書き込むつもりはさらさら無いのだが、そんなことなどおくびにも出さず。


「儂が≪掲示板≫にそれを書き込めば、『キャラデリ』可能な時間まで残り13時間あまり、おまえさんは数多のプレイヤー相手に鬼ごっこをせねばならんなぁ!」


 告げる。男に、『クロード』というキャラクターは既に詰みの状態であると。ニヤニヤと、ことさらに相手を小ばかにするような笑みを作って、


「チェックメイトじゃなぁ、クロードく~ん?」


「こ、の……! クソ餓鬼がぁああああ!!」


 たまらず激昂するクロードを、「こういうのを『ざまぁ!』というのじゃったか?」とさらに煽り。彼が逃走を図るのではなく攻勢に出るのを、飛んでくる矢を切り払いながら喜びつつ。……さて、と内心では冷静に考える。


 遠距離攻撃の手段は、ある。


 腰の『見習い冒険者ポーチ』にはまだ数本短剣があるし、インベントリのなかには弓と矢まである。が、そのどちらもが【スキル】の恩恵の無いもので。それゆえに決定打になりえず、いたずらに消費して良いものでもない。


「はッ! はははは! そう言えば、例の『ワープ』はもう使わないのかよクソ餓鬼!」


 さて、どう攻略するか。そう悩む儂にかけられるのは不可解な問いかけ。


 『ワープ』? ……ああ、もしかして『ブラックリスト』の仕様で姿を消したり現れたりするのをそう称していたのか?


「ふむ。なんじゃ、使ってほしいのか?」


 右手に斧を。左手に剣を。飛来する矢を切り払い、儂の周りを旋回するようにして逃げまわるクロードを駆け足で追いかけ、問い返す。


「はッ! 残念だったなぁ、クソ餓鬼――いや、『ミナセ』ちゃ~ん?」


 ……む? このタイミングで儂のプレイヤーネームを言うということは、最初期の邂逅での名乗りをようやく思い出したか、あるいは今、シンボルから名前を読み取られたか。


 しかし、それで……なにを勝ち誇っている? と、不審に思い、眉根を寄せる儂に、


「じ・つ・は! お前らの使うワープの絡繰り。それがもう、わかってるんだなーこれが!」


 クロードは、さも愉快とばかりに不自然に造形の崩れた笑みを浮かべて告げる。


「いやー、まさかブラリ機能を使うとは! 考えたねーミナセちゃん? ……ひゃはッ! いやいや、スゲーよ! そりゃあ、何度『GMコール』してもチートじゃねーって返ってくるわけだわ! ひひひひ、ふひゃひひっははっははは!!」


 そのあまりの醜悪な顔に、たまらず眉間の皺を深める儂に「だーけーどー!」と。それはそれは粘つくような気色の悪い声でクロードは言葉を継ぐ。


「タネを知られた手品は、真似られる。つまり、お前の名前をブラリすりゃ俺も見えなくなるんだぁ! だから、お前に俺は倒せないんだぁ! 残念だったなぁ、ミ~ナ~セ~ちゃ~ん?」


 そう笑い。嗤い。哂う男に、


「ああ、おまえさんがブラリしてくれるなら――手間が省けて助かるのぅ」


 ニヤリ、と。こちらも嘲り笑って返す。


「ときに、おまえさんは『一度、ブラックリストに名前を登録すると、それは二度と消せない』というのを知っておるか?」


「あン? それが……そんなことが何だって言いてーんだ?」


 不可解だ、と言葉ならず顔面全体で言っている男に、思わず「ふはッ!」と吹き出し。やはりここまでの流れを――『ブラックリスト』の仕様を使っての不意打ちと緊急回避が相手にバレ、真似られることまでを計算に入れて作戦を組んだ幼き賢女にあらためて畏敬の念を抱き、


「わからぬか? ……なるほど、つまりおまえさんは『ブラリを使ったうえでのキャラデリの経験』は無いのじゃな」


 嘲りの表情で相対しながら。『ブラックリスト』の仕様に詳しく、そしてβ版からキャラクターを引き継がなかったらしい少女の心を想って密かに奥歯を噛みしめる。


「だ、だから! 何が言いて――」


「一度『ブラックリスト』に名前を登録したら二度と消せない。……たとえ『キャラデリ』をしても、決して、な」


 ――思えば、彼女は誰よりもPK行為に対して憤り、憎み、そして……怯えていた。


「わかるか? つまりここで儂の名を『ブラックリスト』に登録したが最後。お前さんは二度と儂に干渉することができなくなるのじゃよ!」


 これを手間が省けると言わずして何と言う? そう嘲り笑い、彼に向かって駆け出し。『ポーチ』から美晴ちゃんから預かった短槍を取り出して、投擲。


「がッ!? て、テメェ……! ふかしてんじゃねーぞコラぁ!!」


 ふむ。当たったのは左腕か、と。返礼となる矢を斧で切り払いながら内心で舌打ちし、再度『ポーチ』から槍を取り出して投擲。


 それによってどうにかクロードの足を貫き、逃げ足を止めるのに成功。そして、彼が弓から手を放して回復のために『ポーション』を取り出そうとするのを見ながら駆け寄り。


「は、ははッ! 残念だったなぁ、そんなんじゃ攻撃力が――」


「知っとるよ」


 短剣を1つ。2つ。3つ。ただ男の動きを阻害するために投げ、


「だから、ほれ――とっておきを喰らうが良い」


 そう告げて。それまで背に隠していた得物を、


 密かに『チャージ・アックス』を使い、刃にアーツのエフェクト光を宿した鉈を、


 志保ちゃん曰く、現在のプレイヤーが装備しているなかでも最上位だろう『山間の強き斧』に貰った手斧を掲げて見せ、


「なッ……!? この、クソが――」


 目を剥くクロードに、果たして振り上げた斧を――振り下ろす。


 それによって彼との因縁に決着をつけるはずだった一撃は、




 しかし、その瞬間。突如、男の背後からスモールホーン・ラビットが飛び出してきて。




 必殺のはずの一撃は、間に入る形で跳ねてきた兎が受け――アーツによって宿した光とともに瞬時にポリゴンの破片となって消えた。


 そして、クロードには幾分か攻撃力を落とした一撃をどうにか入れるに留まり。結果、HPを削りきること叶わず、回復する間を許してしまった。


 ……くッ!? 蓄積疲労のせいで知覚精度を落とすとは何たる失態ッ!!


 平時ならば有り得ない。万全であれば絶対にしない過失。ゆえにいっそう悔しく思い眉根を寄せる儂に、


「ひゃはッ! ざ~んねんでしたぁ!!」


 そう嗤い、足に突き立った槍を抜き、駆け出すクロード。その背に二度、鉈を振るうも仕留めきれず。


 投擲のために地面に転がった槍を拾うころには三度目の回復を許し。その背を追おうとする儂を、再度、兎の突撃が邪魔をして。


 気づけば、クロードは儂では追いつけないだけの間を空けていて。知覚範囲には、いつの間にか兎の群れが映っていた。


「ひひひ! 形成、逆転だ~なぁ!! ミ~ナ~セ~ちゃ~ん!?」


 果たして儂は、その醜悪な顔をまえに、ただ舌打ちで返すしかなかった。

前半、出番が無くてしょんぼりしていたシリアスさんがハッスルしだした本文で『筋力』さんがやたら主人公たちに『直接的な戦闘力に繋がらない』などとディスられてますが、設定上、そこまで無駄じゃありません。というより、AFOだと極振りなどの極端なステは割と詰み易いので非推奨。特に質の良さ=重さのAFOでは『筋力』が低いのは後半致命的なことになったり? なので、序盤では……やっぱり要らない子?w


以下、ステ補正の実態↓


・筋力→質の良いアイテム、装備を持ったり使ったりするのに必須。TPが少し増える。

・器用→物理的な攻撃力・防御力に補正。また生産活動にプラス補正。

・敏捷→アバターの動作を早くする。また体感時間も少し加速される。

・魔力→魔法的な攻撃力・防御力に補正。MPが少し増える。

・丈夫→防御力・抵抗力に補正。HPが少し増える。

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