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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第一章 制限時間内に目標を殲滅せよ!
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クエスト13 おじーちゃん、問われて『山林を駆け抜ける風』を思い出す

 思い出すのは、彼らと初めて出会ったときのこと。


 冒険者ギルドの受付嬢――アーリカの突発的な指名依頼を受けることになり。曰く、C級冒険者パーティであるところの『山間の強き斧』の四人を彼女に紹介され。そして、もともとその物資運搬の依頼を一緒に受ける予定だったらしいもう一組の冒険者パーティ『山林を駆け抜ける風』を街門まえで紹介された。


「……難しいことはわからんが、つまり今回はそこの小さいのを護衛して行けばいいのか?」


 そう、代表として説明を受けて返すのは、巨漢の熊の獣人――ジングソー。


 黒い毛皮に覆われた外見は、見ようによっては服を着た話せる熊そのもので。後から聞いたところ『斥候系の職』に就いた獣人だけで組まれたE級冒険者パーティ『山林を駆け抜ける風』のリーダーで、彼らはちょうど冒険者ランク昇格のための試験として今回の依頼を受けたんだとか。


 ゆえに、当初。彼らのなかの一人――灰色毛並みの狼獣人、ギーシャンには無言で睨まれていたし。今回同行する冒険者のなかで唯一の女性――黒豹の獣人、リュンシーも儂を警戒するように距離をとっていた。


 ちなみに彼らの言う冒険者ランクについても道中で聞いたのだが、曰く、素体レベルと〈職〉の両方が10未満の冒険者が『見習い冒険者』、あるいは『E級冒険者』と称されるのだとか。


 これがどちらかのレベルが10を超えると『初級』。30を超えると『中級』とされ、それぞれ昇格試験を受けて合格した者を『D級』、『C級』とランク付けする、と。そして『山間の強き斧』の場合は、リーダーのサモツが『中級冒険者』なんだそうで。個人ではなくパーティでの評価もあわせて彼らは『C級冒険者のパーティ』なんだとか。……さすがに金属鎧を纏ったうえで童女を背に森を歩き回れるリーダーは格が違ったのぅ。


 対して、『山林を駆け抜ける風』の三人は、当時、リーダーのジングソーが『C級』。ギーシャンとリュンシーの二人が『D級』で、パーティとしてのランクは『E級』。そして物資運搬依頼の完遂をもってパーティのランクが『D級』となる、らしい。


 ちなみに、道中の林道で出現するモンスターのレベル帯は最低でも40以上で。ゆえに、これと言って丈夫な装備も着けず、『見習い服』だけ纏って〈運び屋〉に就いていた儂は、当然、一撃で死亡確定。どころか、大量の荷物の運搬で満足に身動きもとれない状態ではレベルが多少上回っていても危険というもの。


 加えて、儂らが行くのは見通しの悪い林道。不意打ちの危険性は否が応でも高まり、少しでも身軽であろうとする『斥候系の職』に就く彼ら『山林を駆け抜ける風』の緊張感は並大抵のものではなかった。


 ゆえに、


「――おい、チビ! お前、いったい、なんなんだよ!」


 それはアイギパンを出て2時間ほど経った、三度目の休憩時間のとき。ついに我慢の限界がきたとばかりの苛立ちのこもった声で儂へと声をかけたのは、狼の獣人ギーシャン。


「お前、冒険者なんだろ!? それで、なんで俺らに護衛されてんだよ!」


 しかも手ぶらで。そんな軽装で。


 そもそも物資運搬の依頼は俺らの昇格試験だった筈なのに、なんでお前みたいなのを護衛させられてんだよ、と。彼はリーダー格のジングソーの静止すら押し切って、半ば儂の胸倉を引っ掴んで怒鳴りこんできた。


 それに「……おい、ギーシャン。それは最初に――」と抗弁しようと口を開いた『山間の強き斧』のリーダー、サモツを儂は片手を上げて遮り。ギーシャンに胸倉を掴まれ、爪先立ちを強要させられながら――




 インベントリ内のすべての物資を彼の目の前に積み上げて見せた。




 ……その際、[ただいまの行動経験値により〈運び屋〉のレベルが上がりました][ただいまの行動経験値により【収納術】を得ました]というインフォメーションが流れたのは予想外じゃったが。さておき、彼の『なんでお前なんかを』という疑問に儂は答えることにした。


「見ての通り、儂らプレイヤーは大量の物資を労せずして運べるんじゃよ」


 しかも儂は、今、ようやく〈運び屋Lv.1〉となったばかり。ゆえに、少し見ておれ、と。呆然と荷物と儂とを交互に見ていたギーシャンに断り、やんわりとその手から離れて今しがた出したばかりの荷物をインベントリ内にしまっていく。


 そのうえ、さっそく〈職〉のレベルが上がったことで手に入ったSPを消費して『筋力』の補正を上げ。【収納術】をセットして、「ああ、その荷物も渡してくれるか」と言って今まで他の者が背負っていた荷物もしまってみせてから、「ふむ。では、ギーシャン殿。あらためて、儂を掴みあげてくれるか」と。彼の中空をさまよっていた手を持って儂の首もとに持っていく。


「え、な……!? お、おま、お前――」


「『ミナセ』じゃ。ギーシャン殿」


 彼の瞳をまっすぐに見つめて、告げる。


「それで、ギーシャン殿。儂を持ち上げて、どうじゃ? 儂が持つ物資すべてより軽くはないかの?」


 ――この世界には【スキル】という不思議な能力が存在する。


 ゆえに、彼らNPCは儂らプレイヤーだけが持つインベントリもその類だと思うのか、儂からしたら不可思議なこと甚だしいこれもあまり不自然なこととは思われないようで。予定通りではあるが、彼ら『山林を駆け抜ける風』の三人にも儂を護衛して行くことの利点はわかってもらえたらしい。


 要は、新手の『アイテムボックス』――ある種の容量を無視してアイテムを収納できる背負い袋のようなアイテム――のようなものだとサモツが冗談めかして告げれば、なるほど、とリーダー格のジングソーなどはそこでようやく納得したらしい。……じつは彼、儂の扱いに関しては大した考えも無く、単にサモツら『山間の強き斧』のことを信頼していたから何の文句も無く儂の護衛を受けただけらしい。


 加えて、「……『ギーシャン』だけで良い。殿なんて付けんな、気持ち悪ぃ」と。罰の悪そうな顔で儂から手を離すや、背を向ける彼には……なぜか、懐かれた。


「なぁ、なぁ、ミナセ。お前、もしかして『貴族』ってやつなのか?」


 それは次の休憩時間のときに。木に寄りかかって休む儂にギーシャンは寄って来て問いかけた。


「……いや、違うが。どうしてそう思ったのじゃな?」


 聞けば、彼は以前にも護衛の依頼を受けたことがあり。そのときは文句ばかりを口にされ、さらには『獣人』を侮辱する発言までしたらしい貴族さまにギーシャンは今回のように我慢が限界を越え、掴みかかったという。


 果たして、そのときはリーダー格のジングソーに止められ、彼からしたら驚くべきことに『いけ好かない貴族さま』に頭を下げさせられたと言う。


 ゆえに、今回もわがままな貴族さまが無理やり護衛するよう彼らの依頼にねじ込んできたと思ったそうで。どう見ても大して強そうでもない儂は足手まといの口だけ貴族とでも思ったそうじゃが……。


「なぁ、ミナセ。なんで貴族さまってのは、あんなに偉そうなんだ?」


 なんで、あのとき兄貴はクソ貴族に手ー出さなかったんだ? と、首を傾げて問う彼に、「おそらくは、じゃが」と断ってから、


「ギーシャン。おまえさんは、ジングソー殿の強さはよく知っておるな?」


 問いかけ、それに「おう!」と即答されるのを見て頷いて返し。


「おまえさんは、もしかして自身ではわからないことも信頼するジングソー殿が『そうしろ』と言えば『そうする』のかの?」


 おう、よくわかるな。そうわずかに目を丸くするギーシャンに苦笑し、「たとえばじゃが」と再び断って。


「仮におまえさんに後輩ができたとして。ギーシャンを兄貴と慕い、ギーシャンのことが一番強いと思っとる後輩がジングソー殿に無礼な振る舞いをしたら……おまえさんもその後輩を止めるんじゃないかの?」


「あン? そりゃあ、止めるだろうよ。なにせ俺なんかよりジングソーの兄貴の方が強いんだから――」


 と、そこまで言って。なにかに気付いたのか「あれ?」と再び首を傾げるギーシャン。そんな彼に「要は、そういうことじゃよ」と軽く肩をすくめて言い、


「おまえさんは貴族の強さを知らず、ジングソー殿は知っていた。だから、おまえさんをジングソー殿は止めた。……これも予想じゃが、件の貴族の『強さ』というのは、きっと腕っぷしのことではあるまい」


 AFOにおける貴族の実態については知らない。が、仮にも『貴族』などという名称をあてられた存在だ。おそらく、儂の知るそれと大した違いはあるまい。


「ときに、おまえさんら『山林を駆け抜ける風』を護衛として雇うのに報酬は幾らいる?」


 そして「彼ら貴族の強さは、そんなおまえさんらのような冒険者をたくさん雇えるところにあるんじゃないか?」と。まずは財力についてを語り、「あるいは、彼らはもともと相応の戦力を有していたか」と、儂の知る貴族ならば抱えているのが当たり前だろう私兵の存在を匂わせ、「もしくは、その貴族さまには厄介な知り合いが居り。彼になにかあれば、先に言った金にものを言わせて大量の戦力を雇い報復させるような知人が居たりするかも知れん」と語る儂に、それまで頭を必死にひねっていた狼青年はハッと顔を上げて、


「つまり、ジングソーの兄貴は正しかったってことなんだな!」


 と、それはもう嬉しそうな顔で言い、本当にわかっているのか疑問に感じる儂を他所に満足げな様子で去って行った。


 そして、それと入れ替わりに儂の傍に来たのは黒い毛皮の巨漢。件の狼青年からの信頼厚い彼らのリーダー格たるジングソー殿は、


「すまない、ミナセ。そして、ありがとう」


 そっと、他人には聞こえないだろう声量で儂に謝辞を述べ、「じつは俺も、先輩の受け売りで『貴族には逆らうな』と言われたのを守ってただけなんだ」と語った。


「正直、俺も連中がなぜ偉そうなのか不思議だった。が、ミナセの説明で先輩が『貴族は怒らせたらヤバい』って言ってた意味がようやくわかった」


 そうか、あいつらは金持ちだったな。それで、その金があればたくさんの戦力が揃えられる。だから貴族はヤバいのか。言われてみれば納得だ、と。なにやら絶賛してくれるジングソー殿の言葉に、儂はむしろ心配になった。


「……失礼を承知で聞くが、ジングソー殿。もしかしておまえさん、この件以外にも理由もわからず『先輩が言っていたから』といった理由で従っとることが多くありはしないかのぅ?」


「ミナセ、俺のことも『殿』は要らん。呼び捨てで良い。そして……さすがだミナセ。お前の言う通り、先輩の受け売りは大半、理由がわからないがとりあえず従うようにしてる」


 さて、そんなセリフを聞いて儂が頭を抱えたのは仕方ないことじゃと思う。


「よし、ジングソー。せっかくじゃ、その先輩の受け売りとやらを儂に教えてくれんかの?」


 ギーシャン曰く、わからないことは兄貴の判断に従う。そしてジングソー曰く、理由はわからなくとも先輩の受け売りなら従う、と。そんな彼らの明日を心配に思うのは仕方ないと言うもの。


「儂も今日から冒険者になったでな。役立つ情報を教えてもらえれば助かるし。あるいは、おまえさんがわからないことでも貴族の件のように何か助言できるやも知れんしの」


「おお! それは良いな! ミナセは頭が良いし、説明が上手いから助かるぞ!」


 果たして、それから。暇さえあれば彼ら二人が質問しに来るようになり。なかには当然、冒険者初日の儂にはわからない事柄もありはしたが、そこは『山間の強き斧』の四人にも訊ねて話し合い。夜には不寝番に立った儂と代わる代わる話したりもした。


 その甲斐あってか〈斥候〉関係の仕様について教わることができ、【暗視】という『暗い場所でも見えるようになるスキル』も得られ。いつの間にか黒豹の女獣人――リュンシーまで儂を尊敬の眼差しで見てくるようになっていたのには苦笑せざるを得なかった。


「やっぱ、ミナセはスゲーな! たぶん、頭が良いっていうのはこういうやつのことを言うんだぜ!」


「まったくだ。俺たちを馬鹿だなんだと言うくせに馬鹿でもわかりやすく説明できない連中とは違ってミナセの言うことはわかりやすくて助かる」


「ミナセ、すごい……」


 ――あとから思えば。このときの『三人の獣人を侍らせて歩く儂』を客観的に見れば、あるいは『儂が姫プレイをしている』という誤解も、あながち間違っていなかったというか。


 本当に不思議なことに、この依頼中、儂は彼らに異様に懐かれていたのじゃった。


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