クエスト79 おじーちゃん、『ゴブリン・ジェネラル』戦では…BGM担当?
果たして、いよいよ、この先はボス部屋という重厚な扉のまえで。『ヒーローズ』の五人と儂は円陣を組んで最後の気合を入れることに。
「じゃあ、最初はミナセちゃんの『流星槍』と『ブレイクアップ』で削るのは確定として。あとは作戦会議通り、臨機応変に。誰一人死ぬことなくボスを倒そう!」
「へっ。なぁに、そこの鬼教官どのが一人でも途中までは攻略できたんだ。さすがにそこまで行けずに死んじまったらカッコ悪すぎってもんだぜ、リーダー?」
「そういう筋肉が一番心配。くれぐれも『ゴブリン・ジェネラル』の攻撃を後衛に通さないように」
「それを言ったら、『丈夫』にSPを振ってない遊撃担当のアイチィが一番危ないんですけどね。……本当に、一撃死だけは勘弁してくださいよ?」
「あとはカネガサキさんの『回復順序』と『位置調整』もシビアでしょうから、そこは本当に気をつけてくださいね? ミナセちゃんは――……うん」
……ん? ここで儂にも注意ないし応援が来る場面だと思うんじゃが、なぜに全員が全員、儂から視線を逸らす?
「ふむ。なんにせよ、最初の儂の『流星槍』だけで1体は確実に落とせるからの。ダイチくんたち前衛組と遊撃のちぃお姉ちゃんは、じゃから『ブレイクアップ』で削った残りを頼む」
もっとも、事前に彼らに売った、『ダーク・プリースト』を撃破して得たドロップアイテム――『属性魔法:闇の魔導書』によって【属性魔法:闇】の付与魔法が使えるようになったエリお姉ちゃんが居れば、『ブーステッド・ダーク』による『「魔力」を上昇させ、MP消費量を減少させる』効果によって、そうそうカネガサキさんの回復魔法は切れんじゃろうし。それこそ、本当に怖いのは一撃死だけじゃが……まぁ『ブーステッド・アクア』で『器用』を上げた前衛組は物理ダメージだけなら大丈夫じゃろう。
それでも、壁役のドークス含めて、儂以外の全員がレベル45のボスモンスターに挑めるレベル帯ではなく。ステータス的には、たとえ六人がかりであっても挑むのは早すぎる相手じゃが――もはや、そうも言っていられない。
なにせ、イベント最難関ダンジョンの『アーテー北の迷宮』攻略をほかのクランに先越されたのだ。ゆえに、いついつエーオースのダンジョンの走破もされるかわからない現状、この迷宮都市を拠点とする、迷宮の攻略こそを主目的と掲げるクラン『薔薇園の守護騎士』――その最精鋭パーティである『主人公と愉快な仲間たち』こと『ヒーローズ』としては、こちらまで後塵を拝するわけにはいかない。
ゆえに、
「とにかく、ここに居る僕らが『最前線』で、最強の『攻略組』! だから、みんな、油断せず、キッチリ勝ちに行こう!!」
そんなダイチくんの締めの言葉に、全員で「応!!」と声を揃えて頷き。そして、儂の『流星槍』や、ちぃお姉ちゃんの【弓術】のチャージ、エリお姉ちゃんの各種付与魔法による準備を経て。
「――『流星槍』! 『ブレイクアップ』!」
ついに、決戦の火ぶたが切って落とされた。
「ドークスは前に! 僕とアイチィは回り込むよ!」
「『アロー・レイン』! っと、おっけー、リーダー。まずは、取り巻きのお掃除から!」
「『ヘイトアピール』! っと。聞いてはいたが、こりゃまたでっけーゴブだなぁオイ!」
『パーティチャット』の効果で、実際の距離に関わらず耳元で聞こえるようになった彼らのボイスコマンドと会話に、それとなく参加しながら。あらかじめ話し合った通りに――それでいて、リーダーのダイチくんによる要所要所での指示に、すこし離れて俯瞰するような位置取りで全体を見通すカネガサキさんの指摘などを受け、逐一、行動に修正を加え。
攻撃し。防御し。敵意を集め。
駆けて。駆けて。駆けて回って。
果たして、儂一人で戦ったときは割と時間のかかった、ゴブリン・ジェネラルとゴブリン20体との初戦も、あらかじめ入念な打ち合わせをしたうえに各種付与魔法による強化と単純な手数の違いもあって容易に進められ。
予定通り、将軍さまを残してゴブリンの掃除が済むや、それぞれに次の戦いに対する準備をし始め。ドークスが一人、巨大な重装鬼将軍の攻撃を受け止めるなか、回復や立ち位置の調整を行ったうえで、ちぃお姉ちゃんと儂の遠距離攻撃でHPバーの最初の1本を消し飛ばし。
ゴブリン・ジェネラルが行う、跳躍からの咆哮に対し、あらかじめ『跳躍の際、プレイヤーから距離を置こうとする』仕様を逆手にとってボスモンスターの位置を誘導。しっかりと後衛組からもっとも遠い位置まで下がらせて、
「『ブーステッド・アクア』、『ブーステッド・アクア』に『ブーステッド・アクア』!」
「『ヘイトアピール』! こっちだ、ゴブ将軍!」
「『ツイン・ソードスラッシュ』! 『ナイト』どもはこっちだよ、っと」
再び、我らが頼れる巨漢の重戦士に将軍さまは抑えてもらい。儂は両手にヌンチャクを持って、ちぃお姉ちゃんと二人、駆け回ってゴブリン・ナイトを削っていき。
ダイチくんはゴブリン・ナイトたちに加えて、時折、ゴブリン・ジェネラルにちょっかいをかけたりもして。後衛魔法職二人は付与に回復、攻撃魔法を放って取り巻きを減らすのを支援し続け。
かくして、またゴブリン・ジェネラルが1体だけ残る場面になるや、次に向けての準備を始め。『ポーション』を浴びてもろもろの回復を済ませて立ち位置を調整し、【看破】によってしっかりとHPバーが砕けるタイミングを計って。
「『流星槍』、『ブレイクアップ』っと。ここからはいよいよ初見じゃ、気を引き締めてかかってくれぃ!」
「「応!!」」
果たして、ゴブリン・ジェネラルのHPバーが残り3本となり。ここからは相手にも遠距離攻撃可能なゴブリン・アーチャーが加わるゆえ、いくらドークスが優秀でもさすがに弓矢で狙われるなか、ボスを一人で抑え続けてもらうのはレベル差からして厳しい、と。ここからは儂が重装鬼将軍を『ヘイトアピール』と〈勇者〉の『副次効果』で引きつけ続けることにして。
ドークスには後衛の魔法使い二人と遊撃であるちぃお姉ちゃんの壁に専念してもらい。ダイチくんたちには頑張って取り巻きを削ってもらうとして、
「『シールド・パリィ』、からの『螺旋槍』!」
儂とて振るわれる斬馬刀を盾で弾き。【槍術】のレベル7で使えるようになる、『渦巻くエフェクト光を放ち、対象を貫通させたうえでダメージを与えられる』アーツ――『螺旋槍』を起動。ボスの身を貫く螺旋を描く衝撃波でもって彼奴の背に居た取り巻きにもダメージを与え。
範囲知覚で捉えた弓兵からの矢を避け、弾き。合間に『ライト・サークル』を使って継続ダメージを与え続けつつ、状況次第では回復魔法を飛ばしたりもして専属回復魔法使いに苦笑され。エリお姉ちゃんには『器用』と『魔力』のどっちを上げるか迷うと笑われたりもしながら、どうにか3本目のHPバーも削り切り。
かくして、跳躍からの咆哮によって新たなゴブリンどもが現れるや知覚を加速。ぐるりと【看破】でもって視まわし、出現したのが魔法攻撃をする『ゴブリン・マジシャンLv.45』6体に、盾を備えた『ゴブリン・ガードLv.45』14体というのを見て取って、ギョッと目を剥き。
まずは、念のために用意しておいた『流星槍』を小鬼魔法使いの1体へと向け。体感時間の操作をやめて、
「ここからは魔法攻撃に気をつけよ!」
叫び。『ブレイクアップ』も追加で飛ばしながら、駆け出し。
早い段階で『ヘイトアピール』を使ってすべてのモンスターの注意を一度、儂に集めて。一直線に将軍さまに駆け寄――「ミナセちゃんは『マジシャン』へ速攻!」――ろうとして、ダイチくんの指示で進路を変更。
「ドークス、僕らで『ジェネラル』を抑えるよ! アイチィは『ガード』を! カネガサキさんはドークスのHP管理を密に! エリーゼは――」
「『ブーステッド・ダーク』からの『ウォール・ウィンド』、『ウォール・ウィンド』!!」
果たして、リーダーの指示によって動き出す面々を範囲知覚で『視て』。今回の差配が、どうやら儂に一刻も早く『ゴブリン・マジシャン』どもを落として欲しいのだと察して、再度、彼方へと飛んで行った装備を≪インベントリ≫から装備しなおし。
『闇蟹の短槍』2本を手に、そのまま盾持ちへと突っ込んで、
「『螺旋槍』! からの、『螺旋槍』!」
壁役を挟んでなお、その背に隠れたゴブリン・マジシャンにも渦巻くエフェクト光を貫通させてダメージを与え。最初の『流星槍』のダメージも合わせて1体、小鬼魔法使いを粒子へと変える。
次いで『ブレイクアップ』を2回使って盾持ちの動きを止め。≪インベントリ≫から『特殊武装:斧槌』を取り出し、次なる目標である小鬼魔法使いに迫って。その眼前のゴブリン・ガードを『グランド・バースト』の一撃で退かし。放たれた魔法を『ワイドガード』で受け止め。簡単に壊されたが、ダメージを最小限に抑えて前進。
両手にヌンチャクを変更し。【槌術】のレベル1で使える、持っている武装を『重く』するアーツ『ヘヴィ・ハンマー』の【二刀流】バージョン――『ツイン・ヘヴィ・ハンマー』を起動。目を剥いてこちらに魔法を放とうとするゴブリン・マジシャンを叩き、叩き、吹き飛ばしてHPを削り切り。
「……なるほど」
ふと、頷き。なぜ先ほどからエリお姉ちゃんが『ウォール・ウィンド』という『風』属性の『魔法の壁』をつくる魔法を多用しているのかを範囲知覚で『視て』、気づき。
――思い出すのは、ダーク・プリースト戦で。もっとも怖かったのは、相手の壁役である『スケルトン・ウォリアー』が残っている状態で『スケルトン・ソーサラー』の範囲魔法攻撃や足下からの不意打ち魔法であり。これらの対処に戸惑っている間にボスの無尽蔵にも思える召喚魔法でどんどんと敵を増やされ、物量で押し潰されることで。
そうして時間とTPやMPなどのリソースを削られて詰まされる状況に追い込まれる、というのが最大限に警戒すべき点じゃったが……なるほど、『ウォール・ウィンド』の特性である『足下から突風を発生させて触れたものを上へと吹き飛ばす』効果で、まさかここまで面白いようにゴブリン・マジシャンの魔法の発動を邪魔できようとは。
儂にできるのはせいぜいで普通の『魔力でできた障壁』か、不浄なるものにダメージを与える『光の壁』ぐらいで。同じように『スケルトン・ソーサラー』や『ゴブリン・マジシャン』の魔法の邪魔はできそうにないが……今度、志保ちゃんと組んだ際は、その辺をアドバイスしてみようか。
と、それはさておき。エリお姉ちゃんが頑張って魔法の発動を妨害することで、なんとか前衛組に魔法が飛んでいくことを抑えられ。回避中心のダイチくんと純粋な壁役であるドークスの二人がかりでじゃが、しっかりとゴブリン・ジェネラルの相手をし続けられているようで。
それでも時々、ゴブリン・マジシャンから無視しえないダメージを貰っていたが、そこはカネガサキさんが即座に回復魔法を飛ばしてHP全損だけは防ぎ。儂は、もうここからは〈斥候〉に転職して最速で駆け回り。目に付く端から小鬼の魔法使いを狙って突っ込み。多少のダメージを覚悟で、殲滅速度重視でゴブリン・マジシャンを減らすことを優先。
果たして、どうにか魔法攻撃を止ませることに成功するや、ゴブリン・ジェネラルの相手を交代。ここからはわざと時間をかけるように将軍さまと踊りつつ、取り巻きの盾持ちたちは『アイテムの消費』を抑えるよう配慮して戦闘。
そうして、『次』に備え。タイミングを計り。
そして、
――最後の軍勢が、儂らを囲むようにして現れた。
「うん、なるほど。これが本当の『僕たちの戦いはここからだ!』ってやつだ……」
そう言って笑顔を引きつらせるダイチくんに首を傾げるのは儂だけだったようで。ほかの四人は最後の、そして最大の数だろう、総勢100体ものゴブリンの群れを見回して同意するように頷いており。
「おいおい、どうするよリーダー。さすがに、この数のレベル45のゴブどもは……」
【看破】で視まわした限り、『ゴブリン』が30体。『ゴブリン・ナイト』が30体。『ゴブリン・ガード』が20体に『ゴブリン・アーチャー』が10体。『ゴブリン・マジシャン』が10体という構成か。……なんにせよ、問題となりそうなのは変わらず、魔法使い連中じゃろう。
ゆえに、
「とりあえず、『マジシャン』は儂が片付けて来よう」
そう言って≪ステータス≫を開き。『装備』の欄を操作して『闇蟹アーマー』と『闇蟹シールドセット』から『女番長セット』へと着替え。〈斥候〉へと『転職』。そうして彼らに背を向け、駆け出して――『パーティチャット』を、抜ける。
……もはや、こうまで数を用意されては、『全員での生還』は絶望的じゃろう。
『ダーク・プリースト』戦のときとは違い、今回の最終目標には相応の力量があり。ダメージを無視して速攻で倒しに行ったところで、今回は重装備で硬い『ゴブリン・ジェネラル』。前回よりレベルが上がり、アイテム等の消費も抑えられて5本のHPバーまでもってこれていても……六人対101体では話にならん。どう頑張ったところ物量に押しつぶされ、守り切れず……誰かは死ぬ。
ゆえに、こうなってしまっては仕方ない、と。途中で誰かが教会送りとなろうと無視するとして、どうにか無理やりにでもボスモンスターの討伐だけは成し遂げよう、と。覚悟を決め、後悔に蓋をして。すっかり広くなったボス部屋の、今まさに儂らへと津波のごとく駆け寄って来ようとする集団へ、
「『流星槍』からの『ブレイクアップ』」
即座に≪インベントリ≫から『トライデント』を引き出し。最初に攻撃した連中とは違う集団に向けて、投擲。『ブレイクアップ』、と。
次いで、また、敢えて攻撃していない方へと駆け出し。持ち主より一定以上の距離を飛んでいってしまったことで≪インベントリ≫に返ってきた『闇蟹の短槍』を2本取り出し。儂らの中の『誰を最初に襲うか』をまだ明確に決めていないだろう集団に『ブレイクアップ』でちょっかいをかけながら、初期位置から最も遠くに居たゴブリン・マジシャンへと向かって行く。
……気休めにしかならんが、せめてボスモンスター以外はなるべく引き連れて行ってやる。
もっとも、何をしなくとも『副職』に設定したままの〈勇者〉の『副次効果』で敵意を集めやすくはなっておるが……まぁ、わずかでもダイチくんたちが生き残れるように。いやはや……見習いとは言え、専用装備を纏った三人目の壁役が居た前回がどれだけ心強かったか。まさかこうして、大して間も空けずに痛感させられようとはのぅ
今回は、ローズには悪いが『主人公と愉快な仲間たち』の五人が居る『今のうちに』ゴブリン・マジシャンだけは倒しきろうと決意して。途中のゴブリンを掻き分け。『ナイト』を無視し。飛んでくる矢を『ヌンチャク』を取り出して弾き。『ケムリ玉』をも使って『ガード』ほか邪魔な小鬼どもを避けて、『マジシャン』へと最速で迫り。
ある程度のダメージを飲み込み、連打。連打。連打でもって無理やり瞬殺。
そして、次へ。次へ。次へ。
範囲知覚に映る敵ばかりの情景にうんざりとしながら。そのただなかを突っ切り、引き連れ、蹴散らして、前へ。前へ。前へ。
果たして、そんなことをしているなか、どうにもゴブリン・ジェネラルの位置が変わらないことに気づいたが――……正直、そのことを不思議に思う余裕も無く。
しかし、長期戦をも見据えてアイテムの消費を抑え。
たった一人で殲滅することを大真面目に考えてTPの消費すら控えて。
それでも可能な限りの最速で。まずは小鬼魔法使いを消し去り。
出来うる限りの最短で。2番目に弓兵を倒しきり。
あとは大鎌を手に『聖歌:ほしうた』を歌いながら舞い。踊り。斬り。斬り。斬り。斬り続けて。
味覚を捨て。聴覚を捨て。色彩を捨てて。
心の動きを最小限に。思考し、記憶することすら半ば放棄して。
ただ自動的に。ただ効率良く。ただただ、アバターを動かし続ける。
ただ、一人で。
ただ、独りで。
歌い。
駆けて。
斬り捨てる。
その繰り返し。
そして、
その繰り返しの果てに――
「……はは。さすがは、『ヒーローズ』」
おおよそ、取り巻きの掃討が済んだ段階で、気づいた。あれだけの数の、すべてがすべて格上のモンスターの群れを相手に、ダイチくんたちは――全員、生き残った。
……そう、生き残っていた! それも五人全員が!
何気にずっとゴブリン・ジェネラルを抑えてくれていたようで……。遠めにもわかる疲労困憊ぶりじゃが、それでも生きていた。全員、生き残ってくれていた! そのことが、ただ嬉しくて。……しかしながら、割と早い段階で見捨ててしまった手前、すこしバツが悪い。
そのうえ、
「――頑張れ! きっと、もうすぐミナセちゃんと合流だ! ……あの子が戻ってきたとき、誰かがいなかったら悲しむからね、死んじゃダメだよ!」
「おうよ! なんせ、あのちみっ子教官に散々鍛えられたからなぁ。……みんなを守ってくれって、真っ先によぉ! そんでもって、こいつは不甲斐ない俺らに用意してくれた名誉挽回の晴れ舞台だ。だから――落とさせねーよ、誰も!!」
「そうそう。あれだけ付き合ってもらって……、あたしらを信じてずっと連中を引っ掻き回してくれてる妹分に……、『ありがとう』って――『おかえり』って、言ってあげられるまでは、死ねないよねー、お姉ちゃんとしてはさぁ……!!」
「本当にね。……ずっと、あの子は〈勇者〉で、たくさんの取り巻きの注意を引っ張り続けたうえに遠距離攻撃できるのを速攻で落としてくれたのよ。稀少なアイテムも格安で売ってもらって、レベル上げも手伝ってもらった。こんだけお膳立てしてもらって――先にリタイアできないでしょう、姉貴分として!!」
「僕らにできるのは、ただ生き残り続けて……。ジェネラルを1体抑えるのがやっとですが……それだけでも完遂できなきゃ、本当に単なる寄生プレイヤーですからね。みんなで、誰一人欠けることなく、今度こそ『おつかれさま』と言って迎えてあげましょう!」
再び繋いだ『パーティチャット』の会話を耳にして、思う。……どうしよう。なにやら予想以上に、あっちの五人が――ものすごく盛り上がっとるんじゃが!?
……いや、まぁ。たしかに、ダイチくんたちのために最初だけは敵意を集めるように動いた。
しかし、それは――彼らが『少しでも長く機能する』ように。後ほど儂一人で片付けねばならないと思えばこそ、序盤だけは数多の取り巻きに『ちょっかい』を出した。
せめて、後方のゴブリン・マジシャンを掃討するまではボスモンスターを抑えてくれれば、と。どうせ長くは保つことはできん、と見捨てて――だからこそ、最短距離を駆け。群衆を突っ切って暴れ回り。『副職』を〈勇者〉のままにしたのは、じゃから『敵意を集めやすい』という効果を狙って――ではなく。モンスターのような『カルマ』の値が高い相手に対して攻撃力が上がる副次効果狙いで。単に、火力が安定して高いからそのままだっただけ。
ゆえに、偶然。
しかし、必然。
儂が次から次へと、ただただ集団の後方に引っ込んでいる『マジシャン』や『アーチャー』どもを目標として走り回っていたのが幸いしてか、あまり『主人公と愉快な仲間たち』の五人の方に雑魚集団が押し寄せることが無く。彼らはこれまでと同じく、ボスモンスターと取り巻き数体という状態を維持し続けられた、らしい。
加えて、なんだかんだでここまでの戦闘で良い感じにレベル上げもできたのじゃろう。ダイチくんたちのレベルが最後に視たときよりも上がっておるし。そういう意味では、そこまで格上というわけではなくなっていたが……それでも、まだ全員、レベルのうえではこの場のモンスターより下で。当然、傷つき、疲弊し、ふらついてすらいたが――
「あの子の歌声が聞こえる限り! 僕ら『ヒーローズ』に負けはないッ!!」
…………ぅぇあ。
頬が引きつり、背中を変な汗が伝う。それで、即座に『パーティーチャット』を切り、慌てて『聖歌:ほしうた』を歌いだす。……こ、ここは、あれじゃな。儂はしばらくBGMに徹しよう。うむ。
なに、ここまで『聖歌:ほしうた』を歌い続けたことで、今残っとる連中にしてもけっこう削れているからのぅ。きっと、彼らなら大丈夫。うむ、儂は今度こそ信じるぞ!
……というか、悠長に『呪歌』なんぞ歌うまでもなく、儂が参戦すれば余裕で片が付くんじゃがな。それこそ、少なくなった取り巻きを彼らに任せてボスモンスターに集中させてもらえれば割かし瞬殺できそうなんじゃが――しかし、ここで儂が美味しいところを掻っ攫うのはダメじゃよなぁ。
なにせ、あっちの五人は今がクライマックスと言うか、今まさに『疲れ果て、倒れそうになりながらも一致団結して強大な敵をみんなの力で倒す』場面の真っ最中じゃし。ちょっと、歌うのやめて、ヌンチャク振り回すだけでも終わるんじゃが……うぅむ、と悩みつつ。果たして、儂はしばらくの間。主人公の背景にて、歌って踊り回る死神少女で居続けるのであった。