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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第三章 初イベントにて全プレイヤーに栄冠を示せ!
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チュートリアル 白鬼少女のAFOライフ その2

「お父様、私、水無瀬みなせ はじめは本日をもって――学院を辞めようかと思います!」


 果たして、モーニングの席でそう当主であるお父様に告げましたら、お父様ったらよっぽど驚いたのか「……ぶふぉおおッ!?」と口に含んでいました諸々を吹き出し。咽て。言葉にこそできないご様子でしたが、どうにも『なぜ!?』とお聞きになりたいようでしたので、私は胸を張って「師父しふ様と少しでも長くゲームをご一緒するためです!」と。


 考えてもみてください。水無瀬家の直系にして現当主でもあるお父様ですらお会いし、お言葉をいただくにはそれなりの手続きが居る『あの』師父しふ様に、AFOでは気軽にお目通しが叶う――どころか、普通にお話し、その他の『お子様』たちと一緒に行動できるのです。これを逃す手がありましょうか!?


 ……じつは、昨晩も短い間ではありましたが、師父しふ様にはいろいろと教わりました。そして、やはり師父しふ様は偉大であると。かの水無瀬家の先代当主にして、今日の水無瀬家の繁栄を築いた立役者に学ぶべきことはたくさんあると、私はあらためて思い――


「もはや、学院は邪魔でしかないと! そう思ったので、本日をもって自主退学を――」


「駄目に決まっているだろうが、このじじコン娘が!!」


 と、なぜか怒られました。


 しかしながら、私の思いをお父様には切々と語りまして、どうにか最後にはAFOのイベント期間中――明日、明後日だけ『お休み』して良いという譲歩を引き出せまして。今日だけは、所属させていただいています『VR競技戦』のお歴々に『しばらくお休みを頂きます』という挨拶のためにも普通に学院に行くことになりました。


 教師陣やコーチに先輩諸氏には『水無瀬家の前当主がAFOをしている』ということを言うわけにもいきませんでしたので、「お爺さまに稽古をつけてもらいに行ってきます」とお話しましたところ、皆さまも師父しふ様の偉大さをよく知っているようで、『それなら仕方ない』という空気のもと、快く見送っていただきました。


 ……ふふふ。さすがは師父しふ様です。出来ることなら、こうして本日より『習い事』もお休みになりましたことですし、早めにお会いしたくもありますが……私は我慢ができる子です。昨晩、お約束しました本日の23時までは涙を呑んで我慢します。


 そんなわけで、学院での『ご挨拶』ほか些末事を片付けまして。帰宅するや、自室に直行。


 現在時刻は、おおよそ17時と、本来であればVR競技戦選抜用の練習メニューや授業の予復習などに時間を割かねばならないところではありますが、本日は――というより、これより数日は別です。私に出来る限りの本腰を入れてAFOに対して臨んでいこう、と。なにはともあれ、即座に専用のVRデバイスを使ってAFOにログインしましたが……これはいけないことなのでしょうか?


 ふと、そんな疑問が気泡のように浮かびます。……学生の本業たる勉学や、多くの方が優秀な成績を遺すことを望むVR戦のためのトレーニングを疎かにしてゲームに現を抜かす、と。なるほど、こうして現状を言葉にすれば、それはとても浅はかで怠惰で、どうしようもなく悪い子のように思えます。少なくとも、私がもし知人がそんなことをしていると知れば軽蔑してしまうでしょう。


 ですが、そうだと自覚してなお――今はAFOをやっていたい。


 それは、ことのほかゲームが楽しかったから――ではなく。このゲームで私は、尊敬し敬愛し崇拝しています師父しふ様に何度となくみっともない姿を見せてしまったから。せめて、その挽回をするまでは、AFOに本腰を入れざるを得ないのです。


 ……ええ、本当に。昨晩は何度、腹を切りたいと思ったことか。このままでは私は、師父しふ様に何のために会いに行ったのかわかりません。せめて、こうして同じゲームをさせていただく栄誉にあずかっているのですから、何かで役に立つ存在になりたい、と。そして可能なら、戦場では師父しふ様の隣に立って戦いたい、と。そんなふうに思ってしまいましたら、その甘美な誘惑に惑わされ、今日の授業すべてが上の空になってしまいました。……嗚呼、やはり私は未熟です。修行不足です。申し訳ございません、師父しふ様。


 と、それはさておき。本題です。では、具体的にどうやって師父しふ様の役に立つことができるのか。


 昨晩、お見せいただいたミナセさんの≪ステータス≫を思いだすに、このイベント期間中で、いくら体感時間が10倍となる施設を利用でき、急激なレベルアップをしたところで即戦力という安易かつ最も魅力的な意味での役立て方ができる、とも思えません。


 ならば、戦闘系の活躍ではなく裏方――いわゆる内助の功的な活躍を、とも思いましたが、どの生産系の〈職〉に就いたとしても一朝一夕ではレベルを上げられず。……加えて、私の選んだ『鬼人きじん』という種族は、物理戦闘に特化した種族であるのですが、それは豊富なHPとTPに筋力値からくるもので、生産活動に必須とも言える器用値に関しては全種族のなかでも最下位というお粗末っぷり……。


 それでも、私なりに足りない頭で考えました。慣れないVR情報端末デバイスを駆使してAFOの情報を集め、昨晩教わったことを思い返しながら、『いったい、自分に何ができるのか?』を考え続けました。


 その結果、わかったことは――自身の不甲斐なさと、無能っぷり。


 そして、そんな愚鈍でどうしようもない私が、それでも他人に少しぐらい誇れるものがあるとすれば――それは、師父しふ様直伝のVR戦技のみ。


 なれば、もはや迷うだけ愚か。『それしかない』というのなら、それだけでも人並みに――つまりは、あのおチビたち並には『使える』私になろう、と。そう決心した私は、イベント初日の夜だけは断腸の思いで師父しふ様たちとの合同レベル上げの機会をお断りいたしまして。


 せめて、ほかの皆さま並には動けるようになろう、と。まずは昨晩ログアウトするのに使ったダンジョンを走破することにして。ミナセさんほか、一緒に真っ暗闇の施設――ダンジョンに潜った面々から教わったいろいろなことを思いだしつつ。とりあえず、【スキル】を取得することを目指して敵を斬り捨て、レベル上げに努めることに。


 結果、一度六人で走破した『アーテー東の迷宮』という施設をなんとか攻略するころには、聞いていた【スキル】――【暗視】に【聞き耳】、【察知】、【忍び足】に【罠】や【潜伏】まで取得することに成功。慣れない仕様に戸惑いつつ、都度『スキル設定』を弄って調整し。そのあとは、戦闘時には【剣術】と【暗視】に【忍び足】を設定し。移動のときは【剣術】を【察知】にして。『範囲知覚』に違和感を覚えたら【罠】をセットしたり、といった具合でダンジョンを進み。


 見敵必殺の構えで見つけた端から骸骨を斬り。斬り。斬り。最上階まで昇ってボスモンスターと取り巻きを斬り。これでイベント期間中限定という『チュートリアル』のなかの『単独走破』を達成しまして、賞金5000Gと『二つ名』というものを手に入れました。


「……ふふふ。『孤高の座頭一ざとういち』ですか、良いですね」


 などと早速手に入った『二つ名』というものを設定しまして悦に浸ったりもしつつ、ほかの『チュートリアル』を見れば、同じ『東の迷宮』の走破でも『指定された時間内に走破』することで、さらに報酬が発生することが判明。


 果たして、慣れてきたこともり、次はその『制限時間内の走破』を狙ってみることにして、出て来てすぐではあったが、もう一度、転移結晶に触れて真っ暗闇へ。今回はなるべく戦闘を避けるようにして進み、先ほどとは比べ物にならない速度でボスモンスターを斬り捨て、なんとか2つ目の『チュートリアル』をクリア、と。……こうなってきますと、人間、欲が出るというものでして。そこに課題があるのなら、達成したくなると言いますか……とりあえず、次の『アーテー西の迷宮』の走破を狙ってみよう、と。


 そのまえに夕餉などの生理現象ほか、もろもろの些事を済ませるためにログアウト休憩を挟み。寝る準備をしたうえでログイン、と。


 まずは予定通り、最初の階層からレベル5のモンスターが出現するらしい『西の迷宮』を走破します。いざ、と。そんなふうに腰の『居合刀』に触れて、ハッとする。そうです、このAFOの武装は耐久値が尽きると壊れるんでした!


 というわけで、いったんアイギパンの冒険者ギルドまで行きまして、耐久値を回復させられる『耐久値回復薬』を買――おうとして、またも思い出します。そうでした、そうでした。たしか【鍛冶】という【スキル】で耐久値が回復させられるはずです。


 そして、〈鍛冶師〉に就くことで現在の耐久値が視れるらしいので、まずは〈鍛冶師〉に転職しまして。残っていた『スキル変換チケット』を消費して【鍛冶】を取得。ちょっと場所をギルドの裏庭に移しまして、さっそく『居合刀』の耐久値を視て――……えっと、たしかこの白い三角錐シンボルをクリックすれば、と。おお、出ました、出ました! って、危ない!? も、もう少しで師父しふ様が私のために用意してくださった大切な『居合刀』が壊れてなくなってしまうところでした!


 思い出した私、ナイスです、と。胸を撫でおろして、『修復』をするためにどうしたら良いのかをあらためて≪掲示板≫を覗き込んで唸り続けること、早1時間とすこし。どうにか『練習用武器:剣』で叩いて耐久値を回復させ。ついでに10個溜まっていた『魔石』を使って『強化』もしてみたりして。


[ただいまの行動経験値により〈鍛冶師〉のレベルが上がりました]


 ……えっと。これでたしか、『職歴』に登録されるから、あとはいつでも転職できるように〈職〉を合計で7つ――〈戦士〉、〈狩人〉、〈鍛冶師〉が登録できたので、あと4つ――レベル1以上にすれば良いので、また受付に行って転職を、と。……なんと言うか、面倒ですね、これ。


 皆さん、よくやりますねぇ、と内心で呆れつつ、二度のダンジョン走破で溜まったまま精算していなかったドロップアイテムを売って。それから、昼食や生理現象などが理由でログアウト休憩を挟みまして。あらためて『アーテー西の迷宮』へ向かうも、新しく就いた〈探索者〉は当然レベル0だったこともあり、最初の階から少しだけ手間取り。


 これは、さきに転職できるようになる『称号』とやらを入手しておくべきですね、と。目標を変更。〈探索者〉のレベルが1に上がるや、この〈職〉を勧められた要因たる『緊急回避』というアーツを使用。ダンジョンの外へと出て、次の〈職〉――〈商人〉に就くべく、昨晩教わった『商業ギルド』という施設のある場所が記された地図マップを≪掲示板≫で検索して探し出し。どうにか〈商人〉に就くことに成功。


「えっと……たしか、〈商人〉のレベル上げは、ほかと違って――と、ありました。これが≪マーケット≫なので、あとはここで……」


 果たして、そうやって≪マーケット≫の仕様に悩ませられること数十分。どうにか、このコンテンツを利用した売り買いについて理解し、試しに『魔石』を登録しましたが……普段であれば1つ100Gとなる『魔石』を出品すればすぐに売れる、と。そう≪掲示板≫には載っていましたのでそのまま冒険者ギルドに向かい、次の〈職〉に転職でも、と思っていましたのに……『魔石』がなかなか売れません。


 なので仕方なくギルドのホールの壁に寄りかかって試しにほかの出品リストを見て時間を潰そうと思いましたが……出品リストの『魔石』の多さに愕然としました。……ああ、そうです。この時点まで現在がイベント期間中で、皆が皆、体感時間10倍に惹かれてダンジョンに潜っているということを忘れていました。


 そのせいで、一時的に『魔石』が市場に溢れて売れなくなっているのでしょう、と。そう察した私は仕方なく『魔石』での収入を諦め、代わりに冒険者ギルドにて販売されています100Gで買える『耐久値回復ポーション』を買って、それを≪マーケット≫に出品。……ダンジョンに籠るプレイヤーが多くなる以上は、こうした消耗品の方が需要がありそうだ、という私の読みは遠からず当たっていたようで、少しの間を置いてではありましたが『耐久値回復ポーション』は売れました。


 もっとも、これはそれを試したあとで気づいたのですが……私の想定ではダンジョン内に籠ったプレイヤーが『耐久値回復ポーション』を必要として買うだろうと思っていました。が、そもそもイベント期間中の体感時間10倍として最も賑わうだろう『アーテー』のダンジョン内では≪マーケット≫を使えない、という仕様になっていることにそのときの私は気づいておらず。まったく情けないことに、予想が当たったことに満足して、さっさと次の〈職〉に――アイギパンの冒険者ギルドからでしか就けない〈きこり〉という〈職〉に転職。そして、『最初の草むら』と呼ばれているレベル1の兎のモンスターが出現する草原へ向かうことに。


 たしか、〈樵〉という〈職〉は草や木などの植物性のオブジェの破壊で経験値を得るそうなので……【剣術】と【聞き耳】、【察知】をセットして草刈りを開始。


 途中で狙っていた【採取】が取得できるや【聞き耳】と交換しまして。私がもっとも欲しいと思っています『薬草』というアイテムの入手のため、『居合刀』を――甚だ、使用法としては間違っているかと思われますが――振るい、草刈りと兎狩りに精を出しまして。


 果たして、ようやく『薬草』のドロップアイテム取得を報せるインフォメーションを目にして、いったん手を止め。鞘に刀身をしまって、深呼吸を数回。気を静め、集中力を高めて――




 体感時間を、加速させる。




 と、言っても、師父しふ様のように自由自在、いつでも何時間でもというほどの練度は無く。加速させることは可能ですが、それがどれだけの加速度なのかや、逆に緩やかにしたりといった、いわゆる体感時間の『操作』はできないのですが、


「おめでとうございます! 称号【時の星霊に愛されし者】を得ました」


 ……ふぅ。よ、よかった。なんとか、私の拙い技術でも称号が得られましたか。


[ただいまの行動経験値により〈樵〉のレベルが上がりました]


 かくして、私は草原での採取を続けまして。ある程度、インベントリに『薬草』を貯めて、冒険者ギルドに戻り、〈薬師〉に転職。ついでに兎狩りの成果も清算し、同じ街にあるという『薬屋』を探して彷徨ったりもしつつ、どうにか見つけて『すり鉢』などの【調薬】に必須らしい道具を購入。


 そこから転移魔方陣広場へ向かい、『アーテー東の迷宮』まえへと跳びまして。転移結晶に触れて中に入り、最初の広場に腰を据えまして用意した『薬草』に『すり鉢』などを取り出して『HP回復ポーション』を作る――そのまえに、ここまで貯め続けるだけであったSPをすべて『器用』に消費します。


 あとは【調薬】を得るまでひたすら『薬草』を砕いていき。【調薬】を得てからは【暗視】、【聞き耳】に【調薬】をセットして、やはりひたすら『ポーション』造り。


 そして、


[ただいまの行動経験値により〈薬師〉のレベルが上がりました]

[おめでとうございます! 称号【七色の輝きを宿す者】を得ました]


 その途中で、『薬品ポーション』や『素材アイテム』の価値が調べられる【鑑定】も手に入りまして。とりあえず、手持ちの『薬草』を『HP回復ポーション』と『TP回復ポーション』へと変えましたら、最初に就いていました〈戦士〉に『ジョブチェンジ』の項を介して転職。


 果たして、そこからしばらく〈戦士〉のレベル上げをし続けまして。……さすがにこの程度ではミナセさんの≪ステータス≫はもちろん、あのおチビにすら追いつけませんでしたが、まだイベントは2日あります。焦るのは禁物です、と自身に言い聞かせまして、本来は師父しふ様ほかカホさんを除く皆さまとの合流時刻――現実世界の23時を過ぎているのを確認し。また、微妙に後悔の念を抱いたりもしましたが……それはさておき。


 夕方におチビに寄越されたメッセージでは要領を得ませんでしたが……たしか、おチビたちも今晩は師父しふ様と別行動をとる、ということを思い出し。あの子に頼るというのもアレですが、あんなのでも先達。この機会にちょっと効率的なレベル上げについての知恵を借りよう、と。どうにか『フレンドコール』という機能を使って確認してみたところ、集合場所として提示されましたのは『アーテー南の迷宮』の中の広場で。そこではおチビとエルフの少女――シホさんが、何やら盤上遊戯レトロゲームを広げた寛ぎ状態で出迎えてくれました。


「やっほー、イチちゃん。どうどう、AFO楽しんでるー?」


「……そう訊く貴女は、さっそく違うゲームに浮気しているようですね」


 なんですか、飽きましたか? と、呆れ顔で問えば「浮気じゃないし!!」と強く否定され。シホさんの説明によれば、二人はとある称号の取得狙いで真っ暗闇のなかで50時間『何もしない』を実行中のようで。……やはり、おチビはともかく、このエルフ少女の情報通っぷりは侮れません。


 さすが、師父しふ様が手放しに誉めるわけです。……妬ましい。斬っちゃダメですかね?


「というか、イチちゃんがおじーちゃんの誘いを断るとか……なんか企んでる?」


 かくして、私はお二人に相談を――って、そこ! なにを嫌そうな顔して変なことを言っているんです、おチビ!


 まったく、失礼な。私はただ、情報収集のためにですね。それもこれも、すべて師父しふ様のためを思って、


「ときに、シホさん。最初に、貴女に会ってお聞きしたいと思っていたことがございまして――」


 にこり、と微笑み。腰に差した『居合刀』に手を添え、エルフ少女に近寄りつつ訊ねます。


「ずばり、師父しふ様のことをどう思っていますか?」


「うぇッ!? 聞きたいことって、それ!? AFOのことじゃなく!?」


 おチビ、うるさいです。先に斬りますよ?


「はい、ミナセさんには危ないところを何度も助けていただきまして……その個人技もさることながら、人としての魅力も大変に素晴らしく、惹かれていない、と言えばウソになりますが――わたくしのような『すこしばかりゲームに詳しい程度の小娘』には、あの方は眩し過ぎると言いましょうか、ありていに言いまして『眺めて、拝め奉るべき神さま』のような方と申しましょうか……」


 えーと、そんな感じです? と、正座して語って下さいましたシホさんに「さすがです。貴女はよくわかっています」と頷いて返し。……その隣で「うわぁ……」と言って絶句してやがりますおチビは、まぁ無視しまして。とりあえず、次にお聞きしたかったAFOのことについて相談してみることにします。


 ああ、勿論おチビ含めてお二人には私が『じつは頑張ってミナセさんの隣に立つべくAFOをやっている』というのは口止めしました。……ええ。こういうのは、やはりサプライズであるべきです。努力する姿と申しましょうか、結果を出せぬまえのみっともなく足掻いている様をお見せするのは淑女として許せぬものがあるのです。


「……いや、むしろおじーちゃんに明かした方が、喜んで『パワレベ』してくれると思うよ?」


 はい、そこ。おチビ、うるさい。というか、どうして貴女のような『おバカキャラ』に私のような出来る淑女の見本たる水無瀬家の当主の娘が盤上遊戯レトロゲームで手も足も出ないんですか!?


 おかしいです。間違っています。……斬って良いですか?


「ええと……。でしたら、イチさんも私たちと一緒に称号【闇の妖精に好かれし者】を狙ってみます?」


 このイベント期間中でしたら、この称号のあるなしはけっこう違いますよ? と、そうシホさんに勧められましたが……それはさすがにお断りします。ええ、今こうしておチビと座り込んでじっとしているだけでも苦痛なのに、一人暗闇で大人しくしていろとなれば、発狂する自信があります。


「……壊れても人格は治せます。治せますが……廃人になった記憶は残るんですよ。たまに、夢に見るんですよ、ええ」


 夜中、何度跳び起きたことか。……そして、何度、濡れたシーツなどをまえに絶望したことか、と。遠い目をして明後日を見ていますと「「なんの話!?」」とお二人には驚かれましたが、まぁ言えるわけがありません。あれは墓場まで持っていくべき私の秘密ベスト3入り確実な恥部ですから。


「っていうか、おじーちゃんも大概あれだったけど、イチちゃんて『泳ぎ続けないと死んじゃう魚』だよね! すこしは大人しく、淑女としての嗜みを持とうよ!」


 っていうか、怖いから武器から手を離して! と騒がしいおチビに淑女の何たるかを説かれるとは笑止! 今は無理そうですが、もう少しAFOでのレベル上げが済んだら……ふふふ。おチビ、首を洗ってまっていることですね。


「はい、『チェックメイト』~」


「…………ふっ。命拾いしましたね」


 次です。次に会った時が貴女の命日ですよ、ええ。……あとでこのゲームの定石なり指南書を探して復讐リベンジしますからね。覚えていなさいよおチビ、と。心の中で宣言し、どうにか聞きたかった効率的なレベル上げについて教えてもらえたので、今日のところはここで休ませていただきます。おやすみなさい。


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