チュートリアル 『決闘』まえの決着
主人公くん視点の、本編で言えば『クエスト85』直後で、『決闘』直前くらい?
――思えば、あの時点で彼女のことを除籍させておくべきだったんだ。
それは、今日の現実世界の16時から開始される『イベントボス討伐作戦』のまえに行った、クラン『薔薇園の守護騎士』の幹部――と言っても、現実でのそれと違って『役職』に任命するのもレベルや人格優先で。ただ代表である僕や、僕の組む固定パーティからの指示をある程度聞いてクランの運営に力を貸してくれるメンバーというだけで、『幹部』だからと言って他の『幹部でないメンバー』に対して別段『偉い』わけではない――数人と会議を行った際のことだった。
「代表は、あの子供に――『ミナセ』というプレイヤーに騙されているんですッ!」
果たして、そう訴えたのは三十代半ばを過ぎただろう中年女性の外見を纏うプレイヤーで。キャラクター名が『アシェリー・グランフィールド』という、現実世界でなら『ちょっとキツイ印象を他者に与える、仕事のできるキャリアウーマン』のような印象の、これまでは持ち前の責任感やリーダーシップなどから『幹部』として僕らの意向をほかのクランメンバーに伝え、導くことに従事してくれていたんだけど……先日、どうにもミナセちゃんと衝突しちゃったらしくて。この時点ではまだ『僕らの頭痛の種でしかなかった』プレイヤーだ。
「ええと……。とりあえず、僕が何をどう騙されているのかと、その根拠を――」
教えてくれませんか、と。見るからに年上だろう彼女を敬うように、言葉のうえでだけなら敬語でもって接し、微笑をたたえて話を振ってみるが……「彼女は『チーター』です」と。まさか言葉の途中で遮られるように言われるとは思っていなかった。
「知っていますか、ダイチ代表。あの『ミナセ』というプレイヤーは、例の作戦の日。同じ『攻略組』である私たちの誰よりレベルが高く、あまつさえ『大規模集団戦闘』用のボスをたった一人で抑えたんです」
うん、知ってる。本人から報告を受けたし、僕らは彼女の≪ステータス≫を見せてもらっては、何度も驚かせられてるし……とは言葉に出さず、苦笑に留めて彼女の次に言葉を待つ僕。
「これだけでも異常であるのに、彼女はあろうことか私たちクラン『薔薇園の守護騎士』が、先日、ようやく発見した【看破】という『相手の種族やレベルに残存HPなどが視れるスキル』――それを集中的に上げていた『観測者』役のプレイヤーが見破れなかった『第三形態』のレベルを報せたと言うんです!」
……いや~、そりゃそうだよ。だって、発見者は彼女だもん。僕たち、その【看破】を取得する瞬間に立ち会ってるし。
それ以前に、ミナセちゃんが【看破】の第一発見者であることを隠したがっていたから、僕たちが発見したことにしてる、ってだけで……。だから、あの時点でどのプレイヤーより総合レベルが高かったのだろう彼女が『イベントボス』の『第三形態』がレベル50だと見破れてもおかしくないんだけどなぁ……。
「当時、現場で戦闘を行っていた団員は、たしかにクランでは二軍――『最前線』の代表たちよりレベルや装備で劣るものばかりでしたが、それでも普通のプレイヤーよりも上であったはず。それが、鎧袖一触のごとく『第三形態』に蹴散らされていたというのに、あの『ミナセ』というプレイヤーは誰もが反応できなかった攻撃に反応し。壁役でさえ受け止めきれなかった物理攻撃を防ぎ。魔法職が耐えられなかった『闇魔法』の掃射を受けても沈まず。あまつさえ、『観測者』の報告では物理攻撃力までどのプレイヤーより上だったという話です」
つまりは、その場の誰より高い『敏捷』に『器用』、『丈夫』か『魔力』があったわけで。そのことがどれほど異常かを語る彼女に対して、僕らは――ミナセちゃんのことを良く知る面子は苦笑せざるを得なかった。
……そりゃあ、ね。この時点で本人から『戦闘中でも「転職」や【スキル】に武装まで慣れれば変更可能』って教えてもらっていて、実際に一瞬で変更するさまを見せてもらっていなかったら、「どんだけ高いステしてんの!?」って思うか、不正を疑うかも?
「さらには、現場の指揮官によれば未知の『呪歌』を歌い。あまつさえ、それを『動作補助システム』抜きで歌いながら、大きな鎌を振り回して4時間以上戦闘し続けていた、など『普通に考えて異常』。明らかに『チート』を使っているとしか思えません!」
うん。それね。僕も凄いって思うけど……ミナセちゃんにしてみれば『雑魚狩りするだけだったから出来た』ことで。事実、僕らと組んでの『北の迷宮』の『ダーク・プリースト』戦では上位種が居るときは歌ってなかったし。エーオースの『レベル15開始ダンジョン攻略戦』でも、『ゴブリン・ジェネラル』や遠距離攻撃手段を持つモンスターと対峙しているときには歌えなかったみたいだった。
それに、長時間戦がどうのって言われても、じつはコッソリ集団から抜け出して休んだり、『修復』したりの間をとっていた、ってローズからも聞いてるんだよね。
だから――というか、それ以前に。彼女のことをよく知り、いろいろと助けられてる不出来なクランの代表である僕でも、ここは言わねばならない場面だよね、と。そこでようやく口を挟むことに。
「なので、ダイチ代表やほかのメンバーも、これ以上彼女に関わるのをやめて下さい。……このままではクラン『薔薇園の守護騎士』は『不正行為を行ってるプレイヤーを、そうと知っていて利用する団体』と後ろ指をさされることに――」
「素朴な疑問なんだけどさ」
ヒートアップし、だんだんと声を大きく、オーバーリアクションでもって演説していたアシェリー・グランフィールドさんの言葉を遮り。表面上は微笑のままに首を傾げて「それで、どうしてそれを僕に言うまえに運営に報告しないの?」と、彼女が敢えて口にしなかった『証拠』について言及する。
「――っ! そ、それは……! う、運営にはもちろん報告したのですが、なぜか『不正行為』は認められないとしか――」
「でしょうね。だって、あの子は『チーター』じゃないんだから」
やれやれ、と肩をすくめて。これまでの彼女の熱弁に踊らされかかっていたほかの幹部一同にも目を向け、
「そもそもの話、僕やドークス、エリーゼやアイチィにカネガサキさんは、彼女の≪ステータス≫から装備の性能はもちろん、『職歴』に登録されてる〈職〉なんかも聞いてるし。実際に少なくない時間を一緒にレベル上げして過ごしてるから断言するけどね」
ミナセちゃん、『チート』なんか使わなくっても普通に強いよ? と、そう苦笑し、それこそ自分の不出来が情けないとでも言うように、「じつは僕、これまで何度も『ベーシック』ルールで『決闘』を挑んでるけど、未だに勝てたこと無いし」と告げて。
ねえ? と、ここまで黙ってことの成り行きを見守ってくれていたドークスほか『ヒーローズ』の四人に同意を求めれば、みんなして苦笑して頷き。
「あれな。【スキル】なし、ステや武装の差も無しの『ベーシック』ルールでの『決闘』だからこそ一目瞭然なんだけどよ。たぶん、素で最強レベルだと思うぜ?」
「未知の『呪歌』についてですが、彼女が歌っていたのは『聖歌:ほしうた』といって、中央の転移結晶まえで神官のNPCが歌っていたものだそうです。取得方法についてもNPCに訊ねれば普通に教えて下さるそうなので、未知でも不正でも無く、単なる無知ですね」
「そもそも、すこしまえに、私たち五人で直接的に『パワレベ』してるし。当時の、『エンジョイ勢』のレベルでしかなかったミナセを鍛えたこともあるんだけど?」
「それ以前に、ミナセちゃんがイベント直前まで『蒼碧の水精遺跡』に居たのを知らないんですか? あそこは最初の階からレベル35が複数、それも水場での戦闘に秀でた魚人が出てくる場所で。直前にはレベル40以上を相手に駆け回ってる動画が≪掲示板≫に挙がってたみたいですけど?」
そうしてドークス、カネガサキさん、アイチィにエリーゼと言葉を続ければ、「そう言われてみれば、そうかも?」という空気になり。それまで興奮で赤くしていた顔を違う理由から朱色に染め、眉間に皺を刻んで「で、ですが……!」と、拳と言葉を震わせて反論しかけていたアシェリー・グランフィールドさんに、「それと」と。僕は機先を制するようなタイミングで声をかけて、
「ミナセちゃん本人に教わって、実際にできるのを見たから言えるんだけど……あの子、一拍の間さえあれば『転職』が出来るんだって」
曰く、慣れれば単語を連ねて文章を作るように『コマンドすべき事柄を順番に、正確に、それでいて素早く行う』だけで。訓練すれば誰でもできると言う。
「実際、俺らはちみっ子が『転職』を何度もしてんのを見たし、それで戦闘中とかには物理攻撃に合わせて『器用』と『丈夫』の高い〈職〉を。魔法攻撃には『魔力』の高いのを、って切り替えてるだけで、素体のステ振りは『器用』、『敏捷』、『丈夫』を満遍なく上げてる感じだったぞ?」
よって、別段、彼女のステが特別高いわけではないことを語り。
「歌いながらの戦闘だって、そりゃあ難しいだろうけど……ほかにも普通にアクションの激しいダンスを踊りながら歌ってるようなミュージシャンとかいるしねぇ」
「そもそも連続4時間以上の戦闘、とのことですが……彼女のことをそんな長い間見続けていたプレイヤーが居たら居たで、そっちの方が問題だと思うんですが。本人だけでなく、一緒に居たローズも途中で何度か集団を抜け出して休憩してたらしいですけど、その点は何故報告しないんでしょうね?」
少女の継戦闘能力にしても、そこまで異常ではないと語り。
「それに、【看破】にしたって『【スキル】のレベル』+『総合レベル』が『対称のレベル』以上なら視える、って効果なんだから、本人がその時点で『最前線』クラスのレベルだったら、言うほど異常なスキルレベルじゃなかったと思うけど?」
おそらくは【看破】の仕様について大して理解していなかったのだろう彼女や、ほかの幹部一同に『大前提として、ミナセちゃんの総合レベルは誰より高かった』ことを語ったうえで、そう説明すれば「聞けば聞くほど、どこにチートの疑惑が?」といった空気になっていく。
「で、でしたら……! そんなに強いプレイヤーを、なぜダイチ代表や皆さんは好きにさせていらっしゃるのですか!? それこそクランのためになるよう指示して有効に――」
「アシェリー・グランフィールドさん」
なおも言いつのろうとする彼女の名前を呼び、遮る。
「貴女がミナセちゃんに対してどうしてそこまで執着しているのかは知りません。でも、言わせてもらえれば――あの子はすでに、誰よりクランのために貢献してくれていますよ?」
エーオースの『レベル15開始ダンジョン』の走破は彼女の発案であるし。そのために、『昇格』によって一時的に総合レベルの下がった僕らのレベル上げを手伝ってくれたのがミナセちゃんで。
『ダーク・プリースト』戦はもちろん、『ゴブリン・ジェネラル』の攻略にしたって、ほとんど彼女の活躍によって成されたことであり。AFOの公式ホームページ上にある『最速走破者』や『最多撃破数』ランキングにしたって、あの子が僕らのために頑張ってくれたからこその偉業である、と。そう語ったうえで、
「ミナセちゃんは『これ以上にない』ってくらい僕らクラン『薔薇園の守護騎士』に貢献してくれています。それなのに、『これ以上』を望むのは間違っていませんか? ……それ以前に、『まず自分たちが彼女に対して貢献してから』だとは思いませんか?」
貴女はミナセちゃんに対して、どんな見返りを払ったうえで助力を乞うつもりですか、と。そう静かに問えば、彼女は顔をしかめ。
「……彼女もいちおうはクラン『薔薇園の守護騎士』の団員なのですよね? それなら、私たち『幹部』やダイチ代表たちの指示に従う義務が――」
「ありませんよ」
そう呆れ混じりの表情で返すのはカネガサキさんで。まるで、『何言ってんだこいつ?』というような雰囲気を隠すことなく放ちながら、
「プレイヤーがプレイヤーに従う理由に『身分』も『義務』も無い。だって、そんなのがまかり通るゲームって――面白くないじゃないですか」
代表だって言ってましたが、僕らはみんな楽しむためにAFOをやっているんですから、と。肩をすくめて見せ、アシェリー・グランフィールドさんが『勘違い』しているらしいことを『やんわりと』否定するカネガサキさん。
対して、
「あたしや他のみんなが、代表が『団長だから』って理由や義務感で指示に従ってると思ってるのは貴女だけ。みんなが『幹部』の人の指示に従ってくれているのも、『そうした方がクランに貢献できる』って思ってくれたから。そんなみんなの『厚意』や『好意』の結果を、『身分が高い自分に従うのは当然』みたいな勘違いしないで。不愉快」
「そういう『上下関係』みたいな面倒なんは現実世界だけでやってくんねーか? 俺らはダンジョンの攻略を第一としてるクラン『薔薇園の守護騎士』なわけでよ。『会社』でも『軍隊』でもないんだから、そもそも身分差なんて求めてねーんだわ」
「貴女を『代理監督』から解任させたのは、たしかにミナセちゃんからの報告が直接的な理由ですけど……こうして『幹部だから』で指示を下そうとする性格だと知っていたら、そもそも『幹部』にすらしていなかったわ」
アイチィ、ドークス、エリーゼの三人の直接的な物言いといったら無い。……まぁ、僕にしても苦笑するだけで否定するつもりなんてサラサラ無かったんだけどさ。
加えて、「アシェリー・グランフィールドさん。貴女を今、このときをもって『幹部』から解任します」と、トドメをさす役回りになっちゃうわけなんだけど。
「なッ!? ど、どうしてですか……!? わ、私はこれまでクランの、この『薔薇園の守護騎士』のために尽力してきました! それを、まさか、あ、あんな子供の報告で『代理監督』を外したばかりか、『幹部』まで解任なんて……!」
納得できません!! と金切り声をあげる彼女にため息を吐いて見せ、「そんな貴女だからですよ」と疲れ切ったような表情と声で返す。
「アシェリー・グランフィールドさん。僕が貴女に『代理監督』や『幹部』をしてほしいと頼んだのは、貴女が責任感が強く、報告もわかりやすくて人に指示することに長けているようだったから、です。……でも、今回の件ではっきりと皆に貴女は示してしまった。『幹部』は他のクランメンバーよりも上で、その指示に従うのが当たり前だ、って貴女が『勘違いしている』って」
ミナセちゃんのことを抜きに、そんな貴女に『幹部』は任せられない、と。この場に居る『幹部』の役職を預かるプレイヤーにもわかりやすい形ではっきりと告げる。
「か、『勘違い』、ですって……? さ、さっきから、貴方たちは何を言っているの……?」
困惑を露わにする彼女に「わかりませんか?」と問い返し。一同の顔を順繰りに見回して、
「僕も貴女も、ここに居る『幹部』のみんなも。当然、クランのほかの団員も。僕らは同じ『ただのプレイヤー』で、みんなAFOを楽しむためにログインしている。だからそれを『つまらなくさせるもの』は要りません」
つまり、役職による『上下関係の強要』はあってはならず。誰に対しても『強権』や『命令権』を持たず。誰かに従う『義務』も存在しない。
僕らはみんな単なるプレイヤーの一人で。ここはゲームの中なのだから、貴女のように『代理監督』や『幹部』の解任に対してそこまで狼狽えるのがおかしい、と。そんな貴女だから『役職』を与えることはできない、と。
「うん。ここまで『みんな同じ』って言っておいてなんだけど……それでもクランという団体を運営する代表として告げさせてもらいます。僕は――僕らクラン『薔薇園の守護騎士』は、AFOを楽しむために存在し、そのために一丸となってダンジョンの攻略に勤しむ団体であり続けます」
だから、それに異論があるのでしたら、どうぞ退団してください。
だから、それに同意してくれるのなら……『幹部』のみんなも、そういうことでお願いします、と。そう頭を下げて告げれば、「おう!」と元気の良い返事が間近から上がり。
そんなドークスの威勢の良い声に続いて賛同の声が次々と上がったが、ついぞアシェリー・グランフィールドさんからの同意は得られず。
彼女はそれから、会議の途中で静かに席を立ち、帰ってくることは無く。結局は、退団するつもりだったのだろうけど――まさか、その足でエーオースにある拠点まで行って≪掲示板≫に適当な書き込みをしたり、彼女の『派閥?』の団員を煽っていろいろやらかしてくれるとは思っていなかった。
……うん。つまりは、今回の騒動のほとんどは彼女が原因で。あの件に対する『置き土産』のつもりなんだろうけど……それにしては随分と好き放題されちゃったね。
まったく。おかげさまで、拠点にある『専用掲示板』は一時的に機能不全になるし。今回のイベント最大の目標だったクラン『薔薇園の守護騎士』による『イベントボス討伐戦』も頓挫することになるしで、最悪だよ……。
加えて、今回の件で迷惑行為をしてくれた面子を除籍処分にしたら、したで、≪掲示板≫ではまた好き放題書き込んでくれちゃってさ……。聞けば、ほかのSNSにまで僕らの悪口めいたことを書き込んで拡散してくれているようで……今日だけで随分と評判を落とすことになったよ。……はぁ。
さらには、「悪いけど、代表。俺ら、クラン『月光聖騎士団』に移るわ」なんて言い出す団員まで居てさ。それが直前まで一緒に『イベントボス討伐戦』に参加していたプレイヤーだったりで……。今日までの、イベント最難関ダンジョンや『イベントボス』の最速攻略なんかを『まるで僕らの動きを知ったうえで先駆けするように』してくれたクラン『月光聖騎士団』のスパイでも居たんじゃないか、って疑心暗鬼になりそうだよ……。
って言うか、居たよね、スパイ。僕らの情報を『月光』の連中に流してくれた奴が、さ。
そうでなければタイミング的におかしいし。『月光』の連中と組んで『イベントボス』の討伐を成したクランのプレイヤーが言うには、「いきなり予定を早めて招集指令を出した」って。それこそ、僕らとミナセちゃんが合流する直前に『アーテー北の迷宮』の走破が強行されたらしいことも含めて、確実に僕らに敵対する気満々だよね、『月光聖騎士団』は。
……実際、いの一番に『可能性の間』に現れたらしいし。いきなり戦場で裏切ってくれた団員や件の元・幹部女史に従ったプレイヤーもあるいは、ってね。
それこそ、誰より多くのプレイヤーに襲撃されてなお、それを完全に凌ぎきったミナセちゃんをいち早く団員で囲って執拗に勧誘してたのも……どうせ今回のイベントでの『勝ち』を確実にするために、ってところかな?
あの子ってば、今や『アーテー北の迷宮の単独最速走破者』で、イベント中の『モンスターの最多撃破者』に『総合イベントポイント最多獲得者』候補で。僕らと同じ『エーオースのレベル15開始ダンジョンの最速攻略者』という『実績』があるわけで。じつは『それ以上の偉業も多くある』なんて知らずに、とにかく彼女の功績と名声をまるまる自身のクランに取り込もうとしたんだろうけど……残念。相手が悪かったね。
もっとも、そのための勧誘――というには、どうにも自慢話や僕らのことを貶すだけ貶しただけの言葉に思えるけど――で彼女たちを怒らせているんだから世話ないよね。……うん、本当に。どうしてよりにもよってスィフォンを怒らせちゃうかなぁ?
「なんて言うか……これほど清々しい自滅も珍しいわよね、『月光聖騎士団』。あの子たちに関わらなければ、少なくとも『薔薇園の守護騎士』には勝てたはずでしょうに」
「名軍師の献策でしょうが……ただでさえ『客観的には』自称・最強クランの選抜チームで、大人げなくも最年少女子グループと『ハンデあり』で決闘するわけで。勝ち負け以前に、これだけの見物客が居るなかで『あんな経緯と条件』で戦うとか、彼らの株価は暴落必至。とどめに≪掲示板≫にまで『正確な情報』を挙げられてしまわれている時点で、もはや大顰蹙、待ったなしでしょうね」
「つか、久しぶりにエルフのちみっ子がブチギレ状態になってんのを見たんだけどよぉ……。あれ、やっぱホラーだって。マジ、夢に見そうで怖ーんだけど……」
「ん。今回だけは筋肉に同意。タバサ――じゃない、スィフォンのキレ顔はマジ怖い。そして、『月光』はサヨナラ負け乙」
果たして、そんな僕らの予想を裏切ることなく、ついには始まった彼女たちの『決闘』は――あのスィフォンが作戦立案したから当然として、誰もが予想だにしない奇抜な戦術のお披露目によって、後々まで語り継がれる名勝負となるのだった。
じつはいろいろやらかして退場していた、いつかの『代理監督さま』。
そして、じつは『決闘』をすることになった段階で『負け』が確定していた『自称・最強くん』。