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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
城塞都市ガラール編
51/123

VS黒装束の“暗殺者” その2

 “空踏”で空中に立っているノブナガは、黒装束に剣を突きつけながら言う。

 そんな宙に浮いているようにも見えるノブナガを見て、目に見えて驚いている黒装束。

 ボソリと、溢れたように呟く。


「いつから、分身だった……?」

「最初からだ。アンタが戦ってたのは分身体で、本体の俺はずっとここで高みの見物をしてたんだよ」

「バカな……私が戦っていたのは、確かに昨日の分身よりも強かった……」

「そんなの[+身体強化]を使えば簡単に強くなれるって。まんまとステータスに騙されたわけだ」


 ここで、ノブナガが今夜の事で立てていた作戦を説明しよう。


 まず、ノブナガの分身が黒装束の背後を取れたのは偶然ではない。

 仕掛けは、昨夜の戦闘中に風弾に紛れかまして撃ち込んだ[+標的固定]だ。

 “追跡”の派生スキル[+標的固定]は視認したモノをロックオンするのが主だが、他に敵に印を付ける事も可能である。

 その印ーーノブナガの魔力を“魔力探知”の[+特定探知]を使い、黒装束の居場所を特定したのだ。

 探知の範囲内じゃなければわからないが、出現する地区がわかっていれば見つけるのは容易かった。


 そして、黒装束が戦っていたのが本体であると錯覚したのは、ノブナガが言った通り[+身体強化]を使ったからだ。

 と言っても、[+身体強化]を4つも使ったのだから騙されるのも仕方のない事だろう。

 それに、“暗殺者”には習得できないスキルともなれば、発想にすら浮かび上がってこなかっただろう。


「そんじゃ、第2ラウンドと行こうか」


 これ以上、質問に答える気がなかったノブナガは空を足場にして跳び、身を縮めて上下を反転させる。

 タメを作ったノブナガは空中を蹴ると同時に伸び上がり、黒装束へと急接近する。

 [+縮地移動]を使ったかと思えるほどの速度を出したノブナガに驚きながらも、迫り来る攻撃に剣を盾代わりにして受け止める。


 どうにか受け止めたものの、ノブナガの膂力に耐える事が出来ず、足を引きずりながら後退した。

 20メートルほどで止まった黒装束は追撃せんと迫ってくるノブナガに短剣を投擲する。

 放たれた1本の短剣は狙い違わずノブナガの眉間に襲いかかるが、姿がブレるような動きで横にズレて回避。

 建物の壁を[+立体移動]で走る事で、迫る勢いを殺す事なく黒装束に接近する。


 黒装束は接近してくるノブナガを迎え撃つべく、剣先をノブナガに向け弓を引き絞るように腕を引いた。

 ノブナガが剣の間合いに入ってきた瞬間、溜めた力を解放するかのように放たれる突き。

 その突きは、長年の経験が積み重なっているなか、まるでその動きが自然な動きであるかのように感じさせる無駄のない突き。


 しかし、そんな技の極みも、圧倒的な力の前には無に還ってしまう。


 ノブナガを貫くと思われた突きは、その一寸前に発動された[+身体強化]×2によって加速し、スキルなしで残像を作る勢いで回避した。

 黒装束が[+影狼]を使ったと錯覚しても仕方がないだろう。

 そんな思考をしているうちに、ノブナガはすでに黒装束の背後に立っていた。


 本能が強い警告の音を鳴らすのを耳にした黒装束は、その本能に従って前方に転がり込んだ。

 瞬間、黒装束が一瞬前までいた場所に炎の一閃が通り抜ける。

 ノブナガの“属性付与”、その[+遅延発動]だ。

 もし、黒装束が本能に従わずに振り向いていれば、今頃肉体を真っ二つに焼き斬られていたに違いない。

 だが、本能に従っても完全な回避には間に合わず、着ている黒の服が焼けている。


 が、今は気にしている暇がない黒装束。

 黒装束が最大に出せる分身体6体を出現させ、撹乱を加えながら全力で間合いを開ける。

 普通の“暗殺者”なら5体出せるか出せない程度の“分身”が、6体という数を出せるレベルに達している黒装束は、やはり普通の“暗殺者”とは別格らしい。


「雷・爆ける・放電ーー“エレキ・バイト”」


 しかし、そんな全力の対応もノブナガが全方向に電撃を放つ初級魔法によって、すべての分身体が消滅。

 さらに退避する最中だった黒装束も、電撃に弾かれ後方へと飛ばされる。


 痺れる痛みに耐えながら、どうにか受け身を取った黒装束は派手に転んだ勢いを利用して立ち上がる。

 そして、“暗殺者”には絶対に使う事が出来ない魔法や“属性付与”を使った事に驚愕を隠し切れないというように叫ぶ。


「ま、魔法だと!?どういう事だ!?」

「こういう事だよ。土・岩石・穿てーー“ストーン・バレット”5門」


 虚空から放たれる5つの岩石。

 またもや魔法を使った事に黒装束は驚きつつも、剣を振るって斬り払う。

 が、ただの剣に魔法を斬り払う事は刀身には負担が大きいらしく、1つを斬り払う毎に刃が毀れていく。


 すべての“ストーン・バレット”を斬り払った黒装束に更なる攻撃を加えるノブナガ。


「裁光・輝く・槍・滅せよ・貫くーー“シャイニング・ランス”」


 [+省略詠唱]が完了すると、ノブナガの目の前に出現した光球がレーザーのように放たれた。

 夜の暗さを払うように伸びる光の槍は黒装束を貫こうと襲いかかる。

 さすがに剣での迎撃は不可能だと悟った黒装束は横に転がり込むように回避した。


 そこにノブナガが襲いかかる。

 ノブナガの黒剣が何閃も煌めく。

 その悉くをどうにか回避しようと剣で受け止めたり、身を捻るなどをする。

 が、ノブナガの合理的な剣技の前には効果は薄く、黒装束の服どころか肌に傷を付けていく。

 それでも何とか凌ごうとする黒装束だったが、ノブナガの斬撃が止む前に剣に限界がくる。


 パキンッ!


 ノブナガの最後の一閃が黒装束の剣にとどめを刺した。

 獲物を失った黒装束にノブナガの左手が伸びる。

 黒装束の胸倉を掴んだノブナガはグッと引っ張り込み、勢いよく地面に叩きつけた。


 ドスゥゥゥゥゥゥンンンンン!!!!


 強化なしの力にも関わらず、地面に蜘蛛の巣のようなクレーターを作り上げながら地面に埋まる黒装束。


「かはっ」


 胸を押された為、肺に溜まっていた空気が強制的に口から漏れ出す。

 どうにか意識だけは繋ぎ止めたものの、動く事が出来ない黒装束。

 ノブナガの握力が強過ぎて、離れる事も出来ないでいる。

 どうやっても外せないと悟った黒装束は、袖に隠し持ってきたナイフを一瞬で取り出すと、ノブナガの左腕に突き立てた。


 が、ノブナガの左腕にはいつの間にか魔力の鎧が纏われていて、突き立てられたナイフを受け止めていた。

 刺し込む力を強くするが、それ以上刃が進む事はなかった。

 次第に息が詰まり、咳き込み始める黒装束。


 そんな息苦しい黒装束に、ノブナガが口を開く。


「どうして、関係のない人を殺した?」

「関係のない、奴だと……?」

「関係ないはずだ。騎士じゃなければ非戦闘系の天紋の人ばかり。アンタがさっき言っていた自分の道に、必要な事だとは思えない。なぜ、殺した?」


 ノブナガが洞察するに、この黒装束は間違いなく魂までは腐っていない男だ。

 自分の仁義を捨てず、誇りにしている者である。

 だからこそ、ノブナガにはわからなかった。

 なぜ、関係のない者を殺し続けてきたのか。

 いっそ、本当の悪であった方が納得がいっただろう。


 だから、ノブナガは問わずにはいられなかった。


 そんなノブナガの問いに、フッと音を漏らす黒装束。

 口元は隠れているが、その口端を釣り上げる事がわかる。

 そんな黒装束の反応に眉を顰めるノブナガだが、物申す前に黒装束が先に口を開いた。


「その関係のない奴が、実は関係しているとは考えなかったのか?」

「?何を言ってーーーーさっき言っていた黒幕の事か?」

「察しがいいな」


 訳のわからない黒装束の言葉を切り払おうとするノブナガだったが、自分が知らない情報があった事を思い出し、口にする。

 そして、それが正解だったらしい。


「黒幕っていうのは何者なんだ?」

「言うと思うか?」

「……アンタにその選択肢があると思っているのか?」

「言ったところで、組織に属している貴様には何も出来ない。貴様がどう思ってどう行動しようとも、その黒幕を断とうと動けば貴様は消される。私のようにな」

「ッ!?」


 黒装束の言葉に息を飲んだノブナガ。

 不意な言葉が、ノブナガの頭の中にぐるぐると回る。


「どういうこーー」


 詳しく話を聞こうとしたノブナガだったが、そこに待ったをかけるような足音が聞こえてくる。


 ガシャガシャという金属が地面を擦るかのような音とほとんど無音に聞こえる足音。

 ノブナガ、それに未だに胸倉を掴まれている黒装束が“気配探知”を発動させる。

 まだ遠いが、ノブナガたちの方へ近づいてくる複数の気配を察知する。


「……さすがに騒がせ過ぎたか」


 魔法の使用、それに地面への押し付け。

 どれも派手な音を鳴り響かせたのだ。

 さすがに警備の騎士が動き出してもおかしくはない。

 少し隠密性に欠けていたと反省するノブナガ。

 その間も、刻一刻と近づいてくる警備の騎士たち。


「とっとと私を騎士に突き出せ。それでこの都市の脅威は1時的には平穏が訪れる」

「…………」


 諦めたのか、そんな事を言い出してくる黒装束。

 完全に無反応なノブナガ。

 何かを考え込むように視線を固定し、苦悩しているか、表情がペラペラ漫画のように変わっていく。


 そして、ようやく答えが出たのか、顔を元に戻すなりため息を漏らす。


「はぁ……逃げるぞ。立て」

「?は?」

「いいから立て。さっさとズラかるぞ」

「いや、だから貴様は何を言って……」

「ああー、もう面倒くさいっ」


 グチグチ言うばかりでまったく行動しようとしない黒装束を目にし、苛立ったように“ストレージ”から固定型拘束アーティファクト“ボーブ”を取り出したノブナガ。

 一瞬で黒装束を拘束すると、縄の端を持って屋根へと跳び上がった。

 縄を持たれている黒装束も、必然的に跳び上がり屋根に着地する。

 が、着地したと思えば、またノブナガが跳んで別の屋根に乗り移り、それを繰り返して騎士たちから高速で離れる。

 その間、黒装束はノブナガのペースについて行けなくなり、尻や腰、胸、それに顔面着地を決めてはそのまま引き摺られるという悲惨な出来事を起こしていたのだが……前しか向いていなかったノブナガはまったく気づいていなかった。


 黒装束の殺気が戻ったのは言うまでもない。

 背後から急に湧き上がった殺気にノブナガが首を傾げたのも言うまでもない。


 ようやく安心できる所までやって来たノブナガは、跳ぶのをやめ振り返る。


「?なんで、そんなにボロボロなんだ?」


 そんな純粋な問いに、さらに殺気を膨らます黒装束。

 訳がわからん、とでも言うかのように首を傾げるノブナガさん。

 自分のした事を一切わかっていないご様子だ。


「まぁいい。今日のところは帰れ。じゃあな」

「は?待て、どういう風の吹きまわしだ?」


 どうやら、本気で自分を突き出す気がないわかった黒装束は混乱した。

 許さないと言ったり、帰れと言ったり……一体何を言っているのかわからなかったらしい。


「アンタは俺が知らない情報を持っていた。まだ聴けてない以上、詰所の檻の中に入ってもらうと面倒。だから、逃す。以上だ」

「だから、聞いてもどうにもならん。貴様が組織の一員でーー」

「その組織に属してなければいいんだろ?騎士じゃなければいいんだろ?なら、問題ない」

「問題ない、だと?」

「俺は騎士じゃない。俺が属する組織はかつての帝国を取り戻すーー“奪還者”だ」

「“奪還者”……」


 パッパッと“ボーブ”を外して回収し、“ストレージ”の中に放り込む。

 そして、用は済んだと言わんばかりに踵を返した。


「そんじゃあな。捕まるんじゃねぇぞ」


 それだけ言い残したノブナガは、一瞬にしてその場を後にした。

 後に残されたのは、建物の屋根で棒立ちしている黒装束のみ。



 **********************



「はぁあ!?逃したの!?なんで!?」

「落ち着け、アリンカ。てか、朝から大声出すなよ。他の人にも迷惑だろ」

「あ、頭に響くッスぅ……」


 翌朝、宿の正面にある酒場で昨夜の事を話したノブナガはアリンカの声量に驚いて耳を塞いでいた。

 その場にいたザンとカレンも耳を塞いでいる。

 ただ、カレンはまるで二日酔いのような事を言っているので、きっと違う理由だろう。


 そんな周囲の人たちから訝しげな目を向けられる中、ただ1人冷静だったエリーナが声を抑えて言う。


「どうして、見逃したんですか?」

「俺たちには、まだ知らない事があるんです。これは、ただの無差別連続殺人じゃありません」

「じゃあ、何が違うの?」

「犯人は、無差別に人を殺していたんじゃない。明確な理由があって、その人を殺していた」

「でもッスよ?被害者の方には、共通点が無いんスよね?」


 確かに、あの裏路地の酒場で貰った資料を含め、被害者に共通点らしい共通点はなかった。

 だから、ノブナガも無差別に襲っていると判断した。


「だが、共通点があるのは間違いない。俺たちの知らない何かが」

「それを今から調べるわけね」

「あぁ。悪いがみんなにも手伝って欲しい。事が事だから、ヤバくなったら全力で撤退してくれ」


 コクリと頷くノブナガ。

 今日中にも情報を集め切りたいノブナガは、みんなにそれぞれ担当して貰いたいところを振り分ける。


 が、それはノブナガたちに近づいてくる気配によって阻まれた。


 近づいてくる気配に気づいたノブナガたちは、その気配の方へ視線を向けた。

 瞬間、ノブナガたちの警戒心がグンッと跳ね上がった。

 なぜならーー


「君たち。一昨日、東地区の喫茶店であった騒動について話を聞きいたい。詰所まで同行してくれないだろうか?」


 完全武装された6人の騎士だったからだ。

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