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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
ナルマ街編
6/123

冒険に出る前に その5

「ん……」


 十数分ぐらい寝ていただろうか。

 ノブナガは後頭部に感じる柔らかい感触によって、意識を覚醒させた。


(なんだろう?この後頭部から伝わってくる幸せは?)


「あ、ノブナガさん?起きました?」

「ん……はい。起きました」


 寝起きのせいか、若干エリーナの声に反応するのが遅い。

 細めている目を見れば、まだ寝足りないのは明白である。


 が、そこでノブナガはある事に気づいた。

 聞こえてきたエリーナの声の方向がおかしい、と。

 ノブナガは今まで寝ていた、つまり寝転がっている状態だ。

 その状態で、ノブナガがエリーナの声を聞き取った方向は正面上だった。

 眠気なんて吹き飛んだノブナガはパッと目を開けた。


 そこにはエリーナの顔があった。

 ノブナガの顔を覗き込んでいたのか、エリーナの顔がドアップだった。

 顔の位置、目の端に見えている胸、そして後頭部に感じる柔らかい感触。

 という事は、これはっ!!


(もしやっ、これは男のロマン!膝枕じゃないっすかー!!!!)


 よくわからない歓喜が、ノブナガを内心で叫声を上げさせた。

 よくわからないが、そう叫びたい衝動が抑えられなかったようだ。

 本当によくわからないが……


 ノブナガの心臓の鼓動がかつてないほど速くなる。

 エリーナの顔をよく見れば、ありえないほど可愛い。

 銀髪がすらりと長く、エメラルドグリーンの瞳。

 パッチにとした目に小さな鼻、薄紅色の口。

 どれを取っても美と称されるに値する可愛さ。

 そんな女性にドキドキしない男は性癖を疑ってしまう。


「あの、この状況を教えてください」

「あ、はい。“魔法剣士”の野盗はノブナガさんが言った通りに血を止めるぐらいに回復魔法を掛けました。今は気絶しています。あと、“錬成師”の野盗が目を覚ましましたので拘束しておきました」

「そうですか……」


(それはよかったんですけど……俺が知りたかったのはそこじゃないんです……)


 心のそわそわが止まらないノブナガさん。

 こんな事を女性にしてもらった事がないので、どうすればいいのかわからないのだろう。

 とりあえず、恥ずかしいので起き上がった。


「俺にも回復魔法、掛けてくれたんですね。ありがとうございます」

「いえ。元はと言えば私の荷物を取り返しに来たばっかりに……ノブナガさんにケガをさせてしまって」

「気にしないでください。最後の方はほとんど意地でしたから」


 エリーナにそう言うと、辺りを見渡す。

 夜になったせいで暗いが、月明かりのおかげでどうにか辺りを見る事ができる。


「……この辺りの物は飛ばされてしまいました」

「それじゃあ、エリーナさんの荷物も……すいません」

「謝らないでください。もういいんです」

「……」


 そこで会話が止まる。

 エリーナは何か言いたそうにしているが、うまく言い出せないようだ。

 その様子を薄々感じているノブナガ。

 正直、ノブナガもどうしようか迷っている。


 ノブナガは彼女の前で“錬成”を使った。

 “錬成師”の天紋を持つ者しか使えないスキルを。

 “剣士”だと言っていたから、まだ投擲術や短剣術は誤魔化せる。

 が、“錬成”は誤魔化す事が出来ない。

 疑念を持たれるのは当たり前である。


 数秒考えた末、ノブナガは覚悟を決めた。


(口止めの為にも、エリーナさんには話しておくべきだ)


「エリーナさん」

「は、はい」

「えっと、まずこれを見てください」


 ノブナガは懐に無事に入っていたステータスプレートを取り出し、エリーナに渡した。

 エリーナは首を傾げながらも受け取り、そこに表示されている内容を見る。

 それをパッと見ただけで、エリーナは目を剥いて驚いた。


「こ、これってどういうことですか?」

「……俺には先天性スキルがありました。スキル“簒奪”。自分と同等以上の天紋を略奪する、運命を奪うスキルです」

「ッ!!そんなスキルが……」


 もう一度、ステータスに目を落とすエリーナ。

 それほどまでに、ノブナガのステータスは異常なのだろう。


「はっ、そんなスキルがあるなら、とっととすべてを奪っちまえよ」


 ノブナガとエリーナが話している間に声が挟まれる。

 2人して声のする方に視線を向けてみれば、そこにはついさっきまで気絶していた“魔法剣士”がいた。

 まだ斬られた右腕が疼くのか、顔に脂汗をかきながらノブナガたちを見ていた。


「その女、上級紋だろ?だったら奪っちまえよ。すべての天紋を盗んで、全員の運命を終わらせてみろよ」

「……」

「……」


 ノブナガは無言で立ち上がり、“魔法剣士”の元へ歩み寄る。

 無言の威圧に、野盗は顔を引攣らせる。

 そして、無言のノブナガは“魔法剣士”の前に立つ。


「すべてを奪ってなんになる?最後に残るのは、何もない無だけだ」

「……それじゃ、ダメなのかよ?」

「どういうことだ?」

「この世の人間は、生まれた時から生きる道が決まっている。“調理師”なら料理人、“錬成師”なら鍛治師、“紋無し”なら奴隷。このアンディエル帝国じゃ、戦闘向けの天紋を持った奴は軍人。すべてが天紋によって決まる」


 “魔法剣士”は語る。

 それは、“魔法剣士”がずっと心に秘めていた不満。


「なんで、人は神に引かれたレールの上しか進めないんだ?なりたい者にはなれないんだ?そんなの、ただの神が作った理不尽じゃねぇか」

「……」


(そうだ。この世界のルールに、俺も思ったはずだ)


 “剣士”の天文を得、奴隷から解放された日にノブナガは思ったのだ。


 ーーこの世界の人たち、惨めだな。


 と。


「…………俺も考えた事はあるさ。最初っから決められた運命しか歩めないなんて理不尽だと。……でも、“それでも”って幸せに生きている人がたくさんいるんだよ」


 人生に壁がある、そんなものは当たり前だ。

 すべてが思い通りにいく人生なんて、誰にもないんだ。

 不幸にあって絶望しても、“それでも”って我慢して妥協して生きているんだ。


「人には絶望を乗り越える力がある。あんたは、ただ絶望と向き合えなかっただけだ。すべてに立ち向かって乗り越えた先には……あんたも幸せだと思える人生があったはずだ」

「……オレっちは、逃げてたのか?」

「多分な」

「オレっちは終わっちまうのか?」

「そうだな。どうやら、騎士たちがこっちに向かってきてるからな。逃亡兵のお前は捕まったら、死刑らしいからな」


 実は、魔物を警戒する為に“気配探知”を発動させていたノブナガ。

 その時に、こちらに向かっている団体がいる事に気がついた。

 結構な数なので、爆発で気がついた騎士たちだろうと予想した。

 距離と移動速度的に、10分ぐらいでここに到着するだろう。


「お前に頼みがある」

「……なんだ?」


(頼む側なのに、お前呼ばわりか)


 そんな言葉が出かけたが、騎士が来るまで時間もないので飲み込んだ。


「オレっちの運命を奪ってくれ」

「俺は見境なく“簒奪”するつもりはないって言ったろ」

「違う、そうじゃない!オレっちの運命をお前が受け継いでくれ!!オレっちはもう死ぬ。絶望に立ち向かえないまま……だから、せめて!オレっちの運命だけでもっ、絶望と戦わせてやってくれ!!頼む!!」


 ノブナガの足元で土下座して頼み込んでくる野盗。

 その光景に、ノブナガとエリーナは目を剥く。

 正直、反論して終わりだと思っていたノブナガはもっと驚いていた。


 だが、ノブナガに届くものがあったのだろう。

 真剣な眼差しで、土下座する“魔法剣士”を見つめている。

 数秒、野盗を見つめたノブナガはスッとしゃがんで左肩に手を置いた。


「わかった。お前の天紋、貰い受ける」


 ただ、条件として今から1分間触れ続けなくてはならない。

 その間、ただ待つのもあれだと思い“魔法剣士”に話しかける。


「そう言えば、まだ名乗っていなかったな。俺はノブナガ。お前は?」

「ヤヘンだ。オレっちの天紋、頼んだぜ」

「あぁ、任せろ。ヤヘン」


 ようやく、お互いの名前を知る事ができた2人。


「ヤヘン。俺もお前から教えてくれた事がある」

「あん?オレっちはなんも教えてねぇだろ」

「いや、確かに教えてもらった。このスキルは、ずっと相手を地に堕としめるだけだと思っていた。けど、ヤヘンが教えてくれた」


 ノブナガはしっかりとヤヘンと向き合い、目を合わせる。


「このスキルで、人の意思を受け継ぐ事ができるのを教えてくれた。その事、すごく感謝している」

「お、おう……ありがとうっ。ありがとうぅ……」


 ヤヘンの目に水が溢れでる。

 ヤヘンにとって、ノブナガの言葉は救いだった。


(ただ背を向けた自分が……誰かに希望を与えられたんだ……)


 そこで1分が経過。

 その瞬間、ヤヘンから“魔法剣士”を“受け継いだ”。


「ヤヘンの意思は、俺が必ず受け継ぐ」

「ノブナガさん……」


 泣き崩れるヤヘン。

 その背中を摩ってやるノブナガ。

 そこで、2人に歩み寄るエリーナ。

 エリーナがノブナガにステータスプレートを返す。

 そこでチラッとステータスを見るノブナガ。


 ======================

 ノブナガ 12歳

 天紋:剣士・暗殺者・投術師・拳闘士・槍術士・斧術士・水術師・闇術師・錬成師・魔法剣士 レベル:5

 HP:2100/2100

 MP:1555/1560

 PHY:2550

 STR:1920

 VIT:1720

 INT:1870

 MND:1750

 AGL:1980

 スキル:簒奪・投擲術[+即擲]・剣術[+二刀流]・歩法術[+立体移動][+無拍移動]・短剣術[+二刀流]・気配探知・格闘術・錬成[+鉱物鑑定]

 ======================


「うっ……(ゴクリッ)ふぅ……」


 またまたよくわからないエネルギーが出そうになったノブナガさん。

 でも、ここは出るのを我慢して飲み込んだ。

 こんなところで魂出したら、感動破りの鬼畜である。


(もう奪わないって決めたのになぁ。まぁ、仕方ないか……)


 しくしくとステータスプレートを懐に仕舞うノブナガ。

 そこにーー


「動くな!!」

「ッ!?」


 騎士が到着し、ノブナガたちに鋭く言い放った。

 状況がわからない騎士たちにとって、ノブナガやエリーナも騒ぎの元凶だと思われているのだ。

 そんな騎士たちに若干疲れた顔をするノブナガ。


(面倒だな……ちゃんと説明を聞いてくれるか)


「大人しく武器を捨ててとーーノブナガ君?」

「あ、ノッタさん」


 そこで、まさかの救世主。

 親心真っ盛りの騎士、ノッタさんだった。



 **********************



「それじゃ、しっかり戸締りするんだぞ?」

「はい。送ってくださってありがとうございました」

「じゃあな」


 場所が変わって、ノブナガが昨日泊まった宿の前。


 ノブナガとエリーナは騎士たちが来た後、あっさりと解放された。

 理由は野盗の被害者である事。

 それにヤヘンがちゃんと供述した事で、ノブナガたちはノッタさんと数人の騎士と共に林を出、宿まで送ってもらったのだ。

 ノブナガの“簒奪”については、エリーナもヤヘンも言わないようにしてくれた。

 そして、今は宿の前で騎士たちと別れたところである。


「エリーナさんは宿、どうするんですか?」

「そ、その、私……お金無くて……」

「あ……野盗に盗られたんでしたね」


 今の今まですっかり忘れていたノブナガ。

 野盗に荷物と一緒に財布を取られていた事を思い出す。


「なら、この宿に泊まりませんか?お金は俺が払いますんで」

「そ、そんなっ、申し訳ないです!」

「でも、旅道具もなしに野宿できないですよね?」

「うっ」


 痛いところを突かれ、呻き声を漏らすエリーナ。

 さすがに、野盗に襲われた後に野宿をするなんて言い出せないエリーナは、なんとか迷惑をかけないように案を考えるが、結局出てくる事はなかった。


「すいません……魔石を換金したら、すぐに返します……」

「ははは……旅の荷造りが出来てからでいいですよ」


 内心、そこまで悩む事かと思いながら苦笑いで言うノブナガ。

 2人は宿に入り、もう1泊する為ともう1つの部屋を取る為のお金ーー銀貨1枚と大銅貨2枚を支払った。

 銀貨と聞いた瞬間、エリーナが「やっぱり、いいです!」と言うのを無視して払った。

 その光景を店員の女性が微笑ましそうに見ていた。


 エリーナは部屋に案内され、ノブナガは自分の部屋に向かった。

 ノブナガは剣を置き、ボロボロになった旅服を脱いで1人酒場にやって来た。

 エリーナさんは魔石の換金と服を買いに街を回っている。

 ノブナガも魔石の換金がしたかったので一緒に行こうとしたのだが、言い出す前に行ってしまったので明日行くことにした。

 とりあえず、宿を出る背に酒場で待っているという事は言った。

 伝わっているかはわからないが……


 酒場の店員さんは品を運ぶのが忙しいのか、なかなか来てくれなかった。

 仕方なく、昨日と同じくカウンター席に座った。

 位置も昨日と同じ席だった。


「お、昨日の坊主じゃねえか。今日はなんにするだ?」

「すいません。今、人と待ち合わせしていまして。注文はその人が来た時に。飲み物ってなにがありますか?」

「飲み物んはビールと赤ワイン、あと水。うちは酒場なもんでこれしかねえよ」


(お酒かぁ。お酒を飲むのに年齢制限はないけど……水にしよう)


「じゃあ、水ください」

「ほいよ。ミフィムー!水持って来てくれ!!」

「はーい!」


 水を頼むとおじさんが店員に大声で指示した。

 忙しそうな店員さんがせっせとやる事を片付けていき、ノブナガに水を持って来てくれた。

 入れ物は酒場らしくジョッキだった。


「水はタダだ」

「ありがとうございます」


 日本人にとって飲食店の水は無料が普通なのだが、この世界はそれが良心的だったりする。

 その水をクイッと一杯飲む。

 水分も取らず動き回っていたせいか、その一杯の水が美味しく感じたノブナガ。


 そこで今日のヤヘンの事を思い出す。


(神から与えられた紋……それは神が作った理不尽だ、か。確かにその通りだ)


 ノブナガはこれに反論したが、それは絶望を向き合う事を前提としたものだったりする。

 ノブナガ自身はそれを乗り越えた先のモノを信じているし、向き合う覚悟も出来ている。

 が、ヤヘンの言葉は確かにその通りだと思わせられるところもあった。

 天紋を持つとはどういう事なのか、ノブナガはまったく考えていなかった。


(天紋を持つ者は……みんな違う何かになりたかったのだろうか?その天紋を持った俺も、神に引かれたレールの上を進む事になるのだろうか?)


 自分の世界に完全に入り込むノブナガ。

 考えなくてもいい事をぐるぐると考えてしまう。


「どうした、坊主?元気ないみたいじゃねぇか」


 そこに、“調理師”のおじさんがノブナガに話しかけてきた。

 一点をジッと見て固まっているノブナガが目に入ったようだ。


「ちょっとありまして……あの、変な事聞いてもいいですか?」

「変な事って。まぁ、言ってみ」

「おじさんは幸せですか?」

「ははははっ。ホントに変な事だな!そんなもん、幸せに決まってらぁ」


 ノブナガが聞いた変な事に、おじさんは堂々と言った。

 それに、ノブナガは食いつく。


「天紋で、生きる道が決まっているのに、ですか?」

「まぁ、確かに最初は“調理師”なんて嫌だと思ったさ。男なら料理じゃなくて、冒険してぇってな。まぁ、結局ステータスが足んなくて諦めたがな」

「じゃあ……」

「けど、幸せなんだよ。あの女見てみろ」


 おじさんは料理する手を止め、さっきノブナガに水を持ってきてくれた女性を指差した。

 20代後半の女性で、別嬪と言える。


「あれは、俺の嫁だ」

「えぇ!!」


(おじさんっ、入籍してたのか!?)


 急に嫁の存在を聞かされ、ついおじさんの妻ーーミフィムを二度見した。

 ビックリしすぎて、持っていたジョッキがボトンと落ちた。


「俺の嫁はいい女だ。疲れたら介抱してくれるし、挫折したら一緒に居てくれる、できた嫁だ」


(急に嫁自慢になったぞ……)


 ノブナガは重たい話を振ったはずなのに、なぜか嫁自慢になっている事に疑問符を浮かべていた。


「まぁ、なにが言いたいかっつうとだな」


 おじさんは一拍おいて、真剣な表情になって言った。


「あの女は俺が選んだんだ。俺が心打たれて、俺が嫁にしようと決めたんだ。それで幸せじゃねえなんて、罰当たりってもんよ」

「ッ!!」


 おじさんはなんの力もない“調理師”だ。

 料理をどの紋よりも美味しく作れるというだけの、正直いるのかわからない天紋だ。

 にも関わらず、おじさんは幸せだと言った。

 その理由が、今の言葉でわかった気がする。


(そうか……人は1人じゃないんだ)


 人は1人で生きて1人で死ぬ、そんな事はありえない。

 そんな当たり前のことを、ノブナガは忘れていた。


「ありがとうございます。おかげで元気出ました」

「おう、そうか。子供が元気なきゃ、大人も元気が出ねぇからな。いいってもんよ」


 それからノブナガとおじさんはたくさんの事を話した。

 と言っても、おじさんの嫁の自慢話が主であったが……


 10分ぐらい話したところで、エリーナが酒場にやってきた。

 早速、料理を頼んで夜ご飯にする。


「すいません……大銅貨3枚で食べられる物ありますか……?」

「大銅貨3枚かぁ。値切って、野菜炒めぐらいが限界だなぁ」

「……ここは俺が出すんで、好きなの食べてください」

「うっ……借りっぱなしですいません……絶対にお返しします……」


 事情なので、ここはノブナガが持つ事になった。

 野盗に荷物を盗られたから野菜炒めしか食べられないなんて、可哀想過ぎる……

 結局、エリーナが頼んだのは牛の串肉と野菜炒めだった。

 ノブナガも同じ物を注文する。

 2人合わせて、銀貨1枚と銅貨6枚だった。

 またエリーナが「やっぱりっ!」と言い始めるのをスルーして支払った。

 その光景をおじさんは微笑ましそうに見ている。


 今度はエリーナを交えて3人で会話を楽しんだ。

 その流れで、“調理師”のおじさんの名前がタイヤンである事がわかった。

 最初は3人で話していたが、料理するのに忙しくなりタイヤンは会話から離脱した。

 そのタイミングを見計らって、ノブナガはエリーナに話しかける。


「エリーナさん。お願いがあります」

「は、はい。なんでしょう?」


 ノブナガの改まった話し始めに、やや緊張するエリーナ。

 そんなエリーナを余所にノブナガは言う。


「エリーナさんの旅に、俺を連れて行ってくれませんか?」

「え?」

「俺、旅をする予定なんですけど……地理がわからないですし、目的もなくて……だから、俺の旅の目的が見つかるまで一緒に旅をしませんか?」


 ノブナガのレベルは未だ5。

 しかし、ステータスは中級紋にも劣らない。

 野盗に負ける事はないだろう。

 旅に出ても、なんら問題ない。

 が、ノブナガには旅の目的がない。

 それを見つけるのも旅の一貫なのだろうが、地理がわからない以上、旅には出られない。


「……私も、ノブナガさんと旅したいです。不束者ですが、よろしくお願いします」

「あ、ありがとうございますっ」


 こうして、ノブナガはエリーナの旅に付いていく事になった。

 エリーナの旅の目的も知らず。



 **********************



「あー……剣も旅服もボロボロになっちまったなぁ。明日、買い直して来ないと」


 酒場での食事を終えたノブナガはエリーナと一緒に部屋に戻った。

 今はお互い、自分の部屋にいる。


 そこで、ノブナガは今日買ったばかりの剣を抜いて眺めていた。

 その剣は、ヤヘンとの戦いで刃毀(はこぼ)れやヒビが入っていたりとボロボロだった。

 旅服もビリビリに破け、血も付着している。

 買い替えが必要なのは明白である。


 コンコンッ


「エリーナです。少しいいですか?」


 扉がノックされ、扉の向こうからエリーナの声が聞こえてくる。

 扉を開ける、ノブナガ。


「エリーナさん、どうかしましたか?」

「お話ししたい事があります」

「……わかりました。どうぞ、中へ」


 真剣な顔なエリーナに、何かあるのを感じたノブナガが部屋の中へ入れた。

 部屋に備え付けられた木製の椅子にお互い腰を下ろし、向かい合う。


「それで、お話しってなんですか?」

「……まず、こちらを見て下さい」


 エリーナは手に持つ物をスッと机に置いて差し出してくる。

 それはステータスプレートだった。

 なんだか、よくわからないが言われた通りに見てみるノブナガ。


 ======================

 エリーナ・アンディエル 13歳

 天紋:聖女 レベル:20

 HP:1810/1810

 MP:1830/1830

 PHY:1820

 STR:1600

 VIT:1600

 INT:1820

 MND:1820

 AGL:1810

 スキル:回復魔法[+状態看破][+状態自己回復][+遠隔回復][+広範囲回復]

 ======================


(アンディエル……貴族?いや、違う!!)


 家名が付いているという事は貴族である。

 つまり、貴族でない者は“ヤヘン”や“ノッタ”のように名前しか存在しない。

 家名があるという事は貴族だと思ったノブナガだったが、“アンディエル”という名前がどういうものか気がついた時、目を剥いた。


(この国の名前はーー“アンディエル”帝国!!)


 反射的に顔を上げ、エリーナの方を見るノブナガ。

 その反応を見て、すべてを察したように口を開く。


「そうです。ノブナガさんが考えた通りです。私の名はエリーナ・アンディエル。この国の王ーーアブリー・アンディエルの娘です」

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