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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第一章 制限時間内に目標を殲滅せよ!
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クエスト9 おじーちゃん、戦利品を『アイテムトレード』は面倒?

 スモールホーン・ラビットの体当たりを受けること数回で、『盾』があっけなく壊れた。


 どうやら受け流しが甘かったようじゃな、と。儂が表情にこそ出さないようにしながらも忸怩たる思いを噛みしめていると、「あー……やっぱり『盾』はハズレ装備かー」と眉をハの字にして声をかけてくる美晴ちゃん。


 果たして志保ちゃんの説明に曰く、『練習用武器:盾』の耐久値は驚くほど低く設定されており、『どれだけのダメージを防いだか』で経験値を蓄積させていく【盾術】との相性も最低値。初期装備でありながら対応した【スキル】を取得するまでに何度も壊すことになることから『ネタ装備』とまで≪掲示板≫では言われているとか。


 ゆえに、そのことを知らずに勧めてしまった手前、美晴ちゃんは儂の『盾』が壊れたのを見て申し訳ない気持ちになったようじゃが――……ちょっと待ってほしい。


「いや、【盾術】なら取れておるぞ」


 ≪ステータス≫とコマンドし。現れたウィンドウを可視化させて二人へと示す。




『 ミナセ / 戦士見習いLv.2


 種族:ドワーフLv.1

 職種:戦士Lv.1

 性別:女



 基礎ステータス補正


 筋力:0

 器用:0

 敏捷:0

 魔力:0

 丈夫:1



 装備:見習い服、見習い冒険者ポーチ、見習いローブ、量産武器(手斧)



 スキル設定(3/3)

【強化:筋力Lv.1】【盾術Lv.1】【斧術Lv.1】



 控えスキル

【交渉術Lv.4】【収納術Lv.4】【暗視Lv.1】    』




 と、儂の≪ステータス≫を見て目を丸くする二人に、「これはあくまで儂の予想じゃが」と断りを入れつつ言葉を次ぐ。


「≪掲示板≫に書かれとった『どれだけのダメージを防いだか』というのは、おそらく攻撃をそのまま受けた場合の話で、『練習用武器:盾』の耐久値が低いのは『ダメージの受け流し』の練習のためであり、【盾術】の経験値は『受け流したダメージ』も有効なのだと儂は思うんじゃよ」


 ゆえに、美晴ちゃんが申し訳なく思う必要はなく。つまりは、儂の受け流しが甘かった、というだけの話である。


「……いやいやいや。『ダメージの受け流し』とか……おじーちゃんは何言ってるの? え? おかしいのってわたしなの、志保ちゃん!?」


「なるほど、じつはAFOは『格ゲー』だった、ってことですね、わかりません」


 ……ふむ。どうやら二人に儂の理論は通じんようじゃの。


「と、ともかく! おじーちゃんの【盾術】と【斧術】がレベル1になったんなら、それぞれの『アーツ』が使えるようになったんじゃない?」


 わたしも【槍術】の『アーツ』、レベル1で1つ使えるようになったし。と、そうして美晴ちゃんに話題を変えられてしまえば、まぁそこまでこだわりもなかったゆえ、素直にそちらの話題に乗ることに。


「ふむ。たしかにそんなインフォメーションも流れておったが……」


 とりあえず、≪メニュー≫を開き、『アーツ』の項を見つけて確認してみると――



〇 ヘヴィ・ガード

【盾術】レベル1で覚えたアーツ。TPを消費することで自身の敏捷値を下げ、防御力を一定時間上昇させる効果を持つ。


〇 アックススラッシュ

【斧術】レベル1で覚えたアーツ。TPを消費することで次の一撃の威力を上げることができるが、攻撃終了時に技後硬直として一定時間アバターの動作停止。



「…………」


 果たして、儂は無言で開いたウィンドウを可視化して美晴ちゃんに見せた。


「え? ……って、あー。なるほど、これは兎狩りには向かないアーツだね~」


 ちなみに美晴ちゃんが取得した【槍術】レベル1で覚えたアーツは、以下の通り。



〇 紫電槍

【槍術】レベル1で覚えたアーツ。TPを消費することで一定時間、攻撃力が上がる。



「技後硬直が無い、じゃと……!?」


「……まぁ、槍はもともとリーチと手数で圧倒するタイプの武器ですから」


 思わず愕然とした面持ちでこぼせば、苦笑するような雰囲気をまとって志保ちゃん。


 曰く、説明に『一定時間』と付くタイプは効果が比較的低く。逆に『次の一撃』だけの効果や『技後硬直』が発生するタイプのものは比較的に効果が高いらしい。


 加えて、こうしたアーツは、【スキル】のレベルがそれぞれ1、3、7、15になったときなどに新しいものを覚えていったそうで。未確認ながら、おそらくはレベル15以降も『前回、アーツを覚えたレベル』×2+1レベルで順々に強力なものを覚えていくのだろう、というのが≪掲示板≫での通説なんだそうだ。


「……ふむ。ならばレベル3のときのアーツに期待しておくかのぅ」


 やれやれ、と肩をすくめるようにして呟いて気を取り直す儂。……そして、それを聞いて、そっと視線を逸らした志保ちゃんの態度に一末の不安を覚えんでもないが、それはさておき。


「ともあれ、まだ続けるかの?」


「う~ん……できれば、いったん街に戻りたい、かな?」


 わたしの『槍』もそろそろ限界だと思うしー、と。そう言って自身の身長と大差ない長さの槍の穂先を振り振り告げる美晴ちゃんに「うむ」と頷きを返し、チラリと志保ちゃんにも視線を向けて確認すれば、こちらも同意を示すように顔を小さく上下させたので、一度、アイギパンに戻ることに。


 ……しかし、美晴ちゃんの姿をなるべく知覚範囲に収めるようにしてモンスターと対峙し続けていたが、やはりこの、子どもの背丈からしたら余計に動きを阻害する草のオブジェクトは邪魔にすぎるな。


 美晴ちゃんの獲物は長物で、本来であれば振り回したりなどの攻撃も有効じゃったはずが、『視ていた』感じ、ずっと突き刺すような動作しかしていなかったし、方向転換の際などはわずかに動作が鈍っていたようじゃった。


 加えて、最大の長所だろう敏捷値の高さも活かしきれていないようじゃったし、あるいは次から場所を移すべきなのではないか、と。街門の辺りまできたところで二人に提案してみるが、


「えーと……。ミナセさんのとんでも知覚に関しての突っ込みは無しとして。私としては、できればもう少し、『最初の草むら』での狩りがしたいです」


 対する、表情の変化に乏しいエルフ少女はチラリと傍らの犬耳少女を見て。


「みはるん、【察知】はとれた?」


「とれたー! でも、まだ【直感】はとれてないんだー」


 と、その会話でおおよそ志保ちゃんの狙いを察した。


 なるほど。あのモンスターを見つけ難い場所での狩りは【察知】の取得とレベル上げ、そして【直感】の取得も狙ったうえでの選択じゃったか。


「……『最初の草むら』は、さきにも言いましたがアイギパンから行ける4つのフィールドで一番レベル帯の低い場所ですが、他の2つの街まで含めた場合、じつは一番最初の狩り場としてはあまりお勧めできない場所なんです」


 今回、モンスターの討伐にかけた時間は約1時間。それで最初の6羽に加えて9羽の計15羽を狩れたわけじゃが、それにしたって不意打ちの危険は何度もあった。


 それに先述の通り、身動きがとり難いこと、武装によっては振り回し難いことなどもあり、≪掲示板≫では不人気フィールドの1つとされているんだとか。加えて、少し奥の方まで行き、森にまで入れば採取物やレベル帯の上昇によるドロップアイテムの質向上などもあって未だ稼働初日でプレイヤーのレベル帯が総じて低い割りに驚くほど不人気という。


 しかし、それゆえに、騒がしい余人にかかずらわる必要もなく慣らし運転をできるとあって志保ちゃんはこのフィールドを敢えて選んだらしく。儂なども実際、AFO開始早々に男性プレイヤーに二度も声をかけられていたこともあり、彼女たちのような見目麗しい少女二人が多少の不便よりそうしたナンパ男との遭遇を嫌う選択をすることに納得した。


 ……加えて、儂の場合、なんだかよくわからん誹謗中傷の書き込みまでされておったらしいしの。あるいは、こうした『関わり合いを減らす』用心こそがVRゲームでは必須なのかも知れんのぅ。


「で、で? 今回の戦利品ドロップはどんな感じ?」


 『チュートリアル2:依頼をこなそう!』のクエスト消化のため冒険者ギルドへと向かう道すがら『アイテムトレード』の機能でもってドロップアイテムを志保ちゃんに集めつつ、美晴ちゃん。


 それに対して、自身のインベントリ内のリストを可視化して「『小兎の革』が12個に『小兎の角』が3個だから、まぁまぁ?」とわずかに首を傾げて返す志保ちゃん。


「えっと……たしか、冒険者ギルドの『常時依頼:スモールホーン・ラビット5羽討伐』の達成報酬100Gで。それぞれのアイテムを売値が『革』1つ5G、『角』1つ10Gだから……」


 なにやら唸りながら指折り数え、ブツブツ言いだす孫を後目に「合計390Gの1人130Gの稼ぎか」と内心でだけ即座に今回の収入額をはじき出す儂。とりあえず美晴ちゃんの計算が終わったら答え合わせとして教えるつもりじゃが……こうしたちょっとした計算に頭を悩ませるさまはじつに小学生らしく、見ていてすこしほっこりするのぅ。


「提案ですが、次回からのパーティでのドロップ設定を一括で私にしても良いでしょうか?」


 果たして、そんな儂らを他所に志保ちゃん。


 曰く、パーティを組んでモンスターを討伐した際、アイテム等がドロップするのは『最後にモンスターを攻撃したプレイヤー』になっているそうで。≪メニュー≫にある『設定』のところでその辺は変更できるという。


「うん、そだね! それが良いと思うよ!」


 そう笑顔で告げ、ついには計算することを放棄したらしい孫の将来に一抹の不安を覚えんでもないが――それはさておき、彼女の提案には儂も大いに賛成ではあったので頷いて返す。


 それと言うのも、AFOの仕様上、武器などはただ手に持つだけで装備扱いとなるし、回復アイテムなどは蓋を外して中身を飲むなり、かけるなりするだけで効果を発揮したりもするのだが、こと、それらの交換や譲渡などに関しては手渡しで、とはいかず。必ず≪メニュー≫にある『アイテムトレード』などの機能を介して行わなければならなかったからで。


 これは強奪行為や投擲などで手元から離れても一定の範囲ないし時間を逸脱した際、本来の所有者のインベントリ内に勝手に戻ってくる機能でもあるので大変ありがたくもあるが……こうしてドロップアイテムを集めるのに相手の頭上の三角錐シンボルをクリックしたうえで『アイテムトレード』をいちいち呼び出す、というのはたしかに面倒である。


 加えて、プレイヤーはHP全損で死亡後、最後に冒険者登録した街の『教会』という施設で復活できるそうじゃが、死亡時にはペナルティーとしてインベントリ内のアイテムすべてをその場に落としてしまうという。


 ゆえに、前衛でもっともモンスターと相対している美晴ちゃんや後衛の盾役の儂などより守られる側の志保ちゃんに集約させるのがもっとも安全じゃろうし、こうして換金しようとする際の手間も省ける、と。こうした仕様に関した説明を理路整然と語ってみせる辺り、彼女は、儂はもとより美晴ちゃんよりもこのAFOをよっぽど熟知しているようで。言葉の端々に感じる安定感というか、一緒にプレイすることに安心感を抱かせるさまは、本来なら年長者たる儂こそが体現すべきなのじゃろうが……うぅむ。


「それと、ですね。できれば次からの狩りは――」


 果たして、儂の内心での懊悩など気づけるはずもなく、次に志保ちゃんのした提案は予想外に危険を孕んだもので。儂としては安全第一で行きたいところであったが、「それ面白そう!」と最も危ない目にあうはずの美晴ちゃんが同意したこともあって渋々ながらも首肯することに。


「で、あれば。ギルドでの換金作業のあとは買い物かの?」


「そだね! わたしとしてはもう少し短い槍が欲しいとこだけど、おじーちゃん、NPCの武器屋ってわかる?」


 孫の問いに心なし胸をはって頷く儂。じつのところ『チュートリアル3:買い物をしよう!』をこなすため、物資運搬の依頼を終えるやすぐに『山間の強き斧』の四人に冒険者がよく使いそうな店の紹介はしてもらっていたのだ。


 ゆえに、武器屋、道具屋はもとより服飾関係の店や商業ギルドのある場所も知っているし、幾つかの店の主人には面通しも済ませていた。


「とりあえず、設定する【スキル】は【強化:筋力】、【交渉術】、【収納術】にでもしておくとして。儂も盾と鉈をそれぞれもう1つ買っておこうかの?」


 耐久値が0になってインベントリ行きした『練習用武器:盾』が再び使えるようになるまでまだまだ時間がかかるじゃろうし。次回の狩りでは両手に鉈を持って兎を迎撃しようか、と。そう思案しながら冒険者ギルドの扉を開ける儂に、


「あ、そのまえに。おじーちゃん、ちょっと『広場』に寄って良い?」


 美晴ちゃんは、問う。


「キリも良いみたいだし、わたしと志保ちゃんは1回『ログアウト』したいんだけど」


 待っててもらって大丈夫、おじーちゃん? と首を傾げる孫の言葉に頷いて返しながら、今さらに思い出す。


 ……そうじゃの。『普通』は折を見てログアウトするものじゃったの、と。AFOにログインしてからこっち、未だに一度もログアウトしていない儂は思わず瞳を細めてしまうのじゃった。


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[気になる点] おじいちゃん……日付が変わってから寝てないどころかログアウトすらしてないの!?食事は!?トイレは!!?
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