クエスト81 おじーちゃん、みんなで歌って踊って『お祭り騒ぎ』?
――ボス戦も
みんなで呪歌えば
怖くない。
……なんて標語もどきを作って展示するぐらいには、儂が提案した「イベントボス戦では、〈吟遊詩人〉を大量に配置して『HP回復の呪歌』を響かせ続ければレベル上げが捗る?」という作戦というか単なる思い付きでしかなかったそれは、張り切ったクラン『漁業協同組合・漢組』の代表――ダストン親分の仕切りによって大盛況の様相を呈しているようで。
それもこれも、合同でこの企画に参加することになったらしいクラン『水精の歌声』の存在が大きく。所属するメンバーに女性プレイヤーが多いということで、『漢組』が無駄に張り切り。そして、彼らが肉壁になって防いでる間に『みんなで歌っているだけでレベル上げができる』ということで、戦闘が苦手なプレイヤーが多いクラン『水精の歌声』も参加者が殺到。かくして、現実世界の朝6時の段階で、儂の提唱した『あやふやな戦術プラン』は試行錯誤の果てに、具体的なものとして形になっていた。
要は、壁役志望以外のプレイヤーは、まず〈吟遊詩人〉に就き。そのレベル0の段階から既に『呪歌』の項目にある、『癒しの歌声』という『聞いたものすべてのHPを回復させる呪歌』を歌えるようにしておき。あとは戦場の空気に呑まれないように気をつけて、みんなで呪歌っていれば〈吟遊詩人〉という〈職〉に素体のレベル上げはもちろん、【呪歌】に【交渉術】系のレベルも上げられ。なんなら【察知】系に【感知】系に、場所が夜ということで【暗視】のレベル上げだってできる、と。
ちなみに、歌唱力に不安のある諸氏には、≪メニュー≫から『呪歌』の項を開き。そこに載っている『歌』の名前を選択起動することで、その『歌』の歌詞や旋律が載ったウィンドウが表示されるゆえ、初めはそれを見て練習するか。あるいは≪メニュー≫から『設定』の項を開き、今回のアップデートから追加されたらしい『動作補助システム』というものを『OFF』から『ON』に切り替えたうえで『呪歌、癒しの歌声』と強く声に出して、歌おうと思いながら発声しようとすれば『勝手に口が動いて歌ってくれる』らしいので、本当に歌うことが苦手な者などはそうするように指示されていると言う。
そして、この『動作補助システム』によって半ば自動化されて歌い続けることができるので、【スキル】の枠に空きがあれば、今や壁役までもが歌いながら盾になったりもできるようになったそうじゃが……このシステムを利用する場合、絶対に歌詞の最初からの歌いだしとなってしまうそうで。数十人が歌っていれば当然のように歌詞や音程がバラバラとなり、大変聞き苦しい騒音を垂れ流すようになるので、いずれは全員が『動作補助システム』を介さず自分たちだけで歌えるようにしたい、と海辺の街を拠点とする2大クランの片翼――クラン『水精の歌声』の団長は言っていたそうじゃが、現在は諸事情あって会場には居らず。
代理で仕切っている副団長の、出来る女史風のプレイヤー曰く、クラン『水精の歌声』の代表は無類の海好きであり。現在は、儂らが流した称号【水の妖精に好かれし者】の取得を目指し、イベントそっちのけで『蒼碧の水精遺跡』にこもっていると言うが……それで良いのか、クラン『水精の歌声』?
「……まぁ、私たちは基本、『楽しければ良い』というプレイヤー――いわゆる、『エンジョイ勢』の集まりですから」
そう苦笑する女史風の副団長は、「もっとも、『母さん』もあなたさまにお会いしたがっていましたので……後日、残念に思うのでしょうが」と別れ際に小声で意味深なことを言っておったが、タイミング的に聞き返すことも出来ず。
とりあえず、こうして会場である『可能性の間』に着くや、案内役兼護衛役を買って出てくれたクラン『漁業協同組合・漢組』の強面集団――もとい、代表補佐というか、いわゆる組織の幹部的なプレイヤーたちの解説に曰く。
こうして〈吟遊詩人〉に就き、『動作補助システム』を利用すれば、てんでバラバラの聞き苦しい『呪歌』であっても『誰でも簡単に範囲回復魔法が使えるようになる』ことには変わりなく。壁役の敵意管理さえしっかりしていれば、たとえレベル1だろうと作戦に参加できるというのは、やはり大きかったようで。作戦の大前提であった『〈吟遊詩人〉を大量に用意』というのは割と容易に解決できた――どころか、普段は交流することすら稀という女性プレイヤーの〈吟遊詩人〉の近くに行く理由ができたことや、『怯えながらも健気に歌っている』というのが琴線に触れたのだろう、壁役どもも大変張り切っているらしいが……さもあらん。
なんにせよ、こうして量産された〈吟遊詩人〉にしても、一度に100以上の対象に『呪歌』を聞かせられるのだから、〈職〉と【呪歌】のレベルの上昇は早く。『イベントボス:堕ちた太陽の申し子』が呼び出す大量の死霊系モンスターをいちいち確認したり、攻撃したりなどの必要なく『癒しの歌声』を響かせていればダメージを与えられるわけで。それが何十人分と重なれば、ほとんど触れられることなくスケルトンやゾンビを撃破。経験値を得て、素体レベルを上げられる、と。
そして、こうして多少なり素体レベルを上げられれば、作戦中には浴び続けることになる『MP回復ポーション』を買えるだけの稼ぎを生産ないし、ダンジョンでの狩りなどで捻出できるようになるわけで。作戦の第二段階である『緊急回避』が使える〈探索者〉と、いつでも『転職』ができる称号【七色の輝きを宿す者】の量産にも繋がる、と。
これに『クラン「薔薇園の守護騎士」の提唱するダンジョン攻略のための【七色の輝きを宿す者】を取得するために就くべきお勧めの〈職〉7選』なんてマニュアルまで作り――と言うか、本当は最初にクラン『薔薇園の守護騎士』のメンバーだけに話を持っていくつもりだったが、なんとなく流れでこうなったので――それを展示。加えて、なぜか訊かれるがままに答えただけの、『ミナセ厳選。アーテーの仕様に適した〈職〉と【スキル】はこれだ!』なんて看板まで作って『可能性の間』の石碑の横に配置するのはどうかと思う。……が、その内容を読んでさらに改善案の書き込みを要求している儂も、儂ではあるか。
とにかく、クラン『漁業協同組合・漢組』やクラン『水精の歌声』が、それなりにたくさんのプレイヤーを抱え込んでいるというのは、これまでにも聞いて知ってはいたが……その2つのクランの合同企画で、まさかここまでの人数が集まるとは思っていなかった。
中央の台座の上にある立体映像の周りはもちろんのこと。競技場のごときデザインの『可能性の間』の、観客席を思わせる円形の通路には総勢で1000人以上もの人間が居り。通路の端のそこかしこで『MP回復ポーション』などを売っている者や、『武器防具の販売、強化、修復を承ります』なんて看板を掲げた出張〈鍛冶師〉まで居るようで。なかにはこの人数を利用して〈吟遊詩人〉ないし『呪歌』のレベル上げをしようと歌いだしては周りのプレイヤーに「うるせー!」、「それは中でやれ!」なんて怒鳴られている者まで居り。儂の想像の埒外と言って良いほどの賑わいを見せていた。
……もっとも。この、なんとも言えない熱気というか活気と言うか、祭典など特有の、心が浮足立つ空気のなんともこそばゆいような懐かしいような気分は……まぁ、悪くはない。
そして、それは思い付きで誘った隣の猫耳メイド幼女も同様か、それ以上のようで。嘉穂ちゃんは金色の猫目を大きく見開いて最初は驚き、それからすぐに瞳をキラキラとさせて駆け回って笑顔を咲かせていた。
「わー! わー! なんか、ホントにお祭りみたいだね、ミナセちゃん!」
「うむ。儂もまさかここまで賑やかになるとは思っておらなんだ」
ちなみに彼女は、ここに来るまでそりゃあもう怯え、泣きべそをかいてと酷いありさまで……。モンスターこそ出なくなったが、雰囲気だけはそのままの『夜の廃墟』だからか、ことあるごとに「帰るー。カホ、もう帰るー」と泣きついたりしていたが、会場に着くやこの通り。さっき泣いてたカラスがもう、というやつで……。
まぁ、その気持ちもわからんでもない、と言うか……儂も、まさかここまで大規模なお祭り騒ぎとなろうとは思わなんだから、浮足立っていたりするしのぅ。さもあらん。
「おう、ミナセ! 悪ぃな、待たせちまって」
果たして、そう怒鳴るように――傍目にはそう見えるだけで、別に怒っているわけではなく。ただ強面で、賑やかなこの場にあって声を届かせようとした結果の大声だったのだろうが――『漢組』の代表であるダストン親分が声をかければ、儂らの周囲が一瞬、静寂に満ち。彼の髭面の巨体と、そんな筋骨隆々の大男と対面するのが儂や嘉穂ちゃんのような小さな女の子という絵面に驚き、両者を交互に、そして無遠慮に窺うような視線を向け。『ひそひそ』、『ざわざわ』とした噂話というかどよめきのようなものが広がっていった。
が、そんなのは儂もダストン親分も無視し。一転して不安そうに儂の腕にすがりつく嘉穂ちゃんの頭を軽く撫でてから「うむ」とスキンヘッドにハチマキの巨漢には頷いて返し。彼も彼で「はは、カホの嬢ちゃんも参加か。楽しみだなぁ、おい」と破顔一笑。一種異様な雰囲気となりかけた空気を吹き飛ばした。
「随分と賑やかで驚いたろぅ? ……いやぁ、俺もよぉ、まさかここまで事態が大きくなるたぁ思ってなかったからなぁ」
「うむ。それは儂も同じじゃが……それもこれもおまえさんの人徳。クラン『漁業協同組合・漢組』とクラン『水精の歌声』が多くのプレイヤーに慕われている証拠じゃろう」
さすがはミナセの嬢ちゃんの発案だぜ、とでも言われそうだったので先んじて褒めておくが、彼は「がっはっは!」と野蛮な海賊のごとき野性味のある大笑いをして見せ。「親分、すごいね! お祭りみたいだね!」と笑顔を咲かせて自身の興奮を伝えようとする嘉穂ちゃんには一転して目尻を下げ、初孫を喜ぶ好々爺のごとき笑み崩れたような表情になって「おうおう、賑やかだよなぁ」とか……こやつ、大丈夫か? と思わなくもないが。まぁ、純真無垢で疑うことを知らん『箱入り娘』の味方は多いに越したことは無い、と見なかったことにする。
そして、
「――で? 発案者のミナセの嬢ちゃんたちは、今から突撃すんのか?」
直近の、『この件とは別に儂の提案した作戦』についてなど、2、3言葉を交え。嘉穂ちゃんの「あのね、あのね!」から始まった勢い任せで多少支離滅裂な説明でされた、子猫の知る『お祭り』についての『お話』には、揃って瞳を細めたりもした――そのあとで。ダストン親分は、「さぁ、今からカチコミ行くか?」とでも言いそうな、ギロリと剣呑に輝く瞳を向けて訊いてくるので、儂もニヤリと笑って「うむ」と頷いて返す。
「予定通り、『イベントボス:堕ちた太陽の申し子』は『第一形態』を維持しているようじゃしの。儂も歌劇団に飛び入り参加させてもらいたいのじゃが――ダストン親分は先に、嘉穂ちゃんに今回の催しの概要や諸注意などをあらためて説明しといてくれんか?」
なんだか、一緒に突撃したそうだった彼をそう言って抑え。じつは、さっきから『うずうず』、『そわそわ』しだしている子猫を任せることに。
「嘉穂ちゃんは暗いところが苦手ゆえ、最初は『アーテー』行きすら嫌がっておったが――」
「これだけいっぱい人が居て、みんなで歌って賑やかなら大丈夫! わたしもミナセちゃんや親分と参加したいよ!」
というわけで。あらかじめ〈吟遊詩人〉に転職してきた猫耳メイド幼女と巨漢の代表を残し。儂は石碑前に設営された、『受付』の看板が掲げられたテーブルと椅子しかないそこに行き、まさしく『受付』よろしくそこに立ってたプレイヤーに名前を告げ。許可をもらって、『可能性の間』から『アーテー北の迷宮』攻略によって跳べるようになった『塔』へと転移する。
とりあえず、インベントリから『混沌大鎌』を取り出し。軽く振るって調子を確かめながら、あらためて現在の≪ステータス≫を開いて『副職』に〈勇者〉を設定。『スキル設定』にもしっかりと【斧術・弐】を加えたうえで、【慧眼】で察せられる『もっとも多くの存在が密集する方向』へと足を向け、歩き出す。
果たして、〈吟遊詩人〉がみんな、聞いたものの『HPを回復させる呪歌』を歌いながらも歌いだしがバラバラなせいか騒音にも思える歌声が聞こえ始めた段階で、儂も『呪歌:癒しの歌声』を歌いだし。見える範囲のプレイヤーに、その装備、モンスターのうえにある三角錐をクリックして回り。とにかく最初は【看破】のレベル上げを優先して――から、斬る。斬る。斬る。
「えっ、ちょっ……!?」
「な、なに、あの子……!?」
かくして、儂を知らん連中――その多くが女性のアバターだったこともあり、おそらくはクラン『水精の歌声』のメンバーだろう――が慌てふためくのを横目に。儂は一人、みんなとは違って呪歌を歌いながら駆け抜け。歌声を響かせ続けながら、大鎌を振るう。
[ただいまの行動経験値により〈吟遊詩人〉のレベルが上がりました]
……ふむ。さすがに、レベル0から1までは早いのぅ。
そして、これで〈吟遊詩人〉は無事に『職歴』に加えられたわけで。いつでも〈職〉のレベルアップによって使えるようになる『呪歌』と、『呪歌の効果と範囲を上昇させる』という『副次効果』狙いで『副職』に設定できるようになったわけじゃが……同時に、またも『職歴』がいっぱいになってしまったのぅ。
もっとも、このあとで『アーテー北の迷宮』の最速走破とイベントボス討伐さえ成し遂げれば、〈治療師〉あたりは『資格化』する予定じゃから、それで空きはできるじゃろう。……が、この〈吟遊詩人〉のレベル上げとしては何より美味しい『狩り場』がイベント期間を過ぎても残っておるのかわからんからのぅ。できれば、〈吟遊詩人〉も早めに『資格化』させたいところじゃが……それを言えば、今回の企画の参加者すべてがそうじゃろうし。あるいは、〈吟遊詩人〉のレベル上げのためだけに何かまた企画でも考える、か……?
[ただいまの行動経験値により【翻訳】のレベルが上がりました]
さておき。〈職〉関係のことはまた、イベントが終わってから考えるとして。現在、取得可能な【スキル】の上限まで残り1つという状態なわけじゃが……『アーテー北の迷宮』の最速走破のため、『ダーク・プリースト』からのドロップアイテムで【属性魔法:闇】を取得するか、否か。さて、どうしたものか?
[ただいまの行動経験値により【斧術・弐】のレベルが上がりました]
まず、かねてからの目標であった【看破】の『固有技能化』を、今回の〈吟遊詩人〉のレベル上げ祭りで進めるとして。あとは、可能なら【翻訳】も『固有技能』にしてしまいたいところじゃが……これはさすがに難しいじゃろう。
[ただいまの行動経験値により〈吟遊詩人〉のレベルが上がりました]
で、あれば。残りのレベル20以上の【スキル】のなかで『固有技能化』などで枠を空けられそうなのは……【回復魔法】かのぅ?
ただ、これに関してはカネガサキさん曰く、「きっとレベル31まで上げられれば蘇生魔法が――いわゆるHP全損でも復活させられる魔法が来る、と僕は睨んでます」ということなので、可能であれば『上位化』させたいところではあるが……。しかし、何時でも回復魔法が使える『固有技能化』というのも悪い選択には思えんし……やはりタイミング次第では、これも『固有技能化』候補かのぅ?
あとは【鍛冶】や【調薬】などもイベント期間中には無理じゃが、そう遠くない未来、最大レベルに届きそうで。……逆に言えば、イベント期間中にレベル30までは無理じゃろう。それこそ、そのためにダンジョンにこもって集中的に上げれば話は変わろうが……それこそ本末転倒。1つでも多く、1秒でも早く『アーテー北の迷宮』の走破を成したい儂の場合、それはできん。
[ただいまの行動経験値により〈吟遊詩人〉のレベルが上がりました]
そもそも、『固有技能化』した【スキル】にしても『登録可能な数に上限があるのか』が不明なわけで。なんとなく、10個までは行けそうではあるが……それ以降からは経験値に還元するしかない、となったら泣けるしのぅ。
[ただいまの行動経験値により【翻訳】のレベルが上がりました]
まぁ、なんにせよ。今は、歌って〈吟遊詩人〉のレベルを上げ。視界に映る三角錐を敵味方、装備問わず片っ端からクリックして【看破】の経験値として。
歌い。舞い。跳び。駆けて――斬り捨てる。
範囲内のスケルトンやゾンビにダメージを。プレイヤーたちには癒しを与え。
集中するプレイヤーの視線を無視し、範囲知覚によって『視ながら』移動。儂の『呪歌:癒しの歌声』か、それとも『副職』に設定した〈勇者〉の『副次効果』に引き寄せられたのか、ゆっくりとした動作で、しかし確実に儂を狙って近づいてくる死霊系モンスターを『視まわして』。その頭上にある残存HPやレベルから言って『一撃で殺せる』ことを確信した相手が居る順路をたしかめて――駆け寄り、斬り捨て、歌い続ける。
[ただいまの行動経験値により【斧術・弐】のレベルが上がりました]
たまに、敵意を稼ぎ過ぎたのか、『イベントボス』の接近があったりといった邪魔こそあれ――もっとも、それだって所詮はレベル40の『第一形態』じゃからして、悲鳴をあげる周りの女性プレイヤーを庇って鈍器でぶっ飛ばすのは簡単じゃったが――とにかく、儂は歌い。舞い。跳んで、斬りつけながらシンボルをクリックし。
【スキル】がレベルアップしたというインフォメーションは流すが、〈吟遊詩人〉のレベルが上がった場合はSP消化のために立ち止まって。≪ステータス≫を開いたりして休みながら、頭上に残存HPや種族名が浮かんでいない者を見つければシンボルをクリックし。また、歌い。駆けて。跳んで。斬りつけて。
儂の姿を目にしたプレイヤーが驚愕するのも置き去りに。ただ、歌い。ただ、斬り殺す。
もはや死霊系モンスターは単なるMP回復装置で。見える三角錐はすべてクリックするもの。
歌って。歌って。
斬って。斬って。
そうして駆け回り続けていたら嘉穂ちゃんに戦場で再会し。歌いながら笑みをかわしあい。どうにも使う必要の無さそうな大量の『MP回復ポーション』を『トレード機能』で少女に渡し。また笑みをかわしあって、移動。
歌いながら、斬る。
舞うように、斬る。斬り捨てる。
――そんなこんなで約2時間。どうやらMPと『回復薬』が尽きてから儂を待っている状態であったらしい子猫の我慢の限界を報せるメッセージを受け、儂の演武は終了。二人と合流することに。
「いやぁ、ミナセの嬢ちゃんには驚いた! なんだ、歌いながら斬って回るって……。俺も『動作補助システム』使えば、なんとか歩きまわったりはできるが……なにをどうしたって、駆け回って攻撃し続けたりは無理だ! 息継ぎとかどうしてんだ、ってスゲー驚いたぜ!!」
一時的にダストン親分をパーティーに入れ、嘉穂ちゃんの『緊急回避』を使用。再び『可能性の間』の石碑――の前に設置された『受付』のよこに転移するや、彼の怒鳴り声のような大声を聞いた連中がこちらに注目してくるのに対し、「……まったく、この髭親父には困ったものじゃなぁ」とため息吐いて隣を見れば、
「そ・れ・よ・り! ミナセちゃん、わたしに『MP回復ポーション』をあんなに渡して、なんでわたしより長く歌ってられたの!? それに、もらった『MP回復ポーション』の出来がわたしの造ったのより良いんだけど!?」
なんで!? どうして!? と、そう問いかけながら詰め寄る嘉穂ちゃんに「まず、【調薬】がレベル19で。そこに〈薬師Lv.16〉の『器用』補正20が加わっとるから、かのぅ?」と後者の問いに≪ステータス≫を覗いて答え。
それから、『アーテー北の迷宮』のレベル40以上が出る階層で時折出現する稀少個体である『スケルトン・ソーサラー』のドロップアイテム――『闇の魔石』を素材とした武装の特徴には『条件付きでのMP回復』の効果が付けられ。儂の振り回しとった大鎌が、『この武装でトドメを刺した場合、MPをわずかに回復』という特徴を持っていると告げれば、「なにそれ、ほしい!」と嘉穂ちゃんは瞳を輝かせて言い。……そのすぐあとで、儂でも丸1日粘って1体か2体しか出会えんが、と聞き。延々と真っ暗闇を彷徨わねば『闇の魔石』が手に入らないと知って絶望の表情になったりもしたが、
「儂もそろそろ重量的に『混沌大鎌』を持てなくなりそうじゃし。それからであれば『闇の魔石』を売るのもやぶさかではないが……なんなら今のうちに『運☆命☆堂』に予約でもしておくと良いぞ」
彼らであれば、嘉穂ちゃんのような愛くるしい少女が頼み、相談すれば無碍にはしまい、と。きっと、相応しい装備を造ってくれるじゃろう、と告げれば、「わかった! あとでまた、あの面白い格好した店長さんとこ行ってくるね!」と承諾――したので、あとでしっかりとアキサカくんにはメッセージで今回の件の連絡はするとして。
「それで、それで! ミナセちゃんは、いつ頃『それ』を取ってきてくれるの!?」
果たして、そんなふうに『新しい玩具が手に入る!』とわかったことで落ち着きを失くした子猫に、「ふむ。ならば今から儂と『アーテー北の迷宮』でレベル上げでもするかのぅ?」と誘い。運が良ければ数時間で『闇の魔石』が手に入るが、と首を傾げて問うてみれば、嘉穂ちゃんは煌く表情を一転。その意味を悟って表情から喜びの色を消し、深々と頭を下げて。
「ナマ言ってごめんなさい。そんなことしたら死んでしまうので、カホを暗闇に誘うのは勘弁してください」
……ふむ。残念。
「それ以前に、サラッと最前線に誘えるレベルなんが嬢ちゃんたちらしいっつーか、俺も聞いて良い情報だったのか疑問なんだがよぉ……」
なにやらそう疲れ切った様子で愚痴り、ため息を吐くダストン親分は――まぁ、放置で良いとして。とりあえず、変わらず大盛況な様子の『可能性の間』をキョロキョロと見回し、そろそわと落ち着きを失くしとる子猫の手をしっかりと握る締め、背後に強面の用心棒を引き連れて見て回ることにするのであった。