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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第一章 制限時間内に目標を殲滅せよ!
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チュートリアル ある回復役PKの場合

PKその1視点

 いわゆる回復役ヒーラーってやつになろうとした。


 それは別段、こだわりがあったわけじゃあないし、やろうとしたのも所詮は『なんとなくの思い付き』でしかなかった。だけど……だからってそれでパーティのお荷物扱いは御免だし、馬鹿にされれば頭にくる。


「はあ? 『エルフ』で〈治療師〉で、おまけに【回復魔法】と【調薬】だけって……なに、あんた、俺らに寄生してレベル上げする気?」


「……せめて戦闘用の【スキル】1つ取っとくか〈職〉に就いとけよマジで」


 最初の街に選んだ森と山に囲まれた『アイギパン』という街で。AFO開始直後に組もうとした野良パーティ――いわゆる決まったメンバーで組む固定のそれではなく、募集なんかで突発的に組むことになったパーティのこと――で、俺がどういったプレイスタイルというか役割をしようかと話したのに対し、呆れる奴はまだマシな方で。こちらをあからさまに侮蔑するような態度や言動をとる奴には心底腹が立ったものだ。


 ……まぁ、でも。あとで冷静に考えれば、あのときのメンバーというか新しいゲームの開始直後にログインしていたプレイヤーのほとんどがスタートダッシュ狙いの奴らで。誰も彼もが新規のレベル1だからこそ少しでも早くレベルを上げてやろうって連中ばかり。


 だから、まぁ、最序盤では攻撃手段の少ない、下手に攻撃を受ければすぐに回復が必要だろう俺みたいなプレイヤーが嫌われるんは当たり前。それこそ、そのときの誰かが言ったように、せめて〈魔法使い〉に就いて攻撃魔法を使えるようになるか、最初に手に入れられる2つの【スキル】のうちの1つを戦闘用のものにしていれば良かったんだろうけど……まぁ、それは後の祭り。気づけば、俺は外見上だけは申し訳なさそうに笑い、「【スキル】は無いけど、最初のフィールドでぐらいは杖振り回してるだけでも役に立つと思いますよ?」なんて提案。


 最初はポーション代だって馬鹿にならないし、ある程度レベルが上がったら抜けますから、と。卑屈に低姿勢で言って彼らと一緒にフィールドへと出て、




 ――俺を馬鹿にしやがった連中を、隙を見てぶっ殺してやった。




 ハハッ! そのときの連中の間抜け面と言ったら無かったね。


 まったく、なんのために俺がわざわざ「回復アイテムはギリギリまで温存しましょう」って言ったかわかってなかったろう? 回復魔法を使うのを渋ってたのも全部、全部、テメーらをぶっ殺すためだよ! ひはははは! ざまぁ!


 ……なーんて沸騰した頭で喚いてたせいなのか。気づいたら、俺は同じように頭上の三角錐シンボルを赤く染めてた男に矢を射られ、殺されかけていて。まぁムカつく連中はぶっ殺したし、さっさとキャラデリでもしようって思ってたから良いか、って。それで無駄に抵抗する気もなく草むらに寝転んだ俺に、


「なぁ、アンタさえ良かったらだけど――俺と組まないか?」


 どういうわけか、今まさに射殺そうとしてやがったPK野郎にそんな提案をされた。


「……ハッ! こちとら〈治療師〉で【回復魔法】と【調薬】しかない、ひ弱なエルフ様だぞ?」


 そう皮肉気に笑う俺に、しかしそいつは「そいつは良い!」と。またお荷物だ、役立たずだと馬鹿にされるのだろうと思っていた俺に心底嬉しそうな顔して言った。


「いや、俺は見ての通りのPK野郎だからな。街に入れないんだよ」


 そこで初めて、頭上の三角錐シンボルが赤くなったプレイヤーの不便さを聞き。だからこそ、回復手段の豊富そうな俺みたいな完全後衛のプレイヤーが欲しいと言ってきた。


「ここで死んでも現実時間で最低24時間はキャラデリできねーしよ。だから、それまで俺とPKやらないか?」


 ……正直、嬉しかった。


 それまでがずっと要らない子扱いだったせいもあって、ただ必要とされたことが思いのほか嬉しかった。……ぶっちゃけ、自分でも『使えないキャラ』だと思っていたからこそ、本当に。


 だけど、素直に思いを口に出すのは恥ずかしかったんで「……せいぜい背中に気をつけるんだな」なんて憎まれ口を叩き。まぁ、今の俺には戦闘用の【スキル】は無いんだけど、なんて冗談めかして言いながら、俺は男の――『クロード』の手をとった。


「ああ、そうだ。せっかく【調薬】持ってるんなら『草刈り』やんないか?」


 聞けば、クロードは元βテスターで。俺みたいな正規版からの新規勢ニュービーなんかと違ってAFOの仕様についていろいろと知っていた。


「フィールドの草のオブジェクトはな、斬撃系の武器で破壊できるんだよ。で、たまに『薬草』ってアイテムが手に入るんだけどな、その『薬草』を【調薬】をセットした状態で破壊すれば、『回復ポーション』になるんだ」


 だから、回復魔法を使わないときなんかは剣とか装備して『草刈り』しててくれ、と。モンスターとの戦闘は【察知】と【弓術】を持っている俺がやるから、なんて軽く言って笑う彼に、俺は不思議と安心した。


 そして、そのあとに勧誘やら脅した挙句にPK仲間になった奴らもほとんどが戦闘系の〈職〉に【スキル】だったこともあって、逆に回復手段を一手に引き受けることになった俺は誰からも必要とされることになり。『エルフ』だから前に出れない、回復手段しか持たないから役立たずのお荷物なんて言われてたのが嘘みたいにちやほやされた。


「いや、さすがクロードさんだわ! 最初に回復役ヒーラーを仲間にするとか、マジさすがッス!」


「ほんと、ほんと。俺らみたいな攻撃役アタッカーは数居るけど、器用で魔力も高いエルフの回復役ヒーラーで、しかもPKとか序盤じゃ稀少レアキャラ過ぎるのに引きツヨ過ぎですって」


「ぶっちゃけ、初期の『回復役ヒーラーはお荷物寄生プレイヤー』とまで言われてたとか、今じゃマジで信じられんわ」


 俺たちはPKで。普通のプレイヤーからは嫌われ者で。制限だって多くて面倒くさいと思うことも多かったけど……だからこそ、クロードさんを中心として俺たちは団結していた。


 もちろん、これからずっとPKとしてAFOを続けるつもりは無かったし。みんながみんな、キャラデリをする前提じゃああったんだけど……それでもまた次のキャラでも一緒にプレイしよう、って和気藹々と話し。約束し。今でこそ後ろ指を指されるような状況ではあるが、『次』は『ああしよう、こうしよう』なんてさ。ああ、俺らゲーム楽しんでんなぁ、って。


 俺は最初が最初だったし。今つるんでるのも他人に迷惑かけて笑ってる自己中野郎ばっかなんだけどさ。


 それでも、俺たちは俺たちなりにAFOを楽しんで。『次』のために、なんて言いながら他人に迷惑かけて。やってることこそ最低でも、俺たちは心のそこから楽し気に笑って。語り合って。


 ――だけど、




 『終焉おわり』ってやつは、ひどく唐突に。少女の形をして、現れた。




「――――ッ!?」


 最初に気づいたのは誰だったのか。少なくとも【察知】の【スキル】持ちの誰かだろうけど、それにしては気づくのが遅かった。


 夕闇と木々のつくる影の下。俺たちの中心に、その赤い髪の小さな小さな女の子は、まるでそこに忽然と湧き出すみたいに、現れた。


 対して、俺たちは全員、突然の事態に固まっていて。その子がログアウト中の仲間のアバターに、攻撃のためだろう、アーツの使用によって輝く斧を振り下ろすまで声をあげられなかった。




 ――そう。その少女は、いきなり現れて。いきなり、仲間のアバターを攻撃しやがった。




「なッ!?」


「て、テメェ、どっから沸きやがった!?」


 そんな仲間の驚愕の声に対し、俺もまた目を剥く。まさか、全員、気づかなかった? こんなに接近されてたのに!?


 果たして、その子は、そんな驚きと混乱に動きを止めた俺たちのまえで二度、三度。ただただ無言で手斧を振るい。


 ついには中身の居ない、まるで寝ているかのように木にもたれかかっいた男を電子の光へと変えてしまった。


「この! テメェ、生きて帰れると――」


 そうして、そこでようやく攻撃姿勢になる俺たちに対し、少女は振り向き。


 彼女の、幼くも整った顔をまえに俺も慌てて弓を取り出して、


 戸惑い、混乱しながらもそれを少女に向け――




 その子は、消えた。




 唐突に。音もなく。


 まるで先ほどまでの彼女が幻であったかのように、いなくなった。


「お、おいおいおいおい! あ、あのガキ、どこ行った!?」


「な、なんだ!? どういうことだよオイ!?」


「消えた!? い、いきなり現れたみたいだったのもだけど、どういう理屈だ!?」


 混乱する。恐怖する。


 先ほどの、小さな赤い髪の女の子が何者で。何をしたのか誰にもわからなかったからこそ怒鳴りあい。そして、視線をさまよわせて……怯えていた。


 ……そ、そんな、嘘だろ?


 俺以外の全員が【察知】持ちで、レベルだって低くないってのに、誰にも気づかれずに接近された? それで、目の前で……一人、殺された? 


 ……な、なんだよ、それ。意味わかんねーよ。なんで俺らが――本来はプレイヤーに怖がられる側にいるはずのPKが、こんなに怖がらなきゃいけねーんだよ。


「な、なんで……。どうして、こんな――」


 ……わかんねー。


 わかんねー。わかんねー。わかんねーッ!


「な、なんなんだよ、マジで……」


 混乱する。恐怖する。


 さ、さっきのは、何だったんだよ、と。意味がわからず、唐突に過ぎる仲間の喪失に、頭のなかが真っ白になって。


 それで、そんな俺の言葉に応えるように――赤毛の少女は、またもいきなり出現した。


 それも、よりにもよって――俺のすぐ近くに。


「――バッ!? こ、こいつ、なんで!?」


 驚愕に目を剥く俺に対し、


 少女はただ無言で、


 ただ、その手に握った手斧を、


 その輝く刃先を、俺に――




前話で「さぁ、作戦開始だ!」→今話で相手視点での混乱っぷりを見せ→次話で「こんな作戦だったのさ!」という構成に。なので、ぶっちゃけこの話は読み飛ばしてもらっても問題なかったり?w

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ブラリとパーティーの仕様の組み合わせかな?
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