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体育祭は青春の香り

和泉先輩のアプローチは続いた。

しょっちゅうお弁当には誘いに来るし、放課後、図書室で勉強を教えてくれる。和泉先輩の教え方は優しくてわかりやすくて、勉強が捗る。たまには面白い本なんかもお勧めしてくれたりして、私の心には純白の雪が、ゆっくりゆっくり降り始めた。


***

6月。穴場でお弁当を食べるのが辛くなってきた頃。体育祭である。

他の学校がどうしているのかは知らないが、私の通う中学では体育祭の日は自分の使っている教室の椅子を校庭に持ち出して客席作りをする。テントが張られて、その下にずらりとイスが並べられるのだ。女の子はみんな日焼けをするのが嫌で、すごく暑いのにジャージ姿で、こまめに顔に日焼け止めを塗りなおしている。


「なんで体育祭なんてものがあるのだろう。」


思わず絵梨ちゃんに愚痴ってしまう。


「テンション上がらないよねー。運動がすごく得意な子ならまだしも。」

「それ以前に運動が得意なら部活に入って活躍してると思う。」

「そういう野菊は何部だっけ?」

「囲碁将棋部の幽霊部員。」

「囲碁将棋のルール知ってんの?」

「いや、知らない。部室に行くとみんなでトランプとかやったりしてる。」

「囲碁将棋関係ないじゃん。」

「なんでだろうね?」


よっちゃんは運動が結構得意なので体育祭は活躍の場である。小学校のリレーで活躍した時は目がハートになったものよ。お調子者だけど格好良かったんだよねえ。

今回もかなり活躍している。終わった恋ではあるけれど、まだ目で追ってしまう。


「っしゃあ!」


長距離走で1位に輝いてよっちゃんの笑顔が弾ける。馬鹿みたいにはしゃぐ顔を見て、ああ…好きだったんだな…と思った。よっちゃんはまだ私にとって少し眩しい。

和泉先輩もそれなりに活躍している。あんま目立たないけど。頑張ってるなあ…と思う。因みに中学の体育祭では赤組、青組、緑組の3チームに分かれて戦う。私のクラスは緑組である。先輩方に聞くところによると緑組は毎年最下位を華麗にかっさらうというジンクスのある組である。なにそれひどい。

和泉先輩は青組だ。青いハチマキをしている。

ふふ。玉入れノーコンだ。和泉先輩の投げた球が明後日の方向に飛んでいくのをしっかりと見てしまった。


「何笑ってんの?」

「べ、別に。」

「はは~ん。お主、和泉先輩を見ていたな?」


ニヤニヤと絵梨ちゃんにからかわれてしまった。そうなんだけど、何となく認めづらくておたおたする。


「いいじゃん。和泉先輩。優しいし。格好良いし。」

「そ、そんなんじゃないよ…」


そう言う私の声も小さい。

応援合戦はある意味一番力が入っているところ。曲に合わせて緑色のポンポンを持って踊った。


「フレー、フレー、グーリーイイン!フレフレ!グリイン!フレフレ!グリイン!」

「ヤー!!」


シャラシャラシャラ!と両手に持った小さなポンポンを振る。これ作るの結構面白かった。ポンポンなり裂けるチーズなりたんぽぽの茎なり、人間は裂くという行為が大好きらしい。

熱の入った応援合戦が終わったら昼食。

お母さんお手製のお手軽3分間クッキング弁当をお腹に収めて、午後は私もリレーに出る。足は特別早くも遅くもない。程々に頑張る。

後ろに手を伸ばしてバトンを受け取る体勢に入る。私の前の走者が駆けてきた。バトンを受け取って思い切り走る。赤組も青組も緑組も大混戦である。そして起こるべくして起こった事故。赤組の子一人が転がり、その子に巻き込まれる形でどんどん走っていた子たちがこけ躓く。勿論私も。それでもみんな立ち上がってリレーに戻っていくわけだが…

足捻ったっぽい。よろよろと立ち上がるものの、片足が痛くて走るどころではない。私の様子がおかしいことに気づいた審判が駆けてきた。何故か和泉先輩も。


「すみません…足捻っちゃったみたいで。」

「代走の子に出てもらいましょう。」


すぐに補欠だった子が私の代わりに走ってくれた。私はと言えば…


「い、和泉先輩…降ろしてください…」

「駄目だ。足、怪我してるかもしれない。」


……和泉先輩にお姫様抱っこされてしまった。衆人環視の中で救護テントまでお姫様抱っこで運ばれた。和泉先輩は逞しいタイプかと言えばそんなことはないのだけれど、それでも男の子で、しっかりした腕が私を持ち上げてくれた。超至近距離の和泉先輩の顔はすごく真剣だった。ぎゅっと抱っこされてドキドキと破裂しそうに胸が高鳴る。顔が熱い。

保健の先生に「捻挫だ」と言われて、ちょっと安心。


「野菊ちゃんの分まで頑張るから、応援しててね。」


優しく頭を撫でられた。


「頑張ってください。」


別のチームだけど応援してしまった。

各組による、熾烈な優勝争いが繰り広げられ、緑組は今年も華麗に最下位に輝いた。体育祭が終わった後に和泉先輩がやってきた。


「和泉先輩。青組優勝おめでとうございます。」

「ありがとう。」


和泉先輩は青いハチマキを外すと私のポニーテールにリボンのように結んだ。


「野菊ちゃんはきっと『欲しい』と言ってくれないから、押しつけることにしたよ。」


ちょっと恥ずかしそうに笑っている。どうも他の子に聞くところによると体育祭の後に『憧れの先輩』のハチマキを貰う、というところまでが青春の様式美なんだそうだ。卒業時の学ランの第二ボタンみたいなもんだと思う。態々私にくれたんだ…と思うとちょっと嬉しい。

校庭にあった私の椅子は絵梨ちゃんが自分の椅子と一緒に運んでくれた。私は湿布と包帯の巻かれた足でよたよた歩いた。


「お姫様抱っこはすごかったねー。」


絵梨ちゃんに冷やかされて真っ赤になる。


「青春だった?」

「青春だった…」


物凄い甘酸っぱい気持ちだったよ。ドキドキ激しく胸が高鳴って、真剣な顔の和泉先輩が格好良くて…体育祭なんて何も良いことないと思ってたけど、ちょっと得した気分。怪我はしちゃったけど。




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