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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
ナルマ街編
9/123

まだ冒険には出れません その2

 と、言う事でやって参りました。

 ナルマ街の東に位置する森の中。

 昨日、ノブナガが行った林よりも強い魔物が生息している為、この街の騎士たちの遠征の場所にもなっている。


 そこにノブナガたちはやって来た。

 理由は単純明快。

 昨日の爆発騒ぎのせいで、林が封鎖されているのだ。

 代わりに、騎士たちが林の方に付きっきりになっているので誰にも邪魔される事はない。


 ノブナガはエリーナの前に立ち、森の中を進む。

 事前に連携を話し合って、ノブナガが前衛、エリーナが後衛でサポートするという事になった。

 いざとなれば、ノブナガは“格闘術”が使えるので前にいた方が何かといいのである。


 森の中を歩く事、5分ほど。

 不意に明後日の方を見る、ノブナガ。

 “気配探知”に引っかかったようだ。


(あっちに四足歩行の奴がいる。間違いなく、魔物だな)


「エリーナさん。あっちに魔物がいました。行きましょう」

「はい」


 ノブナガは指輪のアーティファクトーー“ストレージ(ノブナガ命名)”から水の魔法の本を手に転移させてくる。

 ペラペラとページをめくり、魔法の呪文が書かれたところを開く。

 そして、魔物に遭遇する。


 四足歩行の魔物は狼のような奴だった。

 昨日、ノブナガが1番に遭遇した魔物と同じだ。

 しかし、感じてくる威圧がまったく違う。

 それだけで、昨日の場所と違うという事がわかる。


 魔物はノブナガたちを見つけるなり、地面を蹴って駆け出してくる。

 しかし、ノブナガはすでに戦闘準備に入っているので慌てた様子もなく、魔物に右の手の平を向ける。

 左手の本に視線を落とし、書かれている呪文を口にする。


「清らかな水よ・噴き(いで)る放射は・粉砕の一撃ーー“アクア・スプラッシュ”」


 詠唱を唱え終えると、ノブナガの構えた手の平に水が出現し、魔物に向かって一直線に飛んでいく。

 それに気づいた魔物は回避しようとするが、間合いが結構詰められていた事で回避が間に合わずに直撃する。

 しかし、20メートルほど吹き飛んだところで魔物は止まり、また襲いかかってくる。

 どうやら、一撃では魔物のHPを削り切れなかったらしい。


 が、それにも慌てた様子は一切なく、次の呪文を詠唱するノブナガ。


「清らかな水よ・湧き上がる飛沫は・無貫の防壁ーー“リキッド・ピラー”」


 直後、狼の魔物の地面から水が噴き上がり、水でできた壁が構築される。

 魔物の素早さであれば躱す事も容易であったが、噴き上がる高さを低くして広範囲にノブナガが指定したので当てる事ができた。

 “リキッド・ピラー”は主に防御として使われる魔法らしいが、ノブナガがしたようにダメージを与えられると本に書いてあった事を事前に読んでいた。


 魔物は宙へと舞い上がり、消滅した。

 残された魔石だけが、地面に落ちてくる。


「お疲れ様です」


 エリーナは労いの言葉をノブナガに贈りながら、落ちてきた魔石を拾い上げ、皮袋に仕舞う。

 その間、ノブナガは持っている本を見ながら首を傾げている。

 その光景が目に入った、エリーナ。


「どうかしたんですか?」

「その、少し思ったんですが。なんだか、回復魔法と詠唱の……なんて言うんでしょう?ニュアンス?形?何か違う気がするんですよ」

「そうですか?」


 ノブナガの頭に何か引っかかる物があるが、それがわからないようだ。

 エリーナに聞いてみても、特に気にした様子はない。


(エリーナさんがそう言うなら、俺の考え過ぎ……なのか)


 少し気にはなるが、放っておく事にしたノブナガ。

 それでも、魔法の本に視線を向けらが難しい顔をするのは変わらない。


(この詠唱って……覚えないといけないのか?エリーナさんが本を持ってないって事は……そう言う事だよなぁ)


 ノブナガがゲンナリとなるのは、魔法の本に書かれている詠唱である。

 どれもこれもノブナガには使い慣れない言葉ばかりで、覚えられるのかが少し怪しいところである。


(後で、エリーナさんに覚えるコツとか教えてもらおう……)


 そう内心で決心しながら、ノブナガは懐のステータスプレートを取り出す。

 レベルは上がっていないが、初級魔法がどれぐらいのMP消費なのか確かめる為だ。


 ======================

 MP:540/1560

 ======================


(えーと、“ストレージ”を登録する時に消費したのが1000だから、560。20消費してるって事は、初級魔法は10。この本に書いてある通りだな)


 MP消費量は魔法の本に書いてあったが、それが正しいという保証がなかったので確認したのだ。

 初級魔法が10なら、今のノブナガはMPMAXの状態で初級魔法を156撃てるという事。

 本を読めば、中級魔法は500、上級魔法が2000、最上級魔法10000と書いてある。


(上級になるに連れて、MP消費も顎が外れそうなほどに増えるな……)


「次に行きましょう」

「はい。そうですね」


 ノブナガは“気配探知”を使い、次の魔物を探す。

 また5分ほど歩くと、ノブナガたちの前に現れたのは1メートルはある蜂の魔物3体である。

 魔物たちがノブナガに羽音を響かせて接近する。


 その魔物を“気配探知”で位置を確認しながら、ノブナガはあらかじめ持ち替えていた闇魔法の本の中級魔法のページを開き、呪文を詠唱する。


「黒に近き闇よ・鋭き刃に凝縮し・一閃を振るえ・我が振るいしは・魂の両断ーー“ブラック・セイバー”」


 瞬間、ノブナガの右腕に闇が収束し、鋭い剣の形になる。

 右腕に延長されるように全長3メートルの闇の剣をノブナガは魔物に向かって振るう。

 その一閃で3体の蜂はまとめて両断され、魔石を残して消滅した。


「ふぅ……」


 戦闘が終わると、ノブナガは身体に溜まった息を吐き、エリーナは魔石の回収に向かった。

 “聖女”のエリーナは戦えないので、自分で魔石の回収をすると申し出たのだ。


(さすがは中級魔法。ここらの魔物は中級魔法1発で倒せるな。けど、MPの消費を考えれば初級魔法2発の方が効率がいいな)


 今のノブナガのMPは50。

 自然回復で10回復したが、それでも初級魔法5発。

 節約して使わなくては、一瞬で枯渇してしまう。


(魔法の方はだいたいわかった。次からは、地上の奴は“格闘術”で戦って、空中の奴には魔法で対応しよう)


 MP節約を考え、今後の戦術を決めるノブナガ。

 エリーナが魔石を回収し終えたのを確認して、ノブナガはエリーナに話しかける。


「あっちの方に魔物がいます。次は5体なので気をつけてください」

「はい!」


 それからノブナガは“格闘術”と魔法を駆使し、森の魔物を倒していく。

 ダメージを受けても、エリーナの回復魔法をかけてくれるので、小休憩を挟めばいくらでも戦える気がした。

 魔法の詠唱も、言い続ける事で少しずつ覚えいった。


 そして、日が傾き始めた。

 木々に囲まれている事もあって、少しでも日が傾けば森の中は随分と暗くなる。

 さすがに、この暗さで戦う事は危険である。

 2人は街に戻る事になった。


 ======================

 ノブナガ 12歳

 天紋:剣士・暗殺者・投術師・拳闘士・槍術士・斧術士・水術師・闇術師・錬成師・魔法剣士 レベル:10

 HP:3650/3650

 MP:1350/2910

 PHY:4100

 STR:3320

 VIT:2970

 INT:3320

 MND:3050

 AGL:3430

 スキル:簒奪・投擲術[+即擲]・剣術[+二刀流][+身体強化]・歩法術[+立体移動][+無拍移動]・短剣術[+二刀流]・気配探知・格闘術[+身体強化]・錬成[+鉱物鑑定]・水魔法[+遅延発動]・闇魔法[+遅延発動]・隠形・遠目

 ======================


 ======================

 エリーナ・アンディエル 13歳

 天紋:聖女 レベル:23

 HP:2080/2080

 MP:1950/2100

 PHY:2090

 STR:1840

 VIT:1840

 INT:2090

 MND:2090

 AGL:2080

 スキル:回復魔法[+状態看破][+状態自己回復][+遠隔回復][+広範囲回復]

 ======================


 街に戻ったノブナガたちは、倒して得た魔石を換金しに行く。

 エリーナの案内により、街路を歩く。

 そうして着いた先は、2階建ての大きな建物だった。

 エリーナに続き、ノブナガも建物の中に入る。


 中は広々とした空間だった。

 入った正面に受付があり、入って左には酒場と2階へ続く階段、右にはいろんな紙が貼られた掲示板ある。

 酒場には、まだ夕方にも拘わらずたくさんの男たちが酒を飲んで騒いでいる。


「私、魔石を換金してきますね」

「あ、すいません。これもお願いできますか?」


 ノブナガはベルトに付けてある皮袋を外して、それをエリーナに渡した。

 皮袋には、昨日ノブナガが手に入れた魔石が入っている。


「わかりました」

「お願いします」


 ノブナガの皮袋を受け取ると受付の方に行く、エリーナ。

 ノブナガは受付から少し離れた所で待っている。


「おい、聞いたかよ?」

「何をだよ?」

「3日後、この街に“剣聖”が来るらしいぜ」

「あぁん?なんで、こんな街に“剣聖”がぁ?」


 ふと、ノブナガの耳に入ってくる。

 声がする方へ視線を向けてみると、酒場で男たちが話している。


(“剣聖”?上級紋がどうして?)


 ノブナガも気になり、つい男たちの会話に聞き耳を立ててしまう。


「この街の南東にダンジョンがあるだろ?騎士たちの話じゃあ、そこに用があるらしいぜ」

「でも、あのダンジョンは低級だろ?国の“剣聖”が今更、何の用だよ?」

「さぁな。騎士の奴らも知らねぇらしい」


(さすがに、市民が知る情報じゃないしわからないか)


 “剣聖”は剣を使う事に長けた上級紋。

 低級紋の“剣士”の上級版、と言われている。

 剣の腕では、どの天紋でも勝つ事ができないと称される強さがあり、間違いなく国の主力となる天紋だ。


(南東のダンジョン……“剣聖”はどうでもいいけど、ダンジョンには行ってみたいな)


 ノブナガのステータスはもうバグっているが、レベルはまだ10。

 野盗には負けないだろうが、不安の残るレベルだ。

 ダンジョンであれば、もっとレベルアップできるのではないか、と考えているのである。


「ノブナガさん」

「あ、エリーナさん。換金は終わりましたか?」


 ボーッとしていたノブナガの下にエリーナがやって来る。


「はい。全部で銀貨2枚と大銅貨5枚、銅貨9枚でした」

「じゃあ、山分けで俺が銀貨1枚と大銅貨2枚、銅貨9枚で」

「そ、それじゃ、山分けじゃないですよ!」


(あ、バレたか……)


 ノブナガは銅貨9枚と聞いた時点で山分けできない事はわかっていた。

 だから、ノブナガはエリーナが気づく前に少ない方を取ろうと思っていたのだが……

 あっさりバレた。

 エリーナが多い方を取るのに遠慮する事は容易に想像できたので、早めに終わらせたかったのだ。


「でも、エリーナさんは荷造りの為にお金がいりますよね?本当は換金したお金すべてをエリーナさんに受け取って欲しい所なんですが」

「うっ……わ、わかりました。銀貨1枚と大銅貨3枚……頂きます」

「ゆっくりでいいんで、納得がいく物を買ってください」


 これで、取り分の件は終わった。

 換金場所を後にする、ノブナガたち。

 この後、どうするのかを話し合い、エリーナは旅道具を、ノブナガは武器を買いに行く事にした。

 換金場所で別れる、ノブナガとエリーナ。



 **********************



 エリーナと別れたノブナガは、昨日来た武器屋にやって来た。

 昨日と同じように剣の方を見に行く。

 昨日買った剣を直してもらおうかと思ったが、“錬成師”の直感で直せないと感じた為、新しい物を買う事にしたのだ。


 昨日買った剣を思い出し、飾られている剣を手に取って見て行く。


(重さは……昨日のより軽い?もうちょっと重たい方がいいか)


 自分に合った剣の選び方がわかって来たのか、1本1本剣を取っていく。

 重さ、頑丈さ、鋭さ。

 “錬成師”の天紋を得たおかげか、武器の良さがなんとなくわかる。


(重さ……まぁまぁ。頑丈さはある。鋭さは……わかんない。昨日の剣ほど、手に馴染んだ感じじゃないけどこれにするか)


 剣を決め、短剣の方も3本購入……しようとして思い出す。


(あ、俺“ストレージ”があるんだった。剣を常備して、槍や斧を仕舞っておくのもアリだな……)


 左手に嵌めてある指輪を見て思い出す。

 ノブナガは今、いくらでも持ち運びができる。

 つまり、武器をたくさん持つ事ができるという事だ。

 剣に縛られる必要はない。


(でも、剣が馴染んじゃったしなぁ。槍や斧を諦めて、剣を2本と短剣を5本買うか)


 もう一度、剣を選び、投擲用に使う短剣も2本追加で購入する。

 剣2本で大銀貨1枚と大銅貨6枚、短剣5本で銀貨4と大銅貨7枚、銅貨5枚。

 合計で大銀貨1枚と銀貨5枚、大銅貨3枚、銅貨5枚だ。

 丁度がなかったので、久しぶりに金貨1枚を出した。

 お釣りに大銀貨8枚と銀貨4枚、大銅貨6枚、銅貨5枚。

 金貨を出して、店員さんが驚いていたがなんとか購入する事が出来た。


 武器を購入し、武器屋を後にする。

 武器屋を出た後、すぐに裏路地に入って武器を“ストレージ”に仕舞った。

 サッと仕舞うと、すぐに表通りに出る。


(そうだ。旅服と“格闘術”ように手甲でも買うか。魔物を殴った時、ちょっと痛かったし)


 まだ宿に戻る時間には早いと思ったノブナガは、また1人で街を歩く。

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