クエスト77 おじーちゃん、総力をあげて『ダーク・プリースト』を撃滅す
【属性魔法:水】のレベル15で使用可能になる『対象の頭上、もしくは指定した地点の上部より下方へ大量の水を発生させる』範囲攻撃魔法――『ハイドロ・プレッシャー』。その発動の前兆として頭上に青い光を発する魔方陣が浮かび上がるのを『視た』儂は、即座に体感時間を加速。
果たして、ゆるやかな時の流れの中にあって視界の隅に表示したままの2つのウィンドウ――そのうちの≪ステータス≫の方に意識の焦点を合わせ。『装備』の欄にある『闇蟹シールドセット』を外し。次いで『闇蟹アーマー』をクリックして、今回もまたアキサカくんたちが設定してくれた『特殊ギミック』を起動。すべての装甲を脱いだ鎧下――つまりは儂やアキサカくんたちが『旧式女児用競泳水着』と呼ぶ、かつての女生徒が水泳の際に着ていたとされる格好に着替え。
新たに≪メニュー≫を開き。『転職』の項をクリック。そして、浮かんだウィンドウに表示された『職歴』の中から〈治療師〉を選択し。それから≪ステータス≫の中の『スキル設定』――そこに羅列された【強化:筋力】、【盾術】、【斧術】、【回復魔法】、【看破】、【慧眼】、【投擲術】の7つのうち、【盾術】と【看破】を外し。代わりに【属性魔法:光】と、このイベント中にセットするとは思わなかった【スキル】の筆頭――【水泳】を設定。
最後に大量の水をひっかぶる覚悟を決めて。知覚速度を、戻す。
かくして、儂は頭上の青い魔方陣から吐き出された大量の水を被り。同時に〈初級魔法使い・弐Lv.30〉の『水』の属性ダメージを受けることになったわけじゃが……こちらは『魔力』全振り〈治療師Lv.22〉に就いて補正が24となったうえで『特徴:属性(水)』を備えた専用装備。加えて、称号【水の精霊に好かれし者】の効果で『水属性のダメージを減少』させたことで本来であれば防御力のほとんど無い鎧下でありながら大してHPを損なわず。
これに、本来は『数秒間呼吸もままならず。強烈な水流と水圧のせいでアーツやマジックの発動すら粗大する』はずが、称号の効果で『水中でも呼吸可能』。『水位に応じてステータスが上昇』に加えて高レベルの【水泳】持ちということで水流や水圧といった行動阻害すらある程度無視できる現状、むしろ多少のダメージなぞ単なる『必要経費』というもので。
そうして強化された状態で、「――『エリアヒール』」と。自身の回復と同時に、直前まで儂を囲んでくれていた死霊系モンスターへ範囲回復魔法でもってダメ押しすれば、本来、生み出された大量の水によって押し流されるなり、水流によって動きを阻害されているはずの――そもそもが魔方陣から地面に着くまでの間にしか魔法ダメージの判定が無いらしい――レベル20の『スケルトン』や『ゾンビ』はもちろん、ダメージの蓄積されていた『スケルトン・ウォリアー』2体の残存HPを消し飛ばすことに成功、と。
……よし。おおよそ狙い通り、鬱陶しかった有象無象に加えて骸骨兵までもを一気に屠れたのは重畳。あとは、開戦からこっち、儂と一定の距離を保って魔法攻撃し続けてくれおった『スケルトン・ソーサラー』じゃが――と! できれば『ハイドロ・プレッシャー』による水流に飲まれて魔法の発動を阻害できていれば、と期待したんじゃが……残念。普通に『闇』の槍を飛ばしてきおった。
もっとも。未だ『ハイドロ・プレッシャー』によって腰下までを水浸し状態となっていた儂には、それを避けるは容易く。
平時であれば知覚を加速するなりせんと躱しきれんかったろう、『敏捷』には全くSPを振っておらん〈治療師〉に就いたままで初段を避け。同時に、≪メニュー≫を開いて『転職』の操作をしながら次弾を大鎌で弾き。〈戦士Lv.26〉に就きなおしたことで上昇した敏捷値でもって弾幕を捌きながら、再び『闇蟹アーマー』を着なおし。
そんなこんなで水位も随分と低くなった頃には『スキル設定』から【水泳】も外し。『スケルトン・ソーサラー』の魔法攻撃が止むのと同時に駆け出し。肉薄し。『ブースト』と『エンチャント・アクア』の付与魔法に称号の効果で強化された大鎌による連撃によって、ようやくと言えばようやく、骸骨魔法使いの掃討に成功。
あとは、これまで放置気味じゃったボスモンスターに骸骨兵が2体。それに、召喚魔法によって現れた有象無象が何体か居るが……ふむ。
とりあえず、≪インベントリ≫から『TP回復ポーション』を取り出し。使用。
ここまでの度重なる『知覚加速』とアーツの使用によって減少したTPを回復しながら、相変わらず数秒感覚で『スケルトン』や『ゾンビ』を生み出し続ける『ダーク・プリースト』に顔をしかめ。その頭上にある5本の横棒を睨んで、このままでは本当に長期戦になりそうじゃ、と嘆息。
ローズの睡眠時間を削ってまでして挑んどるわけじゃし、できれば短期決戦が良かったんじゃが……まぁ、腐ってもイベント最難関ダンジョンのボスじゃし、な。儂一人で特攻したところで手数が足りんし、格下とは言えレベル20もあると1撃で退場とまではいかんからのぅ。
ゆえに、
「おーい、ダイチくん! それにちぃお姉ちゃんも! ボス退治を手伝ってくれんかー?」
そう大声で呼びかけながら、『ダーク・プリースト』の方へ――ではなく。ダイチくん、ローズ組の方へと駆け出し。その途中で立ち塞がろうとする『スケルトン』や『ゾンビ』を範囲回復魔法で削り。『混沌大鎌』で斬りつけ。切り捨てて、MPを回復。
とにかく、消費を抑えつつ真紅の巻き髪令嬢がこれまで抑えておった『スケルトン・ウォリアー』へ向かって道を切り開きながら、
「『エリアヒール』、っと。いや、本当にローズには申し訳ないんじゃが……おまえさんの『美容』のため、大好きなお兄様との『デート』を邪魔する儂を許してほしい!」
最後に疲弊した少女ごと範囲回復魔法で癒し。大鎌で斬りつけながら、あえて明るく。それでいて大きく、よく聞こえる声でもって多分に冗談めかした台詞を吐く儂に、「『ヘイトア――ぶほッ!? み、みみみミナセさんってば何を……!?」と狐耳令嬢は目を丸くし。それでいて隠し切れぬ安堵の微笑を浮かべておる辺り……やはり、格上を相手に兄と一緒に慣れない壁役をするのはきつかったか。
「『ツイン・スラッシュ』、っと。……うん、そうだね。可愛い妹の明日を守るためにも、一刻も早くボスを倒さなきゃ!」
そう微笑み、告げる青年と視線を交わし。頷きあって、選手交代。
儂が『混沌大鎌』の刃先で骸骨兵を転ばせるか、瞬時に「行こう、ローズ」と言って妹の手を引き。急展開に「え? あ、あの、お兄様?」と目を白黒しておる少女もまたボスの方へ。
……よし。あとは、
「『アロー・レイン』! ……で? 筋肉は一人でも大丈夫?」
視線を、遊撃手として一人離れた位置から壁役二人をフォローし続けてくれていた少女へと向ける儂に彼女も頷いて応え。
「おう、任せろ。『ヘヴィ・ガード』! ってか、俺一人じゃねーし。『ヘイトアピール』!っと、壁役見習いの嬢ちゃんに魔法使い組が居るし、な!」
かくして、配置は儂とドークスが骸骨兵を1体ずつ。ダイチくん、ローズ、ちぃお姉ちゃんの三人が邪神官へ向かい。エリお姉ちゃん、カネガサキさんの魔法支援組の二人は変わらず全体を見てもらうことにして。
「ですね。『エリアヒール』っと! 最悪、僕も火力役いけますし?」
「『ブーステッド・アクア』! って、回復役が火力役に回ったら、『Mポ』の消費がマッハだから! 『プロテクション』! お願い、やめて!」
と、ここに来て一気に明るく、騒がしくなる面々。
「『ライト・サークル』っと。……ふむ。せっかく『運営』が『イベントボス』の予行練習としてこの『舞台』を用意してくれたんじゃし――そろそろ『歌い手』として参戦すべきかの?」
そんな場違いとも思える賑やかな雰囲気の中。累積したダメージもあったのじゃろう、大して苦労もなく骸骨兵を斬り捨て、地面の光源――白い光を発する幾何学模様こと【属性魔法:光】のレベル3で使えるようになる『触れたものが不浄のものにダメージを与える魔方陣を設置する』範囲攻撃魔法――『ライト・サークル』を張り直し。これまで同様、極々僅かダメージを継続的に与えることにして。
視界の隅に表示したままの≪ステータス≫のウィンドウをちらり。このまま〈初級戦士Lv.45〉で行けるか? と、思案するのも数秒。とりあえず、心許ないMP残量をポーションでもって回復することにして、
「――『これは星唄。星の歌』」
『呪歌』を、歌う。
『聖歌:ほしうた』を、歌う。
そのうえで、いつかの『イベントボス戦』がそうであったように。一定値以上の『カルマ』を有する相手にダメージを与え。『モラル』の数値が高いものを癒す『呪歌』を歌いながら、大鎌を振り回し。駆け回り。
最終目標は当然、この空間に居合わせるすべてのものに干渉。仲間の援護をしながら、本格的に『ダーク・プリースト』の1本目の横棒を削りに行き。
その結果、
「『――ああ、優しき始祖星霊さまよ、ありがとう』」
本当に、偶然。
あるいは、そうなるように【看破】持ちのカネガサキさん調節でもしたのか――儂の『呪歌』の終わりと同時にしぶとく残っていた骸骨兵が。そして、『ダーク・プリースト』の5本あるHPを示す横棒の1本が砕け散り。邪神官の悲鳴が、あたかも演劇の終幕を告げるかのように響きわたり、
――次の瞬間。ボスモンスターを中心にして6体のモンスターが召喚された。
それはさながら、『最初に戻った』かのように。配役から配置まで、あたかもこの世界に突入した瞬間を思わせる演出に、儂らは――
「ははっ、まさかのボスモンスターからの『もう一回』だってさ、ミナセちゃん!」
「ふふっ。あは、あははは! お、お兄様、笑わせないで……!」
「……『まだまだ終わらせるには惜しいから新しく観客を呼んでみたゾ』きらりん☆」
「ぶほッ!? お、おい、やめろ。緊張感が無くなっちまったじゃねーかよ……!」
「ふふふふ。い、いえ、実際、状況的にはマズいんですが――『俺のアンコールはあと3回残っている』キリッ! みたいな感じですか?」
「ははっ、あははは! ちょっ、みんなっ、笑わせ――あはははは!」
あえて明るく。ことさら笑い話になるように振舞い、
「あー……さすがに『スケルトン・ウォリアー』の敏捷性のまえでは歌えんからな?」
敵含め、そんな期待した目で見つめられても困るぞ? と、肩をすくめて告げ――それを聞いてさらに笑い声が上がるのを尻目に、装備を変更。≪インベントリ≫から『ヌンチャク』を2つ取り出して、≪ステータス≫も操作。『スキル設定』に【二刀流】を加えて、
「『ツイン・ヘヴィ・ハンマー』、っと。あ、ダイチくん? とりあえず『僕たちの戦いはこれからだ! キリッ』って決め顔で言ってくれんか?」
――とにかく、疲弊の濃い彼女を気遣い。『振り出しに戻る』という状況と『まだ最初の1本を削っただけ』なんて思いから心が折れぬよう、全員でフォローする。
「……うん。さぁ、まじめに戦おうか、みんな!」
「え、ええ。お兄様の言う通りですわ!」
「……『僕たちの戦いはこれからだ! キリッ』」
「『ヘイトア――ぶはっ!? な、なんでこっち見て言いやがった!?」
「あー……そう言えば、ダイチ。いつだったかに普通に言ってたわね、その台詞」
「……エリーゼ。そこは思い出しても気づかないふりをしてあげるのも優しさですよ?」
さておき。冗談を言い合い、終始笑いの絶えない中でも真剣に。一切の油断も無く動けるのが『攻略組』の『攻略組』たる所以と言おうか。
敏捷特化の双剣士――ダイチくんは瞬時に距離をとり。壁役見習いのフォローを行える位置取りをして。
巨漢の重戦士――ドークスは開戦までの一瞬で自身の優先順位を確立。迷いなく『盾』の耐久値をアイテムによって回復しながら、守るべきものを守れる位置へと焦ることなく移動。
付与魔法使い――エリお姉ちゃんは『魔法薬』を浴びまくってみんなの支援を厚くし。
遊撃手――ちぃお姉ちゃんはサラッと後退。なんだかんだ言って最も頼りにしているのだろう大盾使いの陰に隠れて静かにアーツを起動しており。
回復魔法使い――カネガサキさんは虚空を睨んで眉間に皺を刻み。おそらくは細められた瞳で全員のHPを確認し、これからのことを試案しているのじゃろう。
壁役見習い――ローズは冗談には笑い。楽しそうに。気丈に、振舞ってはいるが……ここまで気の抜けない格上を相手に、敬愛する兄を守ろうと頑張り過ぎているうえに、うまく『休み』を入れられていないようで。睡眠欲求もあるのかも知れんが……おそらく、少女の限界は近い。
ゆえに、ここは――あえて最初の『焼き増し』の如き戦術で行かせてもらう!
「エリお姉ちゃん、『ブーステッド・ウィンド』と『エンチャント・アクア』を!」
とにかく、前へ。眼前に立ち塞がる骸骨兵4体を掻い潜って無理やり骸骨魔法使いに肉薄し――ようとする視界を暗黒が埋め尽くし。おそらくは【属性魔法:闇】の範囲攻撃魔法だろう暗幕によって視界を完全な『闇』が覆い尽くし、ダメージをもらうが――構わず突っ込む!
「『エリア・ヒール』!」
――もとより大して視覚情報だけに頼っていない。
加えて、経験上、ボスモンスターなどのHP残量を示す横棒が複数ある相手の場合、『一回でも削りきった横棒は復活しない』のは知っているでな。本来であれば、死霊系モンスターでないことがわかっている邪神官だけは範囲から外れるよう回復魔法を使うべきなんじゃろうが――横棒が切り替わってすぐの今なら問題無い。
最初の目標である『スケルトン・ソーサラー』に駆け寄り。途中の『スケルトン・ウォリアー』の攻撃をかわしながら回復。目標と周囲のモンスターにダメージを与えながら、ある程度の被害を甘受し。とにかく1体。付与魔法や防具の性能便りで耐え、ほかの一切を無視するように振舞って『スケルトン・ソーサラー』へのダメージを蓄積させていき――数分とかからず撃破、と。
次はエリお姉ちゃんに頼んで水をひっかぶり。TP、MPのすべてを吐き出す勢いで短期決戦を狙い。横棒はまだ4本も残っているというのに、ここで回復アイテムをガンガン消費して。最初の1本目より早く2本目を削りきり、
3本目になった瞬間――『スケルトン・ウォリアー』が6体、『スケルトン・ソーサラー』3体現れた。
しかし。
……それでも。
「ははっ! さすがに、しつこいのぅ!」
笑みをたたえよ。
少女の顔を曇らせるな。
4本目になるや、『ダーク・プリースト』の召喚するモンスターがレベル30の『スケルトン・ウォリアー』と『スケルトン・ソーサラー』になってなお。
全員、笑え。
苦しいなら、笑え。
厳しい状況でこそ笑え。
最後の5本目。出現する『スケルトン・ウォリアー』と『スケルトン・ソーサラー』が最初の倍の数――8体と4体になって、なお。
笑え。
笑い続けろ。
「――『知覚加速』
加速された世界で、瞬時に『転職』。〈狩人〉に就き、防具を『デスティニー作女番長セット』へ。武装を『混沌大鎌』から『ヌンチャク』2つへ換装。
「『ツイン・ヘヴィ・ハンマー』!」
回復アイテムを浴びて。時の歩みを戻しながら、駆け出し。
「『グランド・バースト』! 『エリアヒール』!」
骸骨兵を退かし。魔法の集中砲火を両手の『ヌンチャク』を振り回して弾き。逸らして。ダメージ覚悟に突っ込み。突っ切って、範囲回復魔法で回復ついでにダメージを加算。
「『グランド・バースト』!」
前へ。前へ。誰より前へ。
「『エリアヒール』! 『グランド・バースト』!」
まずは1体。瞬時に2体。
1秒でも早く。とにかく速く。
転職し。【スキル】を弄り。武装を換装。
『混沌大鎌』を振りかぶり。【投擲術】レベル1で使える『TPを消費して発動。対象のシンボルをクリックすることで一定時間、その対象へ投擲した物体が命中しやすくなる』アーツ――『ターゲッティング』を使用し、【斧術】レベル7で使える『TPを消費して発動。次の一撃の威力を上げ、何かにぶつかった段階で手元に戻ってくる』効果を持つアーツ――『ブーメラン・アックス』を使ってぶん投げて。
≪インベントリ≫から嘉穂ちゃんに借りたままの『トライデント』を取り出し。これまた投擲。
脚を止めず。駆けながら〈狩人〉から〈戦士〉に『転職』し。『ブーメラン・アックス』の効果で戻ってくるだろう大鎌を受け取るために右手はあけておくとして、≪インベントリ≫から『特殊武装:斧槌』を取り出し。左手で掴んで振るい。
漆黒の雨のごとき攻撃を躰で受け止め。暗幕のごとき闇魔法の奔流を突っ切り。
まだ大丈夫と言い聞かせ。衝撃によろめきかけても意地で踏ん張り。
直前の骸骨魔法使い――と、その背後で今もひたすら『スケルトン・ウォリアー』と『スケルトン・ソーサラー』を呼び出し続ける『ダーク・プリースト』を睨みすえ。2体のモンスターの位置関係が直線状に並ぶように調整。
そのうえで、【斧術】のレベル15で使えるようになる『TPを消費して発動。一撃の威力を上げる。また、地面に叩きつけるように振るった場合、その攻撃力を維持したままの衝撃波を前方に飛ばせる』という効果のアーツ――『ガイア・スラッシュ』を発動。多少、距離のあった前座に加えて、その背後に居た本命までを『地面を走り抜けるエフェクト光でできた斬撃』でダメージを与え。これまで散々『闇』の魔法を振らせ続けてくれた骸骨魔法使いを『ついで』のごとく斬り捨てる。
「『ブーメラン・アックス』! 『グランド・バースト』!」
……もはや、これ以上の延長戦はマズい。
ダイチくんたち『主人公と愉快な仲間たち』はまだしも、『最前線』の、それも本格的な長期戦に慣れておらん狐耳令嬢の消耗が激しすぎる。このままでは数分と経たず少女の気絶による途中離脱という幕引きになってしまう!
「武装換装。『転職』、っと! カネガサキさん! 以後、儂の回復も任せた!!」
ゆえに、ここから先は全力でボスモンスターを――『ダーク・プリースト』だけを最速で潰しに行く。
「『ツイン・ヘヴィ・ハンマー』! 『グランド・バースト』!」
ゆえに、先に死んでくれるなよダイチくん。ドークス。ちぃお姉ちゃん。エリお姉ちゃん。カネガサキさん。
「ドークス、カネガサキさんは前に! 僕とアイチィは回り込むよ!」
「『エリア・ヒール』! からの『エリア・ヒール』に、おまけの『エリア・ヒール』!!」
「うっわ、叔父さんがここまで開幕から魔法連打とか初めて見るかも――と、『アロー・レイン』」
「『ウォール・ウィンド』! って、上に吹っ飛ばしちゃったらミナセちゃんの『ライト・サークル』の効果が無駄になる?」
「『ヘイトアピール』! 『ワイド・ガード』、っと。エリーゼのおかげで攻撃魔法が途切れてるし、悪くねーんじゃねぇか?」
そして何より、最後の瞬間まで――
「はぁ。はぁ……。へ、『ヘイトアピール』……!」
――もう少しだけ。
あと少しの間だけで良いから……寝てくれるなよ、ローズ!
「落ちろ! 落ちろ落ちろ落ちろ、落ちろぉぉぉおおおおおおおッ!!」
果たして、
……結論から言って、
「儂らの、勝ち、じゃぁぁぁあああああああああああッ!!」
邪神官のHPを消し飛ばしたうえでの儂の勝鬨は、ギリギリ。笑みを浮かべて気絶し始めていた少女に――届いたのじゃった。