チュートリアル 従姉妹激突!
ワン子視点です
――気が付くと、道場に居た。
木の臭い。畳の感触。見たことのない天井と、見知らぬ道場にいきなり寝かされた状況に、軽くパニックになりかけて――
体が勝手に横に転がった。
そのおかげで、今まさに通り過ぎていった白刃を避けることはできたけど――って、なに!? なんでいきなり、襲われてるの!?
「……ちっ。今のを避けますか」
やりますね、と。そんなことを呟いてやがります襲撃犯――見知った従姉妹の顔を目にして、頭に一気に血が昇った。
「な、ななな、なにしてくれてやがりますでせうかーッ!?」
思わず両手を天に掲げて「うがー!」と吼えると、いつか見たAFOでの格好そのままの姿で佇む従姉妹の水無瀬 一ちゃんこと、『座頭一』の『イチちゃん』は、「ふふふ」と薄く笑って、
「こんばんは、おチビ」
そう誰もが見惚れそうな、清楚可憐な微笑を浮かべて挨拶し。衣装の一つである額当てを下げた、半分前髪で顔を隠した美少女は「とりあえず、斬りに来ました」と、まるで先ほどの不意打ちが、文字通り『挨拶代わり』だったかのように、平然と。なんかすごいこと言いやがりましたよ、この真っ白お化け……!?
「ちょっ、待っ!? い、いったい、何がどうして――っていうか、ここはどこ!?」
「『わたしは誰?』、と。……記憶喪失ごっこですか?」
違うよ!? っていうか、本当に記憶喪失じゃなかったら、わたし――もしかして拉致られた!?
……あ、でも。一ちゃん、もといイチちゃんの格好からして、ここはVR空間? ……そう言えば、視界の隅に映る髪はピンクだし、耳や尻尾の感触も。それに、格好だってAFOで最後に着てた軽装鎧だ。
「って、ことは……もしかして、『ここ』ってAFOのなか?」
あれ? わたし、VRデバイス外すの忘れた? と、首を傾げていると「いいえ」と首を左右に振って否定するイチちゃん。どことなく、わたしの動きを見極めようとしているような雰囲気のまま、
「私たちの纏う格好に身体能力や装備などはAFOのものですが、『ここ』は――っと。いわゆる、テストサーバーのようなもの、と小春叔母様は仰っていましたね」
うん。とりあえず、隙を見て斬りかかってくるのをやめようか!?
「って、そこで小春の名前が出たってことは――おかーさんもグル!? もしかしなくても、寝入ってる娘にVRデバイス装着したの、おかーさん!?」
挙句に切り裂き魔――もとい、従姉妹のイチちゃんと一対一とか、なにそれこわい。新手のDVだよ、罰ゲームだよ。ひどいよ、おかーさん!
って、ハッ! と、とりあえず、『ここ』がAFOのテストサーバーで、正規版AFOと同じ仕様なら――
「≪メニュー≫、オープン! っと、よし、出た!」
あとは『ログアウト』を――って、ない!?
「残念、おチビのログアウトする、しないの権限は私にあります」
な、なんだってーッ!?
うわーん! それはない。それはないよ、おかーさん……。なんでよりによって、イチちゃんの方に私の生殺与奪の権利を与えちゃってるの……。と、思わず両手両膝を地に着け、項垂れていると「ふふふ」なんて薄く笑って、イチちゃん。
「ちなみに、おチビ。貴女、最後にお手洗いに行ったのは何時ですか?」
? いきなり、なにを訊いてくるのかな、このセクハラ白髪鬼は。そんなの答えるわけ――
「って、まさか!? わ、わたしに、この十二歳になって『お漏らし』をさせようと、こんな大それたことを……!?」
な、なんてこった! そう言えば、最後にお手洗いに行ったのは――まだ学校に居たとき!? や、やばいよ、今何時!? あ、あれから何時間経ってるの……!?
「こ、このー! い、従姉妹だって、やって良いことと悪いことがあるんだよ!! ……とりあえず、一度ログアウトさせてください、お願いします」
…………うん。女には、たとえどれだけ理不尽な相手にだって土下座してでも叶えたい願いってあると思います。
さ、さすがに『おねしょ』はマズイ。し、しかも、この状況からしてイチちゃんはおろか、家族全員にわたしの『お漏らし』がバレる。……うん、本当にそうなったら最悪だよ~。わたし、もうお部屋から出れなくなっちゃうよ~。
「ふふふ。従姉妹の貴女にそうまで願われては、仕方ありません。私も鬼ではありませ――ああ、今は鬼でした! と、いうことで……残念。貴女はログアウトできません」
ちょおッ!? なにそれ、ひどい!?
「――と、冗談はここまでにしましょう。というより……おチビ。貴女、どうして私が『ここ』に小春叔母様を巻き込んだうえで貴女と二人きりになったのか……薄々は察しているのでしょう?」
そう、これまでのおふざけ半分の雰囲気を霧散させ、剣呑な気配を纏って告げるイチちゃんに、「……まぁねー」と、しぶしぶ頷き。わたしもあらためて真剣な表情でもって従姉妹と対峙する。
「このタイミングで、よりにもよってイチちゃんと、だもん」
そりゃあ、わかるよ、と。そうため息交じりに告げ、「……どうせ、おじーちゃんのため、でしょう?」と。視線を逸らし、わずかに頬を膨らませて言えば、「当然です」と肯定が返ってきて。……まぁ、相手はおじーちゃん大好きっ子の一ちゃんだしね。そりゃあ、私の『黒い考え』を咎めにくるよ。
……おかーさんだって、けっきょく『私より、おじーちゃんが大事なんだ』と。そう思ったら、また胸の奥がチクりと痛んだけど……それだって仕方ないよね。
だって、おじーちゃんは水無瀬家の前当主で。みんなが『すごい』って思う、本当に『すごい人』なんだから……。
だから、わたしなんて――って、危ない!?
「ちょっ、な……!? だ、だから、いきなり斬りかからるのは、やめ――」
「シホさんに相談されました」
と、その名前。彼女に言ってしまった言葉を思い出して、体が硬直する。
そして、イチちゃんがどうして私のところに来たのかをあらためて察して、『ああ、従姉妹はわたしと志保ちゃんを仲直りさせてくれようとして』と。そんな不器用――という言葉だけで表現するには、あまりにもひどいけど――な優しさに、ほのかに胸を温かくしていると、
「ずばり、おチビ。あの無表情長耳少女を私にください」
なんかすごいこと言い出した!?
「あの子はとても便利です。現実世界のことは知らないので――というより、興味もありませんので、この際、目をつぶりまして。彼女の適格な情報分析と収集力は大したものです」
見てください、と。そう言って可視化したウィンドウに映っているのは、イチちゃんの≪ステータス≫なんだろうけど――って、え!? な、なんで、こんなにレベルが高いの!?
「ふふふ。貴女が『逃げ出した』あとで、彼女には貴女と仲直りするにはどうすれば良いのかを訊かれましたが――まぁ、私にとっては別に『どうでもいいこと』なので適当にあしらいまして。私のレベル上げのために『便利に使わせて』いただきました」
そう言う意味ではありがとうございます、と。そう言って微笑む従姉妹を『信じられない』という思いで見つめ。あらためて、彼女が見せて寄越した、普通に考えて『たった数時間』では達することのできないレベルを表示する≪ステータス≫を見やり、『……ああ、本当に志保ちゃんとレベル上げしたんだ』と。そう思ったら、今度はさっきよりずっと胸が痛くなって――
「もっとも、あのエルフ少女は何度も何度も『みはるん、助けて』とこぼして。最後には、泣いてしまいましたが」
まぁ、知ったことではありませんよね、と。そこまで聞いて、知らずに俯けていた顔を勢いよく上げ、イチちゃんを見た。
「な、なんで……。は、一ちゃん……、志保ちゃんを――」
「ええ。ですから、便利に使わせていただきました、と。そう言ったじゃないですか」
ふふふ、と。薄く笑う従姉妹をまえに――はじめて、怒りの感情が沸いてきた。
「は、一ちゃんは本当に……! 志保ちゃんを泣かせたの……!?」
そんな怒鳴るように問うわたしに「はい」と。まるで『だからどうした』とでも言うように軽く、眼前の白髪の鬼少女は微笑みすら浮かべて頷き。
「だって、貴女はもう『あれ』は要らないのでしょう? 『大嫌い』なのでしょう? ――それなら、私が『使います』」
たとえ、何度泣こうと気にせず。何を喚こうと無視して。
『あれ』はとても便利なので、私が使います。そうして使い潰しましょう、と。そう言って笑う従姉妹をまえに、もう我慢の限界!
「志保ちゃんを――わたしの親友を、なんだと思ってるの!?」
「それはもちろん、とても使える『使用人』か、あるいは『アシスタント』や『サポーター』のような存在なのでしょう? 貴女にとっても『あれ』は」
違う!! と、そう叫んで。気付いたら手にしていた2本の短槍を構えて、従姉妹の微笑を睨んでいた。
「志保ちゃんはわたしの友だち! はじめて学校でできた親友なの!!」
それを『使う』? どころか、何度も泣かせた? ……それを聞いて、わたしが何も思わないと――怒らないと思ったの!?
「わたしの親友を傷つけるのなら、たとえ一ちゃんでも――」
「先に、彼女を傷つけ、拒絶し、『大嫌い』と告げて泣かせた貴女が。同じように『あれ』を泣かせる私の何を否定すると言うのです?」
果たして、わたしの怒気に対しても悠然と微笑み続ける一ちゃんに――イチちゃんに、「それでも!」と怒鳴って。
「志保ちゃんは! それでも、わたしの親友だもん! 大好きなんだもん!」
だから! あの子を泣かせるのなら、許さないもん! たとえ、イチちゃんが相手でも、ぜったい許さないんだから!! と、そう叫ぶように、言葉を叩きつけるように告げれば、「面白い」と彼女は笑って。
「でしたら、かかって来なさい。『あれ』を使う権利を賭けて、私と勝負を――」
「『あれ』とか『使う』とか、そういう言い方が頭にくるんだよ、この真っ白お化け!!」
叫び。駆け出し。接敵するや、右の短槍を突き出し。
対して、イチちゃんは微笑んだまま右手を動かし。霞むような速度で腰の『居合刀』を振り抜き、わたしの『突き』を弾いて。瞬く間に鞘へと刀身を戻し。再度の振り抜きによる神速の横薙ぎを、今度はわたし自身を狙って放ってくるので――左の短槍で防ぎ。
それで姿勢を崩された。そのことに気づき、目を剥く間に。三度目の振り抜きが迫り。……辛うじて、避けられたけど、完全に地面に転がっちゃった! マズい、次の攻撃は――
「――『一番槍』!!」
考えるまえに叫び。AFOでは発動する、【槍術】のレベル3になると使えるようになる『自身と仲間の中で最初のダメージを与えるまで敏捷値を上げる』効果の、再使用まで24時間かかるアーツが起動。わたしの体感速度をわずかに引き上げ、本来であれば躱せないような態勢での回避を可能にして。
そのまま転がり。起き上がって。追撃するように歩み寄ってきたイチちゃんから、いったん距離を置く。
「……あら? まさか、逃げるつもりじゃ――」
「もちろん、違うよ!!」
駆け出し。間合いとタイミングを計って接敵。
槍を突き出し。迎撃のために振るわれた一刀を――槍に当てられるまえに、バックダッシュ! これまでにない大袈裟な動作でもって避けるわたしに「……あら?」と、不思議そうな顔になるイチちゃんは……やっぱり、AFOに詳しくない!
だって今の、わたしの敏捷値を一時的に上げてくれてる『一番槍』は、効果時間の3分の経過か『攻撃が当たったら効果を失う』んだもん。それこそ、イチちゃんの攻撃を防ぐだけでも『武装にダメージを与えた』ことによって『一番槍』の敏捷値上昇効果が無くなっちゃう。それじゃ、勝てない!
だから、避ける。避ける。避ける。
それでもって、『ここぞ』ってときに1発だけ当てる。それも、これまで1回も勝てたことのない従姉妹に勝つために! 必勝必殺の一撃を、当ててみせる!!
でも――
「……ふふふ。どうやら、いきなり早くなった『絡繰り』は、さっきのアーツの効果なんでしょうね。そして、それは――接触で効果を失う、と」
そう何度目かの攻防で看破してみせるのは、さすがはU-14最強女子といったところか。それともわたしがあからさま過ぎたのかはわかんないけど――でも、ここまでは想定内だよ!
「……『流星槍』」
果たして、イチちゃんの言葉に大きく後退して新たなアーツの起動を告げるわたしに、彼女は距離を詰めるのをやめ。次のアーツの効果を見定めようとしてるけど――それは間違い。
だって、この『流星槍』は『発動してから投げるまでの時間に比例して速度と威力を上げるアーツ』だから。それこそ、AFOのアーツに詳しいプレイヤーなら『光が収束していく』タイプのアーツの起動をまえに、足を止めない。見極めようって考えるまえに『チャージを止めに』行く。
でも、イチちゃんはそうしない。わたしたち『幼精倶楽部』のなかで唯一、『亡霊猫』戦の経験が無いから、『流星槍』の脅威を知らない。
だから、
「確認だよ、イチちゃん。もし、わたしが勝ったら――わたしの言うことなんでも1つ、聞いてもらうよ!」
こんなあからさまな時間稼ぎにも、彼女は余裕の表情でもって応える。
「ふふふ。まさか、貴女がこの私に勝てるとでも? ……ふふふふ。思い上がりもそこまでいけば『面白い』です。いいですよ、貴女がもし私に勝てましたら、それこそ1つと言わずに、幾つでも言うことを聞いて――」
さしあげましょう、と。そう自信満々の様子で返すのを最後まで待たずに。「約束したよ」と小声で告げながら、エフェクト光を煌かせる短槍を――投げ放つ!
「――――ッ!?」
奔る閃光。それは狙い違わず額当てを眼帯のように巻いた少女へと疾駆り――驚くべきことに、それをイチちゃんは迎撃。たしかに神速で振るった彼女の一刀は、わたしが投擲した短槍に当たり、
砕け散った。
イチちゃんが、大好きなおじーちゃんにAFOで最初に貰った『居合刀』が。
それで、どうにか一撃でHP全損という『即死』こそ免れたものの――や、ヤバい! どうしよう、倒れたイチちゃんからすごいプレッシャーががが!!
「……ふふ。ふふふふふふふ。さすが、世迷言とは言え、この私を相手に『勝ったら言うことを聞け』などと吼えられたものです」
そう寝転んだままに告げる従姉妹は――だめだ、完全にブチギレてらっしゃる!?
それこそ、今までのが『お遊び』だったいうのがよくわかる、空気を凍らせるような雰囲気が道場――を模してデザインされたのだろう、電子仮想空間すべてを覆い尽くし。ゆらり、と少女が起き上がって、おそらくは先の攻撃のせいでだろう、額当てを失くして見えるようになった彼女の真っ赤な瞳をまえに「ひぃ……!」と、思わず小さな悲鳴がもれた。
「あらあら、どうしました? お耳をペタンと伏せ、尻尾を丸めて。ほら、また吼えてみてくださいよ。弱い犬なら弱い犬らしく、最後まで哭いて私を楽しませてくださいませんと――」
首をねじ切ってしまいますよ、と。その言葉を聞いたときには、目の前に鬼の――従姉妹である少女の瞳が迫っていて。
一瞬にして間を詰められたのだ、と。そう頭が理解するまえに、なにをどうやったのか、天地がひっくり返り。わたしは彼女に投げ飛ばされていた。
「ぎゃふん……!」
「ふふふ。本当に、『ぎゃふん』という台詞が聞けるとは……貴女は私を楽しませる天才ですね、おチビ」
コロコロと。鈴を転がすように上品そうに笑ってるけど――目がマジだ! この従姉妹、本気でわたしの首を獲りに来てる!?
「まっ、待って! 参った! 降参! わ、わたしの負けだから、許してよイチちゃん!」
ほら、あれだよ。『ここ』ってAFOのなかじゃないんだし、本当に武装が壊れるってことはないんじゃない? き、きっと、AFOに戻れば、おじーちゃんにもらった武器や防具は無事だよ! そ、そうじゃくても、その武装を造った人たちのお店は知ってるから! 今度、案内するから、許して!
などと土下座して、必死に謝り倒すわたしにイチちゃんは、
「…………ふぅ。まぁ、そうですね。こんな『お遊び』で本気になる方が淑女として、師父様の愛弟子として、相応しくないですしね」
「って、ぎゃーッ!! い、言ってることとやってることが違ッ!? ……っていうか、攻撃力のショボい『練習用武器:剣』で、なんでここまでの攻撃力をーッ!?」
かくして、そこから数十分ほど、半ば命懸けの『鬼ごっこ』をするはめになりつつも、どうにか頭が『ちょっとアレ』な従姉妹の怒りを鎮めることには成功し。ぜーはー、ぜーはー、荒い息を吐きつつも畳の床に大の字になって寝転んでられる程度には、イチちゃんによる理不尽極まる折檻地獄は終わりを告げたようで。
……お、おかしいな。なんで、わたし、こんな目にあってるんだろう?
嗚呼、涙が。涙が出ちゃうよ、おかーさん。……っていうか、おかーさんも元凶の一人だったよ。イチちゃんなんかにわたしのログアウトの是非を預けちゃった酷い保護者さまだよ、うわーん!
「……ふぅ。これに懲りたら、親友に『大嫌い』などと言ってはいけませんよ? 大切な人を傷つけ、泣かせるのはダメですからね?」
「うわーん! 言ってることは正しいのに、やってることが間違いだらけな従姉妹が理不尽すぎるー……!!」
さも、『悪い子になった従姉妹を正す良い子』のように振る舞ってるけど――あなたが正しかったことが『ここ』に来て一度だってあっただろうか!? イチちゃんの言動から、こんなところに閉じ込められてる現状まで、間違いだらけだよ!
……ああ、もう。そんな滅茶苦茶な従姉妹に、なんで志保ちゃんは相談なんて――って、それも元を正せばわたしのせいだね。だから、きっと『罰が当たった』ってやつなんだ。……そうだと思わなきゃ、耐えられない。っていうか、こうしてる間にもわたしの『お漏らし』の危険があるんだった!
もう、なんでも良いから、いったんログアウトさせてもらわないと――
「まったく。そんな貴女に、私がなぜ師父様をこうまで慕っているのかを――お爺さまとの出逢いを、語って聞かせてあげましょう」
って、ここからまさかの『思い出話』!?
「ま、待ってよ、一ちゃん! いや、おじーちゃんとのことを聞きたくないとかじゃなくって――さきにログアウト休憩をさせてください」
お願いします。もう、現実世界でのことが気になってお話に集中できる気がしません!! と、もう何度目かの土下座かわからないけど、再び畳に額を押し付けて頼めば、「……仕方ありませんね」と。ようやく――いやもう、本っ当~に、ようやく! 従姉妹にもわたしの切なる願いが届いたようで、
「……はい。貴女の≪メニュー≫からでも『ログアウト』の項目を選べるようにしましたので。続きはAFOのなかでお話しますので、逃げずに来てくださいね?」
そこにシホさんも居ますから、と。そう告げられて、『ああ、やっぱりこの従姉妹はわたしたちの仲直りのためにこんなことを』と、もろもろの事情というか経緯をあらためて思いだし。
果たして、ログアウトするや、トイレへと駆けこむことになり。……あ、危なかった。っていうか、あの従姉妹ってば本気でわたしを『お漏らし』するような子に……!? と戦慄するとともに、あらためて『もう二度と従姉妹の世話になるようなことはすまい』と、固く誓うのでした。