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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
ナルマ街編
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まだ冒険には出れません その1

 朝、起床したノブナガ。

 今日は間違いなく朝と言える時間に起きた。

 服を着替え、朝食をとりに1階へ降りる。

 酒場に着くと、もうすでにエリーナさんが昨日の夕食と同じカウンターにいた。


「お待たせして、すいません」

「いえ。私も今来たところですから」


 待たせてしまった事を謝りつつ、隣の席に座るノブナガ。

 そこにタイヤンの妻ーーミフィムが注文を取りに来た。

 どうやら、ノブナガが来るまで待っていてくれたようだ。


「注文どうします?」

「俺はパンとスープを。エリーナさんもそれでいいですか?」

「はい。すいませんが、またお借りします……」


 昨日と今日でまたお金を借りる事になり、申し訳ない気持ちでいっぱいのエリーナ。

 毎回こうも申し訳なくされると、貸しているノブナガの方も申し訳なくなるので、できるだけ早く収入を確保しよう、と心に誓った。


 料理を待っていた時間は数分。

 注文した黒パンとスープが来た。

 料金は銅貨5枚を×2で大銅貨1枚である。


「朝食を終えたら、俺の旅服と防具だけ買いに行って魔物を狩りに行きましょう」

「はい。ちゃんとお金を返せるように頑張ります!でも、剣は買わなくていいんですか?昨日の戦いで、ボロボロになっていましたけど」

「あぁ、その事なんですが……」


 朝食の黒パンをスープに付けて食べながら、今日の予定を確認する。

 魔物を狩りに行くのは、ノブナガはレベル上げを、エリーナは魔石を換金してお金を稼ぐ為である。

 その為には剣を買い直さなくてはならないのでは、と思ったエリーナ。

 その事に、ノブナガは声のボリュームを下げて言う。


「昨日の野盗との戦いで“水術師”と“闇術師”を奪ったので、魔法を使えるようになっておきたいと思いまして。今日は魔法をメインに狩ろうかと」

「なるほど。確かに、習得できる物は使えるようになっておく事に越した事はありませんから」


 昨日、ノブナガは野盗から2つの天紋を“簒奪”した。

 魔法を使う事ができる天紋で、MP的に問題ないノブナガは詠唱さえできれば使用は簡単である。

 いざという時に使えるように、ノブナガは練習しようと考えているのだ。


「でも、ノブナガさん。詠唱は知っているんですか?」

「いえ。それがまったく」


 ノブナガは奴隷だったから、魔法に関する知識なんてない。

 “錬成”を使った時のように、感覚的にできるものだと思っていた。

 しかし、エリーナの言い方から察するに違うようだ。


「魔法は詠唱する事で発動します。魔法を使う事ができる天紋には魔力を詠唱によって動かすので、魔法を使う際は詠唱が必要不可欠なんです」

「回復魔法もそうなんですか?」

「はい。詠唱を覚え、唱える事で回復魔法も発動されます。詠唱なしで発動するものはスキル、ありが魔法、といった感じです」


 エリーナの説明通りに、魔法とスキルの違いの見分け方は詠唱の有無。

 例えば、ノブナガが使った“錬成”は魔法ではなくスキルだ。

 だから、詠唱によって魔力を動かす必要がなく、天紋による感覚に任せたもので発動したのだ。


「なるほど。詠唱はどうやって覚えるんですか?誰かから教えてもらうとなると、厄介な事になるのですが……」

「そこは大丈夫ですよ。詠唱は魔法の本に書いてあるので。1冊買うのに大銀貨1枚もするそうですけど……」

「大銀貨1枚……まぁ、大丈夫ですね」


 大銀貨は一般市民では大金中の大金。

 家を買おうとすると大銀貨の単位になる。

 一般市民の家で大銀貨1〜2枚だが、豪華な屋敷を買おうとすれば大銀貨5〜8枚ぐらいする。

 エリーナが言うには、魔法の本は一般的な家を買うのと同じ金額のようだ。

 まぁ、金貨を持っているノブナガが大した金額じゃないと思ってしまうのは無理はないだろう。


「それじゃあ、まず魔法の本を買いに行きましょう。接近はしませんし、旅服は夜にでも買う事にします」

「魔法の本は薬剤屋さんにあります。そこに行きましょう」

「わかりました」


 今日の予定を立てたノブナガたち。

 朝食を食べ終わると、早速行動を開始した。


 エリーナは部屋に戻って魔物狩りの装備を整え、ノブナガは特に準備する事がないでので宿の前で待機している。

 十数分ほどで、エリーナは装備を整えて宿の前にやって来た。

 薬剤屋の場所は宿の店員さんに聞いているので、2人でそこに向かう。


 宿から10分ほど歩いたところに薬剤屋を発見した。ドアの取っ手を引いて、店内に入るノブナガたち。


「いらっしゃいませー」


 店内は薬の匂いが蔓延しているのか、入った瞬間にノブナガたちの鼻腔を刺激した。

 ノブナガが周りを見渡すと、いろんな色をした回復薬ーーポーションが店内に並べられていた。

 薬剤屋は低級紋“薬術師”が作ったポーションや薬を売っているお店だ。

 経営も“薬術師”本人がしている事も多い。


(こんな所に、魔法の本なんて売ってるのか……?)


 余りにも本とは場違いな事に不安を覚える、ノブナガ。

 その視線はポーションではなく、置き並べられた道具だった。


「いらっしゃいませー」


 そこに、ノブナガたちに近づいてくる店員。

 さっき挨拶して来た、女性の店員である。

 女性の店員はノブナガの視線が道具たちに行っている事に気がついた。


「もしかして、アーティファクトを探してる?」

「やっぱり、あれってアーティファクトなんですか?」

「うん!“魔導師”である私が作った、自慢のアーティファクトだよ!!」


 “魔導師”はアーティファクトを作る事ができる、作成系の天紋の中で唯一の中級紋である。

 必須スキル“生成”によって、道具に魔法を付与する事でアーティファクトを作る事ができるのだ。

 ステータスプレートも遥か昔に“魔導師”が作ったものだと言われている。


「見てみる!?」

「すいません。興味はあるんですけど、今回は時間がなくて……魔法の本はどちらにありますか?」


 本当はどんな物があるのか気になったが、早くしないと狩りの時間がなくなってしまう。

 早速、本題の物がどこにあるのか聞いてみたノブナガ。


「そっかぁ……残念。魔法の本なら、あっちの本棚にあるよ!」

「ありがとうございます」


 少し残念そうにしているのが残っているが、指を指して魔法の本の場所を教える“魔導師”の女性。

 お礼を言い、魔法の本の本棚にやってくる。


「へぇ、結構あるんですね」

「そうですね。このお店は品揃えがいいみたいです」


 エリーナはそう言うが、実は違ったりする。

 このナルマ街は非戦闘系の天紋を持った人たちが住む街だ。

 例外は国から派遣された騎士ぐらいだ。

 そんな所で魔法の本など売っても、必要がないので誰も買わない。

 結果的にすべて売れ残っているのだ。

 エリーナの言っている事は正しいかもしれないが、魔法の本に関しては悲しい理由なのだ。


(ん?魔法の本以外にもあるな。……スキル攻略本?)


 なんとなしに手に取った本をペラペラと中身を見る。

 そこには1ページずつに天紋と何レベになるとなんのスキルが出現するのかが書かれていた。

 “剣士”や“錬成師”などの低級紋から、“勇者”や“聖女”の上級紋までびっしり記載されている。


「うわぁ……まるで、ポ○モンの攻略本読んでるみたい……」

「ポケ○ン?ってなんですか?」


 心の声が漏れたらしい。

 エリーナが首を傾げながら聞いてくるが、「あ、い、いえ……なんでもないです……」と絶対なんでもあるだろって感じで返すノブナガ。

 遠目で見ていた“魔導師”の女性すら思った。

 しかし、ノブナガの目の前の少女は「そうですか」とだけ返した。

 表情からして気を使った様子がない、ガチ返しだった。


(んー、全属性の魔法の本に……このスキル攻略本も含めれば大銀貨6枚と銀貨1枚、か)


 さっきは突っ込んだが、この本が欲しいと思ったノブナガ。

 普通の天紋有りは1つしか持っていないので、別にこんな本はいらないだろう。

 だか、複数持つノブナガにはどの天紋が何レベでなんのスキルが出現する事がわからなくなってしまう。

 ポ○モンみたいに4つの技しか覚えないわけではないのだから、いらないかもしれないが……


 とりあえず、欲しい7冊を持って店員さんの下へ行くノブナガたち。

 それを見た“魔導師”の女性はギョッと目を剥いて驚いた。


「これください」

「え、えーと、こんなに?」

「?えぇ。ダメですか?」

「いやぁ、ダメってわけじゃないけど……料金が、ね?」

「?大銀貨6枚と銀貨1枚ですよね?どうぞ」


 皮袋から大銀貨6枚と銀貨1枚をハイっと店員さんの前に出す、ノブナガさん。

 さらに目を剥く店員さん。

 渡されたお金を何度も確認し、口を開けてポカンとする。


「あの、袋みたいな物ってありますか?これを抱えるのは、厳しいので」

「あ、袋ね。んー、そうだねぇ」


 どうやって、あっさり大金を出してくる光景を処理したかはわからないが、意識を現実に取り戻した“魔導師”さん。

 ノブナガから袋と言われ、悩むような素振りを見せる。


「私が作ったアーティファクトに、魔力で作り出した空間に物を収納する事ができる物があってね。魔力は登録する時だけで、収納と引き出しはほとんど魔力を必要としない優れものなんだよ?」

「へぇー、それはすごいですね。それで?」

「買って」

「嫌です」


 なんとも図太い店員さんだった。

 ノブナガがつい即答で否定してしまうのも納得の図太さである。


「えー、いーじゃん。今なら大割引で大銀貨2枚でいいよ?」

「いや、それでも高いじゃないですか」

「魔法の本を2冊諦めれば買えるよ?」

「……とりあえず、その品を見せてください」

「はいはーい」


 これ以上は何を言っても長引くだけだと思ったノブナガ。

 “魔導師”の店員さんは嬉しそうに品を取りに行った。


「ノブナガさん、よかったんですか?」

「えぇ。旅に出る際にその品があれば、重量オーバーで持てなかった物も持っていけますから。あの女性が言っていた通りの物なら、確かに優れ物です」

「はい。私もそう思うんですけど……お金の方は大丈夫なんですか?」

「あ、はい。それを買うことになっても大銀貨8枚ですよね?計算は間違ってないですよ」


 ノブナガはそんな事を言っているが、そんな事は一切心配していないエリーナ。

 昨日からノブナガは、宿代や食事代をエリーナの分まで払っている。

 借りているエリーナが言うのもなんだが、昨日までで結構な額を出している。

 そこに魔法の本にアーティファクトと来た。

 ノブナガの賠償金の事を知らないエリーナにとっては、お金の有無を心配なのである。


「持ってきたよー。ジャジャーン!」

「……これですか?」

「そうだよ」


 “魔導師”の店員さんが持ってきたのは、小さい紫色の石が嵌められた指輪だった。

 バックパックやリュックなどを想像していたノブナガは、それを見て目を丸くした。


「これを嵌めると、自動で装着者から魔力を吸収して使用者登録してくれるんだよ。一度登録しちゃうと、その人しか収納と引き出しができない仕掛けで、盗難防止もバッチリ」

「へぇー、すごいんですね」


 あまりの優れ物に、ノブナガとエリーナはまじまじと指輪を見る。


「これはあなたが考えて作ったんですか?」

「そうだよ」


 自慢気に言う、“魔導師”さん。

 それをあっさりとスルーする、ノブナガたち。

 それほどに、目の前のアーティファクトが珍しいのだ。


(このアーティファクトがあれば、旅での移動が楽になる。武器だって、いっぱい持ち運べるし)


「いいですね。これもください」

「ありがとー!」


 ノブナガが買うとわかると、また嬉しそうになる店員さん。

 ノブナガは追加で大銀貨2枚を取り出した。

 その光景にギョッと目を剥く、エリーナと“魔導師”。

 大銀貨を置き、替わりにアーティファクトの指輪を手に取って眺める。


(この嵌ってる石……よく見たら魔石だ)


 ノブナガは知らないが、“魔導師”のスキル“生成”は鉱石に魔法を付与する事でアーティファクトを作る。

 魔石も鉱石に含まれているので、アーティファクトに嵌め込まれていてもおかしくない。


「あ、言い忘れてた。お客さんのMPは1000ある?登録にMP1000は持ってかれるから」


(今更、それを言うのか……?)


 気を取り直した“魔導師”が思い出したように言う。

 それに内心、呆れながらも懐のステータスプレートで自分のMPを確認する、ノブナガ。


 ======================

 MP:1560/1560

 ======================


「ありますね」

「なら、大丈夫。嵌めたら、指輪の方が勝手に登録してくれるよ」


 その言葉を聞いて、ノブナガはアーティファクトを左中指に嵌める。

 MPがごっそりと持っていかれる感覚に身を委ねる。

 1秒もしないうちに、登録が完了した。


「空間を開くイメージをすれば、任意の場所に転移されるよ」

「なるほど」


 試しに、魔法の本を空間に収納するイメージをする。

 すると、シュンッと瞬間移動したように消えた。

 もう一度、魔法の本を同じ所に転移するようにイメージすると、シュンッと姿を現した。


「「おぉー」」


 思わずと感心した声を漏らす、ノブナガたち。


「どう?すごいでしょ?」

「えぇ。とてもすごいです。いい買い物ができました」


 “魔導師”の店員さんにお礼を言うノブナガ。

 魔法の本とスキル攻略本を指輪の中に収納して、薬剤屋を後にした。


「さて、時間も押してますし魔物狩りに行きましょうか」

「はいっ。頑張りましょう」


 そのまま、エリーナは稼ぐ為に、ノブナガはレベルアップの為に狩りに向かうのであった。

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