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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第三章 初イベントにて全プレイヤーに栄冠を示せ!
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クエスト86 おじーちゃん、格上相手の『決闘』に、最後だけ見どころを?

 『決闘』の開始と同時に儂が行ったのは、【魔法属性:闇】を取得する際などに何度も使った魔法――『ダークネス』。


 これは『使用者を中心に、直径3メートルほどの暗闇を生み出す』という、正直に言って使い道のわからない魔法じゃったが……そこはそれ、神算鬼謀をめぐらす我らが軍師殿。目くらましか、【暗視】のレベル上げにでも使えるかどうか、といった程度の儂の考えなどとは打って変わって、彼女は儂の有する称号【闇の精霊に好かれし者】に美晴ちゃんと志保ちゃんが取得した称号【闇の妖精に好かれし者】の『暗い場所でのステータス上昇』効果を最大限発揮するために使うと言うのだ。


 加えて、「今回の『決闘』の舞台――『試合会場』は、明るい場所です。なので、絶対に【暗視】を最初はセットしてないはず」と告げて。そのセットしたスキルの変更に手間取らせることも計算に入れたうえで『ダークネス』の使用を提案してくる辺り、さすがである。


 そして、それと同時に美晴ちゃんは本当の意味での目くらましとして、『ケムリ玉』という『煙幕を発生させる』アイテムを投擲、と。……ルール上、回復アイテム以外のアイテムの使用は許可されているとは言え、これには相手も驚いたことだろう。


 もっとも、嘉穂ちゃんの準備のために冒険者ギルドへと向かわせた際、ついでに買い漁ったらしいこの『ケムリ玉』を、儂を含めて『幼精倶楽部フェアリーサークル』全員が大量に所持しているのじゃが……されはさておき。『ケムリ玉』によって視界を遮り、相手を混乱させている間に――というより、儂の『ダークネス』同様、開幕と同時に――嘉穂ちゃんは必殺の『流星槍』のチャージに入り。


 志保ちゃんは、『ウォーター・プリズン』という、【属性魔法:水】におけるレベル7で使用可能になる魔法マジックを、を対象に発動。儂の足下に、水色に光る魔方陣が浮かび上がり、そのまま10秒ほど経てば『対象を水球に閉じ込める』という効果を持つ、直径2メートルほどの水球が発生。本来であれば、これで『ボイスコマンド』を封じ、窒息死すら狙える『閉じ込めた相手の移動を封じる水球型の牢獄』魔法は――しかし、儂の有する称号【水の精霊に好かれし者】の『水中呼吸可能』という効果と、『水に身体を浸すことでステータスが上昇』の効果で単なる強化魔法にしかならず。


 『ダークネス』と『ウォーター・プリズン』の効果時間である10分間に限り、儂のステータスは両方の称号の効果によって凄まじい上昇値となるのじゃが……そうまでして上昇させたステータスもすべては準備段階でしかなく。


「――『ウォーター・ブレッシング』」


 ローズの使った、【属性魔法:水】のレベル3魔法である『対象を水中での呼吸を可能にする』効果を持つ『ウォーター・ブレッシング』でもって窒息死することが無くなった嘉穂ちゃんは、儂が閉じ込められた水球に飛び込み。今回はアキサカくんたちに造ってもらった『水場に適した防具』――『デスティニー作フィッシャーマンアーマー』に着替えてきた子猫の場合、称号【水の妖精に好かれし者】の効果に、固有技能スペリオル化までした【水泳】の効果で、これまた強化魔法に早変わり、と。


 ……もっとも。直径2メートルという水球の中に二人というのは、小柄な儂と嘉穂ちゃんにしたって狭く。さすがに接近戦などはできないじゃろうが――もとより儂に背を預ける少女に攻撃を届かせるつもりはない。


 なお、こうして二つの称号の効果でステータスを上昇させ。『魔力』に全SPを注ぎ込んだ魔力補正26の〈初級治療師Lv.46〉に〈魔法使い〉の副次効果まで使って強力無比となったろう儂の【付与魔法】――それも『魔力』を上昇させ、MPの消費を抑える効果を付与する『ブーステッド・ダーク』を、最初に儂。次に志保ちゃん、ローズといった順番で掛ける理由は、対プレイヤーを想定した、軍師殿曰く『小細工の1つ』だそうで。


 パーティーに一人は必ず居る付与魔法使いに対して、『付与された際の魔力値の高さによって「付与魔法」は上書き可能』の仕様により、プレイヤーに合わない付与魔法を相手側に上書きされないようにする工夫、なんだとか。


 もっとも。嘉穂ちゃんと美晴ちゃんに『ブーステッド・アクア』という『器用』を上昇させる身体強化魔法を掛けるのは【虚弱】になってステータスが半減しとるローズで。イチに『敏捷』が上昇する『ブーステッド・ウィンド』をかけとる志保ちゃんはレベルが低く。どちらも『ブーステッド・ダーク』で魔力値を下駄を履かせたところで『攻略組』の魔法職の魔力値には及ばんじゃろう、と。ゆえに、ここまでは単なる『小細工』だと我らが軍師殿は断じていたが……うむ。こういう細かいところも含めて、志保ちゃんだけは敵に回してはいかんな、としみじみ思った。


 ……それ以前に、煙幕や暗幕によって視えないだろう連中も、まさか大鎌を装備する儂が最初っから魔法戦をするとは思ってはいまい、と。改めて自身の装備する『見るからに近接戦をしそうな杖』を『視て』、密かに苦笑し。最後に、自身に『ブーステッド・ライト』を掛けなおしたうえで、〈戦士〉に『転職ジョブチェンジ』。『女番長セット』から『闇蟹アーマー』と『闇蟹シールドセット』に着替え、『設定スキル』を弄りつつ、『副職』には……まぁ〈魔法使い〉のままで良いか。


 その間にも、ローズと志保ちゃんによって『プロテクション』が全員に、『エンチャント・フレア』という攻撃力上昇の付与魔法をイチが『居合刀』に掛けてもらっているが……正直、これらの出番があるかどうかは微妙なところである。


 なにせ、『ケムリ玉』を投げ込んですぐに美晴ちゃんもまた『流星槍』をチャージし始めておるし。眼前の子猫は、『流星槍』のチャージをしつつ、もう片方の手で『ブレイクアップ』という投擲物の数を10倍に増やす【投擲術】のアーツ付きで槍の雨を降らしているわけで。これに加えて名軍師が授けてくださった作戦の第二弾――


「『ワン・フォー・オール』」


 おそらくは、現状、儂しか使えんじゃろう【鼓舞】のレベル7で使えるようになる『TPを消費し、自分以外の対象を選択して発動。選択された者の消費するTPやMPにダメージを人数に比例した割合肩代わりする』アーツ――『ワン・フォー・オール』を発動。以後、『幼精倶楽部フェアリーサークル』がアーツやマジックの発動に使用するTPやMPに受けるダメージを儂が『ある程度』肩代わりすることに。


 ……なお、【スキル】の匿名性と自分以外にかける必要のあるアーツということで一人辺り、どの程度の肩代わりなのか。最大でどれだけ対象の消費を肩代わりできるのか、といった検証ができていないため、その辺の確認も今回の『決闘』で済ませよう、と。言ってしまえば、これもまた『小細工』の1つでしかなかったりする。


「行くよ、嘉穂ちゃん!」


「うん! まかせて、みはるん!」


 さておき。ついに、『ケムリ玉』にて視界を遮られ、混乱するなかに嘉穂ちゃんが文字通り『片手間』で投げ込んでいた槍の雨によって追い立てられた彼らに、2本の『流星』は放たれ。容赦なく突き立つ。


 先に投げられた美晴ちゃんの『流星槍』は、運が良いのか悪いのか、軍師の少女が読んでいた通り、降りしきる槍の雨に対して使ったのだろう『直径2メートルという大きさの、透明な傘』――【盾術】の『ワイドガード』だろう、不可視の力場たてに命中。


 結果、敵の掲げる『ワイドガード』は砕け散り。煙幕もわずかに晴れた――そう思ったときには嘉穂ちゃんの、『ターゲッティング』という『命中補正』付きの『流星槍』が迸り。これこそ本家本元とでも言おうか、ちゃっかりと一番脆そうな魔法使いふうのプレイヤーを一発退場させている辺り、さすがは元・最強のPKと言ったところか。


「おお……! す、すごいよ、嘉穂ちゃん!」


「本当に……あの一瞬で、よくもまぁ、といった感じですが」


「お見事ですね、カホさん」


 そんなみんなの称賛に「え、えへへ」と照れたように笑う子猫に儂もまた表情が緩むが……しかし、現状はまだ六人のうちの一人を不意打ちで落とせただけ。ここは年長者として「うむ。見事ではあるが、まだ気を抜くには早いぞ」と言うにとどめる。


「ですね。みはるんはまた『流星槍』の準備チャージを! お姉ちゃんは全力で『ブレイクアップ』連打で。ここからは私とローズも魔法攻撃を開始します!」


 かくして、相手はまたイチの投げた『ケムリ玉』でもって視界を遮られ。ある種、嘉穂ちゃんの十八番とも言える両手を使っての投擲連打と魔法職二人による攻撃魔法で満足に動けず。美晴ちゃんのチャージが済めば、ローズの火球魔法ファイアーボールが炸裂。煙幕が晴れるのに合わせて『流星槍』が放たれ。また、『ケムリ玉』が飛んできて視界を遮られてのループ、なのだから敵側はたまったものじゃなかろう。


「『マナ・ショット』、『マナ・ショット』、と。いちおう、根性見せて接近されたらイチさんに、というお話でしたが……」


「……はい。このままですと、私の出番が無さそうですね」


 さもあらん。


 そもそも、遮蔽物の無い戦場で。しかも初期配置が10メートルしか離れておらず。直径20メートル程度の狭い世界で嘉穂ちゃんと対峙して無事に済むと思っとるのが甘い。


 加えて、やぶれかぶれか、必死に現状を打破しようとしてかは知らんが、こちらに飛ばしてくる遠距離攻撃――それも大体は子猫が放ち続ける槍の弾幕で撃墜されているようじゃが――は、儂の『ヘヴィ・ガード』付きの『ワイドガード』で防ぎきれているわけで。仮に誰かが直撃したところで『ワン・フォー・オール』でダメージをある程度肩代わりするゆえ、一撃死はありえず。


 とめどなくアーツを使い続けとる子猫のTPにしても、途中から儂が『ブーステッド・ライト』をかけて『最大値を増やしたうえで10秒ごとに最大値の1%回復』と『ワン・フォー・オール』による肩代わりで相対的に消費を抑えられており。最悪、【回復魔法】のレベル7で使えるようになる『トランスフォー・テクニカルパワー』で儂のTPを与えることができるからの。


 つまり、この時点で――開始数分での『王手チェック』、と。


「ふふふふ。さぁ、この現状を打破するにはダメージ覚悟でこちらに駆け寄るしかないんです。ほら、ほら、ほら! さっさと顔を出してくださいよ!」


「……うぅ。言っちゃあ、なんだけど……味方の方がこわいよ~」


「し、志保ちゃん、どーどー……! お、おちついて~」


 ……とりあえず、志保ちゃんが未だにブチギレ状態じゃからなぁ。儂としても『視え』はするが、なるべく彼女の顔を『視ない』ようにしているぐらいじゃし……。正直に言って、もはや連中の明暗など決しているんじゃから、さっさと降伏して欲しいぐらいなんじゃが――


「あ、出てきた。『流星槍』どーん!」


「『ケムリ玉』追加しますね」


 ……まぁ、自称とは言えAFO『最強』を名乗ったのじゃから、ここで諦めるということは無い、か。


「ふふふふ。それにしても、『前座』を買って出てくれた『最強w』さんたちのおかげでミナセさんの『ワン・フォー・オール』の仕様の検証と、お姉ちゃんと組んでの固定砲台作戦の練習ができて助かりますね♪」


 的役、ご苦労様です、と薄く笑いながら告げるエルフ少女からは意識的に注意を逸らし。とりあえず、儂の使用する『ワン・フォー・オール』の『対象人数に比例して肩代わりする割合が変化』について、『儂以外の五人の場合、本来消費するはずのTPやMPのうちの半分を儂が肩代わりしている』ようで。各種付与魔法のかけなおしに合わせて『一人ずつ』、順々に『ワン・フォー・オール』の対象を増やして消費する『割合』についてを検証した結果。どうも一人増えるごとに10%消費量を肩代わりする量が増すようで。つまり十人以上を対象に使えば、一人で全員の、すべてのHP・MP・TPの消費を肩代わりすることになるようじゃが……そこまで行くと逆に使い難い効果にも思えるが、そこはそれ、あとで志保ちゃんと相談するとして。


 とりあえず、先の攻防で学んだのだろう、盾役タンク二人を文字通りの肉壁として一直線にこちらへと駆け寄ってくる相手を見やる。


 ……【慧眼】で視たところ、レベルは全員40以上で。装備の質も、趣味全開のアキサカくんたちのそれと比べても上のようで。さすがに『最強』を自称するだけはある、本来であれば儂らでは勝負にならんじゃろう敵なんじゃが――残念、相手が悪かったのぅ。


「っと! さすがにここまで近寄られると――」


 ついに、嘉穂ちゃんによる『ブレイクアップ』の弾幕に美晴ちゃんの『流星槍』。魔法職二人による攻撃魔法の連打すら防ぎ――というより、どうにかHPを残して――接敵できた連中に対し、最初に子猫の弾幕が止み。


 しかし、それとほぼ同時に「行きますよ、おチビ!」という掛け声とともに駆け出すイチ。あらためて志保ちゃんに『敏捷』が上昇する『ブーステッド・ウィンド』を、ローズに『プロテクション』と『エンチャント・フレア』に掛けてもらって、美晴ちゃんともども、一直線に近寄ってくる敵を大きく迂回するように左右に走っていき。


「『フレア・ウォール』!!」


「『ウィンド・ウォール』!!」


 ローズに志保ちゃんの二人による炎と風の壁が、駆け寄ってくる敵の正面に発生。


 これに、背後から追い立てられるようにして駆けて来た盾役タンク二人がまともに突っ込み。後続も、これまでの『ブレイクアップ』による投槍の雨を警戒してか、魔法の壁にまっすぐに突撃していくことしか出来ず、これまたダメージを負って。


 混乱し、絶叫をあげる彼らの横っ面に「『紫電槍』か・ら・の、『螺旋槍』! 『螺旋槍』!」桃色の長髪を靡かせた犬耳少女が特攻。と、同時に嘉穂ちゃんは『流星槍』のチャージに入り。ようやく投槍が止んだと安心した相手に、魔法職二人の魔法攻撃が降りかかり。


「く、くそがぁぁぁああ!!」


「舐めるなよ、エンジョイ勢が! こっちはガチの『攻略組』じゃぁぁあああ!!」


 それでもなお、持ち前のステータスと装備の差で決定打とならず。いくら美晴ちゃんが小学生女児としては優れた身体能力を有するプレイヤーでも、さすがに『最前線』で戦い続けているのだろう彼らを相手には不意打ちによる1発ないし2発程度を当てるのが精いっぱいのようで。


 こちらの魔法攻撃にしたって盾役タンク二人の『ワイドガード』が機能し始めれば簡単に防がれ。相手の遠距離攻撃こそ、儂の『ワイドガード』が完全に防げているにしても、突破されるのは時間の問題――と、おそらくは相手側の誰もが思いだしただろうタイミングで、




 また、『ケムリ玉』の投下。




 そして、


「おチビ!」


「うん! あとお願い!」


 乱戦になりかけたタイミングで。元来、儂らも含めて誰もが視界を閉ざされ、攻撃の手を一時的に止めざるを得ない状況にあって――水無瀬みなせ はじめは、その真価を遺憾なく発揮する。


「な、なんだ!? ど、どうして煙幕のなかで攻撃できる!?」


「『現代の座頭市』だ! 畜生、こいつ元から目が視えないから……!!」


 混乱が混乱を呼び。絶叫と悲鳴が戦場に木霊するなか、「あは! あははははは!」という実に機嫌の良さそうな志保ちゃんの笑い声が『パーティチャット』越しに響き渡る。


「ざまぁ! ねぇねぇ、今どんな気持ち? どんな気持ち!?」


「おーい、志保ちゃ~ん? 今、『パーティチャット』中だから。聞こえないから!」


「すみません、援護をお願いできますか? ……遺憾ながら、固すぎて削り切れそうにないんですが?」


「はいはい、皆さん。まだ戦闘中ですから。緊張感持ちましょうね」


 ……うぅむ。相手側との温度差がこうまで広がると、あんな連中でも可愛そうに思えてくるから不思議じゃのぅ。


「とりあえず、儂が突っ込もうかの」


 内心でため息を一つ。『煙幕』が晴れんことには乱戦中のイチへの誤射が怖くて遠距離攻撃が出来んからの。ちょうど『ダークネス』と『ウォーター・プリズン』も切れたことじゃし、視覚情報に頼らずに戦闘ができる儂が向かって殲滅するのじゃ一番良かろう、と。


 そう思っての儂の提案に対し、「あ、でしたら敵側の中心で『ダークネス』をお願いします」と、さらなる『目隠し』案を追加する志保ちゃん。まぁ、たしかに【暗視】をセットしておらんだろう連中に対して、それは有効じゃろうが……いい加減、相手の心が折れんかのぅ?


 とにかく。魔法職二人に『エンチャント・アクア』と『プロテクション』をもらい。自身でも『ブーステッド・ライト』を掛けなおしたうえで駆け出し。視界を遮られたなかでイチに引っ掻き回され、怒号や悲鳴が止まない戦場に足を踏み入れて。


「『ダークネス』、と。ふむ。弱者を嬲る趣味は無いでな、とっとと終わらせてやろう」


 範囲知覚で『視て』まわしたところ、どうやら比較的『柔らかそうだった奴』はイチが斬り捨ててしまっており。『堅そうな外観の連中』に至っては、数回斬りつけたところで殺しきれないと判断したのじゃろう、『ケムリ玉』と暗闇の中にあって悉く転ばされ、右も左もわからず泣きわめいていると言う……。


 さきの連中の言動を思えば、同情するに値せぬ者たちなんじゃが……まぁ、後がつかえているでな。さっさと介錯してやろう、と。ろくに抵抗できん相手に『水』の属性を宿した大鎌を何度か振るってHPを消し飛ばし。次を、と向かうまえにイチによって煙幕の向こうに蹴り転がされた最後の盾役タンクが嘉穂ちゃんと美晴ちゃんの二人による『流星槍』の連撃で爆散。


 そして、


「ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな!! お、おおお、お前らみたいな寄せ集めの! 雑魚の! ただのエンジョイ勢が、僕たち『攻略組』に!! 『最強』のガチ勢である僕らが負けるわけないだろッ!?」


 そう喚き、騒ぐ、最後まで残った少年騎士には悪いがな。おまえさん、じつは志保ちゃんに「代表あれ、あっちの弱点だからなるべく最後まで残して」と言われててな。むしろ、周りの一流じゃったろうプレイヤーを警戒しているからこそ『口だけが達者で、腕は大したことなさそう』と言われとる甲冑少年は『なるべく狙わないよう』にしていたわけじゃが、


「ぼ、僕は! 僕たちは毎日16時間もログインしているんだぞ!? それが、なんで!? 僕ら廃人組が、お前たちみたいな『お遊び気分』のガキどもに――」


 ここで『パーティチャット』から抜け、「なに、簡単な理屈じゃよ」と。わざわざ彼に聞こえるようにしてから言葉をかけ、装備を『特殊武装:斧槌』に変更。『グランド・バースト』を使いながら地面に振り下ろし、衝撃波でもって『ケムリ玉』による煙幕だけは晴らしてから「ほれ、【暗視】をセットすれば見えるじゃろ?」と声をかけ。


 果たして、ようやく。『決闘』が始まってから初めて、儂と少年騎士は視線を合わせることになる。


「おまえさんは自分のためにゲームをやっており。儂らは誰かと『遊ぶ』ために、本気でAFOを愉しむためにやっとった」


 ゆえに、おまえたちが馬鹿にするダイチくんたちと協力して嘉穂ちゃんを救うことが出来て。


 ゆえに、そんな彼らへの恩返しとして儂は、このイベント期間中、レベル上げを頑張った。


 その結果として、儂や嘉穂ちゃんの攻撃力をまえに自称『最強のクラン』の精鋭たちは成すすべなく蹴散らされ、負ける。


「わかるか、小僧。ゲームというものはな、『みんなで楽しむもの』こそが『最強』なんじゃよ」


 つまりは楽しんだもの勝ち、というわけじゃ。と、ニヤリと笑って告げるのを最後に、「立てよ、小僧」という声から表情に雰囲気までの一切合切から温もりを消し去り、


今日こんにちまで、よくもいろいろと『小細工』を弄してくれたもんじゃな」


 ――我らが敬服する情報通の少女に曰く。眼前の小童こわっぱがこれまで幾人ものプレイヤーをかどわかして己が浅ましき望みのために数多の人間を苦しめてきた、と。


 その手法も、小僧が成したかった望みも興味ない。


 加えて言うなら、『頂点』を目指し。『誰よりも先に』と持ちえるチカラのすべてでもって手を伸ばす様を、儂は否定はせん。


 強くなりたい、と頑張っていた少女たちを知っている。


 強くありたい、と頑張ってきた青年を知っている。


 ゆえに、儂は『努力』を否定しない。


 ゆえに、儂は『研鑽』を肯定する。


 だから――


「もう一度告げようか、小僧。おまえが『誰よりも上に立つ』――そちらの言葉で言えば『最強』じゃったか? ……なんであれ、そんなもののために」


 ――よくも儂の『友人とも』を傷つけてくれたな、と。眉間の皺を濃くして告げる。


「儂が許せぬは、その一点のみ。他者を害し、虚偽を弄して至った『最強いただき』など所詮は砂上の楼閣じゃと教えてくれるわ、小童こわっぱ!!」


 果たして、そんな儂の気迫ことばに――


「は、はぁ……? いきなり、何を言うかと思えば――おまえみたいな死にぞこないの! 大して学も無いメスガキ風情が! 事実、この世界最強となった僕に! 適当な推測ざれごとでケチでも付けようって言うのか、『チーター』ぁぁああああッ!!」


 張りぼてできた王冠を被った、矮小なる騎士もどきは立ち上がり。剣を振るって、


水無瀬みなせ 美晴みはる。貴女も水無瀬家の末姫まっきなら、よく見ておきなさい」


 あれが『自称ニセモノ』と『他称ホンモノ』のたたかいです、と。儂らの立ち合いを水無瀬 はじめはそう称し、


「……うん。やっぱり、ミナセちゃんはすごいな」


 カホもいつかは。なんて、鍵原かぎはら 嘉穂かほは瞳を輝かせて儂の背を見つめ、


「ローズは知ってる――って言うか、見たことがあるんじゃない? あっちの『最強』とか大真面目に言っちゃってるイタイ奴と主人公くんの戦ってるのを」


 なにせ、主人公くんが『主人公』なんて呼ばれ始めたゲームの決勝戦の相手らしいし。と、情報通の鍵原 志保しほは楽しそうな雰囲気を纏った無表情で告げ、


「え? ……そ、それって、まさか『あのとき』の!?」


 でも、その割には……弱い? と、河豚ふぐ・A・ローゼンクロイツは怪訝顔で首を傾げ、


「えっと……たしか、お相手さんはダイチおにーさんに負けた腹いせでいろいろしてたんでしょ?」


 もしかしなくても、『反面教師』にでもしろと? と、水無瀬 美晴は呆れ顔で笑って、


「――さて。ここまで『踊れば』、煙幕続きで見え難かったろう演目にも『辛うじて』観客の見どころを提供できた、か?」


 なんにせよ、そろそろ終演おわりとしよう。と、水無瀬 修三しゅうぞうは嘆息交じりにこぼし、


「くそ! くそ! くそがぁぁぁぁああああ!!」


 そして、


「ではな――『ファイナル・インパクト』」


 クラン『月光ムーンライト・聖騎士団パラディーン』の代表リーダーである甲冑少年は、儂の振り下ろしたエフェクト光を輝かす斧槌――【槌術】のレベル15で使えるようになる、使えば24時間【槌術】のレベルが0になってしまう、次の一撃のみ大幅な威力の増加を齎すアーツ――『ファイナル・インパクト』によって消し飛び。


 結果、大歓声のもとに儂ら『幼精倶楽部フェアリーサークル』の快勝にて『決闘』は幕を閉じるのであった。


ちなみに、『決闘』は基本『別世界の出来事』という設定です。


なので、『1日1回だけ使える』タイプのものを『決闘』中に使っても決着後は『ノーカン』で普通に使えますし、逆に『再使用まで24時間かかる』タイプのものを使ったあとだと『決闘』中でも『設定を弄らない限り』再使用できるようになる時間が経過するまで使用できませんし、『決闘』中に経過した時間は『ノーカン』なので再使用までの時間が減ることはありません。

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