クエスト78 おじーちゃん、エーオースの『最難関ダンジョン』攻略開始!
最難関ダンジョンである『アーテー北の迷宮』――その攻略を阻むボスモンスター『ダーク・プリースト』の撃破後。度重なる体感時間の操作による蓄積疲労から儂まで夢の世界に旅立ちそうになったが、どうにか耐え。若干、ふらつきながら周りを見渡せば、喜びに沸く『ヒーローズ』の面々と――眠るローズの下敷きになって死にかけとるダイチくんの姿が。
おそらくは気絶し、倒れ掛かった妹の身体を受け止めようとしたのじゃろうが……哀しきことにAFOじゃと少女の方が力持ちで。彼女の纏う防具を敏捷特化のSP振りをしとる青年では満足に受け止められんかったのじゃろう。
で、その結果として。儂も何かと苦労させられとる『異性接触警報』によってアカウント停止の危機という、笑うに笑えない事態――本人以外は爆笑しておるし、儂にしても仏頂面を保つのに苦労させられとるが――に陥っとるようじゃが。
……うむ、中身が実の妹であっても電子仮想世界では他人じゃからなぁ。その手の苦労は良く知る儂にしても気絶中の女児の身体には安易に触れられんからの。どうにかカウントダウンが尽きるまえに、笑って写真を撮るだけの二人を説得して生き残ってくれぃ。
「さておき。さっさと『次』の準備に取り掛かるぞ?」
ため息を一つ。なんだか良い感じに『やり遂げた感』を出しとる連中に声を掛け。とりあえず、ログアウト直前の少女の安眠を約束するための『建前』の後始末を粛々と済ませることに。
「ふむ。事前の取り決め通り、ボス撃破で得たドロップアイテムはそれぞれの取り分で良いのか?」
――モンスターを倒してのドロップアイテムは、基本、その戦闘時の貢献度によって取得者が代わる。
ゆえに、火力担当やトドメをさした者などがドロップアイテムを得ることが多くなり。戦闘時の役割によって取得者が偏ることがままあるゆえ、大抵は事前に取り分を決めていたりする。……で、その辺の話し合いをおろそかにすると、あとで泣きを見るそうじゃが、特に今回のような複数のパーティーで――儂一人パーティーと、ローズを加えた『主人公と愉快な仲間たち』の五人のパーティーの2パーティーで――戦った場合、予め取り分に関して綿密に相談しておかねばならない、と。
下手をすれば、ドロップアイテムを巡ってPKにまで発展することもある、と脅してくれた『ヒーローズ』の面々は、それでいて今回は『そのままで良い』のだそうで。……まぁ、彼らは彼らでドロップアイテムの配分を仲間うちで相談するんじゃろうが、儂に気を遣ったつもりなんじゃろう、と。とりあえず、今回は先輩の顔を立てることにして、あらためて≪インベントリ≫の中身を調べ、今回のドロップアイテムを確認。
……ふむ。『ダーク・プリースト』のHPを消し飛ばしてすぐは意識せんかったが……やはり、あれだけ取り巻きを倒すはめになった割には『少ない』と思ってしまうな。
AFOの仕様上、ボスモンスター戦におけるドロップアイテムは戦闘後に一括で配られる。また、その総数にしたって必ずしも討伐したモンスターと同数とは限らず。ボスモンスター討伐で得られるアイテムだけは多く得られたりするようじゃが……今回のような取り巻きの数が妙に多くなる戦闘の場合、かなり減らされている感がすごい。
加えて、『スケルトン・ソーサラー』のドロップアイテムだろう取得アイテムが『闇の魔石』ではなく『骸骨魔法使いの闇杖』って……。これ、『MP回復系の特徴』を持ってない装備アイテムっぽいんじゃが……素材に使っても『混沌大鎌』の『トドメをさした際にMP回復』の特徴を強化できないんじゃ?
とりあえず、ほかのドロップアイテムなども珍しい――と言うか、ダンジョン内では上位骸骨たちからは『魔石』か拾えんから、普通に『骸骨兵の○○』というドロップアイテム自体がボス戦でしか得られん――ゆえ、あとでアキサカくんたちに相談するとして。総評として、『北の迷宮』の攻略によって得られたアイテムの『質』に関して言えば……うむ。悪くない、な。
「よお! やったな、赤毛っ子」
「乙ー、ミナセ」
「お疲れ様、ミナセちゃん」
さておき。近寄ってきた筋骨隆々の巨漢と手のひらを叩きあい。抱き着いてきたちぃお姉ちゃんをそれとなく引きはがして。糸目の青年に「うむ、お疲れさん」と言って返し。それは自然に、「ときにカネガサキさん。1つ、確認するが――」と何でもないふうに語り掛け。「たしか、『迷宮都市エーオースのレベル15開始ダンジョン』の攻略者は、まだ出ておらんかったよな?」と、ニヤリと笑って問えば――ようやく、彼も儂の狙いを察してくれたのじゃろう。
「えっと、それは……まだ、だったと思うけど」
怪訝顔ではなく、『まさか』とでも言いたげな顔をしとる『主人公と愉快な仲間たち』の中では軍師ポジションの彼に、「それは重畳」と笑みを深くして返し。
ときに、おまえさんらのなかにエーオースの『レベル15開始ダンジョン』の『中継拠点設置者』――たしか、通称が『マーカー』と言うんじゃったか? ――は居るか? と、重ねて儂が訊けば、カネガサキさんは常の細目をわずかに見開いて「い、いえ、居ませんけど……」と答えつつも顔を引きつらせ。
たしか、俺らの使ってた中継拠点ってローズの設置したやつだったか? と、ドークスは首を傾げ。ちぃお姉ちゃんは「って言っても、あの妹ちゃんがイベント期間中に他所で『中継拠点設置』を使ってたら上書きされちゃってるよ?」と、儂のやりたいことを察しているのか窺えない、いつも通りの感情のあまり現れていない表情で告げ。
対して、なんだかんだでイベント期間中、ずっと一緒に行動していた儂が「それなら、大丈夫。ローズは一度も『中継拠点設置』を使っておらんかった」と頷いて返し。ここまでの会話で何をやらされるのかを正しく悟った様子のカネガサキさんは「でも、たしかローズの設置した『中継拠点』のある階層って、レベル35――20階だったと思うんだけど……」と、苦笑気味な表情で言うので「十分じゃな」と、ニヤリと笑って返す。
「幸いにして、ログアウト中のローズと『ヒーローズ』の五人はパーティを組んだままじゃしな」
つまり、少女の設置した『中継拠点』を使える、と。現在、現実世界ではまだ日付が代わって20分も経っていない。だから、今から『次』の準備をすれば――十分、『主人公と愉快な仲間たち』がログインし続けていられる早朝4時までに間に合う、と。
「ログアウト直前のローズの手前、ああ言ったが……儂が『北の迷宮』の最速走破者になれたところで所詮、目立つのは『儂一人』。そのフォローをどれだけしようともクラン『薔薇園の守護騎士』の――その代表メンバーである『ヒーローズ』の名誉挽回には弱い」
クラン『薔薇園の守護騎士』は、対外的には迷宮攻略専門クランで。代表メンバーであるダイチくんたちには『誰より早く迷宮攻略を成す』という公約にも近い期待があるわけで。今回のイベントで悉く他の者の後塵を拝する結果となった『主人公と愉快な仲間たち』の五人には、だからこそ、結成時に掲げたであろう目標を達成すべきじゃ、と。お誂え向きにも、誰も彼もがイベントの仕様からアーテーにばかり注目している今、このタイミングでならエーオースの最難関ダンジョン最速走破ができる、と語り。
「い、いや、でも……。さ、さすがに今からエーオースのダンジョンを10階昇ってボス攻略とかキツ――」
「がんばれ、お兄ちゃん♪」
かくして、外見相応の、幼くも無垢に見えるだろう笑顔を浮かべてダイチくんの苦言を封殺すれば……なにやらひどく怯えられた? はて?
さておき。『主人公と愉快な仲間たち』の五人には『快く』同意を得られたようで。とりあえず、ボス部屋から出て『次なる舞台』のための用意をするため、転移結晶から出ようとするタイミングで――
「ああ、そうじゃ。エリお姉ちゃん、ちょっと『こいつ』を買い取る気はないか?」
さも、今思いだしたとでも言いたげな雰囲気でもって取り出したのは、さきのボスモンスター討伐によって得られた報酬――『属性魔法:闇の魔導書』。
このアイテムの詳細は、儂らがイベント直前に『属性魔法:水の魔導書』を配ったからこそ【鑑定】するでもなく全員が一目で見抜き。【属性魔法:闇】を得ることの優位性を理解できる彼らは、だからこそ全員が息を飲み。どころか、正気を疑われたりもしたが「どうせ、自分用のはすぐに手に入る」と軽く肩をすくめて言って返し。けっきょくは、『主人公と愉快な仲間たち』のパーティ資産からかなりの値段で買ってもらえたが……さすがにそこまで高く売れるとは思っていなかっただけに、ただ単に『貸し借り』としなかったがために『売る』と言った儂の方が彼らの正気を疑った。
「いやいや、たかがアイテム1個に――それもボスモンスターを倒せば手に入るのが確定したそれに、50万Gって……さすがに貰いすぎじゃろう」
言葉にこそしなかったが、おそらくは謝礼だとして一人10万Gで50万Gという値を付けたのだろう、と。それは察せられるが、どうせ近いうちに手に入れるだろうアイテムに、と呆れて言えば、むしろ「安く買いたたいて、ごめん」と謝られ。よくよく聞けば、現状、AFOでも片手の数しか入手されていないだろう稀少性に加えて、イベント期間中では『何より役立つアイテム』ということで、仮に≪マーケット≫に出すのならもっと高く売れるだろうと言われてしまったが……ふむ。50万Gより高く売れるのが確定とか、本気で周回を狙いたくなるのぅ。
と、それはさておき。なぜか、『アーテー北の迷宮』を出るや罵詈雑言や「ロリコン」といった呼び名が定着しているかのように大勢のプレイヤーから呼ばれ、罵られて凹むダイチくん。そして、てっきり今回の迷宮攻略の件でいろいろと訊かれたりするものと思えば、なぜか心配され。励まされ。同情するような、労わられるような眼で見られる儂。……はて?
「リーダー……どんまい」
「心を強くもって、頑張って……」
かくして、もろもろの補給や、今回の儂の『アーテー北の迷宮』の走破に関して予想外の方向に騒がれているらしい件についてをエーオースの拠点にて説明することにした『ヒーローズ』を見送り。
とりあえず、今回のボス戦で吐き出した『ポーション』の補充としてアイギパンまで『薬草』を買いに行き。冒険者ギルドにてドロップアイテムを売ったり、預けたりしたあと。【調薬】時間の短縮のため、わざわざ適当なアーテーの迷宮内に籠って各種回復薬を造り続け。
あらためて『主人公と愉快な仲間たち』の五人と合流するや、エーオースの『レベル15開始ダンジョン』の20階――レベル35のゴブリンが出現する階層にて、最初の数階は『敏捷』にSPを全振りした〈斥候〉のレベル上げをすることに。
……なにせ、ここからは『最速走破者』のリストに載ることも視野に入れんといかんからの。どうやったところで時間を取られるじゃろうボスモンスター戦はさておき、移動時間を如何に短くできるかが勝負じゃろうし、最大敏捷値を誇る〈斥候〉のレベル上げは急務と言えば急務じゃからな。
加えて、事前の予測通り、『ダーク・プリースト』戦にて【盾術】と【斧術】の2つが最大レベルに達し。悩みに悩んだ結果、【盾術】は直近のボス戦をまえに防御力を下げるわけにもいかんとして『固有技能化』。【斧術】は取り巻きを召喚するボス戦にて雑魚狩りによるレベル上げの機会が多そうとして『上位化』をそれぞれ選択。と、この結果に不満こそありはしないが……もう少し時間的な余裕があり、『控えスキル』に空きがあれば両方『上位化』して『ランク2のスキル』にしたかも知れん、とは思う。
さておき。ダイチくんたちと合流してからは〈斥候〉に就いて【斧術・弐】のレベル上げに努め。エーオースの『レベル15開始ダンジョン』にある、彼らが以前にレベル上げに使用していたという20階層から駆け足でボスの出現する30階の手前――29階の『広場』で儂が『中継拠点設置』を使用することに。
なお、この行軍途中でアキサカくんたちに頼んでおった新装備その2――先に受け取った『闇蟹アーマー』と『闇蟹シールドセット』と同じく、上位魚人のドロップアイテムとアーテーの迷宮で『採掘』した素材をもとに造られており。遠目からは全体的に黒いが先端の方から螺旋状に金のラインが入っているために『ネジ』のようにも見えるデザインの『短槍』で。名を、『闇蟹の短槍』という――を2本受け取り。途中からは両手にこれを装備して駆け回ったりもしたが……うむ、悪くない。
美晴ちゃんではないが、やはり【二刀流】を活かすためには同種の装備が必要で。『原作再現』の一環で先端の形状こそ特異ではあれ、要望通り2本同時に振り回すことを前提とした『短槍』なら儂の中にも『型』が存在しておるため使い易く。『水』と『闇』の2属性を特徴として付与されているため称号による強化もあって攻撃力も高い、と。
もっとも、元となった『原作』を忠実に再現することを至上とする製作者たち曰く、残念ながら先端部を『ぎゅいん、ぎゅいん回転させる』機構を組み込むことができず。本物の『ドリル』のように高速回転などさせられんで、大そう不満げではあったが……とにかく、これら一連の武装に関しては毎度のごとく代金の受け取りに消極的なアキサカくんたちに大量の『魔石』とボス討伐で得たドロップアイテムを無理やり渡し。後日、また29階の『広場』にでも『中継拠点』を設置するので招待する、という約束で手を打った。
と、それはさておき。敏捷特化の儂にダイチくんに引っ張られるかたちで、どうにか現実世界の3時までにボス戦を行えるような位置へと足を進められ。
「……さて、『緊急回避』も使用できることじゃし。予定通り、ダイチくんたちがクランハウスに補給に戻っとる間に――ボスモンスターに『挨拶』ぐらいはして来ようか」
果たして、エーオースにある『レベル15開始ダンジョン』の最上階にて。一人、『主人公と愉快な仲間たち』の五人を待つことになった儂はそう笑って呟き。さっそく、〈戦士〉に『転職』。『闇蟹アーマー』に『闇蟹シールドセット』も纏ったうえで、右手の『闇蟹の短槍』に『流星槍』のエフェクト光を纏わせて、振り向き。重厚そうなデザインの、高くそびえ立つボス部屋へ続く『扉』を――蹴り開ける!
と、同時に『知覚加速』と呟き。体感時間を加速させ、世界の歩みを遅くしてボス部屋全体を視線だけで見渡し。それぞれの頭上の三角錐をクリック。
それで最奥に見える、一際大きなモンスターがボスじゃろう、『ゴブリン・ジェネラルLv.45』で。おおよそ2メートルを超す、小柄で醜悪な小鬼であったゴブリンにしては大きく、逞しく。筋骨隆々だろうシルエットと重厚な金属鎧に刃渡り2メートル近い斬馬刀装備と、なかなかどうして強そうではある。
……もっとも、【看破】でもって視まわしたところ、引き連れているのがレベル30程度の、普通の『ゴブリン』で。たとえ、その数が20体も居ようと『ゴブリン』の上位種の遠距離攻撃が可能な弓兵や魔法使いが居なければ怖くない。
せめて、盾持ちぐらいは用意しとくんじゃったのぅ、と。そう思いつつ、体感時間の操作をやめ。再び動き出した世界で、右手でチャージし続けていた『流星槍』の一投と、左手に持っていた短槍を投げるのと同時に使用した【投擲術】のレベル15で使用可能になるアーツ――『ブレイクアップ』によって10に分裂した投槍攻撃により、初手にも関わらず取り巻きをかなり削ることに成功。
次いで、駆け寄りながら≪インベントリ≫のウィンドウを開き。『ヌンチャク』を2つ取り出して、吼える将軍さまを無視して小鬼どもを叩き、弾き、蹴散らして。迫る長大な斬馬刀の一撃を、背に並んだ4つの盾の1つを引き寄せ、【盾術】のレベル15で使用可能になったアーツ『シールド・パリィ』で弾き。その1秒しか発揮されない『防御力を大幅に上昇させ、盾に触れたものを大きく弾く』効果でもってゴブリン・ジェネラルをよろめかせる。
と、同時に。盾を持つため足下に落としたヌンチャクを拾い――その動作に連動するように、下からすくい上げるような一撃を背後から飛び掛かってきた小鬼に当て。追撃もくれてやれば、また1体、ゴブリンはポリゴンの粒子となって散り。
さきにアーテーで『物量戦』を経験していたからか、一対多であろうとも大して危機感を抱くこともなく。将軍さまの攻撃こそ注意は居るが、その他の小鬼どもの振り回す棍棒など脅威たりえず。斬馬刀を弾き、突進をいなす傍らでヌンチャクを振るい、叩きこんで、あっけなく取り巻きはいなくなり。どうやら、ここのボスモンスターは『おかわり』ができんらしい、と察して唇の端を吊り上げ。
いっそ、このままゴブリン・ジェネラルをも倒してくれようか、と。そんな欲が出たりもしたが――それも、将軍さまの5本あるHPバーのうちの1本を削り切るまでで。
儂が「あと4本」と思う間に、それまで対峙していた巨大な重装ゴブリンは背後に大きく跳躍。儂と距離を置き、高々に吼えて――それと連動するように、ボス部屋を覆っていた壁が崩壊。階層1つぶんにしては狭いと思っていたボス部屋は、じつは何層もの壁によって囲われ、隔てられていたことを知らしめるように広くなった空間に、壊れ落ちて消えた壁の向こうから儂を囲うように跳びだしてきたのは――ゴブリンの上位種である剣や鎧を装備した『ゴブリン・ナイト』20体で。
慌てて知覚を加速し、【看破】でもって視まわせば、新しく出現した小鬼騎士のレベルが35で。……この時点で、おおよそこの『レベル15開始ダンジョン』のボスモンスター戦における仕掛けを察した。
「ふむ。つまりは、将軍さまのHPバーを割るごとに上位種が、レベルを上げた状態で出現する、ということか?」
それはまた、なんとも面倒な、と。手に持つヌンチャク2つを≪インベントリ≫にしまい。代わりに『混沌大鎌』を取り出して、『スキル設定』に【属性魔法:光】と【慧眼】を加え、
「――『ライト・サークル』」
発動するは、【属性魔法:光】のレベル3で使えるようになった『MPを消費し、自身を中心として発動。地面に不浄なるものが触れるとダメージを与える魔方陣を一定時間描く』魔法――『ライト・サークル』。
これにより基本的に飛べないモンスターは、儂を中心とした直径3メートルの円で区切られた、白く光る魔方陣に触れている限り継続的にダメージを受けることになり。対多数戦で、囲まれるような展開に対してであれば、なかなかに使える魔法ではある――が、実験の結果、この魔法は1度発動したあとでもう1度、同じ魔法を使う場合、『光る魔方陣』が重ならないようにしなければ、あとから創りだした『光る魔方陣』に上書きされるように先に描いてあったそれが消えることが判明。
加えて、その持続ダメージにしても使用時の魔力値や〈職〉に関係なく一定で。効果時間の10分間、ずっと与え続けたとしても大してダメージを与えられないため、いちいち移動して『光る魔方陣』を張り直して、を繰り返すよりはよっぽど範囲回復魔法の連打の方が有用だったためにアーテーのダンジョンではダメージ源としては期待できなかったが……ここのような普通の、回復魔法でしっかりと回復してしまう小鬼を相手にする場合は、ほかに範囲攻撃の魔法が無い儂の場合、わずかでも継続的にダメージを与え続ける魔法も無いよりはマシ、というもので。
攻撃を『闇蟹シールドセット』のうちの1つを引き伸ばして防ぎ。逸らし。大鎌を振るってダメージを与え、トドメをさしてはMPを回復。
時折、足下に『光る魔方陣』を描いて回ったりもしつつ、最初のときとは違ってけっこうな時間をかけながらもゴブリン・ジェネラルのHPバーの2本目を割ることに成功、と。
果たして、残りのHPバーが3本となるのと同時に、また大きく跳躍して距離を置き。吼えて。周りの壁を崩して、一段と広い空間となったボス部屋に、ついには遠距離攻撃を可能とするゴブリン・アーチャーと、大きな盾をもったゴブリン・ガードが出現。
体感時間を加速して視まわした、ゴブリン・ナイト10体に弓兵が4体、盾持ちが6体という増援は予想通りレベル40もあり。さすがにこれ以上の戦闘は、『回復アイテム無し』では厳しそうだったので――
「ふむ。またな、将軍さま」
その言葉を最後に、『緊急回避』を使用。エーオースの転移魔方陣へと跳び、「……ふぅ」と脱力するようにため息を一つ。とにかく次は、『主人公と愉快な仲間たち』の五人に、儂が持ち帰ったボスモンスターの情報を伝えて、対策を話し合い。
そして――
「……願わくば、少女たちの良き先輩たちに尊き栄冠を」
そんな呟きを人知れずこぼし。
果たして、儂らは前人未到の迷宮都市最難関ダンジョンの攻略へと乗り出すのであった。