冒険に出る前に その4
今日の0時に前回投稿したので、気をつけてください。 作者より
(はぁ……次から次へと……マジでもう旅に出たい……)
内心、次から次へと現れる野盗に呆れているノブナガ。
エリーナは入ってきた男の顔を見て目を剥き、そして男はエリーナを見て目を細める。
その反応だけで、エリーナを刺したのがその男だという事がわかる。
「ありゃりゃ。この感じだと荷物を取り返しに来たってところか。ジジィも倒されちゃってまぁ」
「俺たちは盗られた荷物を取りに来ただけだ。それを取ったら、さっさと帰るよ」
「……お前、剣士?ふっ、おもしれぇじゃねぇの。返して欲しきゃ、オレっちを倒してみろよ!」
男は腰の剣の柄に手をかけて、一瞬で抜剣。
ものすごい速度で迫ってくる。
男の動き出しを目にした瞬間、ノブナガもエリーナを守るように前に出る。
男は確かに速いが、ステータス上昇のおかげで目にする事はできる。
男が斬りかかって来るのを剣で受け止め、鍔迫り合いに持っていく。
鍔迫り合いの押し合いになる。
最初はノブナガの方が押していた。
が、少しずつ男の力が増していき、ついには拮抗するようになった。
「ッ!?」
「おっ、さてはお前。“魔法剣士”と戦うのは初めてだろ?」
「だったらっ、なんだ!」
剣を強引に弾き、剣を薙ぎ払うノブナガ。
しかし、そんな雑な剣が元軍人に当たるわけはなく、バックステップで躱された。
「“魔法剣士”ってのはな、剣も使え、さらに魔法を使う事もできる天紋だ。魔法の規模は小さいものだが、近接戦闘をするのには丁度いいもんさ」
「……それをあっさり言っていいのかよ?」
「オレっちはスリルを求めてるんだよ。中級紋が低級紋に負ける事なんてほとんどねぇ。そんな小さいスリルじゃオレっちは満足しねぇのさ」
“魔法剣士”の野盗は自慢気に語る。
それほどまでに、天紋の格の差は絶対であると男は思っているのだ。
さらに男は“魔法剣士”の力を見せつける。
「我が剣に宿れ炎。その刃は焼き切る紅蓮の剣ーー“フレイム・ソード”!!」
詠唱を終え、魔法名を唱えた直後、男が持つ剣に炎が纏わり付く。
“魔法剣士”が使える、剣に属性を付与する魔法だ。
灼熱を纏った剣を振るって、ノブナガに襲いかかっる。
「ッ!?」
速度はそれほどではない為、ノブナガは剣で受け止めた。
が、次の瞬間に男の剣に纏われている炎から火花が散りノブナガに当たる。
それだけでHPが削られた。
“簒奪”してMNDが高まったおかげで、ダメージは1だったが、剣を受ける度にダメージを受けるのは鬱陶しい。
連続で振るわれてくる紅蓮の剣を躱して、躱し続けるノブナガ。
しかし、“魔法剣士”の方ばかりに気を取られたしまったノブナガは“錬成師”の存在を完全に忘れていた。
縦を振るわれた剣を右に逸れて躱したノブナガ。
直後、躱した方向に突然地面の壁が構築され、それにぶつかってしまう。
予想外の衝撃にノブナガの動きは一瞬止まってしまう。
そこに“魔法剣士”が今度は袈裟に振るってくる。
出だしが遅れ、回避しようとするが間に合わない。
スローになる世界の中で、ノブナガは左手を動かす。
後ろ腰に帯剣してある短剣を抜き放ち、[+即擲]を使用してのクイックドロー。
ノブナガが放った短剣は、“魔法剣士”の炎の剣にあたり軌道がズレる。
そこでできた隙間を使い、転がり込んで紅蓮の剣を回避する。
丁度“魔法剣士”の背後を取るように転がり込んだ、ノブナガ。
そんなノブナガに向かって、振り向きざまの一閃を放つ。
しかしーー
(悪いが、今はあんたの相手をしている暇わねぇ!)
派生スキル[+無拍移動]を発動する。
“魔法剣士”の一閃をすり抜け、“錬成師”の懐に入り込む。
「なっ!?」
突然、目の前にノブナガが現れて驚いた声を上げる“錬成師”。
その目が合った瞬間に、ノブナガは“錬成師”を“簒奪”した。
“錬成師”だった男に軽めのビンタをして気絶させるノブナガ。
いくら野盗だろうと、殺さないように配慮しての事だったのだが……
ビンタされるおっさんの絵は……なんとも哀れに見えた。
「戦に赴く戦士に天使の加護をーー“純回”!!」
そこでエリーナさんが詠唱していた回復魔法が発動した。
“純回”は回復量は少ないものの、一定時間ごとに自動で回復する中級回復魔法だ。
今のように微々たるダメージしか受けない時に持ってこいの魔法を、エリーナは戦況を見て選んだのだ。
エリーナに回復魔法を掛けてもらったおかげで、余裕を持つことができたノブナガ。
左手を動かして、また短剣を抜き放つ。
さっき咄嗟に投げたのは、“暗殺者”の野盗が使っていたものだ。
右手に剣、左手に短剣を構えるノブナガ。
剣の形は違うが、その姿はあの剣豪、武蔵を思わせる。
まぁ、それを知る者はこの世界にいないのだが。
今度はノブナガの方が先に駆け出す。
リーチの長い剣を振るわれ、“魔法剣士”は剣で受け止める。
“魔法剣士”の剣から火花が散り、ノブナガのHPが1減るがまったく気にした様子はない。
剣の次は、槍のように鋭い蹴りを放つ。
これはさすがに剣で受け止める事ができない野盗は、バックステップで躱す。
が、そこでノブナガが追撃。
“魔法剣士”の知覚能力を超える動きで、懐に入り込むノブナガ。
派生スキル[+無拍移動]である。
「ッ!?このっ!!」
一瞬で間合いに入られた事に驚愕しながらも、紅蓮の剣を振り下ろして迎撃しようとする。
しかし、その剣は左手の短剣によって防がれ、さらに弾き上げられる。
無防備になった胴体に剣の突きを放つ。
命まで取るつもりはなかったノブナガは脇腹を少し持っていくだけのつもりだった。
が、“魔法剣士”の脇腹は予想以上に硬く、脇腹を掠るに留まった。
予想外に直面しながらも、流れるように次の攻撃に移るノブナガ。
剣を引く勢いで身を捻り、右足の回し蹴りを“魔法剣士”の無防備な胴体にぶち込む。
「こはっ」
ノブナガの全力の蹴りをくらって、天幕の外まで吹き飛ぶ“魔法剣士”。
ノブナガとエリーナもそれを追うように天幕を出る。
外はもう夕方になっていて、もう少しすれば夜になってしまう。
「コホコホッ。“身体強化”してる身体にまともなダメージが通るとはな……“剣士”のくせにやるじゃねぇか」
どうやら、さっきの脇腹の異常な硬さは“身体強化”というスキルを使っていたからのようだ。
ちなみに、ノブナガは知らなかったようだが、近接戦闘の天紋を持つ者なら誰でもレベルアップで使えるようになるスキルだ。
「もう終わりにしないか?俺はあんたを殺す気はない」
「ふっ。さっきの一撃を見逃した時にそれはわかったよ。が、捕まっても殺されるのは同じなんだ。だったらっ、オレっちは最後まで楽しみを求め続ける!それで、こんな理不尽な世界とはおさらばだ!!」
“魔法剣士”が持つ紅蓮の剣の火力が上がる。
それだけでは物足りないのか、さらに“魔法剣士”は詠唱する。
「我が剣に纏われて雷。その刃は煌めく稲妻の剣ーー“サンダー・ソード”!!」
炎の上に雷が宿る。
それと同時に切り込んでくる、“魔法剣士”。
上段から振り下ろされた雷炎の剣を、ノブナガは剣と短剣をクロスさせて受け止める。
その際、火花と電気が散った事でノブナガのHPが3削られた。
お互いの力が拮抗し、受け止めた状態で固まる2人。
その拮抗する最中、“魔法剣士”は唱えた。
何を?
もちろん、詠唱をだ。
「我が剣に纏われて氷。その刃は凍てつかせる凍結の剣ーー“ブリザード・ソード”!!」
「ッ!?」
(属性の3重掛け!?)
さすがに驚愕を隠す事ができないノブナガ。
氷雷炎の剣がさらにノブナガを襲う。
堪らなくなったノブナガは力任せに剣を弾き、後ろに飛んで間合いを空ける。
しかし、野盗はそれを黙って見ていない。
「我が剣に纏われて風。その刃は荒れ吹く疾風の剣ーー“ハリケーン・ソード”!!」
「ッ!?」
「嘘!?剣に4つの属性を付与するなんて!?」
“魔法剣士”が行った、属性の4重掛け。
3重掛けですら驚いていたエリーナは、ついに声を出して驚いた。
属性の4重掛けなど、もう剣に収まる規模ではない。
その付与された力が周囲に漏れ、火花と電気、冷気に鎌鼬がノブナガとエリーナどころか、“魔法剣士”のHPすら削っている。
さすがの“聖女”も、こんな状況では詠唱もできないようだ。
“魔法剣士”はその収まっていない剣をなんとか振り上げ、ノブナガに向かって駆け出す。
(これは……さすがにマズい!!)
本能で危険を感じた、ノブナガ。
本人すらまともに扱えていないあの剣の直撃を受けるのは、絶対に避けなければならない。
ノブナガはもう刀身が見えていない剣を凝視する。
そして、氷風雷炎の剣が振り下ろされた瞬間に左手の短剣を投擲した。
どうにか刀身に当たる事に成功し、剣の軌道が逸れる。
振り上げるだけでも苦労しているのだ。
軌道修正なんて事はできないと踏んでの投擲であった。
そのノブナガの予想は的中し、4重掛けされた剣はノブナガの人1人分横の地面に当たった。
なんとか直撃をま逃れたが、属性の余波がないわけじゃない。
剣が地面に衝突した瞬間、途轍もない爆発が起こった。
起点はもちろん、氷風雷炎の剣だ。
その爆発を間近で受けたノブナガは、爆風にも巻き込まれて吹っ飛んでしまう。
剣を持っていた“魔法剣士”も爆発に巻き込まれ、吹き飛ぶ。
「きゃ!!」
唯一、爆発地点から離れていたエリーナは悲鳴をあげながらも爆風に吹き飛ばされないように姿勢を低くする。
爆風も止み、顔を上げて辺りを見回したエリーナ。
「ッ!!」
そこは戦場跡となんら変わらなかった。
周りに立ち並んでいた木々が薙ぎ倒され、野盗のアジトである天幕も飛んで中に置かれていた物も一緒に飛んで行ったようだ。
中にあった物も一緒に吹き飛んだという事は、エリーナの荷物も無事かどうかわからないのだが、今はそんな事を気にしている余裕はエリーナにはない。
「ノブナガさん……ノブナガさん!!」
ハッと我に返ったエリーナは、命の恩人の名前を叫ぶ。
しかし、反応してくれる声は返ってこない。
歩き回って探すが、薙ぎ倒された木々が邪魔で思うように進めない。
すると、
ガサッ、ガサガサ
「ッ!ノブナガさん!!」
エリーナは音がした方を振り返り、恩人の名前を呼ぶ。
しかしーー
「フハァ!はぁはぁはぁはぁ……さすがに死ぬかと思ったぜ……」
木々を押し退けて出てきたのは、“魔法剣士”の野盗だった。
青い鎧がボロボロで、もう鎧として原形を留めてはいなかったが、“魔法剣士”自身は健在だった。
木々の下から這い出ると、ポツンと突っ立っているエリーナが目に入った。
「おい、あの“剣士”はどうした?くたばったか?」
「……」
野盗の問いに、エリーナは俯く。
そのエリーナの反応で、“魔法剣士”は察した。
がーー
ガサッ、ガサガサ……ガタン!
「勝手に殺すんじゃねぇよ……はぁはぁはぁはぁ……」
「ノブナガさん!!ッ!!」
また木々の下敷きから這い出てきたのは、今度こそノブナガだった。
恩人の名前を叫ぶエリーナだったが、ノブナガの姿を見て目を剥く。
ノブナガの旅服は傷だらけで、右腕からは血が垂れており左太ももには木の枝が深々と突き刺さっている。
誰がどう見ても満身創痍だ。
だが、ノブナガは這い出てきた。
実は、さっきの爆発をモロに受けたノブナガのHPは1割しかない。
エリーナが掛けた“純回”もすでに効果が消えている。
「へっ、そんなんで戦えんのかよ?」
「戦えるさ。そう言う、お前こそ。MPすっからかんの状態で戦えんのかよ?」
「……ふっ。例えそうだとしても、オレっちに戦わない選択肢はないね」
「……なら、決まりだな」
「へへ、そうだな」
完全に蚊帳の外なエリーナ。
会話に入る隙間すらなかった。
だが、さっきの会話からノブナガが戦うという事はわかった。
「ま、待ってください!そんな怪我じゃ無茶です!!せめて、回復魔法をかけてからーー」
「すいません、エリーナさん。そんな暇はありません。MPがない今だからこそ、勝機はあるんです」
「で、ですが……!!」
「大丈夫です。本当にヤバかったら、サポートお願いします」
エリーナに頰を緩めて言うと、ノブナガは左足を引きずりながら“魔法剣士”に進む。
2人は数秒間睨み合い、場には静寂が流れる。
何秒経っただろうか。
この場にいる誰もが永久に感じられた時間。
ふと、夜の冷たい風が吹いた。
直後、“魔法剣士”がノブナガに向かって駆け出す。
それに反応して、ノブナガも行動を起こす。
左手が動いたかと思った瞬間、ノブナガはなにかを投擲した。
“魔法剣士”はそれに気づいて横に躱す。
その投擲された物を目にして、“魔法剣士”は驚愕する。
(木の枝!?まさか!?)
野盗の視線は自然とノブナガの左太ももへと向く。
そこにはさっきまで刺さっていた木の枝が消えている。
そう、ノブナガは投擲する物がないところを自分の太ももに突き刺さっている木の枝で代用したのだ。
もちろん、[+即擲]を使ったクイックドローだ。
そんな速度で枝を抜けば、傷を抉っているのと変わらない。
激痛は間逃れない。
ノブナガは左足の激痛にやられ、膝をついてしまう。
そこを好機と見た“魔法剣士”は剣を振り上げる。
トドメを刺すつもりで振り下ろすようだ。
剣の間合いに入り、強く踏み込む。
その一瞬前ーー
「“錬成”!!」
強く踏み込んだ“魔法剣士”の左足が地面を踏み抜き、バランスを崩してしまう。
地面を踏み抜き、ノブナガの発動させたスキルに目を剥く。
そこにノブナガが右足に力を入れて身体を前に出す。
振り下ろされた剣はすでに空を斬っている。
ノブナガはすれ違いざまに、空を斬った剣を持つ右手を銅抜きで斬った。
血と右腕がぶっ飛び、“魔法剣士”が激痛で悶える。
「ぐっあぁあ!!おっ、お前っ、なんで“錬成”をぉ!!」
「ちょっと訳ありな剣士なんだよ。投擲とか短剣使ってる時点で薄々気づいて欲しかったな」
野盗はずっとノブナガを“剣士”だと思っていた。
そこにノブナガの勝機はあったのだ。
投擲で牽制し、相手の勝利をチラつかせる事で強く踏み込ませる。
あとは地面に左手をさり気なく付き、さっき奪った“錬成師”の必須スキル“錬成”を使ったのだ。
もちろん、この“錬成”もちゃんと発動するか怪しいところではあった。
今まで剣も短剣も天紋の感覚に任せて振るってきたが、“錬成”は感覚に任せていいのだろうか?と。
だが、それが正解だった。
“錬成”は成功し、踏み込む地面を薄くして踏み抜けるようにした。
あとは一撃で無力化するだけ。
「はぁはぁはぁはぁ……」
限界がきたのか、剣を地面に刺して崩れ落ちる。
そこにエリーナが駆け寄ってくる。
「の、ノブナガさん!!」
「あ、エリーナさん」
「今、回復魔法を掛けます!」
「いえ、俺よりもあっちの野盗の方を先に」
「で、でも!」
「俺は大丈夫なんで、あっちの方がピンチですし……手を治さずに血だけ止めてくれればいいですから」
ノブナガの言葉に、エリーナは視線を“魔法剣士”の方に向ける。
無くなった右腕を抑えて、蹲っている野盗。
少し思考した後、エリーナは頷いた。
「わかりました」
「すいません、よろしくお願いします」
エリーナが“魔法剣士”の元に歩み寄って行く後ろ姿を眺めるノブナガ。
(さて、俺ももう限界だし……寝よう)
本当に限界だったようで、緊張感を抜いた瞬間にーーノブナガの意識は沈んだ。