表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
冒険休息編
41/123

エリーナの決意

 ノブナガたちが決闘をした日の夜。

 ノブナガは今日の決闘を思い出して、4人に必要そうな物を製作していく。


「ザンが剣を使えるなんてなぁ」


 ガサガサと作業しながら呟くノブナガ。

 どうやら、ノブナガの中では相当驚きが大きかったらしい。

 今はそんなザンの剣を製作している。

 製作と言っても、もともと出来ている剣の外見を変えたり、新機能を付けるだけなのだが。


 実はそのもともと出来ている剣というのは、この前にノブナガが軍隊を潰した隊長であった元“勇者”マサルが使っていた剣である。

 ノブナガが軍隊を潰した後、軍隊が野盗紛いな事を始めた時の事も考えてすべての武器を回収したのだ。

 断じて、マサルの剣を見て「カッコいいっ!あ、そうだ。武器も鉄も必要になってくるし、全部回収するか」とか思っていない。


「それにしても、傷口を開く能力とかエグいなぁ。“勇者”が持つ代物じゃないだろ」


 この剣はただの剣ではなく魔剣。

 一般的にダンジョンから発掘される剣の事で、大抵が強力な術式が込められている。

 その中でも、この魔剣は別格だろう。

 ノブナガの[+術式鑑定]で見れば、この剣で斬った傷口を開くという強力な術式が込められていたのだから間違いない。


 この術式を知った時、ちゃんと剣で受け止めておいてよかった、と胸を撫で下ろしたノブナガ。


 そんな魔剣をカチャカチャと改造する。

 取り付けた魔石に“身体強化”、“武器強化”を“生成”。

 さらに取り付けた魔石には“精神魔法”を付与する。

 これを“生成”しているノブナガさんの顔は、なんとも素敵な不敵な笑みを浮かべていた。

 間違いなく、凶悪な物が更なる凶悪に進化した瞬間である。


「ノブナガさーん……」

「ん?どうした、カレン?」


 その時、突然カレンがノブナガの下へやって来た。

 なぜか、腰に力が入っておらず、歩幅もトボトボとしていた。

 武器製作に夢中になっていたノブナガにとって、マジでどうした?と問わずにはいられなかった。


「お、お腹空いたッス……」

「?あぁ、もうそんな時間なのか。それじゃあ、エリーナさんに頼んでーー」

「そのエリーナさんが、居ないんス……」

「え?そうなのか?」


 ノブナガは“気配探知”を使う。

 確かに、家にエリーナ……だけじゃなく、ザンやアリンカも居ない。

 集中し過ぎていて、3人が出て行った事にまったく気がつかなかったノブナガ。


 “気配探知”の範囲を広め、エリーナたちの場所を探る。

 すると、村の外の山……前にベリンが住んでいた山にいる事がわかった。

 窓から覗いた外は、もう日が沈んで真っ暗だ。

 心配なので様子を見に行く事にした。


「カレンは……留守番だな」

「はいッス……」


 前屈み状態でお腹を抱えているカレンを微笑ましそうな目をしながら言うノブナガ。

 とりあえず、カレンを食卓まで運び、それからエリーナたちの下へ向かう。


 例のように砦を“錬成”して村を出、最短ルートで歩く。

 “気配探知”によると先程から移動していないようで、3人共同じ場所に留まっている。

 日が沈んだ山の中は危ない。

 ノブナガには“夜目”があるからまだしも、この暗さではほとんど何も見えないだろう。


 歩く速度を上げるノブナガ。

 本人は速歩きのように歩いているが、バグったステータスのおかげで側から見れば競歩のような速度になっていた。

 そんな競歩選手も真っ青な速度で歩く事、数分。


 エリーナたちがいる場所にたどり着いたノブナガは何をしているか気になり、“隠形”で隠れながら少し様子を見る事にした。

 木の陰からひょっこりと顔を出すノブナガ。

 “遠目”と“夜目”を使い、エリーナたちを見る。


 そこではーー


「ヤァッ!」

「もっと腰入れてっ!」

「ヤァァッ!!」

「もっと鋭くっ!!」


 ベリンが住んでいたログハウスの前でおそらくザンの“フラッシュ”の光を浮かべながら、エリーナが木棒を持って稽古をしていた。

 突きの素振りをしているエリーナの側にはアリンカが居て、鋭い声を飛ばしている。


 そんな光景にノブナガは「え……」と声を漏らて驚いた。

 予想していなかった光景に目を離せないノブナガ。

 ノブナガの頭に流れ続ける「なぜ?」という言葉の答えを探そうとするが、出てくる事はなかった。


「そんな所でどうしたの?ノブちゃん」

「っ!?ザン」


 エリーナを見る事に集中し過ぎていたせいか、ザンが近づいてきていた事に気がつかなかったようだ。

 いつの間にか使用していたはずの“隠形”も消えている。


「そんな所にいないで、こっち来ればいいのに」

「あー……いや。いい」


 どうやら、ザンだけがノブナガに気づいたようで、エリーナとアリンカは稽古し続けている。


 エリーナの顔は真剣そのものだ。

 こんな時間までしているという事は、眉唾に学んでいるのではないだろう。

 だからそこ、ノブナガにはわからなかったのだ。


「なぁ、ザン。どうして、エリーナさんは棒術を身に付けようとしてるんだ?」

「……わかんない?」

「……あぁ、わからない」


 そんなノブナガの返答にため息を吐くザン。

 ノブナガが隠れている木にもたれ掛かり、一拍おいてから口を開く。


「エリちゃんは悔しいんだよ。何もできない自分が」

「何もできない、って……そんな事は」

「ない。ないんだけど、やっぱり心苦しいんだよ。戦えない自分の代わりに誰かに頼るのは」


 そのザンの言葉に、ノブナガはある日の事を思い出した。

 ナルマ街でエリーナが1人でダンジョンに行った時の事を。


 あの時も、エリーナは悔しんでいた。

 戦えない自分に何もできない事を。


「それでも、やっぱり何もできないなんて事ない。少なくとも俺には、エリーナさんにたくさん救われたし……」

「……それ、エリちゃんに言ってあげた事ある?」

「っ!?それは……」


 そんなノブナガの反応にまたため息を漏らすザン。


「今、エリちゃんが悩んでるのは、そういうノブちゃんが原因なんだよ?」

「お、俺が?」


 一瞬、言葉が詰まったノブナガ。

 ザンの言葉に動揺を隠せないようだ。


「いい?気持ちは思ってるだけじゃ伝わらないんだよ?その人の事を想って、口にして初めて伝わるの。言葉にしてくれなくちゃ、わからない事だっていっぱいあるんだから」

「……」

「まぁ、そんなのノブちゃんはわかってたと思うけどね。忘れちゃってるみたいだけど、ノブちゃんにならできるよ」

「…………そうだな。ありがとう、ザン」


 ザンの言葉を胸に留めたノブナガ。

 ザンが言うように、ノブナガーー信長にはわかっていたんだ。

 言葉にする事の大切さを。

 しかし、それと同時に伝える事の恥ずかしさも知っていた。

 大切さを思い出せないノブナガはその恥ずかしさから口にできなかった。

 それが、エリーナを悩ませた。


 しかし、2度目はない。

 そう、ノブナガは心の中で誓いを立てる。


 木の陰に隠れていたノブナガは家の方へと歩き出す。


「あれ?帰っちゃうの?」

「あぁ、今日は帰るよ。あ、そう言えば忘れてた。悪いけど、至急帰ってきてくれ。カレンが今にも死にそうに腹空かせてるから」

「あー、そういえばカレンの事、忘れてた……すぐに切り上げるよ」

「じゃ、俺は先に帰るわ」


 エリーナたちに気づかれる前に足早にその場を後にしたノブナガ。

 アリンカに気づかれないように“隠形”を使う事も忘れない。


 来た時同様、競歩選手も真っ青な速度で家に帰ったノブナガはカレンがいる食卓に顔を出さず、アトリエと化している自室に一直線に戻った。

 椅子に着き、作業をしていたザンの剣を傍に置いた。

 机の引き出しから紙とペンを取り出して机の上に広げたノブナガは一呼吸する。


 直後、凄い勢いで紙の上でペンを走らせるのであった。



 **********************



 ノブナガとエリーナたちが決闘してから1週間が経った。

 当初では決闘をした数日後に出発する予定だったのだが、旅の準備を終えたはずのノブナガが決闘の日以来、部屋に引きこもってしまったのだ。

 さすがにノブナガを置いて旅などできないし、ザンの「今は待ってあげて」という言葉もあり、ノブナガが部屋から出てくるのを待つ日が続いていた。

 1週間目を迎える今朝も、ノブナガが出てくる様子はない。


 今日も出てこないか、と思われた夜。

 今日も今日とてエリーナはザンとアリンカに近接武器の扱い方の云々を教えてもらう為に山へとやって来た。

 木棒を両手で握り、短い声と共に突きを放つ。

 引き戻し、放つ。

 これを反復して、素振りをしている。


 ザンとアリンカは2人で木剣を持って模擬戦をしていた。

 2人共、剣の技が光っていて一歩も引かない戦いを繰り広げている。

 それを横目で見るエリーナ。


(アリンカ、それにザンさんもすごい……私もあれだけできれば、ノブナガさんの足を引っ張らなくて済むのに……)


 いつの間にか、素振りしていた手が止まり、俯いてしまうエリーナ。

 エリーナが棒術を身に付けようとしたのは、ノブナガに頼り切らないようにする為、である。


 ノブナガは頼ってくれる事が嬉しいと言ってくれた。

 しかし、それでもエリーナの中に頼る申し訳なさがなくなる事はない。

 自分から始めた事なのに、肝心な時に頼る事しかできないのが、どうしても申し訳なくて悔しいのだ。


(せめて、自分の身は自分で守れるぐらいにはーー)


「ちょっといいですか?エリーナさん」

「あ、はい。…………え?ノ、ノブナガさん!?」


 声を掛けられたので、素で反応したエリーナ。

 しかし、声を掛けて来た人の顔を見て、驚きの声を上げる。


 そう、何を隠そう。

 この1週間、社会不適合者のように部屋にこもっていたノブナガさんである。

 目の下にはパンダのような濃いくまがあるが、ノブナガさんである。


「い、今までどうしてこもっていたんですか!?」

「すいません。新しい武器を1から作ってまして……他にも色々と作っていたら、今日まで掛かってしまって」

「急に部屋から出てこなくなって心配したんですから!今度からはちゃんと一言言ってから引きこもってください」


(引きこもる事自体は注意しないのか……)


 エリーナの注意する所のズレに苦笑いを浮かべるノブナガ。


「わかりました。次があるかはわかりませんが、そうします。それより、ちょっとお話し、いいですか?」

「お話し、ですか?」

「はい」


 ノブナガの改まった言葉にエリーナは首を傾げながらも頷く。

 少し緊張しているのか、ノブナガらしくない戸惑いを感じるエリーナ。

 間を置き、ノブナガがようやく話を切り出した。


「あの、どうしてエリーナさんは棒術を身に付けようと?」

「あ…………足を引っ張らないように、です。私は、戦えない私が悔しいんです」


 木棒を握る両手に力が入る。

 何もできない自分の無力さに心が締め付けられているようだ。


「もちろん、頼る事が嫌になったわけじゃないです。ですけど、私が戦うと決めた事なのに戦わないなんて……嫌なんです。肝心な時に何もできない事が嫌なんです」


 戦う力がない、仲間を見守る事しかできない辛さ。

 それを、この前のノブナガと軍隊の時に痛く感じたエリーナ。

 自分が戦えれば、ノブナガを危険な目に遭わせずに済むのに。

 自分が戦えれば、ノブナガを支えられるのに。

 それができない事が悔しく、心苦しい。

 エリーナはそう思っている。


 でも、ノブナガはそうは思わない。


「エリーナさんは俺の支えですよ。俺にとって、戦って生きたいと思えさせてくれた、大切な恩人です」

「ぇ……」


 ノブナガの言葉に、エリーナは微かに声を漏らす。

 その頰が少し赤らんでいたが、今のノブナガは言葉を伝えようとするのに必死で見えていない。


「エリーナさんと出会わなかったら、大切を作らずに奪うだけの人間になっていたと思います。エリーナさんに出会って、大切ができて、支えられて、救ってもらえて、今の俺はすごく幸せです」

「え、ぇ……と…………その……ありがとうございますぅ…………」


 ノブナガのドストレートな言葉に口をあわあわとさせながらも、小声でお礼と言う。

 すでに顔が真っ赤になっている。


「俺はエリーナさんが足を引っ張っているとか、何もできないとか、思いません。すごく感謝しています。ですから、俺はエリーナさんに戦いの前に出て欲しくないんです」

「それは…………」


 言葉が詰まるエリーナ。

 ノブナガの願いは嬉しいが、それでも申し訳ない気持ちは拭えないのだろう。

 が、ノブナガだってそれはわかっている。

 そんなエリーナの反応を予想していたノブナガは、この1週間引きこもっていたのだ。


「そうだろうと思って、エリーナさんでも戦える物を作りました」

「え?」


 そう言うノブナガは“ストレージ”からある物を取り出した。

 それは魔法杖で、杖の先には器のようになっていて、その中にバスケットボールぐらいの紫球が収まっている。

 器の外側には赤色、青色、茶色、緑色、黄色、水色、白色、黒色の8つの真珠のような物が均等に間をおいて付いている。

 そんな見た目からしてヤバそうな魔法杖をエリーナに渡す。


「こ、これは?」

「エリーナさん専用の全系統型魔法杖アーティファクト“ロードオベーロン”です。8つの球にはそれぞれの属性の初級魔法と防御魔法を“生成”してありますから、中央にある魔力結晶から魔力を取り出して使う事ができます」

「ちょっと待ちましょう、ノブナガさん」


 手に持っている物の説明を聞き、脳が処理できなかった様子のエリーナさん。

 エリーナの魔法杖を持つ手がブルッと震えたような気がしたが、きっと気のせいだろう。


 とりあえず、1から説明しましょう。

 ノブナガが作ったのは、誰でも全属性の魔法が使えちゃう魔法の杖、である。

 “ロードオベーロン”の発想自体は作業を開始した時からあった。

 しかし、エリーナが使うとなるとMPの消費が激しくなり、その問題を解決しなければならなかった。


 そこで開発したのが、“魔力結晶”だ。

 魔石とは違い、純粋な魔力を冷却して作り出した物で、エネルギー魔力変換アーティファクトを使って生成したのだ。

 魔力耐性がある魔石とは別で、魔力を内包する事ができるのが魔力結晶だ。

 内包されている魔力を使う事も可能だが、魔力をチャージして再利用する事も可能である。

 “ロードオベーロン”の場合、魔力結晶の魔力がなくなれば、その魔力結晶を外して新たな魔力結晶を付ける事で使用が可能だ。


「もちろん、魔法杖としても使えます。これを使えば、エリーナさんも戦う事ができます」

「ま、またすごい発明をしましたね……」


 術者のMPを消費せずに魔法が使えるなど、誰もが頭を抱える問題だろうに……

 若干引いた声を漏らすエリーナ。

 魔力結晶さえ変えれば、魔力結晶が無くなるまで魔法を撃てるなど、敵から涙目で「もうイジメないで……」と訴えてくる事間違いなしだ。


「でも……ありがとうございます。私の事も考えて、こんな物まで作ってくださって……すごく嬉しいです」

「そうですか。よかったです」


 “ロードオベーロン”を手に笑顔でお礼を言うエリーナ。

 悩みを解消できる武器を手にした事が嬉しかったのか、エリーナの笑顔がいつもよりも眩しく、可愛く思えるほどだった。

 そんな笑顔を前に内心ドキッとしながらも、ノブナガも笑顔を返す。


 そんな2人で笑い合っている所を、ザンとアリンカが遠巻きに眺めていた。


「いやぁ、さすがノブナちゃん。ちゃんと言葉にできるんだから」


 ザンが頰を釣り上げてニマニマしながら呟く。

 その横で同じくノブナガたちを眺めているアリンカは何とも言えない顔になったている。

 エリーナの悩みが解消された事は素直に嬉しいのだが、なぜか胸が締め付けられるように痛い。


「大丈夫だよ、アリちゃん」

「っ!?な、何が?」

「あれでもまだ恋人同士じゃないし、アリちゃんもアタックしてもいいんだよ?」

「アッ、アタックって……何の事よ……?」


 ギョッとした内心を隠し、アリンカは口をもごもしながら返す。

 動揺しているのが丸見えで、まったく隠しきれていないが……


「もー、素直じゃない子は振り向いてくれないよー」

「なっ、何言ってるのよ!?」


 そんなアリンカの言葉が、夜の山に木霊のように響き渡った。


果たして、この“剣聖”娘が素直になる日は来るのか……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ