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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第一章 制限時間内に目標を殲滅せよ!
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クエスト15 おじーちゃん、頼れる仲間と『姫プレイ』開始?

 冒険者ギルド直営の宿屋『黒い森猫亭』。その1階にある食堂のような場所で、テーブルを挟んで向かいあって対峙する冒険者パーティ『山林を駆け抜ける風』のリーダー、ジングソーをまっすぐに見返し、儂は口を開く。


「ふむ。理由を聞こう」


 ――プレイヤーを襲うプレイヤーを討伐したいので力を貸してほしい。


 そう、頼みこんだ儂に対する返答は「断る」の一言。


 それを2メートルを超える巨漢の、黒い毛並みの熊が服を着たような外見の男が低い声で告げるのだ。そのプレッシャーたるや、普通の子どもであれば泣いて逃げ出しそうなものだが、そこはそれ、『獣』としての色が濃すぎてわかり難いが、少なくとも彼が儂を拒んでいるようには見えなかったでな。


 おそらくは理由あっての返答。ゆえに、慌てる理由も彼を恐れる理由も無い。


「……俺たちはプレイヤーに手を出しちゃいけない、と冒険者ギルドのお偉いさんに言われているからだ」


 その答えもまた、納得のいくもの。


 儂の知る『山間の強き斧』に『山林を駆け抜ける風』の2組に限らず、おそらくアイギパンほか、プレイヤーが行き来可能な3つの街に居るNPCは、基本、プレイヤーへの手出しは厳禁と通知されているのだろう。……そうでなければゲームの運営上、問題であろうし。彼らは、あるいはプレイヤーを害さないよう言い渡されているからこそプレイヤーが転移可能な街に住めている――と、そう予想できるからこそ、わからない話ではない。


 ゆえに、なんであれ、まずはその前提を覆してから、じゃろうのぅ。


「元より、おまえさんらには、ただ道中の護衛と目標の発見とに協力してほしいだけで討伐自体に手を出さなくて良い」


 目標と対峙するは儂の仕事よ、と。ジングソーたちに頼みたいのがいつもの『斥候系の職』を必要とした助力だと告げる。


「あン? ミナセが討伐、って……お前、たしか俺らと別れたとき〈運び屋見習い〉のレベル4だか5とかじゃなかったか?」


 相手はそんなに弱いのか? と、脇に控えていた狼青年――ギーシャンが問いかけ、ジングソーに睨まれるのを後目に「今は〈戦士見習い〉のレベル4じゃな」と肩をすくめて返す。


「相手のレベルは未知数じゃが……まぁウチの参謀曰く、推定レベル5以上13未満の〈狩人〉。人数は最低四人。それがアイギパン南門を出てすぐの草原の奥――おそらくは森林エリアのどこかにまとまって潜んでいるだろう、という話じゃ」


 ちなみに今、ここに居るのは儂と彼ら『山林を駆け抜ける風』の三人だけ。美晴ちゃんや志保ちゃんは冒険者ギルドまでドロップアイテムなどの清算に向かっていて居ない。


「ゆえに、さきにも言うた通り、儂がおまえさんらに頼むのはその捜索。及び、連中の潜む場所までの案内と護衛。そして一番大事なのは――この依頼中、相手にはお前さんらの存在を知られぬようにしてほしい、という点じゃな」


 さて、返答や如何に? と、内心でのみ言葉を次ぎ、彼らの答えを待つ。


 すると、


「『参謀』、ミナセじゃないの?」


 予想外なことに、一番に口を開いたのは三人のなかでもっとも無口な黒豹の獣人、リュンシーだった。しかも内容が、依頼に関することでない辺りがなんともはや……。


「ウチの参謀は、儂など及びもつかん奇策縦横の策略家じゃよ」


 そう胸を張って告げる儂の脳裏に凄い勢いで顔を左右に振るエルフ少女の画が浮かんだが……はて?


「はー……。俺なんかじゃ何をどうやったらレベル4の〈戦士見習い〉一人で、その、レベル5から13、だったか? の〈狩人〉四人以上に勝てるようにすんのか全然わかんねーってのに、スゲーなミナセのとこの参謀は」


「たしかに。ミナセが認める策略家とやらには興味が尽きんな」


 果たして、どうやらリュンシーとの問答が契機となったようで。予想外と言えば予想外なことに、志保ちゃんという参謀が優秀であるがゆえに彼らは依頼を受諾してくれそうな流れに。


「ところで、その、ミナセが討伐しようって相手は――」


「おい、ギーシャン!」


 狼青年が何かを訊こうとし、黒い熊のリーダーが鋭い声でもって制するが……まぁ単なる興味本位だろうギーシャンが訊きたくなる気持ちも、プレイヤーにして依頼者たる儂にあまり深入りすべきではないとするジングソーの判断もわからんではない。


 ゆえに、苦笑し「なに、ちょっとした仕返しをしようってだけじゃ」と肩をすくめて殊更に大した事情ではないふうを装い、


「件の連中はの、儂の愛する身内を目の前で射殺してくれたでな」


 ギョッと目を剥く三人に、やはり言葉とは裏腹に雰囲気だけは軽く、


「その子は、儂がこの世界でこうして生きる理由じゃった。儂に、その子を守ってほしいと母親に頼まれてもいた。それなのに、儂はみすみすあの子を殺されてしまった」


 まぁ、同じプレイヤーの場合、殺されても即座に教会で復活するのじゃが、と。やはり苦笑を浮かべたまま、


「しかし――許せんじゃろ」


 ここにきてようやく笑みを消し、表情から声まで色を消す。


「聞けば、連中は単なる嫌がらせ程度のつもりで儂らを殺そうとしたと言う。単なる時間潰しのお遊び気分で儂らに敵対し、儂の身内を殺し、儂の仲間を泣かせたと言う」


 で、あれば。


「許せない。と、そう思い、仕返しをしたいと思っても仕方ないじゃろう?」


 そう最後には口もとだけで笑みを浮かべるように言えば、ギーシャンはおろかジングソーまでがわずかに視線を逸らし、ほんの少し儂から距離を置いて「わ、わかった。その依頼をうける」と言ってくれたので、そこからは再び内心の激情を隠し、平静を装って話をすすめることに。


 その結果、依頼料は一人1000Gで良いということに。


 これはさきほど儂がわずかに垣間見せた本心に対する配慮もあろうが、それより何より儂が絶賛した希代の軍師さまを後で紹介してほしいそうで。志保ちゃんと知り合えるのならばタダでもかまわないとまで言い出したのをなんとか1000Gにしたのは、彼らの主武装が現在、研ぎ直しに出されていて手元に無いため、その代わりとなる武器を買うのに必要な額が最低でもそれぐらいであり。モンスターが普通に跳梁跋扈しているだろう森で、探索から護衛までを武器も持たずというわけにはいかないので暫定的な予備武器を買っていく、と言う彼らに対し、まさかタダ働きのうえに余計な出費を強いるのは心苦しかったがため、どうにかその額だけでも出すことに。


 ……いやはや。本当に、志保ちゃんさまさまであるのぅ。


 当初、儂らの手持ちからして彼らのような高位の冒険者を最低でも一人、雇えれば御の字だろうと身構えていただけに、話を聞いただけの彼らにすら一目置かれ、こうして彼らからしたらほぼほぼ無料奉仕に近い額で全員を雇えるようになるとは……さすがは、志保ちゃんである――と、さっそく結果報告のために繋いだ『フレンドコール』で告げると、


『な、なんて紹介の仕方をしてくれてるんですかミナセさん……!?』


 なにやら悲鳴混じりの様子で志保ちゃん。……はて? なにか儂は間違えたかの?


『まさかの無自覚……!? で、ですから、あの……わ、私の紹介文が誇大広告甚だしいなぁ、と……』


 ふむ。


「志保ちゃんや。謙遜は美徳かも知れんが、それも過ぎればおまえさんを認める儂や美晴ちゃんの評価も下げるでな。ここは儂らのため、その神算鬼謀の冴えを『山林を駆け抜ける風』の三人にも見せつけてやるべきじゃと思うぞ?」


『えーと……じつはわざとですか? わざとですよね!? わざとだと言ってくださいお願いします』


 ……ふむ。よくわからんが、「無論、わざとだとも」と要望通りに返せば『……だめだ。早く何とかしないと』と何やら決意する気配が。


『ともかく、こちらも報告を。『小兎の革』22個、『小兎の角』13個、これに『兎狩り5羽で100G』7つぶんで合計940G手に入りました』


 いちおう、あと1つ『小兎の革』があったが、それは相談の結果、売っても売らなくても大した違いはないとして今回は売らずに残すことにした。


『ですから……申し訳ありません、ミナセさん。今回の依頼額が破格だというのはわかっているのですが……けっきょく、パーティ資産だけでは彼らのうちの一人をすら雇えるだけの額に届かず、ほとんどをミナセさんお一人に負担してもらうことに』


 すみません、と。小さな声で重ねて謝罪の言葉を告げる志保ちゃん。その、なんとも言えず落ち込んでいるような少女に、「いやいや、なにも謝ることはない」とことさら明るく返す儂。


「そも、彼らが提示した一人1000Gという額にしたところで志保ちゃんの威光あってのもの」


 本来なら、彼らほどの冒険者を雇うならもっと高くつくのが普通であり。依頼内容からしたら、今回の提示額の3倍以上は求められてもおかしくない。


 ゆえに、


「今回は儂が出せるから問題ないさ。それに……残り2060Gを稼ぐ手段を志保ちゃんは次回、提示してくれるのじゃろう?」


 加えて、上手くすれば今回のPK討伐で彼らの持つアイテム類が手に入り、あるいはそれだけで依頼額に届くかも知れない、と。互いに気休めだと知れる言葉をかけてから、


「――予定通り、まずは『山林を駆け抜ける風』には連中の捜索を頼んだでな。見つかり次第、合流して狩りに出ようと思うが、そちらの準備はどうかの?」


 場所は変わってアイギパン南の街門。ここで装備の補充を済ませて街を発った三人と合流する手はずになっている。


『こちらは既に二人とも、いったん「ログアウト」をして小休止を挟んでいます』


 なので、大丈夫です。いつでもミナセさんの『サポート』が可能です、と。その言葉に「うむ」と頷きを一つ。改めて、脳裏に志保ちゃんが立てた作戦の概要を思い浮かべ、


「――≪メニュー≫、オープン」


 おもむろに≪メニュー≫を開き。眼前に表示された半透明のウィンドウのうち、『パーティ』の項にフォーカスをあわせてコマンド。


 そうして切り替わったウィンドウのなかに『脱退』の文字を見つけ、今度はそれを選択。 果たして、視界隅に浮かんでいた美晴ちゃんと志保ちゃんの情報が消え。それとほぼ同時に[スィフォンさんからパーティに誘われました! 受諾しますか?]というインフォメーションが流れ、眼前に『YES ・ NO』の選択肢ウィンドウが浮かぶのを確認。


「うむ。たしかに『フレンドリスト』を介した遠隔地からの『パーティ申請』も問題無さそうじゃな」


 頷きを一つ。とりあえず『YES』とコマンドし、再び二人とパーティを組む儂に『ですね』と軽く同意するように返す少女の、なんと心強いことか。


『ちなみに、予定では作戦中はみはるんがパーティ申請を送ります』


 ――今回の作戦において重要となるのが、この『パーティ』からの『脱退』と再びの『加入』であり。


 これらを素早く、そして任意のタイミングで行えるかどうかが今回の作戦の明暗を分かつと言っても過言ではなく。ゆえにこその確認を、しかし突然に行った儂に対して瞬時に自身の役割にあわせて返せる少女は、やはり稀有なる才能の持ち主であろう。


「ふむ。さすがに戦闘中では≪メニュー≫を開いて『脱退』までの工程が少々厳しいやも知れんが……まぁなんとかなろう」


『……えっと。今さら訊くのもあれですが……作戦中、件のNPC冒険者の方たちは本当に連中の【察知】に引っかからないでしょうか?』


 ふと、そんな、彼女の言う通りの今さらにすぎる問いかけ。そのわずかに震える声に少女の隠しきれない緊張と不安を感じ、


「ああ、大丈夫じゃと思うぞ?」


 軽く、明るく。どこまでも簡単に、返す。


「さきにも言うたかも知れんが……なにせ、彼らと組んで通った森林エリアではレベル40以上のモンスターが普通じゃったしのぅ」


 そのなかにあって、三人がどれだけ『斥候』として優れていたかを語り。対する今回のPK連中のレベルの低さをあげ、今回の作戦が如何に優れているかを若干の大袈裟な物言いも交えつつ語り。如何に、志保ちゃんの軍師としての才が優れているかを褒めちぎるが如く語れば、ついには『気のせいです! わ、私なんて普通です!』と元気いっぱいの謙遜が返ってくるまでにもなり。


 それこそ先ほどまでの、どことなく不安そうだった彼女の声にも張りが戻り。こんこんと、どれだけ自身が平々凡々かを志保ちゃんにしては珍しく熱くなった様子で語りだした辺りで『山林を駆け抜ける風』の三人の姿を見つけ、『あ、あとでまたしっかりとお互いの認識の齟齬について確認をしましょう!』という約束をもっていったん通話を終了した。


 そして、


「……そう言えば、こういう高レベルの仲間に守られ、レベル上げを手伝ってもらうのを『パワーレベリング』と呼ぶんじゃったか?」


 ふと、呟く。


「いや、もっと言えば。こうして愛くるしい見た目のアバター一人を複数人で囲って『パワーレベリング』を施すさまを――」


 ふと、口もとに笑みをたたえて。


 ふと、これからの一勝負について高揚する思いのままに。


「ふむ。では、今回に限っては誤解の余地なく――『姫プレイ』とやらを始めさせてもらおうかのぅ」


 果たして、そう人知れずこぼして。儂はほのかに口もとを歪めながら静かに歩を進めるのだった。

※2018年12月3日 微修正

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[気になる点] おじいちゃん……プレイヤーが復活できる事伝えないと多分、すごい誤解が生まれてると思うの(遠い目
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