チュートリアル かくして、『検証班』は『検証班』を……辞める?
3000Pt達成感謝短編です。
『検証班の短編』の続きです。
「ンじゃあ、委員長。ちょっと相談のってくれ」
≪ステータス≫、オープンと呟いてウィンドウを呼び出し、可視化して見せる外見幼女、中身は私と同い年の成人女性――明日葉。
ちらり、私のことを見て「……笑うなよ」と顔をしかめて言われるが、さすがに他人のステ見て笑うほど失礼な――
「ぶはッ!?」
――吹いた。
「オイぃぃいいッ?!」
なんか目を剥いて白金色の長髪ロリが怒ってるけど……ィひひ! だ、だって、こいつのステは――
『 廃神あすたろっと / 初級狩人Lv.26
種族:人間Lv.12
職種:狩人Lv.14
副職:漁師
性別:女
基礎ステータス補正
筋力:0
器用:10
敏捷:16
魔力:0
丈夫:0
装備:初級服、初級冒険者ポーチ
スキル設定(5/5)
【強化:器用Lv.1】【強化:敏捷Lv.1】【強化:丈夫Lv.1】【槍術Lv.10】【強化:筋力Lv.1】
控えスキル
【聞き耳Lv.7】【察知Lv.9】【忍び足Lv.8】【潜伏Lv.4】【漁Lv.8】
【水泳Lv.9】【鑑定Lv.2】【槌術Lv.4】【鍛冶Lv.3】【罠Lv.2】
称号
【七色の輝きを宿す者】 』
――と、こんなので。
攻略組のステってことで楽しみにしてた私の期待を返せ、って言うか……。
「な、なんであんた……【強化】系4種類!?」
これは吹く。これはツッコまざるを得ない。
だって、≪掲示板≫では【強化】系の【スキル】を2つ以上持ってるのは地雷扱いされるってのに、まさかの4つ! こいつ、初期配布の『スキル変換チケ』とβの引継ぎ特典どころかスキル合計50以上の達成報酬まで注ぎ込んでやがる!?
どんだけだ、と呆れもするが……思い返すに、これまでの『ろっと』の言動からして「なるほど」と頷きもする。たしかに、【強化】系の【スキル】が多いぶん、レベル以上の強さが得られるわけだから、レベル的には『ちょっと厳しそう』な『蒼碧の水精遺跡』へ挑んでみようと思うのもわかるし。【スキル】の合計レベル系の達成報酬は鬼門だろう。
そして……なるほど、なんとなく彼女の焦りと言うか『不安』ってのも察せられる。
「え~と……。つまり、このまま攻略組として頑張っていけるかが不安なの?」
こうして『このステ』を――称号【七色の輝きを宿す者】を持ち、『副職』の設定も出来ている以上、『職歴』にはそれなりに他の〈職〉があるのだろうが、あえて〈狩人〉に就いて≪ステータス≫を開いて見せてくる以上、これが『廃神』の最強。
それで…………うん。今さっきレベル1から明日葉に『パワレベ』してもらってレベル上げした私が言うのもなんだけど……総合レベル26というのは、上位陣と呼ぶには2つ、3つレベルが低い。……加えて、【強化】系の【スキル】の多さが足を引っ張っているんだろうけど、全体的に【スキル】のレベルも低すぎる。
「ってか、言っちゃあなんだけど……あんた、これでよく『水精遺跡』に凸ったわね」
そりゃあ、死に戻るでしょうよ、と。呆れて言えば、『ぐぬぬぬ!』と唸って涙目になる白金長髪ロリ。
曰く、それまでずっと『蒼碧の洞窟』を狩り場にしていて。「水場での戦闘に適した【スキル】と装備を持ってたからイケると思った」と、唇を突き出してグチグチ言うのを「あるあるだわぁ」と頷きながら聞き流し、あらためて『まだ≪掲示板≫に挙げていなかった情報』を交えて彼女の間違いを指摘する。
「まず――【水泳】のレベルが低い」
水場での戦闘で、この【水泳】のレベルの高さは本当に重要で。動き易さはもちろん、水路での戦闘では【水泳】のレベルによって『ダメージに差が出る』から、『蒼碧の水精遺跡』みたいな最前線を狩り場にするのなら、『ろっと』の【スキル】は全体的にレベルが足りていない、と告げる。
そして、
「『水精遺跡』の魚人のレベルは1階の時点で『35』なんだけど……このステを見るに、あんたって回避型のアタッカーよね?」
『器用:10』の『敏捷:16』だし、戦闘法は動きの速さを活かしての高速戦闘が主体で。防御より回避を優先するタイプだろうことは察せられるが……これが迷宮都市のダンジョンや、フィールドに出現するモンスターを狩るのであれば問題ないんだけど、『水精遺跡』を狩り場にするなら厳しいと言わざるを得ない。
……っていうか、このSP振りだと、若干、本人のPSに依存する割合が多すぎかな?
こいつ、基本はソロだっていうし。一戦一戦での精神的な負担が多いと、それだけ『連戦上等』の攻略組としては厳しそうだけど……それはまぁ、今は置いといて。
とにかく、一番の問題なのは――
件の『水精遺跡』で受ける攻撃が、『器用』のステ補正では大して軽減できない、ということ。
「…………はぃ?」
私の言葉に目をパチクリとさせている明日葉に、ため息を一つ。
「……おそらく、あんたはこれまで『器用』の高さでもって『丈夫』の低さというか防御力の低さを補ってきたんだろけど、ね。『水精遺跡』の魚人の攻撃は『物理攻撃』+『属性攻撃』なのよ」
キョトン顔のロリに追加で説明。
これまで、この『属性ダメージ』という概念は知られていなかったと言うか、重要視されていなかったもので。【属性魔法】で使える魔法の威力が、通常のものよりダメージが多かったり、魚人などに対して『水属性』の魔法が効き難かったりといった現象の説明として『属性』による『追加ダメージ』というか『物理・魔法とは別計算のダメージ』として、その存在だけは知られていた。……と、思う。うん、不思議そうにしてる外見幼女を見ると自信が無くなるけど。
とにかく、この『属性ダメージ』が曲者で。件の『蒼碧の水精遺跡』に出現するモンスターからの攻撃は、ほかに類を見ないほど『水属性』のダメージを与えてくるようで。先述の通り、この『属性ダメージ』を減らすには、物理・魔法問わず『丈夫』に多くSPを振るか、防具の『特徴:属性(水)』という項目の数値が重要になり。そうでなければ付与魔法の『プロテクション・アクア』という『防御力を上げ、水属性ダメージを減らす』魔法を使ってもらう必要があるんだけど、と。……そこまでを語った段階で『目から鱗』とでも言いた気な顔して固まる彼女の様子を見るに、先の【水泳】の仕様については知っていたが、『属性ダメージ』という概念は本当に知らなかったのだろう。
まぁ、『検証班』を名乗る私にしても、まだまだ検証中で不確定要素の多い案件だったから、≪掲示板≫に挙げるのを控えていた情報だったしね。ソロで、いきなり突撃して死に戻ってるようじゃあ調べようもない情報だったろう。
「だから、あんたが『蒼碧の水精遺跡』の攻略に拘るんなら、2つ、3つ『丈夫』にSPを振るべき、かな?」
そうすれば、防御力が上がったうえに最大HPが増えて、相対的に死に難くなるし。今のままだと掠っただけで大ダメージでしょうし、と。そう告げたときの反応からして、こいつの死因もなんとなく察せられる。
そして、そのうえで――
「で、まぁ。ここまで言ってなんだけど――正直、『廃神あすたろっと』では『蒼碧の水精遺跡』の攻略は無理だと思う」
あえて、きっぱりとした物言いで告げる。
「……い、いや。だけどよ、委員長。オレは――」
「明日葉。あんたの『武器』は、なに?」
悔しそうに。だけど、『逃げたくない』とでも言いたげな顔で反論しようとする彼女の言葉を遮り、その碧眼をまっすぐに見つめて「あんたの長所は?」と言葉を重ねる。
「いい? ほかの誰にもない、『廃神』だけが持つだろう『武器』。それは――【強化】系の【スキル】の数、でしょ?」
……何を今さら、みたいな顔してるけどね、明日葉。≪掲示板≫では、【スキル】の合計レベルによって達成報酬が得られると知られて以後、【強化】系の【スキル】は『初心者に勧められないスキル』の筆頭で。2つ以上保有しているプレイヤーは『地雷』とまで言われているわけで。
そして、それを知っていてなお、考えうる限り最大数である4つも【強化】系の【スキル】を保有する『廃神』は異常で。異端で。
それだけに――『最強』に成りえる。
「胸を張りなさい、明日葉。あんたの選択は――正しい」
にやり、と。心の底からの笑みを浮かべて、
「あんたの『ステ』の、持ってる【スキル】の異常なまでのレベルの低さを見るに――あんたは、ずっと【強化】系の【スキル】のレベル上げを第一としてプレイし続けた。そうでしょ?」
ああ、本当に。この子はなんて愚かで、意固地で――『まっすぐ』なんだろう。
「……それは、まぁ。ってか、『異常なまでに』って……そ、そこまで低いか?」
なにやら複雑そうな顔して後頭部をガリガリかきながら問い返すロリに、「低いわね」とバッサリ首肯して返し。それを聞いて眉根を寄せる彼女に「ほら、これが『ホンモノ』のステよ」と言って表示するのは、いつかの≪掲示板≫で騒がれた、とあるPKの≪ステータス≫。
そこには――
『 カホ@くろネ子 / 漁師見習いLv.30
種族:獣人(猫)Lv.14
職種:漁師Lv.16
性別:女
状態異常:【害悪】
基礎ステータス補正
筋力:12
器用:10
敏捷:7
魔力:0
丈夫:0
装備:見習い冒険者ポーチ、劣魚人の鱗鎧
スキル設定(6/6)
【収納術Lv.11】【忍び足Lv.25】【潜伏Lv.23】【槍術Lv.18】【投擲術Lv.27】
【水泳Lv.22】
控えスキル
【短剣術Lv.3】【暗視Lv.1】【弓術Lv.4】【聞き耳Lv.13】【察知Lv.16】
【漁Lv.1】【鍛冶Lv.11】
称号
【水の妖精に好かれし者】 』
――と、先の『廃神』の≪ステータス≫が『可愛く』見える圧倒的な高レベル【スキル】の数と、ほとんど完成された独自の戦術に合わせた『ステータス補正』とが見られ。ついでに、同じ日に≪掲示板≫にあげられて騒がれた、このプレイヤーが使っていたという装備のデータも呼び出し、明日葉に見せれば「ぐぬぬぬ!」と唸りだすが……うん。
こんなのを見て、悔しそうな顔のできるあんたは――だからこそ、凄いのよ。と、内心で苦笑しながら、「ちなみに、これ……一昨日のステらしいのよね」とため息を吐きながら彼女が持っていた『攻略組』としての自尊心にトドメを刺し。
そのうえで、
「あんたが知ってるのかどうかは知らないけど、戦闘系の【スキル】って、その多くが『与えたダメージの量に応じて経験値が上下する』仕様っぽいのよ」
だからこそ、『雑魚狩り』――自身やパーティメンバーよりレベルの低い相手を大量に狩ってレベル上げをする行為――を多くするプレイヤーは、総じてプレイヤーレベルに比較して【スキル】のレベルが高いようで。……その逆で、総合レベルは高い割に【スキル】のレベルが低い『廃神』は、つまりは『格上ばかりを狩り続けた』のだろう。
それも、軽く聞いた感じ、一対多での戦闘が基本だったっぽいし。……このロリ、さすがはβ時代にソロで最前線組に名を連ねてただけのことはあると言うか、なんでここまで『縛りプレイ』じみたプレイスタイルで『攻略組』になるのに拘ってるんだ? という疑問も浮かぶが――とにかく、彼女の場合は【スキル】のレベル上げは厳しいし、合計レベル関係の達成報酬を狙おうとするのもナンセンスと言わざるを得ない。
だから、
「知っての通り、『蒼碧の水精遺跡』はもちろん、水場のフィールドでのレベル上げをするんなら【水泳】は必須で。『水精遺跡』や他のダンジョンに、『洞窟』なんかだと【暗視】も欲しいところなんだけど……」
こいつ、なぜか【暗視】だけは持ってないって言うか……たぶん、取得する度に還元してたな? ……まぁ、【暗視】の有る無しでの差は、【水泳】や他の戦闘系の【スキル】の有る無しほどの違いは無くて。無いなら無いで構わない、という『攻略組』も多く居るようだけど――
「明日葉。あんた、次のイベントが『アーテー』だってわかってる?」
イベントの舞台である廃都『アーテー』がβ時代と同じ仕様なら、そこは四六時中『夜』の世界で。そこにあるダンジョンは、完全な暗闇。それこそ、支給された『松明』か『ランタン』という光源アイテムを使わねば、【暗視】無しだと何も見えなくなってしまうレベルの。
だから、現時点で【暗視】が無いのは、ちょっと『攻略組』志望としては有り得ないんじゃない? と、そう半目で問えば、「……うぐッ!?」と自覚があったのだろう、ロリが呻きながら『痛いところを突かれた』とばかりに胸を抑える仕草を。
「ってもよ~。オレの持ち【スキル】的に、【暗視】なんて持っておける空きなんて無くないか?」
……うん。まぁ、こいつのソロ思考からすれば、そう思うのも無理はないだろう。と言うか、私が指摘しなければ、イベント開始時点で【槌術】あたりを還元していたかも知れないし、あるいは――無謀だけど、今からイベント開始までに【スキル】の合計レベル100以上を目指して、無理やり空きを1つ作り出そうとしていたか。
こいつ、馬鹿だけど根性だけはあるからなぁ……。たぶん、無茶して、『無理やり』って方を選んだんだろうけど……ま、どちらにせよ、そんな未来は私が許さないんだけどね。
「あんたさ。【鍛冶】、要らなくない?」
――訊いてはいないが、こいつの『職歴』に〈鍛冶師〉があるのは確実で。保有【スキル】のなかに【鍛冶】があるのは、たぶん『修復』や『強化』のためなんだろう。
でも、
「……はい? い、いや、でも【鍛冶】は――」
「ついてきて。これから、『廃神』に腕だけは確かな……〈鍛冶師〉? 〈細工師〉? ……とにかく、武器や防具を造って売ってる生産職のプレイヤーを紹介するから」
あれ? あんたも『運☆命☆堂』や『アキサカ』って名前のプレイヤーのことは知ってる? 割と試験版のときから有名なプレイヤーだったし、≪掲示板≫でも度々騒ぎを起こしてたから、普通に≪掲示板≫で情報収集していたら知ってそうだけど、と。そう確認すれば、「ああ、あの『面白い大剣使い』だろ?」と返され――……悔しいことに、そう訊き返されるまで『あの変人』がAFOでも数えるほどしかいない希少な【大剣術】の使い手だったことを知らなかった私。くぅっ、『検証班』を名乗る者として何たる屈辱……!?
「と・に・か・く、あの変態集団――もとい、拘りの職人連中を紹介するから」
「……おい、今なんつった?」
今、すげー聞き捨てられないこと言ってなかったか!? と、うるさいロリっ子を無視して歩き出し。武器や防具が売っている? 飾ってる? いつも『CLOSED』の看板が掛かっていて閉まっているのが常態という変な店こと、『運☆命☆堂』へと向かう道すがら、私の考えを明日葉に告げることに。
「あれよ。連中は、性格はともかく実力だけで言えばAFOでも指折りな武器防具職人だから、これからは『装備は外注』にして、耐久値の回復は『耐久値回復薬』を使うか、店で店員にでもお願いしなさい」
転職で〈鍛冶師〉に就けば、耐久値の確認だけはいつでもできるわけだし。『強化』なんかは本職に頼んだ方が、上昇値が良いっぽいし。
最初期の、資金繰りが厳しい時期ならいざ知らず。今のこいつなら『耐久値回復薬』を買っての『修復』でも十分に利益を出せそうだからね。〈商人〉にも就けるって言うし、最悪は≪マーケット≫で何でも買えるんだから、【鍛冶】なんて無くても問題ないだろう、と。
そこまで【鍛冶】不要説を唱えながら、「ただし」と一言断ったうえで、
「【暗視】の取得自体は、イベント開始からでも良いからね。あんたが考えるべきは――」
やっぱり、【スキル】の合計レベルでしょ、と。あとをついて来ていた白金色の長髪を風に靡かせる幼女擬きをビシッっと指差して告げる。
「……はぁ? い、いや、委員長。それが出来れば――」
苦労はない、とでも言おうとしたのだろう外見幼女を「苦労しなさいよ」と呆れ顔で遮る。
「いい、明日葉。あんたの『武器』は『複数の【強化】系の【スキル】持ち』って点で。これがあるから、実際のレベル以上のモンスを狩りに行けるの」
それがあるから、この子は自身のレベルより上の相手を狩りの対象にし続けられて。ソロで、戦闘時の『スキル設定』のほとんどを【強化】系の【スキル】に食いつぶされた状態で、『最前線』に居続けられるレベルを維持し続けている。
……それが、いったいどれだけすごいことなのか、このロリは分かっているのか?
私含め、≪掲示板≫での主流は、『【強化】系の【スキル】は取得するにしても1つだけ』で。2つ以上は、『ありえない』とまで言われているなかで、我を通し続ける。そういう『自身の信じる強さに一直線』なところが、他人の顔色や世情に流される私には本当に『眩しい』と思える。
そして、そんな彼女が迷い、不安や焦りを抱いているのであれば――
「大丈夫。あんたは、間違ってない」
私が、教えてあげよう。……私だけでも言ってあげよう。
「あんたは、迷わず、これまで通りに【強化】系の【スキル】4つをセットし続ければ良い」
そのうえで、頑張れば良い。
そのうえで、どう頑張れば良いのかを私が考えて。今度こそ、責任をもって導いてみせるから。
「……いい、明日葉。これから言うことは――っていうか、私が言うこと全部は、基本的に『提案』で。『指示』でも、ましてや『命令』なんかじゃない」
これまでがそうだったように。……中学生のとき、泣いてたあんたにしていた『助言』の体をとった無責任な言葉のように。私の言うことなんて大して重く受け止める必要なんてない。決めるのは、あんた自身で良い。
……私はどうせ、『ありきたり』で『独創性の無い』、無責任で適当なことしか言えない、『薄っぺらい人間』だから。
でも。
そんな私でも――
「だから――……じゃない。うん。『だけど』、できれば信じてほしい」
――あんたは、私のことを友だちだと言ってくれたから。
私は、あんたにとっての『自慢の友だち』になりたいから。
だから、どうか。
どうか、今一度。私の言葉を信じてほしい、と。そう願い、祈るように告げる私に――
「おう! それで、委員長。オレは、どうしたら良い?」
…………まったく。どうしてこいつは、いつも。そんなに、私なんかをまっすぐに見つめてくるんだろうね。
「うん。明日葉は、まず――」
……嗚呼。こうして二人で居て、こいつの『まっすぐ』な瞳で見つめられると、あの中学校での日々を思い出すな。
あの日。あの頃。誰もなろうとしなかった『委員長』を押し付けられた私が、皆の『委員長なんだからなんとかしろ』という無言のプレッシャーに負ける形で関わることになった、クラスで一番、『可愛がられ、逃げ出していた女の子』――水越 明日葉。
彼女を追いかけ、見つけ出して。慰めて。連れ戻す。そんな日々のなかで掛けた言葉、話した内容を明日葉がどう感じたのかは知らないが……少なくとも私は、『その場、その場に合わせた言葉』を投げ続けていただけで。そこに私の考えや想いなどは無く。正直に言って、深く関わり合うつもりなんて無かった。
だから、
「――おーけー。その案で行こう」
そう言って『にかっ』と笑う彼女をまえに、あらためて思う。
「そう。じゃあ、よろしく、明日葉」
今更だけど、こいつと『友だち』に――……仲良くなりたい、と。
そのために、
「――うっひょぉぉぉぉおおおおおおッ!! ほ、ほほほ、本当に、この合法ロリっ子に好きな格好をさせても良いのでありまするかぁぁぁああ!?」
「うぎゃぁぁぁあああッ!? って、てめー、コラ! その気持ちの悪いグネグネとした動きを――って、だ、誰が『幼女』だ!! つか、『合法』ってどういう意味で使ってやがる!?」
「ああ、アキサカさん。本人には【鑑定】のレベル上げになるからってことで了解は得てるから、どんどん着せ替えて良いよ」
は、謀ったな!? とか愕然とした顔で絶叫をあげている明日葉に親指を立てて応え。密かに気合を入れる。
……ふふふ、イベントはついに明日の夜開始だ。
それまで残り時間も少なくて。こいつが望む、誰もが認める『攻略組』に『廃神』さまを導くために――
「あ、アキサカさん。『のえるP』としては、そっちのフリフリのゴスロリのも≪掲示板≫映えして良いと思うんで、ぜひ」
「ちょおッ!? そ、それはさすがに――ってか、なんだよ『のえるP』って!? おまえは『検証班』であって『プロデューサー』とかじゃ――って、≪掲示板≫映えってなんだ!? ンでもって、その濃いぃ顔でニヤニヤしながらコッチ来るんじゃねーよ、この2色アフロぉぉぉおおおおッ!!」
ふふふふふふ……。さぁて、『のえる@検証班』改め『のえるP』、頑張りますよ、っと!