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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
ナルマ街編
3/123

冒険に出る前に その2

「今日ぶりだな。ノブナガ君」


 宿の店員さんに騒動を伝えてから数十分後。

 騎士の人が来たかと思うと、2人ともノブナガが奴隷だった時にステータス検査しに来た人と同じだった。

 もちろん、その1人はノッタ。

 あの親心全開にしていたノッタさんだ。


「すいません。解放されて早々にお世話になるなんて」

「いや。別に君を責めているわけじゃないよ。今回の事は、俺の配慮不足だったと反省している。すまない」

「?どういうことですか?」


 ノッタの言っている事がわからず、ノブナガは首を傾げた。


 ノブナガはあれから、亡くなった者から天紋を“簒奪”する事ができるか実験してみた。

 1分間、あの屈強な男に触れ続け、強引に目を開けて目を合わせた。

 しかし、天紋は奪う事ができなかった。

 おそらく、運命が終わった者からは天紋を奪えないのだろうと、ノブナガは結論付けた。


 だから、ノブナガの天紋は剣士と暗殺者、それに投術師の3つだ。


「君、どこかで金貨を使ったか?」

「はい。旅道具を買う為に」

「すまない。完全に俺の配慮不足だった」


 申し訳なさそうに言うノッタ。


「あの、薄々感じてはいたんですけど……金貨って結構な金額なんですか?」

「そうだ。金貨は国を動かす時に使われる通貨だ。1枚で一生を終えられるだろう」

「そうなんですか」


(じゃあ、その金貨を100枚出してきたあの家はなんなんだよ!?)


 ノッタの話に感心しながらも、内心で叫声するノブナガ。


 実はこの金貨100枚は謝罪金と手切金も含まれていたりする。

 紋有りを奴隷にしていたという事がバレれば、家ごと避難を受ける恐れがあった。

 それを見越して、ランファン家の当主が金貨100枚で手を打ったのだ。

 出所は、先代たちが貯めに貯めていた地下金庫からだったりする……


 まぁ、そんな事はノブナガに知ったこっちゃないので、ノッタは話さなかったのだ。


「おそらく、その金貨を見た盗賊たちは金目の物を持っていると思って君を襲ったのだろう。後はこちらで処理するから、君は気にせずに旅に出るといい」

「ありがとうございます。何からなにまで頼りっぱなしで」

「いいってもんよ。それじゃあ、良い旅を」


 ノッタはそう言って部屋を後にして行った。

 盗賊たちや死体はもうノッタたちがすでに運んでくれた。


「はぁ……」


 肩の力を抜くようにため息をするノブナガ。

 気を引き締めていたせいで、ちょっと息苦しかったのだ。

 ベットに倒れ込む。


 宿の方の配慮で、部屋は変えてもらった。

 血も散っていたし、床に穴も出来てしまった。

 帰りに賠償金払っていこう。


「ノッタさんには悪いが、旅は先送りだな」


 ノッタはああ言っていたが、ノブナガは今すぐに旅に出る気になれなかった。

 理由は簡単だ。

 レベルが低い。


(レベル1で旅なんてしたら、野盗に襲われてジ・エンドだ。レベルがいる)


 いくらステータスが高まったと言っても、レベルと相手の数次第では殺られるのはノブナガの方だ。

 せめて、野盗ぐらいは追い払えるようになっておきたい。


「そういえば、ステータスプレート……」


 ノブナガはステータスプレートを取り出し、バグったぽいステータスを見る。


「HPが急に300って、魔法も使えないのにMPが100……いや、待てよ」


 何か閃いたように勢いよく上体を起こすノブナガ。


(剣士も暗殺者も投術師も、すべて低級紋の近接戦闘の天紋……てことはレベル1のHPは100)


「天紋のステータスが合体してる?」


 ボソリと呟いた、ノブナガ。

 無意識に呟いた言葉であったが、その言葉が頭の中で何度も反復される。


「は、ははは」


 無意識に笑い声が漏れた。

 ノブナガは思ったのだ。


(なんてチートなスキルなんだ)


 自分の持つスキルが、恐ろしい可能性を秘めていた事に気づく。

 1分間の接触?目を合わせなくてはならない?

 この能力ならお釣りが返ってくる条件だ。


「ま、奪う相手がいればの話なんだがな」


 そう、ノブナガにはその条件も付いてくる。

 使用条件云々の前に使用する相手がいるかの問題もあるのだ。

 盗賊たちは身の危険もあったし犯罪者だったから、ノブナガは天紋を“簒奪”した。

 だが、力の為に見境なく天紋を奪うのは気が引ける。


「ま、まずはレベルアップを優先だな」


 明日からの予定を立て、就寝するノブナガ。

 起きたのが随分と日が昇った時だったのは……まぁ、仕方ないとしよう。



 **********************



 朝?起きたノブナガは、遅めの朝食を食べ街道に出る。

 宿の店員さんに聞いて、品揃えのいい武器屋に向かう。

 レベルを上げる為には、まず武器が必要だ。

 せっかく剣士の天紋を持っているのだから、剣を買いたいと思ったのだ。


 人通りの多い道をなんとか通って行き、店員さんが言っていた武器屋に到着した。


(最初って事もあるし、丈夫な剣を買うか)


 店内を眺めるノブナガ。

 剣は飾られている物から箱に雑に入れられている物もある。

 とりあえず、箱から剣を抜いて持って見る。


(重さは……そんなに感じない。ステータスのおかげ?)


 剣なんて持った事がないノブナガは何がいいのかわからなかった。

 仕方なく、値段で良し悪しを判断すべく値段を見る。


(銀貨1枚って事は大金か。つまり、良い剣なのか?)


 やはり、相場がわからないノブナガ。

 隣の剣の値段も見てみたが、同じ銀貨1枚だったのでもっとわからない。

 仕方なく、ノブナガは店員に聞く事にした。


「すいません。剣士で剣を買いに来たんですけど、初心者向けの剣でオススメとかありますか?」

「剣ですかい?そうですねぇ……初心者にピッタリっつたら、これなんてどうっすか?」


 店員は飾られている剣を1本取って、ノブナガに差し出して来た。

 その剣を受け取る、ノブナガ。


(重くはない。けど、さっきのと比べると重量感がある)


 思わず、柄を掴んで鞘から抜いてみた。


(手に馴染むし、長さも丁度いい。良いな、この剣)


「これください」


 即決で購入を決めた。

 この剣を気に入ったようだ。


「ありがとうございやす。初心者って言うなら、銀貨2枚と大銅貨5枚でいかがです?」

「え?いいんですか?」


 ノブナガがチラッとこの剣の値段を見た時は、銀貨5枚だった。

 それを銀貨2枚と大銅貨5枚だと、半額の値段だ。

 相場なんかがわからないノブナガでも、この値段は赤字である事はわかった。


「いいってもんですよ。若いもんには生きてもらいんで」

「……ありがとうございます」


 結局、剣を半額で手に入れた。

 あと、剣の他に店内にあった短剣を購入する。

 合計で銀貨3枚、大銅貨4枚、銅貨5枚になった。


「ありがとうございました。また来ます」

「毎度あり!」


 最後にお礼を言って店を後にするノブナガ。

 良い買い物ができたのか、顔が少し緩んでいる。


(武器も買った。早速昨日買った旅服を着て、レベル上げに行こう)



 **********************



 と、いうわけでやって参りました。

 ノブナガがやって来たのは街の北にある深い林。

 ここは街の人でも知っている、魔物が生息する場所だ。

 魔物の生息数はそれほど多くない為、街に攻めてくる心配はない。


 が、街の人は寄り付く事はない。

 魔物が生息する場所であると同時に、野盗が住み着いている危険な場所でもあるのだ。


 そんな場所にノブナガはやって来た。

 街の人に聞いた話によると、ここの魔物は弱いらしくレベル1のノブナガには最適な場所だ。

 ノブナガの装備は旅服に背中に剣、後ろ腰に短剣を帯剣している。

 旅服は丈夫な素材でできていて、上着のような物がコートのようになっている為、防具として成り立っていた。


 いざ、林の中を探索して魔物を探す。

 10分ほど探索すると、魔物と遭遇した。

 狼のような四足歩行の魔物だった。


(魔物発見。さて、どこまでできるやら)


 魔物の方もノブナガに気づき、喉を鳴らして威嚇してくる。

 ノブナガはその威嚇を一身に受けながら、背の剣を抜剣して構える。

 剣を構えるのは初めてだが、ノブナガには何となく感覚がそうしろと言っているのだ。

 おそらく、“剣士”の天紋のおかげだろう。


 狼が地を強く蹴って襲いかかってくる。


(速い!でもーー)


 狼の動きを速い、と思ったノブナガ。

 だが、不思議と速いと感じる事はなく、しっかりと目で追う事ができている。

 ノブナガも前に駆け出す。


 ノブナガはすれ違いざまに狼を袈裟斬りする。

 次の攻撃に備えようと振り返ってみれば、狼はあっさりと真っ二つになって消滅した。

 消滅した後、深い紫色の小さな石だけが残された。


「もう倒したのか。やっぱり、天紋3つはチートだったな」


 剣を収めながら、残った石を拾い上げる。


(これが魔石、か。弱い奴ほど小さいって聞いたけど、結構小さいし弱かったんだな)


 ノブナガは心を切り替え、魔石をベルトに付けてある皮袋の中へ入れる。

 また魔物を探し歩き出す。


 さっきの戦いではレベルアップしなかったのだから、たくさん倒さなくてはレベルが上がらないのだろう。

 早くしないと夜になってしまう。

 夜の林は危ないから、それまでに街に戻らなくてはならない。


(それにスキルも使いなれなくちゃな)


 そんな事を考えていると、魔物に遭遇した。

 今度は、緑の肌をした人型の魔物。

 人のふた回りも小さく、棍棒を持った魔物が2体。


(あれはゴブリンだな。うん。聞いた特徴通りだ)


「キィィィイイイイ!!」

「キヤァァァアアアア!!」


 襲いかかってくる、ゴブリンたち。

 棍棒を掲げながら迫ってくるので隙だらけである。


(ゴブリンは多少知能があるって聞いたんだけど……あれはバカなゴブリンなのか?)


 とりあえず、黙って殺られる気もないノブナガは右手で剣を抜き放つ。

 そして、空いている左手で短剣を抜剣。

 襲いかかってくるゴブリンの1体に向かって短剣を投擲する。

 昨日の屈強な男同様、投げた短剣はゴブリンの頭に突き刺さり、襲ってくる勢いのまま倒れ込む。

 短剣と魔石を残して消滅した。


 残った1体のゴブリンは棍棒を掲げた状態から振り下ろす。

 それをノブナガは右上に跳んで回避。

 跳んだ先にあった木を蹴って、ゴブリンの背後に着地。

 着地した低い体勢のまま、剣を薙ぐ。

 その一閃で、ゴブリンの頭と胴体が永久のお別れとなった。


「はぁ……返り血付いちゃったな。まぁ、初の戦いにしては上々、かな」


 ノブナガはゴブリンの返り血を気にしながら、自分の戦闘を振り返っていた。

 転がっている短剣と魔石を回収する。

 その時、服からシューという音がしている事に気がついた。

 パッと見てみると、さっき付いたゴブリンの返り血が煙のようなもの出しながら消えていっていた。


(魔物の血は時間が経つと消えるのか。便利にできたんだなぁ)


 内心で少し感心するノブナガ。

 その感心を胸にしながら、懐からステータスプレートを取り出しステータスを確認する。


 ======================

 ノブナガ 12歳

 天紋:剣士・暗殺者・投術師 レベル:2

 HP:390/390

 MP:170/170

 PHY:560

 STR:330

 VIT:310

 INT:280

 MND:270

 AGL:400

 スキル:簒奪・投擲術・剣術・歩法術[+立体移動]

 ======================


「レベル2。レベルが1上がっただけでも、結構ステータス上がったな」


 天紋が3つあるのが理由だろう。

 レベルが上がる毎に3つ分の上昇率があるのだから、上級紋並の上昇があるのは当たり前である。


「しゃあ!バンバン狩ってやるぜ!!」


 レベルが上がった事でテンションも上がったのか、やる気満々なノブナガ。

 移動しては魔物と遭遇し倒す。

 調子にのって攻撃を受けたり、短剣を使って戦ったりを繰り返す。

 時たま魔石を回収し忘れたりしたが、魔物を倒していく度に強くなっているのが実感できてノブナガのやる気に拍車をかける。


 ======================

 ノブナガ 12歳

 天紋:剣士・暗殺者・投術師 レベル:5

 HP:650/660

 MP:380/380

 PHY:830

 STR:570

 VIT:520

 INT:490

 MND:480

 AGL:670

 スキル:簒奪・投擲術[+即擲]・剣術・歩法術[+立体移動][+無拍移動]・短剣術・気配探知

 ======================


 昼食も忘れて、レベル上げをした結果がこちら。

 まだ、主人公のステータスしか見た事がないのでわからないかもしれませんがチートです。

 低級紋3つのステータスが揃えば、化け物が生まれるという事が証明された。


「レベル5までいった。今日はこれぐらいにするか。ん?」


 満足したノブナガは街に戻ろうと歩み出すが、不意に足を止めてしまう。

 視線は遠くを見つめている。


(探知に引っかかった。人?複数だから野盗だろうか?この動きは……誰かを襲ってる?)


 どうやら、ノブナガが新たに習得したスキル“気配探知”に引っかかったようだ。

 気配からして魔物の類ではない。おそらく、人。

 だが、ここは街の人が寄り付かない場所。

 大人数である事から野盗である可能性は十分ある。


 そう考えれば、これはマズイかもしれない。

 野盗たちは1人の気配を取り囲んでいる。

 あたかも、逃さないように包囲しているかのよう。


「……行くか。天紋3つでレベル5がどれぐらいなのか試してみたいし。もし、ダメなら隙を作って一緒に逃げればいい」


 気配のする方へ駆け出すノブナガ。

 自分の速さに、少し驚いている。

 これなら、1分ぐらいで目的地に到着するだろう。


 そう思った瞬間、気配の方に動きがあった。


(やっぱり、野盗か!人を襲い始めてやがった!!間に合え!!)


 ノブナガはギアを上げる。

 全力だと思っていたのに、まだ速さが上がった事に驚きつつ気配のする方を見つめる。

 もう見えてもおかしくない位置だ。


(っ!いた!!)


 襲われ始めてから数秒。

 現場が見えてきたノブナガは現状を確認する。


 杖を持った白い服の人が、6人の野盗に囲まれて襲われていた。

 襲われ始めて数秒で、攻撃を受けたのか白い服に血が滲んでいる。

 そんな白い服の人に向かって、槍を持った野盗が襲いかかろうとする。


 それにノブナガの左手が反応する。

 瞬時に左手が動き、短剣を抜き放つと同時に投擲。

 投擲スキルにある派生スキル[+即擲]である。

 コンマ1秒で放たれるクイックドローだ。


 ノブナガが投げた短剣は、見事に襲いかかろうとしていた“槍術士”の野盗の腕にヒット。

 激痛でつい槍を手放してしまう。


 短剣を投げ終わったノブナガは跳躍し、木を蹴ってさらに高く舞い上がる。

 上空から野盗たちに接近し、“槍術士”の頭に蹴りをぶち込む。

 勢いのあった蹴りだ。

 蹴りを受けると同時に吹っ飛んで昏倒した。


 そんな野盗を余所に、ノブナガは華麗に着地していた。

 そして、白い服の人を囲んでいる野盗に向かって言う。


「次にああなりたい奴は誰だ?」

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