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おじーちゃん、『姫プレイ』なう!?  作者: 堀〇
第一章 制限時間内に目標を殲滅せよ!
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クエスト4 おじーちゃん、とまどいつつも『遺失言語』で話す

 ――それはまだ儂が産まれるまえのこと。


 宇宙への進出のためか。通信技術の発展のせいか。それとも世界を征服したかったのか。


 なにが理由だったのかは知らんが、結果として、それまで数多あった世界の言語は『共通語』のたった1つに統一された。


 ……とは言え。儂の親世代は、まだ統一されるまえの言語が主流であった時期があり。さらにうえの祖父母の世代からすれば、あたりまえだが『共通語』の方が馴染みなく、覚え、使うことも難しかったそうで。


 ゆえに、今やほとんど忘れ去られて久しい『共通語』以外の言語を、儂の世代の者はかろうじてそんな『遺失言語』に触れる機会があったりもするのじゃが――


「■■■ ■■■(はじめまして、冒険者さま)」


 ――まさか『遺失言語それ』を、こうしてゲーム内で聞けるとは夢にも思っておらず。


「■■■ ■■■?(本日は登録ですか?)」


 アイギパンの冒険者ギルド。その受付にて営業スマイルを浮かべて問うNPCの女性を前に、内心で頭を抱えながら口を開いた。


「あー……その、のぅ。とりあえず、■■■ ■■■?(登録の仕方を教えてもらえるかの?)」


 儂の返しに目を丸くする受付嬢を見て、思う。これはやらかしたかの?


 NPCが独自の言語を使うと聞き、わざわざなけなしの『スキル変換チケット』を用いてとった【交渉術】だったが……まさか無駄だった、と?


「■■■ ■■■?(あの、もしかして……あなたはこちらの言葉がお分かりに?)」


「あー……■■■ ■■■(うむ、わかるようじゃぞ)」


 完全に予想外。あるいは嬉しい誤算。


 少なくとも【交渉術】をとるまえであれば素直に喜んでいただろうが…………これはやってしまったのぅ。


「『まあ! あ、まずは登録でしたね! どうぞ、こちらへ手を乗せてください』」


 受付嬢のもっている【翻訳】か、あるいは儂のもつ【交渉術】のせいか。それまで耳にする言語と副音声のように直接頭に響いていた共通語の翻訳が、儂が彼女の問いかけに頷いて返してからは、今や珍しい『共通語に統一される以前に使われていた言語』――通称『遺失言語』のなかでも儂の親世代が使用していた『それ』だけになった。


 ……ううむ。さすがに『こちら』の言語は耳にしなくなって久しいゆえ、すこし自信がないのじゃがなぁ。


 どこか嬉しそうな受付嬢の示す紙に言われるがままに手のひらを乗せ、内心でわずかに冷や汗を流す儂。


「『はい、登録完了です! ……と、申し訳ありませんが少々こちらでお待ちしてもらっても大丈夫でしょうか?』」


 視界の端で[チュートリアル1のクエストが達成されました! 報酬はインベントリ内に直接送られますのでご確認ください]というインフォメーションが流れていくのを後目に、なにやら断ってから席をたつ受付嬢をおとなしく見送った。


 ……ふむ。ええと、インベントリ内のアイテムは、と。


 さっそく≪インベントリ≫とコマンド。そして浮かぶ、インベントリ内にある唯一のアイテム――『見習い冒険者ポーチ』を選択。そうして手の中に実体化させ、現れた、如何にも作りの粗い何らかの革でできたポーチをしげしげと見やる。


「うぅむ……。この『ポーチ』は、果たしてなんの役に立つというのかの?」


 とりあえず、『ポーチ』に視線の焦点をあわせたことで現れた『装備しますか?  YES ・ NO』のウィンドウに対して『YES』と返し。それによって手のなかの『ポーチ』が光と消え、代わりに儂の腰にしっかりと固定されたかたちで現れる『ポーチ』。


 あらためて腰元のそれを見たところ、とくに変わった機構があるようには見えず。ただ単に何かをしまえるだけのアイテムのようだが……それだけなら≪インベントリ≫があれば良いと思うのだがのぅ。と、首を傾げる儂に、


「ああ、そりゃ戦闘時に『ポーション』とか使うんに必要なんだよ」


 かけられる声。


 振り向くと、ちょうど儂の隣のカウンターで登録を済ませたらしいプレイヤーの男が笑みを浮かべていた。


「ほれ、戦闘時とかの一時を争う場面でわざわざ≪インベントリ≫を開いて、アイテムを選んで実体化、なんて手間がかかり過ぎてとっさにゃ使えないだろ? だから回復用のアイテムなんかをこういう『アイテムを収納できるアイテム』なんてのに入れといて、使うときに片手を突っ込んで欲しいアイテムをコマンドするだけで取り出せるやつが重宝するってわけよ」


 ほほぅ、なるほどなるほど。


 これは戦闘時などの『とっさに欲しいアイテムを取り出すための簡易インベントリ』なのか、と。儂は腰元に装備された『ポーチ』を今度は納得の思いで一瞥し、とりあえず順番待ちをしている他のプレイヤーのために脇へとずれる。


「なぁなぁ。俺も一個訊いていいか?」


 果たして、そんな儂に何故かついてくる男。


「ふむ。まぁ儂も教わったことだし、かまわんよ」


 さきの受付嬢は待っていてほしいと言っていたからの。まぁわかりやすい場所に居れば良いか、とギルドの壁に寄りかかるように佇み、あらためて声をかけてきた男に振り向いた。


「あー……なんだ、その。あんた、そのキャラ疲れねーか?」


 筋骨隆々のデカい『人間』種の男は、見上げるようにして顔を向ける儂に苦笑ぎみの顔で問うた。


「? 別段、疲れはせんが……?」


 はて、と。首を傾げる儂。


 しかし、そのすぐ後でようやく彼の言わんとすることを察する。


 ああ、なるほどの。たしかに現実での姿と仮想でのそれが著しく異なっていると動作一つとっても違和感がすごいからの。それが『ドワーフ』などという乖離甚だしいアバターを使っているのを見れば気疲れを心配もするか。


 もっとも、


「なに、儂はこういったことには慣れているでな」


 VR技術がまだまだ開発段階であった頃よりこっち、仕事柄、自身の容姿とかけ離れたアバターで過ごすことの多かった儂。加えて、最新のVRゲームを手掛けるようになった娘が調整したアバターである。違和感がないと言えば嘘になるが、それで気疲れを覚えるほどやわではないし、それこそ『違和感があることが普通』という環境にも慣れていた。


 ……しかし、なるほどの。


 それとなく見回したところ、ギルドにいるのは『人間』種が多く『ドワーフ』がまったく見られないようだった。


 これはいくら最新のVR技術をもってしても、やはり現実のそれからアバターの容姿を乖離させるのは厳しい、ということだろう。と、内心で納得したとばかりに頷いていると、


「ふーん……って、ああ、いや。じつは、それが聞きたかったわけじゃなくってだな。あんた、さっき受付のNPCとよくわからんこと言いあってただろ? で、もしかして、【交渉術】をもってんのかな、ってな」


 本当はそいつが聞きたかったんだ、と。頭をかきつつ告げる男に、儂はわずかに眉間に皺を刻む。


 ……まあ、『共通語』以外の言語が失して久しいからの。【交渉術】のスキル無しでは意味不明なやりとりに聞こえただろうよ。


 しかし。正直、そういうふうに言われるのもわずかに不満を覚えなくもない。


「ふむ。まあその通り、儂は【交渉術】をとっておるよ」


 もっとも、その必要なくNPCとの会話は可能だったろうがの――と、そこまでは口にせず、軽く肩をすくめて見せるにとどまる儂。そして……ああ、これも時代の流れかのぅ。などとわずかに遠い目になっていると、


「お、やっぱりか! よし、じゃあ、あんた俺と組まねーか!?」


 なにやらガッツポーズらしきものをし、どこか嬉しそうな様子で男は言う。


「ほら、最初って2つしか『スキル変換チケット』ねーじゃん? だから今【交渉術】もちって稀少なんだって≪掲示板≫に書かれてたし、どうしようか考えてたんだわ」


 ほう、そうなのか。【交渉術】もちは稀少か。それは良い情報を得たが……儂にはそもそもその【交渉術】なぞ無くともNPCとの意思疎通ができたようなんじゃがの。


「いや、ほら。どうせ後々、生産組が武器とかアイテムなんかを扱いだしたらNPCと話せるようになるってだけの【スキル】なんて要らなくなるんだろうけどよ。それまでの繋ぎって言うか、そうなってくるまでの買い物なんかじゃ【交渉術】もちはありがたいって話だし?」


 ……ふむ。


「俺は、まぁβテスターってわけじゃあねーけどよ。ほら、あんた、見るからに初心者っぽいし? なんか事前情報とかあんま調べてねーっぽいし? まあいろいろ教えてやれそうだし、なんならレベル上げなんかも手伝ってやるからよ」


 だから組もうぜ、と。こちらを見下ろして言う男に、


「いや。すまんが、ほかを当たってくれんかの」


 儂、即答。


「……は? な、なんでだよ!」


「ん? なぜと訊かれれば――おまえさんのやりたいことと儂のそれが、どう考えても合わんからじゃが?」


 ため息を一つ。こちらを今や睨むようにして見下ろす男に静かに告げる。


「そもそも儂は、その、NPCと話す、そのために【交渉術】をとったのでな。ゆえにこれから街のNPCたちにいろいろと話しかけてみようと思っておるんじゃが……おまえさん、それに付き合うと言うのかの?」


 果たして儂の言葉に、「はあ……!?」と意味がわからないとばかりに目と口を大きく開いて固まる男。


 ……まぁ、おまえさんには意味不明じゃろうよ。と、儂はさっさと男に背を向け、つい今しがた戻ってきた、さきほど儂の冒険者登録を済ませてくれた受付嬢の方へと歩き出すのだった。



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