クエスト87 おじーちゃん、仲間といっしょに最良の『決着』を
本編最終話です。
前座を一掃した儂らは再びダイチくん主導による新しい『可能性の間』を創り。今度は儂ら『幼精倶楽部』六人と『主人公と愉快な仲間たち』の五人、クラン『漁業協同組合・漢組』とクラン『水精の歌声』の精鋭メンバーに補給と支援と担当するプレイヤーたちにのみパスワードを通知。
「――『ブーステッド・ライト』、『ダークネス』」
「『流星槍』!」
「『ウォーター・ブレッシング』、『ウォーター・プリズン』」
「『ブーステッド・フレア』」
かくして、開始される『通常版イベントボス討伐戦』は、目標の眼前へと駆け付けた儂らとダイチくんたちクラン『薔薇園の守護騎士』組十一人を主軸に、海辺の街を拠点とする2大クランの精鋭が補助するという形で始まり。
ドークスほか、屈強な男たちが壁役として抑え。【虚弱】となってしまったエリお姉ちゃんを筆頭に付与魔法を、カネガサキさんをリーダーに回復魔法を後衛魔法職組が動くことになり。……この人事もローズに言わせれば、普通、大規模集団戦を行うのであれば、その指揮権はそれぞれの代表か、『もっとも多くのプレイヤーを率いるクランの代表』がしようとするもので。『参加人数=発言権』となりがちなんだとか。
ゆえに、「本当に良いのか? それじゃあ、全体の9割が他所のクランの構成になっちまうぞ?」とダストン親分は作戦参加には了承しつつも確認し。クラン『水精の歌声』の代表――の娘さんらしい副団長も「自力での『イベントボス討伐』が難しい私たちとしては助かりますが……それだと自分たちの所属するクランを蔑ろにしている、と言われませんか?」なんて心配そうな顔をして訊いてくれたが……そこはそれ。この作戦立案者は稀代の大軍師様なわけで。
2大クランの代表メンバーをまえに志保ちゃんは毅然とした態度で「かまいません」と返し。傍目には単なる無表情にしか見えん表情ながら、どことなく『いたずらっ子』を思わせる雰囲気を漂わせて、「これは、言ってしまえば証明です」と胸を張って告げた。
曰く、『100人中、89人が他所のクランのメンバー』というのは、逆に言えば『信用のおける人間が1割居れば、私たちは勝てる』ということで。つまりは、クラン『薔薇園の守護騎士』単独で『イベントボス討伐』を成せなかったのは、どっかの自称『最強』のクランの妨害があったから、と。
加えて言えば、『ヒーローズ』の六人とミナセさんが居れば、通常版の『イベントボス』程度は倒せるってことの証明ですね、と。そうこともなげに言ったうえで、「これを機に、主人公くんたちはせいぜい頑張って、自身のクランの『手綱』をしっかりと握ってください」なんてダイチくんらに苦言を呈してみせる少女は、本当に頼れる軍師殿で。
「『プロテクション・ダーク』、『ヘヴィ・ガード』、っと。ここからは志保ちゃんも言うてた通り、儂らに向かって『イベントボス』が攻撃することが多くなるが……嘉穂ちゃんは儂が必ず守るゆえ、信じてくれるか?」
「『ターゲッティング』、と。うん! カホはいつだって、ミナセちゃんを信じてるよ!!」
ゆえに、そんな名参謀が語った作戦の第一段階として。最終目標がよく見える最前線にて『決闘』時と同じように『暗幕』と『水牢』の中に入った儂と嘉穂ちゃんの二人は、それぞれの『準備』を進める。
「……うむ、良い子じゃ。では、『ブレイブ・ソウル』からの『エール』!」
『副職』に〈勇者〉を設定し。【鼓舞】のレベル1で使えるようになる『ブレイブ・ソウル』とレベル3で使えるようになった『エール』を使用。副次効果とアーツの効果で『敵意を集めやすくなる』のを承知のうえで、前者のアーツで自身の、後者の『他者しか対象にできない』アーツによって嘉穂ちゃんの攻撃力を増やし。
「『エンチャント・アクア』! ……頑張って、お姉ちゃん」
「うん! 任せて、志保ちゃん!」
行っくよー、と。そんな気楽とも思える声を『パーティチャット』にて耳にしながら、小さな褐色肌の猫耳少女による、固有技能(レベル30)の【水泳】と称号【水の妖精に好かれし者】の効果で最大限強化された『流星槍』が放たれ。閃光が瞬いたと思えば瞬時に着弾。
【慧眼】で視えるようなったイベントボスのHPを示す横棒が目に見えて減ったのを笑いながら子猫に報告。それによってテンションの上がったらしい嘉穂ちゃんが放たれる投槍の連弾速度がさらに増していき。たった一人で100のプレイヤーを相手取るために用意された最終目標のHPを見る見る削っていくのじゃから笑いが止まらない。
「『ヘイトアピール』――って、ダメだ! そっち言ったぞ、ちみっ子!!」
……もっとも。こうまで彼奴の敵意を集める行動をすれば必然。盾職がどれだけ自身に敵意を向けようとしたところで無意味。
かくして、体長3メートルを超す黒い鱗生やす鳥顔の怪物は儂らへと一直線に駆け寄ってきて。その迫力をまえに「ひっ!」と短く悲鳴の声をあげ、身をすくませて無意識に後退してきたのだろう子猫の肩に「大丈夫じゃ」と言って左手を乗せ。
振り剥いた、怯え顔の子猫に微笑を浮かべて頷き。少女を背後から抱きしめるように両手で囲いながら――
「言ったろう? 嘉穂ちゃんは儂が守る、と。『ワイドガード』!」
背中の、蟹のハサミを模した黒い盾を1つ引き伸ばし。眼前に掲げて【盾術】のアーツを起動。2つの称号に『プロテクション・ダーク』、『ヘヴィ・ガード』の効果で大幅に上昇した防御力を宿す不可視の障壁は、強大な怪物による突進すら受け止め。ついでに、タイミングよく角度を調整してやれば自身で生み出した勢いに押されるかたちで儂らの脇を転げるようにして通り過ぎ、
「今じゃ! 嘉穂ちゃん!」
「っ! う、うん!」
再開される、黒猫幼女による連弾。
「わたしは! ミナセちゃんの相棒だもん! だから!! ミナセちゃんと二人のときのカホは! 無敵なんだから!!」
投げる、投げる、投げる!
たった数秒。崩れた態勢を直そうと黒トカゲ鳥がその場で身を持ち上げようとする、ほんのわずかの間に放たれる投槍の連続攻撃を、果たしてどれだけのプレイヤーが真似できたことだろう? このゲーム内に、彼女ほど【投擲術】を使い熟したプレイヤーが、他にいったい、何人いる?
「だから……怖くない。おまえなんか、怖くないもん! 『紫電槍』! 『紫電槍』!!」
ついには、イベントボスのまえに立ち。両手の『トライデント』を直接振るって戦わねばならない状況になってなお、子猫は止まらず。
小柄な彼女からすれば本当に見上げるような体躯の怪物の暴威に怯えながら。身体を、声を震わせながら――しかし、決して、彼奴の攻撃に対して動きを止めず。少女の背にて2つの盾を突き出し、黒トカゲ鳥が振るう爪の悉くを弾き、逸らす儂のことを信じてくれているのだろう。
それこそ、儂が【盾術】のレベル15で使えるようになった効果時間1秒の『使用者の防御力を大幅に上昇させ、盾に触れたものを大きく弾く』――『シールド・パリィ』で弾くのを傍目に。本当に近くの、子猫の顔のすぐ横で繰り返される攻防を、彼女は泣きそうな顔になりつつも歯を食いしばって耐え。必死で前を向き。悲鳴のような威勢の声をあげて攻撃し続けるこの子こそが、真の『勇者』。
そして、
「『スラッシュ』! と、師父様!」
「『紫電槍』! おじーちゃん、わたしたちにも『エール』ちょうだい!!」
そんな子猫の頑張りを目にして。
恐怖に立ち向かうためにあげた声を耳にして。
「『ブーステッド・ウィンド』! ……もう、二人は。気持ちはわかるけど、『第一形態』のときだけにしてね?」
「『エンチャント・フレア』! ……ええ、本当に。私だって【虚弱】でなければイベントボスの顔を殴りに行きたいですわ」
――奮い立たぬものなどいない。
それこそ、本来であれば周辺の雑魚狩りを任された孫娘たちを動かし。作戦を通達した参謀役の少女と責任感が人一倍強いパーティーリーダーに苦笑を浮かべさせ。ダイチくんほか、最前線で戦い続ける精鋭たちの心に灯をともす。
かく言う儂にしても眼前の子猫の奮闘と儂への信頼に胸を打たれ。イチと美晴ちゃんの参戦宣言に口元を綻ばせて、乞われた『エール』に加えて『ワン・フォー・オール』のアーツも起動。一時的に嘉穂ちゃん、イチ、美晴ちゃんの三人が消費するTPの3割を負担することにして発破をかけることに。
その結果――
「っと、最前線組は攻撃をやめてください!」
「イベントボスのHPがそろそろ4本目を割ります! 対『第二形態』用の準備をしてください!」
「各班への連絡を! カウントダウン、入ります!!」
「カホちゃんとミナセちゃん! タイミングを合わせて、お願いします!」
――おそらくは、最短最速で『第一形態』を削ることに成功したようで。
幾人かの【看破】持ちによる声掛けにより攻撃が中断され。各部隊に配属された部隊長へと『フレンドコール』にて通達が行き届き。
儂もまた彼奴の頭上のHPバーを視界の端に、最前線組が大声で行うカウントダウンに合わせて嘉穂ちゃんの攻撃を誘導。残り数ミリとなった段階で少女には防具を『初級服』に着替えてもらって、
「「0!!」」
「イベントボス、進化開始! 『第二形態』、来ます!」
「各隊、『デミ・ドッペルゲンガー』の発生に注意!!」
『イベントボス』が発光。『第二形態』へと進化して、飛翔し。紫色の太陽光を発する――直前で、「『知覚加速』」と呟き。体感時間を加速。
瞬時に武装すべてをしまい。『初級服』に着替えたうえで『職種』と『副職』を入れ替えるように『転職』。『スキル設定』も弄って、と。
一連の操作で呼び出したウィンドウをそのままに体感時間の操作を止め。『第二形態』へと進化してすぐにイベントボスが使用する『劣化模造品』召喚の咆哮によって起き上がった陰――『デミ・ドッペルゲンガーLv.21』を確認。
即座に浮かべたままの『ジョブチェンジ』の項目を再度クリックし。表示された『職歴』から〈狩人Lv.23〉を選択して転職。さらに、視界隅にある≪インベントリ≫のウィンドウを操作して『闇蟹の短槍』を2本取り出し、
「「『螺旋槍』! からの、『螺旋槍』!!」」
子猫とタイミングを合わせ、二人の影たちを同じアーツで貫き。同時に瞬殺。
「よし! あとは――」
「『お着換え』からの、上のボス! だよね!!」
笑顔を交わし。頷きあって。二人でしっかりと防具を纏ったうえで嘉穂ちゃんは投槍の連打を再開し。儂はそれに加えて各種の調整を済ませたあとで連投に参加。天上のイベントボスへ向け、誰より早く攻撃開始。
……もっとも。大容量のインベントリに蓄えた大量の武装を投げ続けられる子猫と違い、儂は投げては『アポート』のアーツで回収せねば『間』ができてしまうが――逆に言えば、嘉穂ちゃんが適当に、それこそ投げてる本人すら把握せずに別の武装を使う少女と違い、儂の場合は『エンチャント・アクア』を掛けて攻撃力を増した武装を使いまわせるわけで。2つの称号効果もあって与ダメージにそこまでの差はできていない。
ゆえに、再度、イベントボスが地上へと降りてくるまでは『TP回復ポーション』の使用も惜しまずアーツを使い続け。降りてきてからの近接戦は、また攻撃は子猫便りで防御に回り。
「……これ、カホは『水着』になっても良いんじゃ?」
「信頼してくれるのは嬉しいが、仮に被弾させてしまったときが怖すぎるんでやめてくれぃ」
「それ以前に、その防具の鎧下を衆目に晒すとか『不許可』に決まってるから」
果たして、『第二形態』との戦闘は、途中、途中の『デミ・ドッペルゲンガー』へ対する『お着換え』などの手間こそあったが、一々、空へと昇って滞空してくれる隙ができるぶん、嘉穂ちゃんからすれば余裕のある戦闘であったようで。
慣れてきたのもあるのじゃろう、最初の方での怯えようは鳴りを潜め。時折、こちらに笑みを向けてくれたりもしたが……そうした余裕のある前線組は儂らだけなようで。どんなに早く『第一形態』を撃破したと言っても、軽く30分以上は走り回っていたプレイヤーたちは、次の『第二形態』と対峙するときは追加で武装の変更などの操作が必要となり。終始、直径2メートルの水球の中で過ごす儂らとは違って、1時間もの間、気の抜けない戦闘を繰り広げる彼ら、彼女らには当然、無視しえぬ疲労が蓄積されていった。
その結果、ミスが増え。各部隊からの報告に悲鳴が混じりだした頃合いで――
まさかの『最前線組の総入れ替え』が行われた。
居残り組は、儂ら『幼精倶楽部』六人と『主人公と愉快な仲間たち』五人の、クラン『薔薇園の守護騎士』組十一人だけで。それ以外のプレイヤーは、順次、休憩や補給に、そのまま離脱なので交代、と。……この思い切った案を容易に頷いた2大クランの代表には、提案した志保ちゃんにしても驚いたようで。
『通常版のイベントボス討伐』という栄誉と、得られるだろう報酬を鑑みれば、普通はそう簡単に飲めないはずなのに、と逆に訊き返す参謀少女には「そもそも、この一戦自体が『棚から牡丹餅』ですし」とクラン『水精の歌声』の副団長は苦笑して返し。ダストン親分に至っては、「それ以前に、ミナセの嬢ちゃんの『献策』が無けりゃ、俺らにゃ参加権すらなかったろうからなぁ」と。さきに行った『イベントボス相手の〈吟遊詩人〉レベル上げコンサート』の件に加えて、儂がクラン『漁業協同組合・漢組』と『アーテー北の迷宮』の走破協力をした件を話し。
さらに、最初の攻略が比較的『短期決戦』で済んだことで空いた時間を用い、儂がした『ちょっとしたお願い』――今回の走破に協力した20を超える精鋭メンバーに時間いっぱい、ボス撃破で得た『属性魔法:闇の魔導書』によって取得した【属性魔法:闇】も用いて『たくさんの迷宮』を同時に、『可能な限り上の階まで』攻略してもらい。あとで合流した儂とともに『北の迷宮』攻略をたくさん行おう、と。……まぁ、結果から言えば現実世界の15時までの時間では5つしか攻略できんかったわけじゃが。
それでも、最初の攻略で得られたドロップアイテムと合わせて6つ、『属性魔法:闇の魔導書』を『漢組』は得られたわけで。さらに、儂と別れたあとでも2つ迷宮攻略を成したらしい彼らは、今や『攻略組筆頭』とまで言われるようになり。……とあるプレイヤーには「おかげさまで彼女ができました!」なんて拝まれたりもしたが、それはさておき。
直前まで『通常版のイベントボスを倒すのは無理だ』と諦めていたクラン『漁業協同組合・漢組』は、現在、何の因果かAFOに存在する数多のクランの中で最も【属性魔法:闇】を有するイベント特攻クランに成り代わったわけで。そこに今回の件によって『本物の攻略組』の指揮下で『予行練習』をする機会を得られたのは行幸、と。どうせ、自分たちだけでも『イベントボス討伐』は行うから、今回の合同作戦に固執する必要はない、とまで言われてしまえば志保ちゃんも――表面上の無表情っぷりはともかく――苦笑いするしかなかったらしい。
「まぁ、それがなくても……嬢ちゃんの言うことは聞いといて損は無ーみてぇだしな!」
「ですね。あの『目の上のたん瘤』を一掃してみせた手腕は、本当に見事でした」
そう、2大クランの代表に笑顔で言われるほど一目置かれるようになったきっかけは、おそらくは先の『決闘』での顛末か。
「あれは……まぁ、相手が愚かすぎただけですから」
――結論から言って、クラン『月光聖騎士団』の連中は『決闘』の敗者としての義務を放棄し。ローズが要求した『謝罪』を、拒否した。
どころか、ただただ外見の通りの子供の繰り言で『決闘』自体を無効と叫び。自身の力量を顧みることなく他者を貶し。
ここまでの自分たちの行いに対する視線を、感情を、一切合切無視して喚き散らし。ただ感情のままに暴言を吐く彼らに対し、儂もまた冷ややかに見つめて――いるような演技をしながら、これまた事前に通達されていた少女の作戦のままに「処置なし」と吐き捨てるように言って。
そのまま、多くの視線を集めている状況で。ある種の『最終兵器』にして、安易には使えば儂らの首すら絞めかねない『禁じ手』を――「『メニュー』、オープン。『GMコール』」と。……まぁ、有体に言えば。いわゆる『教師チクり』というやつを、行った。
そして、ややあってから現れた、神官服を纏うNPCの青年――……薄々そんな気はしていたが、予想通り『GMコール』をして現れたのは知人の運営直轄NPC――『ジャッジさん』で。その、もはや見慣れつつある胡散臭い微笑をまえに儂が何を告げるより早く、まるで自分たちは『悪くない』とでも思っているのか、儂のことを糾弾する愚者数名。
それこそ、名軍師の策略とは気づかず。周りには、たくさんのプレイヤーと、AFO有数の大手クランの代表たちが居る場所で、連中はここぞとばかりに『チート』だ何だと訴え。結果、≪掲示板≫にも一定数はいるという、儂の成したことや技術に関して懐疑的なプレイヤーの言葉を代弁――と言うには、いささか以上に聞き苦しい物言いじゃが――する彼らの『通報する内容を否定する』様を多くのプレイヤーに認知させることに成功。
加えて、これまたタイミングよく志保ちゃんが提出した、他所のSNSの書き込みなどを主にした彼ら――クラン『月光聖騎士団』の代表や、その取り巻き数名への『嫌疑』の『通報』は、その結果をもって『有罪』が確定。これまでの悪事が白日の下に晒され、多くのプレイヤーに白い目を向けられながらの『永久退場』と相成った。……で、そんな一連の流れを見て、陰ながら『計画通り』とでも言いたげな雰囲気を醸し出して口元を横に引き裂くように笑うエルフ少女の顔は、まぁ見なかったことにして。
とにかく、かの自称・最強クランの精鋭と『決闘』するようになった経緯。『ケムリ玉』にアーツやマジックの使い方はもちろん、それぞれの味方の持ち味を巧みに活かして明らかな格上を手玉に取った作戦。同時に≪掲示板≫を使った世論の誘導に、その『最後』までを予測して調査し、今回の『合同イベントボス討伐作戦』まで手回ししていた少女の深謀遠慮には、ダストン親分たちも素直に感服させられたようで。2大クランの代表に手放しで褒められて珍しく照れる参謀殿――と、その横で我がことのように自慢げな犬耳少女と鼻高々な様子だった子猫はさておき。
かくして、傍目には単なる参加者の一人でしかない、最年少女児が立てた作戦は滞りなく全プレイヤーに通知され。ダイチくん含めた3大クランの代表の厚い信頼のもと、彼らの指揮によって遺憾なく真価を発揮。
結果、もっとも確実で。もっとも安全でありながら、普通なら誰もが眉を潜めそうな作戦――
最終目標たるイベントボスの『第三形態』と儂による一騎討ちが実現することに。
「さて、せっかくの見せ場じゃ。せいぜい、派手に踊ってくれようかのぅ」
――前提として、『イベントボス:堕ちた太陽の申し子』の『第三形態』のレベルは50で。
彼奴の正体が100のプレイヤーを相手取ることのできるボスモンスターだからか、表示されたレベル以上に高い攻撃力に敏捷値。レベルの低い【スキル】や武装ではダメージを与えられない防御力に、壁役すらを一撃死させられる魔力値を有する怪物は、それゆえにある程度の犠牲を飲み込んだうえで正しく数による圧殺を狙うべきなのじゃが――そんなことをしては、せっかく協力してくれた他所のクランのプレイヤーに【虚弱】になる未来を強いることになってしまう、と。
たとえ、代表一同が納得し。参加者全員が『良し』としても、彼ら彼女らの命を預かる作戦参謀は『犠牲者を必須とする愚策を棄却』。代わりに、普通なら『負担』やら『責任』に、得られるはずのドロップアイテムなどの理由から決して飲まれないだろう案を出して、
「がんばって、ミナセちゃん!」
――結論から言えば、誰に反論されるでもなく。以前にも一人で『第三形態』と相対して無事じゃった実績と、これまでのダンジョン攻略戦による信頼からか。あるいは、それを口にしたのが稀代の名軍師たる少女だったからか。儂らのことをよく知らん者には不自然なほど、あっさり、儂と彼奴が対決することになり。
もっとも、名目上は儂と彼奴との『一騎打ち』ということで作戦通達されておるが、当然、ほかのプレイヤーに役目が無いわけも無く。最前線にて攻撃や防御をしてくれとった者たちは離れ、周りの雑魚狩りか、遠距離攻撃をしてもらうことになっており。
これまで一緒に居た子猫と別れるのに一抹の寂しさを覚えんでもないが……身動きのとれん『水球』に籠っていては足下から噴き出す闇魔法――『ダーク・ウォール』の巻き添えになってしまうからのぅ。
ゆえに、仕方なく。嘉穂ちゃんにはここで離れてもらい、以後はほかのプレイヤー同様、遠距離からの支援に徹してもらうとして。儂はこれまで以上に敵意を集めるようアーツを連打し。よそ見をしようとすれば『ヘイトアピール』まで使って攻撃を引き付け。HPに余裕があるときなどは【虚弱】によって威力を低下させられたちぃお姉ちゃんに頼んで、いつかのように大量の水を儂ごと魔法にてぶっかけてもらったりもして。
「「ミ・ナ・セ!! ミ・ナ・セ!!」」
気づけば、儂と黒トカゲ鳥を中心に遠巻きに囲むプレイヤーの輪から妙なコールが放たれるようになり。なかには「ぅゎょぅι゛ょっょぃ」だの「乙姫ちゃん俺だ、結婚してくれ」だんと言った意味不明なことを叫んでは笑いあっているようじゃが……それにしたって、何がどうしてこうなった?
それから、
「いや~、実際問題、スィフォンがランキング上位を『一掃』してくれたおかげで、ミナセちゃん、残り時間的に幾つかのランキングで1位は確定っぽいからね。仕方ないね」
「俺らの今回のイベントの実績も、そのほとんどが赤毛のちみっ子のおかげだしな。仕方ない」
「ん。あたしらの妹は可愛い。可愛いは正義だから、仕方ない」
「まぁ、どっかの諸々ケチってBANされた連中と違って『闇の魔導書』をバラまいたうえで『北の迷宮』を一番多く攻略してたっぽいし。仕方ないわよね」
「ですね。うん、仕方ない。仕方ない」
……おい、そこで暇しとる『攻略組』の代表メンバー。なに、『仕方ない』を言い訳にして『ミナセコール』に混ざっとる!?
「「ミ・ナ・セ! ミ・ナ・セ!」」
そして、嘉穂ちゃんとイチはノリノリじゃのぅ……。志保ちゃんにいたっては「あ~……大変言い難いのですが、そろそろ私たちの門限が」なんて、さらりとペースアップを要請してくれるし。……静かじゃと思えば、ローズは熱狂する男たちの歓声に引いとるし。
とりあえず、
「おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?」
なんて、目を丸くしておる美晴ちゃんには「違う!」と声を大にして反論しておき。
「いい加減、その顔を見飽きたでな。そろそろ終いとしようか、黒トカゲ鳥ッ!!」
――かくして、儂らのイベントにおける最大目標は果たされた。
「っと。儂らの、勝ちじゃぁぁぁあああ!!」
儂の勝鬨に、歓声が爆発し。即座に飛びついてきた桃色長髪の犬耳少女と褐色肌の黒猫幼女を受け止め。ちぃお姉ちゃんとエリお姉ちゃんに撫でられるがまま、儂の周りを取り囲んで口々に褒めたたえてくれる仲間たちに笑顔で返し。
「よし。次は――『主人公と愉快な仲間たち』+αの『北の迷宮』走破と、儂の『最速走破記録』の塗り替えじゃな!」
――しかし、まだ儂らにはやるべきことが多く残っており。
ゆえに、まだ儂らのイベントに終わりを告げるには早い。
「あはは! さすが、ミナセちゃん!」
「本当に、『廃人組』より『廃ゲーマー』な辺りがミナセさんらしいですわね」
「嗚呼、師父様! その決して立ち止まらない姿勢に改めて敬服を!」
――儂らの物語は続く。
AFOというゲームが在る限り、ずっと。
あの日、赤毛の『ドワーフ』少女になって降り立ってから、今日まで。
そして、今日から明日へ。そのまた次の日へ。
儂らはきっと笑いあう。
ずっと。
……ずっと。
「もう。……ほんと、無理だけはしないでよね、おじーちゃん」
「ええ。また何かありましたら報告をお願いしますね」
――愛しき孫たちと、笑いあう。
きっと。
……ずっと。
いつまでも。
-fin-
以後、すこし短編の更新こそありますが、これにて[おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?]は完結となります。ここまでお読みいただき本当にありがとうございましたm(_ _)m