チュートリアル 白鬼少女のAFOライフ その3
『 孤高の座頭一 / 戦士見習いLv.17
種族:鬼人Lv.7
職種:戦士Lv.10
性別:女
基礎ステータス補正(残りSP1)
筋力:0
器用:10
敏捷:5
魔力:0
丈夫:0
装備:デスティニー作新選組衣装セット、デスティニー作居合刀+2、見習い冒険者ポーチ
スキル設定(3/4)
【剣術Lv.11】【暗視Lv.5】【察知Lv.7】
控えスキル
【交渉術Lv.1】【聞き耳Lv.5】【忍び足Lv.3】【潜伏Lv.1】【罠Lv.3】
【鍛冶Lv.3】【採取Lv.4】【調薬Lv.3】【鑑定Lv.3】
称号
【時の星霊に愛されし者】【七色の輝きを宿す者】 』
眼前に≪ステータス≫を浮かべ、それを暗闇で眺めながらニマニマと笑う。ふふふ、ついに来ました。念願の〈戦士〉のレベル10越えです! ようやく設定できる【スキル】が3つから4つに増えましたよ、ふふふふ。
時刻は、現実世界の17時近くですか。……ふふ、これなら夕ご飯のまえに種族の方の――素体レベル、ですか? そっちのレベルも10を越えそうですね。そうなれば、また1つ設定できる【スキル】の数が増えます。楽しみです。
まぁ、まずはレベルアップで手に入りましたSPを……考えるのが面倒なので、とりあえず『敏捷』で良いですかね? あと増えた『スキル設定』の枠には――と。私のプライベート用の外部端末にメッセージを受信?
……誰でしょう。こちらの端末のアドレスは基本、お父様にしかお教えしていませんが……知らない相手からのメッセージですね。いちおう、質の悪いウィルスなども警戒しまして――って、これって師父様からのメッセージ!?
え、え、え!? と、とりあえず、最寄りの『広場』にダッシュで――って、邪魔です! 今は急いでいるのです、お相手はあとでしますから、退きなさい骸骨ども!
っと、広場に着きましたので、ログアウトしまして。からの、VRデバイス越しですが情報端末を操作しまして、返信を、と。
『とりあえず、あのおチビを斬りに行けば良いんでしょうか?』
『斬るな』
……残念です。斬ってはダメでした。
なにはともあれ、詳しい経緯を伺いましたところ、あのおチビとシホさんが喧嘩したとかなんとか。……正直、どうでもいいですね。私、基本的にあの子と違ってそこまで親しい方とかいませんし。喧嘩などといった低俗なことを誰かとした経験などもございません。
しかしながら、せっかくこうして師父様からご相談をお受けしたわけですし。『わかりません』と返すわけにもいきませんでしたので、
『今からAFOにログインしますので、お手数ですが私の居るダンジョンまで志保さんに来るようお伝えください。二人きりで直接話します』
まぁ、こう返信しておけば問題ないでしょう。
あとは、AFOにログインし直しまして――と、シホさんからメッセージですか? ……せっかちですね。まさか待ちきれずにメッセージで相談を、ということでしょうか?
えっと、これはAFOの『フレンド』登録者に出せるというタイプのメッセージですが、内容は――
『ミナセさんには、イチさんが昨晩の集会後、そのまま広場でログアウトしたきり、とお伝えしましたので。できましたら、「アーテー南の迷宮」内で待っていていただけますと助かります』
――……最初は何を仰っているのかわかりませんでしたが、なるほど。さすがです、シホさん。
貴女の咄嗟の機転で、私がじつは本日より学院を自主休講してまで特訓していることがバレずにすみました。こうなっては、彼女からの相談に対して、軽はずみな言動で返すわけにはいきませんね。……ええ、さっきまでは『私がちょっとおチビを斬りに行けば解決でしょう』とか思っていましたが、ここはしっかりと経過をお聞きしまして、熟考に熟考を重ねたうえで、
「――わかりました。今からおチビを斬りに行ってきますね?」
「ダメです。っていうか、なんでそうなっちゃうんですか!?」
おや? 間違えましたか?
ちなみに会話する場所は、いったん『緊急回避』を使用してまで戻りました『アーテー南の迷宮』内の、転移結晶に触れてすぐに行ける広場です。そこで、あらためて詳しい経緯と言いますか、彼女が覚えている限りでのおチビとの遣り取りを伺いますに、
「やっぱり、斬りに行きましょう」
結論は、変わりません。……はい、そこの長耳少女。「駄目だ、この人。早くなんとかしないと……」って呟きながら頭を抱えないでください。失礼ですよ。
「……まったく。そもそも、貴女は勘違いをしています」
ため息を一つ。私がどうしておチビを斬りに行こうと思ったのかを、仕方なく論理だてて説明することにします。
「正直、私にはおチビと違って『友人』はいませんし、お作りしたことも無ければ喧嘩などといった経験もありませんが――」
「あ、間違えた。これ、相談相手間違えたんだ」
はい、そこ。黙って聞いてなさい。斬りますよ?
「――おチビが今回、なにを怒ったのかは察せられます」
ずばり、貴女が――友人が、師父様を褒めすぎたのが原因です、と。そう告げれば、シホさんはその言葉がよっぽど予想外だったのか目を丸くしていますが……貴女ほど聡明な人なら普通にわかりそうなものなんですけどね。
これが友人補正ですか。……度し難いですね、と内心でため息をまた一つ。「いいですか」と断ったうえで、
「あの子は、どうも師父様に『嫉妬』しているようでした」
まったくの分不相応。それでいて、おそらく水無瀬家の誰もが一度は考えてしまう『勘違い』を、あのおチビは抱いているように私には『視えて』いました、と。そう告げれば、「……ぇ」と絶句するエルフ少女。
「し、嫉妬? それに……か、『勘違い』ですか?」
ええ、そうです。『勘違い』です。
「言い方はあれですが……どうにも水無瀬家の人間は、えてして偉大にして誰よりも貴いお爺さまを疎む傾向がありまして。『自分にもできる』と、『どうして、お爺さまだけが尊敬されるのか』といった『嫉妬』からくる『自分を認めてほしい』という感情と、『自分の方が優れている』といった『勘違い』が発生するようなんです」
貴女も双子なら、覚えがありませんか? 『自分だけを見て欲しい』、『自分の方が優れているのに、どうして姉ばかりが』と思ったことはありませんか、と。そう問えば、それは効果覿面だったようで。……いささか予想以上の衝撃を与えてしまったのか、まさか人が膝から崩れ落ちるさまを目の当たりにする日が来ようとは思いませんでした。
「そ、そんな……! わ、私は……。で、でも、それの何が『勘違い』――」
「お爺さまは、お爺さまです。かの方に『認められたい』と思うのでしたら健全でしょうが――水無瀬 修三の何かに勝てたところで、それがなんだと言うのでしょう?」
馬鹿馬鹿しい、と。そう切り捨て、「勝負を挑むべき相手を、間違えているのです」とため息交じりに告げる。
「師父様の何が偉大と言って、それはVR世界における技術力ですか? それとも脳医学などの学力? 数多の特許? 資産? もし、それらに対して嫉妬しているのなら――くだらない」
ええ、本当に。切り捨てる価値すらないほど、くだらない。
そんなものは、あの方の表面だけを見ている証拠。それだけしか見られず、なにを勘違いしているのか、と私は声を大にして言ってやりたいです、と。そう範囲知覚に金髪碧眼の長耳少女を捉え、あらためて告げます。
「あの方は――水無瀬 修三という『お爺さま』は、誰より家族を大切に想って下さる方です」
それゆえの偉業。
それゆえに水無瀬家が全世界に誇れる偉人。
「お爺さまは、身内には『甘い』です。一度、味方と思われた方には余人からすれば有り得ないと思われるほどの過保護ささえお見せになります」
貴女も、そんなお爺さまに救われたのでしょう? そんな方だからこそ、お爺さまは他者に僻まれるまでにAFOという世界でも有名となりつつあるのではないですか、と。そう問いかければ、シホさんはようやく頷いてくれまして。
しかし、「で、ですが……。それで『勘違い』と言うのは」と、まだ本質を理解していないのか、首を傾げて問うのに対し。あるいは、これは水無瀬家の人間固有の症状なのか、と疑問符が脳裏を過りつつも、
「はい。ですから、私は『なぜ、味方であるお爺さまを敵視するのか』が、わからないのです。どうして『お爺さまに勝とうとするのか』、なぜ『勝てれば認められる』と勘違いするのかが理解できない」
もう一度言いますが、お爺さまはお爺さまです。
「仮に、かの方に何かで勝てたとしましょう。それに対して、お爺さまが何と応えるか、貴女でもお分かりになるでしょう? ……きっと、お爺さまは褒めてくださるでしょう。喜んでくださるでしょう。そして――逆に言えば、それだけです」
なぜなら、お爺さまにとって身内は敵ではないから。勝負を挑んだところで、あの方は最初から『負けても良い』と思っているのです。最初から、勝負じたいに執着などしていないのです、と語り。
「お爺さまに勝った、と自慢されたところで『だからどうした』と私は返します。お爺さまより優れている、と言われたところで、鼻で笑います。……だって、私はあの方が誰より身内に優しい方だからこそ――」
あの日、助けていただけたのですから、と。それは心のなかでだけ続けて。
「――私は師父様を尊敬し、敬愛し、崇拝しているのです」
お爺さまがお爺さまだからこそ、誰からも尊敬されているのです。あの方が誰よりも身内を――家族のために頑張ってきたからこそ、今日の水無瀬家の栄誉はあるんです、と。シホさんに語り。
そのうえで、一転、ため息を一つ。『嘆かわしい』という思いをそのまま前面に出して、
「だと言うのに、愚かしくも勘違いする輩の多いことったらありません。今さら、師父様に勝てたとして、だから何だと言うのでしょう。それで水無瀬 修三という誰より優しい御方の偉業の――今の水無瀬家を御作りになった方の努力の何を否定することができましょう」
誰かに認めてほしい。
だから、誰も彼もが認めるお爺さまに挑む。敵対する。
それが、どれだけ馬鹿馬鹿しい振る舞いなのかも知らず。勝てれば、あの方より上に立てると――他者に自分の方が優れていると自慢し、認められると勘違いする。
水無瀬 修三がたくさんの身内に、著名人に、一目置かれる、その理由を知りながら――否。知ろうともせず、ただただ甘受しているだけの愚図だから視えない。視ようとすらしない。
……本当は、彼が誰より味方を大切にする人間だからなのに。その過程で、他人が偉業だと思うようなことを成してしまっただけなのに。もっとも『お爺さまがお爺さまらしい美点』――『身内に優しい』という一点を無碍にして、いったい何を勝ち誇れることがありましょう、と。そこまで語れば、ようやくシホさんも納得したようで。
「……そう、ですね。多くの人は、ミナセさんの成した偉業にこそ嫉妬して、それを僻んで。……でも、私たちは、ミナセさんの何がもっとも優れているのかを知っている。あの優しさに救われ、あれだけ身内に優しいミナセさんだからこそ惹かれているのに、そんな身内を敵視するようでは何をどうしたところで――」
「はい。私やお父様に、ほかの多くの『お爺さまがお爺さまだったからこそ救われた方』は、決して認めません」
ゆえに、勘違い。勝とうと勝負を挑むこと自体が間違い、と。私はそう切って捨てて、
「ですから――おチビは私が斬ってきます」
そう、微笑を浮かべて告げれば「ああ、なるほ――って、なんで!?」と納得しかけたあとで悲鳴混じりの疑問符が返ってきましたが……ふふふ。そんなのは決まっています。
「あのおチビは、ですから勘違いをしているんです。……ええ、本当に。お爺さまに嫉妬するばかりか、どうにもAFOでは自身の方が優れているとでも思っていたのでしょう。それゆえに、頭角を現すようになった師父様を妬み、友人である貴女の言葉が我慢できなくなって。そして、逃げだした、と」
……ふふふ。その思い上がりを、まずは師父様の愛弟子である私が叩き切ってあげます。
私程度にも負けるようで、なにを勝った気でいたのか、と。お爺さまに勝負を挑みたければ――誰かに認めて欲しいと思っているのなら、まずは泣かせた友人に謝るべきだということをしっかりと教えてあげますよ、ええ。
「と、そういうわけで。今晩あたり、小春叔母様に手伝ってもらっておチビは斬るとして――さぁ、シホさん。せっかくですから、私のレベル上げを手伝ってください」
まったく、無駄にして良い時間なんてありませんのに、と。そう零せば、「え、ええー? い、いいのかな……?」と困惑気味に視線を右往左往するシホさんですが、そこはそれ。こうして私に相談し、私が後ほど解決してさしあげようと言うのですから、その相談料代わりに手伝ってください。
「ふふふ。これで、なんとか今日中に『アーテー南の迷宮』の攻略もできそうですね」
「……え? って、よく見たらイチさんのレベルが夜見たときよりすごく上がってる!?」
え、なんで!? まさかこの人、お爺さまと遊びたいがために学校休んだ!? と、混乱しつつも本質を見抜くとは、さすがは師父様がお認めになる名軍師です。その慧眼、お見事です。
そして、そんな貴女だからこそ、期待していますよ!
「さぁ、明日にでもおチビに自慢してやりましょう。『あなたが逃げたおかげで、私はこんなにも強くなれました』と!」
「それ、友だちに言っちゃダメなやつだ!? イチさん、自分が『ぼっち』だからって友だちの多い従姉妹に嫉妬するのは――って、危ない!?」
……ちっ。さすがに動きは悪くありませんね。今の一閃を避けますか。
「ええー……。もしかしなくても、イチさんて『あれ』ですか? じつはお気楽天然気味なみはるんに輪をかけて『おバカな脳き――って、待っ!? つ、ツッコミにも殺意が高いというか、一切の躊躇なく味方の首を斬りにくる!?」
「あー、テがスベッター?」
暗かったですし、仕方ないですね、と。そう告げれば、「視覚に頼らない『盲目の一刀斎』が何か言ってる!?」と驚かれましたが……ほら、今はしっかりと師父様に言われた通りに額当てを上にして瞼を開けていますでしょう? 【暗視】のレベル上げのために。
だから、仕方ないんですよ。つい、声に反応して振るっちゃうんです。だから、あまり聞こえの悪いことを口にする場合は、お気をつけを。
「うぅ……。や、やっぱり私の親友はみはるんだけです。みはるん、カムバ~ック……!」
そう、涙目で明後日に向かって小声で叫ぶという器用なことをしているエルフ少女は、さておき。やはり、一人より二人。こうまで付与魔法とやらが便利だとは知りませんでした。
しかも、AFOでの疑問には大抵答えてくれる有能っぷりですし。私が勘に任せて動くのに対して、しっかりと「そっちは来た道です」と何度も指摘してくださるのが地味に助かります。……地図ですか? もちろん見ますよ、迷ったときや休憩のときに。
……え? 普段から見るように? ……なぜ?
「駄目だ、この人。……早くなんとかしないと」
失礼ですね。また斬りますよ?
「そもそも、イチさんはこのダンジョンが何階層あって、ボスモンスターが何レベルかをご存知ですか?」
…………ふぅ。まったく、そんなの知るわけないじゃないですか。
だって、まだ走破できていないんですよ? それに何階昇ったかなんて数えてもいませんし。そもそも、そんなことを調べなくても『斬り続けていれば良い』のですから、無駄な労力を割く必要はないでしょう、と。そう『やれやれ』と肩をすくめて返せば、「……あのみはるんが今日ほど『賢かったんだ』と思った日があっただろうか」と戦慄の表情を浮かべて――は、いませんが、そんな雰囲気と声音でもって――言う無表情長耳少女。
そして、
「ココみたいな『レベル10開始ダンジョン』の最上階は20階。つまり、レベル30のボスモンスターと、その取り巻きが出るんです」
なので、私たちだけでの走破は無理です、と。そう告げるシホさんに、「まぁ、たしかに今の階ですら厳しいですしね」と頷き。
「ですが――やってみなければわからない、というやつです。……大丈夫ですよ、私たちなら」
「うっわ、超良い笑顔で、良い台詞なのに――間違ってる!? それも、致命的なまでに!!」
……さて。冗談はさておき、おチビの件ですが……やはりここはシホさんにも告げた通り、小春叔母様も巻き込んでしまうのが手っ取り早いでしょうね。
まったく、あの子は。自分がいったいどれほど『重大な立ち位置』に居るのかわかっていないのですから、困ったものです。おチビがゲームをしなくなったら、下手をすると師父様だって辞めてしまうかも知れないのですよ? どころか、おチビに拒絶などされては、お爺さまは――……と、そうならないように、今晩すぐにでも動くべきでしょう。
…………はぁ。まったく、嫌になりますね。
まさか、あの子の機嫌一つで、私の何より大切で、敬愛し、尊敬する師父様の結末に直結してしまいかねないと言うのは。……これでは安易に斬ることができないではないですか!
「ふふふ……。次に会った時に言ってあげましょう。おチビのこれまでの努力など、私がすこし本気を出せば1日2日で追いつける程度だったのです、と!」
「やめたげてー!?」
とりあえず、あのおチビは泣かせます。ええ、そこに変更や慈悲などありません。
……まったく、こんなにも良い友人を泣かせて。いろんな方に心配をかけて。本当に仕方のない従姉妹です。
…………やっぱり、斬っちゃダメですかね?