まさかの嫌な再会
城塞都市ガラールを旅立ったノブナガ一行。
景色の変わらない砂漠の上を馬車で走り続け、帝国の北に位置する都市、迷宮都市ババロンへ向かっていた。
砂漠という乗除不安定な環境の中でもすいすい進む事ができたのは、ノブナガが作った馬車のおかげだろう。
熱や冷気を反射して馬車内は適温に保たれているし、砂も結界によって入ってくる事はないのだ。
アーティファクト万々歳である。
そして、順調に進んだ3日後、ノブナガたちは迷宮都市ババロンにたどり着いた。
「みんな、ババロンが見えてきたぞー」
「あれが、迷宮都市?聞いた通り、砦らしい砦もないわね」
「というか、完全に砂漠のど真ん中ッスよ」
「よく都市になったねー」
そう、迷宮都市ババロンを外から見れば、ただ砂漠の真ん中に建物が並んでいるようにしか見えないのだ。
都市の入り口らしい門もないし、見張りの騎士も見られない。
都市と言っていいものなのか、怪しいところである。
「迷宮都市ババロンは、元々ダンジョンを探索する為に作られた休憩所みたいなところだったらしいんですけど、ダンジョンの攻略が長引いていくうちに人が集まって発展したそうです」
「へぇー、そんな始まりがあったんですか」
迷宮都市の始まりを知っているらしいエリーナの説明で、なんとも不思議そうにババロンを見つめるノブナガたち。
人が集まれば町ができるとは、よく言ったものだ。
まぁ、今回の場合は都市だったが……
そんな会話をしている間に、ノブナガたちは迷宮都市ババロンに到着したのだった。
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迷宮都市ババロンに入ったノブナガたち。
門も門番もいないので、普通に馬車で入った。
開けた道路らしきところを馬車で進みながら、ノブナガたちは辺りを見回す。
建物はそのほとんどがレンガで積み立てられた四角いものだった。
出入り口は扉らしい扉もなく、ただ幕が垂らされているだけの状態だ。
「……ノブナガ、気づいてる?」
「あぁ。軍の騎士がいるな」
都市に入り、馬車で走っている間に数人の騎士とすれ違った。
完全武装とまではいかないが、武器を装備している騎士もいた。
警備の騎士なら中途半端な武装はしない。
それをするとすれば、城塞都市の時と同様な軍の騎士だけだ。
「攻略に来た軍なのかな?」
「多分、そうだろうな。北の国に戦争を吹っかけるにしても、ここにいる必要はないからな」
「もし戦争をするのなら、ガラールのように外に拠点を作りますよね」
各々が見た感じの意見を並べる。
が、その前に、
「まずは宿を探そう。情報収集と今後の方針を考えるのは、それからだ」
という事で宿を探す事になった。
道らしい道を進み、宿の看板を見つける。
馬車も止められるようなので、そこに泊まる事になった。
今回は6人なので、3人部屋を2つ取る事に。
ノブナガ、ザン、カレンのグループとエリーナ、アリンカ、スフィのグループに分かれた。
各々荷物を置き、ノブナガがガラールの宿同様にドアノブに細工をしてから情報収集に出た。
この前のように夜にノブナガ1人で情報を集める手もあるが、攻略に来ている騎士がいる以上は現状を知っておきたいのだ。
ノブナガたちは認識阻害の外套を羽織って宿を出る。
スフィの分は“ストレージ”も含めたすべての便利アーティファクトを旅路の最中に作っておいた。
緑色の髪も、今は橙色になっている。
ノブナガたちはまず問題のダンジョンにやって来た。
ダンジョンは都市のど真ん中にあり、巨大な入り口の奥には下へ行く階段があった。
まずはダンジョンの情報を集める事にする。
情報を集める為、宿の分断で二手に分かれる。
ノブナガたちは近くにあった酒場の方へ。
エリーナたちは探索道具などが売っている場所辺りへ。
ノブナガが行った酒場は、情報ありますな酒場ではなかったので(自分に)酔う事はなかった。
とりあえず、この都市に住んでいる人たちに話を聞いてみるが、ダンジョンの事はよくわからないらしい。
3年前までは非戦闘系の天紋でも入る事が出来たらしいが、今は国の所有物だなんだと言われて騎士しか入れないそうだ。
他の人たちにも話を聞いても、同じ内容しか聞けなかった。
仕方なく、情報収集を切り上げ宿に戻る。
念話でエリーナたちにそう伝えると、もうすぐ宿に戻ると帰ってきた。
数分もしないうちに帰ってきたエリーナたちと一室に集まり、情報交換をする。
「俺たちの方はこれといった情報は聞けなかった」
酒場で聞いた話をそのままエリーナたちにする。
本当にどうでもない内容なので、これといった反応はなかった。
続いて、エリーナ班はアリンカが聞いてきた情報を口にする。
「私たちの方も、これといった情報はないわ。強いて言うなら、道具屋で3年前まで探索れていた5階層までの地図なら手に入れたわ」
そう言って、“ストレージ”から5枚の紙を取り出すアリンカ。
それを受け取り、1枚1枚地図を見るノブナガたち。
「へぇ。随分、分かれ道が多いんだな。南のダンジョンなんて、ほとんど一本道だったのに」
「その分かれ道が、攻略を遅らせているんだと思うわ」
「確かに、1階層でここまで細かく分かれているとなると、随分な広さッスもんね」
1階層でも細々とした分かれ道になっているところに、2、3階層になればもっと増えている。
5階層なんかは枝分かれしている道が繋がっているところだってある。
直に歩けば、簡単に迷子になる事間違いなしだろう。
「3年前に5階層だった、って事はー……今は結構行ってるのかな?」
「…………やっぱり、直接情報を探りに行かないとダメか……」
「それは……軍隊がいる宿に侵入するという事ですか?」
ノブナガがぼそりと呟いた言葉に、エリーナはまさかと聞き返す。
それにコクリと頷いたノブナガ。
「軍の隊長なら、攻略した階層までの地図を作っていないわけがないですから」
「でも、さすがに危険じゃない?ガラールの時は拠点みたいな広さとざらな見張りだったから出来たけど……宿となると部屋に入る事が難しくなるんじゃ……」
「部屋への侵入は問題ないと思う。魔族のスキルなら音を立てずに入れるから」
“鮫”のスキル“潜地”の派生スキル[+透物]。
ザクロムはノブナガの剣が当たらないように使っていたが、物をすり抜けられるのであれば壁だってすり抜けられる。
それを使えば、魔法的トラップが無ければ入れるはずだ。
「もうすぐ夜です。気配を消して寝静まったところに入ればバレないだろ」
「……それしかないわね」
「じゃあ、それで行こうか」
ノブナガの言葉に、一同が頷く。
情報収集で1日潰す事となり、明日からの方針は今夜ゲットできる地図を手に入れてから決める事になった。
今日のところは解散し、エリーナたちは自分たちの部屋へ戻っていた。
そして、日が沈みみんながベッドの中に入って寝静まった頃。
ベッドから起き上がり、着替え始めるノブナガ。
爆睡しているカレンを起こさないようにザンも起き上がり、部屋を出ようとしているノブナガを送り届ける。
「いってらっしゃい、ノブちゃん。気をつけてね」
「あぁ。いってきます」
そう言い、ノブナガは[+透物]を使って部屋を出た。
部屋を出たノブナガは“隠形”と“気配遮断”を使って宿を後にし、そのまま外を歩く。
まず、軍の騎士たちが泊まっている宿を探す。
ノブナガは軍の騎士がどこに泊まっているか知らないので、宿を探るのに時間がかかると思っていた。
が、外にいた騎士を尾行したらあっさりとわかった。
ノブナガたちが泊まっている宿から2つ通路が違うところにある宿だった。
1階分の高さはそれほどないが、3階建てとなるとそれなりの大きさだ。
ノブナガは“気配探知”で宿の様子を伺う。
入って正面に1人、その奥に2人と2、3階にはそれなりの人がいるようだ。
正面から入るとさすがに気づかれる可能性があるので、ノブナガは幕の出入り口から少し逸れたところから[+透物]を使って入る。
宿に侵入したノブナガは、上への階段を見つけて2階へ。
2階は3階に比べて気配が少ない。
試しに誰もいない部屋に入ってみるノブナガ。
その部屋には鎧や小さい鞄、それにポーションなんかがあったがダンジョンの地図らしいものは無かった。
もう一つ、別の部屋に入ってみるが同じようなものしか置いていなかった。
(2階は隊員の騎士がいる場所なのか。そう考えると、地図がありそうなのは……)
胸の中でそう呟くと、上を見上げた。
「やっぱ、3階だよなぁ」
3階には、きっと部隊長や隊長がいるのだろう。
ちょっと気が重たくなるノブナガ。
ため息を1つ吐き、階段から3階に上がる。
気配を探り、人のいない部屋に侵入する。
が、やはり防具らしき軽装しかなかった。
(こうなったら、人のいる部屋に忍び込んでみるか?結構なチャレンジだけど……)
危険を承知で覚悟を決めたノブナガ。
人のいる部屋の前に立つと、[+無法移動]で天井に立ちながらゆっくりと顔だけを入れて部屋の中を伺ってみる。
すると、ベッドの方で鼾が聞こえ、そっちに視線を向けてみると、寝転がっている人がいた。
どうやら、もう寝ているらしい。
音を立てずに侵入し、無音で室内の天井を歩き回る。
上から室内を眺めてみるが、地図らしきものどころか防具もない。
仕方なく、部屋を後にするノブナガ。
他に人のいる部屋を探ってみると、あと2つある事がわかった。
1つの気配は室内をぶらぶらとしているらしく、もう1つの気配は身動きを取っていない。
ぶらぶらしている気配は確実に起きているが、身動きを取っていない方は寝ているのだろう。
とりあえず、寝ている方の部屋に侵入する事にした。
どうせ寝ているので、普通に壁をすり抜けて部屋に入った。
「あら?珍しいお客ね」
瞬間、そう声をかけられたノブナガ。
「ッ!?ーーッ!!あんたは!!」
起きている事に驚き、そしてその顔を認識した時にさらに目を剥いて叫んだ。
なぜならーー
「お久しぶりね。あの“賢者”の村以来だから、3ヶ月ぶりぐらいかしら。ノ・ブ・ちゃん♪」
かつてノブナガも対峙した事がある、魔王と精霊王の娘ーーネルラだったからだ。
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「ッ!?」
ノブナガが侵入した先で出会ったのがネルラだと認識した瞬間、ノブナガは距離を取ると同時に“ストレージ”から短剣を取り出して構えた。
速攻で攻撃に出なかったのは、ここが軍の騎士が泊まっている場所でノブナガたちの存在が露見するとマズいからである。
(マズい、どうする!?まさか、こんな所で再会するなんて考えもしなかったぞっ!でも、ここでの戦闘だけはマズい……!!)
ノブナガは必死に今の状況を切り抜ける方法に頭を回す。
本気で逃げれば今はどうにかなるが、その後の行動が制限される事を踏まえると大きく出られない。
「そんなに警戒しなくてもいいわ。今のわたしは戦うつもりはないから」
「なに?」
「そういう気分なのよ。それに、わたしはノブちゃんと話がしてみたかったの」
「話?」
「えぇ。だから、そんなピリピリしないで貰いたいのだけど」
切り抜ける方法を考えていたノブナガにとって、ネルラの言葉は意外過ぎた。
正直、即戦闘になってもおかしくないと考えていたからだ。
「……わかった。ただし、話を始める前に、そのノブちゃんってのはやめろ」
戦闘を避けたいノブナガに乗らない選択肢などなかった。
だが、敵からちゃん呼びされるのだけは何となく嫌だったらしい。
「そうは言っても、あなたの本当の名前知らないんだもの」
「……はぁ。ノブナガだ。家名はない、ノブナガだ」
「あら?意外に素直に答えるのね?」
「俺はあんたの名前を知ってるからな。こっちだけ名乗らないのは不公平だろ」
「……村で自分の天紋の事を話した時も思ったけど、ノブナガちゃんって律儀よね」
「だから、そのちゃん呼びはやめろ。あんたにちゃん呼びされる筋合いはない」
「じゃあ、ノブナガちゃんもわたしの事をちゃんと名前で呼びなさいよ。それで平等でしょ?」
「……はぁ、わかった。ネルラ。これでいいだろ?」
なぜかちゃん呼びをやめないネルラにため息を吐きながら、観念したように言うノブナガ。
「それで、話ってなんだ?」
「わたしは聞きたかったのよ。人間……ちょっとノブナガが人間って言っていいのかわからないけど聞きたかったの」
「少なくとも人間族だから聞いてやるよ」
若干ネルラの前置きにイラッときたノブナガが額に青筋を刻みながら言う。
「人間って、一体なんなの?」
「ーー……は?」
ネルラから発せられた言葉が理解できなかったノブナガ。
聞き間違い、あるいは違う意味があるのかと考えるが、やっぱりシンプルイズベストな言葉では受け取ったままの意味にしか聞こえない。
「人間って脆弱よね?すべての者が戦えないし、戦闘が出来る者だって少ない。正直、わたしたち魔族に比べたら弱過ぎるわ」
「まぁ、魔族に比べたらそうだろうな」
「えぇ。弱い見栄を張るし、相手との力の差を考えないし」
「あーうん。そうだな」
ネルラが言う事を否定する事が出来ないノブナガ。
ノブナガもそういう人たちに出会ってしまっていたのだから仕方ない……
「だけど……そうでない人間もいる。大切なものを掛ける者、誇りを掛ける者、勇気を掛ける者、そして……ノブナガみたいな他人の願いを叶える者。どれも魔族にはないもの」
ベッドに座った状態だったネルラが立ち上がり、部屋に1つだけある窓から月を見つめながら言う。
「哀れなプライドと切り捨てればそれまでだけど……そうじゃない。言葉では言い表せない危機感を覚えるわ。人間族は一体なんなの?」
振り返り、ノブナガに問う。
正直、どうでもいいので「知るか」の一言で終わりたいノブナガだが、月明かりに照らされるネルラの顔が真剣なのもあって一蹴する事も出来ない。
「さぁな。そんなの人間の俺にもわからねぇよ」
ただ、本当によくわからないノブナガはそう答えるしかなかった。
ただ、
「だけど、人は何かに感化する生き物だ。1人じゃできない事を、みんなで成し遂げるのがーー人間なんじゃないか」
それだけは言えた。
自分1人では、ここまで充実した生き方は出来なかっただろう。
自分1人では、自分を曲げない旅をする事が出来なかっただろう。
ノブナガは、いつも仲間に感謝している。
だから、それだけは言えた。
「そう。ノブナガはそうやって生きてきたのね」
ネルラはノブナガの後ろにあるものを見るように見るめ、納得するように笑みを浮かべた。
そして、少し暗い顔になると、スッと元の表情に戻る。
「さ、わたしが話したかった事はお終い。ここの人たちには言わないから、帰っていいわ……そういえば、ノブナガはどうしてここに来たのかしら?」
「何って……邪魔するための情報を探りに来たんだ」
とりあえず、言っても問題のないようなところだけを話すノブナガ。
言っちゃいけない部分とは、カレンやスフィの存在などだ。
「なるほどね。それで、ノブナガ単身で地図を探し中なのね」
「あぁ。だが、もうネルラに見つかったし大人しく帰るよ」
ネルラにバレた時点で、ノブナガたちの存在が軍隊に知られてしまった。
もうダンジョンで直接邪魔するしかないが、そのダンジョンの地理がわからなければ邪魔するのも難しい。
しかし、もうそうするしかないので諦めて帰る事にした。
が、
「待ちなさい。ダンジョンの地図ならわたしが持っているわ」
そう言い、机に置いてある紙の束から1つ取り出してノブナガに投げ渡した。
急ではあったが、難なくキャッチするノブナガ。
ペラペラと目を通してみれば、それは確かに地図だった。
さっき見た1階層から5階層までの地図も同じなので間違いない。
「クグゥはバカで地図が読めないからってわたしが受け取ったけど、わたしも必要ないからノブナガにあげるわ」
「…………何が狙いだ?」
そんな事を言い出したネルラに、ノブナガは鋭い目を向けて問いかける。
敵に塩を送るような真似をしているのだから、当たり前の問いである。
「別に何もないわ。強いて言うなら、話に付き合ってくれたお礼かしら」
「……まぁ、いい。とりあえず、貰っておく」
ノブナガの感では嘘は言っていないと思っているが、疑うような状況なので警戒は解かない。
静かにダンジョンの地図を“ストレージ”に仕舞ったノブナガは今度こそ部屋を後にする。
「じゃあな」
「えぇ。まあダンジョンで」
ノブナガとネルラが双方にそれだけを言って、別れるのであった。




