セインズ村の未来 その4
「俺たちはーー“奪還者”だ」
こう名乗る数十分に遡る。
ベリンが住む山のログハウス前にて、ノブナガはエリーナたちに自分の望みを吐露した。
それからノブナガたちは行動を開始した。
ノブナガは自前の敏捷力を生かし、先に山を駆け下りた。
エリーナはザンに運んでもらい山を下りた。
ノブナガは西から、エリーナたちは東から魔物を一掃していく。
と言っても、ノブナガはチートなステータスをフルに使い、すべての魔物を走りながら一撃で仕留めたので、3人が合流したのは東部分だったりする。
すべての魔物を一掃するのにかかった時間は約20分。
たったそれだけの時間で、村周囲にいる魔物を全滅させたのだ。
これは、もう国と渡り合える殲滅力を持っている。
本人たちはその異常性に一切気付いていないようだが……
魔物たちを一掃し、互いの無事を確認している時に村の方から巨大な爆発が起こった。
“魔力探知”で確認してみれば、強力な魔法行使があった事がわかった。
同時に、そんな魔法を行使したのが“賢者”であるベリンである事も。
今度は3人共、スピードを合わせて村に戻る。
なぜなら、ノブナガが黒い翼の少女に勝つには聖剣の力が必須だからだ。
ノブナガとザンだけが急いで戻れば、戦えないエリーナを1人にする事になってしまうので、3人一緒に戻る事にしたのだ。
ノブナガたちが村に着くまでに、魔法が強力なもので3回、弱いものでも1回行使された。
村に着くとノブナガたちの目に漆黒の翼の少女が映る。
その少女が魔法を放つ所が見てる。
慌てて“遠目”を発動させるノブナガ。
魔法はベリンが身を持って防いでいた。
だが、ベリンの姿はどこからどう見ても満身創痍。
戦いなんてできる様には見えない。
一気に速度を上げるノブナガ。
エリーナはザンに運んで貰う形で移動速度を上げる。
次の瞬間には、黒い翼の少女が巨大な黒球を出現させた。
その巨球を目に、驚くノブナガたち。
(あ、あの魔力は!?最上級魔法!!精霊がそんな魔法を使えるのか!?……って、今はそれどころじゃない!!)
ザンの言うには、精霊はステータスが絶句するほど低い。
特に魔力はレベル1で1しかない。
上昇率も少ない。
それはザンのステータスが証明している。
しかし、黒翼の少女は最上級魔法を使った。
歴史の中でも数人しか使えなかった最上級魔法を。
だが、ノブナガにそれを考えている余裕はない。
現在進行形で満身創痍のベリンがその最上級魔法の前に立っているのだ。
考えるより先に身体が動く。
ノブナガは背中に帯剣している剣を抜いた。
「我が剣に宿れ光。その刃は一瞬に輝く月光の剣ーー」
「光・阻む・防壁ーー」
走りながら詠唱を開始するノブナガとザン。
それと同時に通力を足に集中させ、一気に解き放つ。
次の瞬間、ノブナガたちは音速を超え、一瞬にしてベリンたちの前にやって来る。
速過ぎて、目の前にいるベリンたちすらわからなかったほどだ。
ベリンたちの前までやって来たノブナガは跳躍する。
闇の最上級魔法“デス・ダークネス”に跳び立ったノブナガは詠唱を完了していた魔法を発動する。
「ーー“ライト・ソード”」
右手に持つ剣に優しい光が纏われる。
そして、目の前に広がる巨球に向かってその剣を突き立てた。
すると、“デス・ダークネス”は風船のように爆発する。
「くっ」
苦悶の声を漏らすノブナガ。
別に痛くはなかったが、なんか漏れてしまったのだ。
もちろん、その漏れた声は爆発音ですべて掻き消されてしまったが。
爆発に巻き込まれ、地面に吹き落されるノブナガ。
「ーー“ライト・シールド”!2門!!」
爆風を防ぐ為、ザンが[+並列発動]を使って2つの光盾を出現させる。
しっかりとノブナガも爆風を防がれるように展開される。
砂煙が晴れる前にザンに叩き起こされたノブナガはベリンたちの前まで移動させられた。
「決めポーズをとって」
「はい?」
「いいからいいから」
ザンによくわからない事を言われたノブナガとエリーナはポカンとした顔になるが、ザンに急かされてアタフタとしながらポーズっぽいものをとる。
2人共、ただ手にする武器を構えただけだが、それが様になっていて決めポーズとして成り立っていた。
もういいかと思ったノブナガが、ベリンの方を振り向く。
「病気持ちのお爺ちゃんがカッコつけ過ぎですよ、ベリンさん」
「お前……」
親しげに微笑むノブナガ。
しかし、その内心は振り向いた時にチラッと見えたザンのポーズにツッコミたい気持ちでいっぱいだった。
(それジ○ジョじゃん!?)
日本人だったノブナガが知っているポーズだった。
確かにこの場面ではいい迫力になるだろうが、元ネタを知っているノブナガにとっては、ものすごくイタく感じた……
一体どこからそんなネタを……
(あっ。俺からか……)
精霊の決めポーズが自分の記憶のせいだとわかると、内心肩を落とすノブナガさん。
そんな内心を余所に、状況は進んでいく。
「へぇ……最上級魔法を防ぐなんて。あなたたち何者?」
「俺たちが何者かって?なら、こう名乗ってやるよ」
ノブナガは黒翼の少女に剣先を向けて名乗る。
その後ろでエリーナとザンがコソコソしていようと名乗った!
「俺たちはーー“奪還者”だ」
この時のノブナガは知らない。
ノブナガの後ろでエリーナがアタフタとポーズをとり、ザンがノリノリで香ばしいポーズをしていた事を……
これには、知らない事が幸せな事だってある、としか言えなかった。
「“奪還者”?聞いた事ないわね。というか、そこの桃髪の子って精霊よね?」
「そだよー。わたしはザンガルド。あなたも精霊なんでしょ?」
「えぇ。ネルラよ。よろしくね」
軽い精霊同士の対面に、戦場の雰囲気はない。
敵同士にある敵意や殺意も、そこにはなかった。
「聞きたいんだけどさぁ。精霊の君がどうして最上級魔法なんて使えるの?」
「あら?やっぱり、あなたはわたしを知らないのね。精霊界じゃ有名なんだけど……」
「あー、わたし多分何千年ぐらい精霊界に帰ってないからわっかんないや」
「何千……あぁ、それなら知らなくても無理はないわね。あなたはあの戦いも知らないんでしょうから」
「あの戦い?」
不穏な単語にザンは敏感に反応する。
しかし、それについて答える気はサラサラないようだ。
「それはわたし……いえ、その前に彼と戦ってわたしたちに勝ったら教えてあげるわ。まぁ、負けてわたしたちについて来ても、いやいや聞く事になるかもしれないけど」
ネルラはアルバーの後ろに着地する。
“デス・ダークネス”を破った事で、ノブナガたちを警戒しているのだ。
「へぇ、勝つだけでいいんだ。なら楽勝だね。ね、ノブちゃん」
「やっぱり、俺が戦うんですね……そんな大口叩いておしてよく人に任せられますね……」
「わたしたちは一心同体でしょ?契りを交わした仲なんだし」
「まぁ、そうですけど。エリーナさん、ベリンさんの治療をお願いします」
「わかりました」
グチグチ言いつつも戦う気満々なノブナガさん。
ベリンのケガの具合が良くないので、エリーナに治療をお願いする。
そして、アルバーと向き合う。
アルバーはその場から一歩も動かず、ただ盾を構えている。
そんなアルバーに先制攻撃を仕掛けたのはノブナガだった。
“ストレージ”から転移させてきた短剣を投擲する。
[+連擲]による2重投擲だ。
アルバーは盾を振るって短剣を弾く。
しかし、2本目を知らないアルバー。
1本目の陰から姿を現した時には、アルバーの盾を通り越していた。
そのまま命中するかと思われたが、間一髪で“金剛”が間に合い、甲高い音を立てて弾かれてしまった。
ノブナガはその時には既にその場にはいない。
投擲と同時に駆け出し、アルバーの背後を取っていた。
剣を振り上げ、右肩に向かって上段からの振り下ろしを放つ。
硬い感覚がノブナガの手に伝わってくるが、振り切れないわけじゃなかった。
剣を一気に振り下ろし、鎧を砕いて肩を斬った。
「くっ」
そこで初めて、アルバーが苦悶の声を漏らした。
斬られた衝撃とは思えない衝撃に、アルバーは前に体勢を崩しそうになる。
アルバーが振り向きざまに盾を振るう。
防御に使う武器である盾だが、その頑丈さゆえに殴る事にも使える。
ノブナガがとって間違いなく不意の攻撃だったのだが、ノブナガは跳躍して回避した。
跳んだ勢いのままアルバーの頭の上を超え、またアルバーの背後を取った。
「雷・煌めく・槍・痺れろ・貫くーー“ライトニング・スピア”!!」
至近距離からの中級魔法。
アルバーに突き出したノブナガの左手から雷が爆ぜ、槍となって飛び出した。
至近距離の魔法など体験した事がないアルバーは不意を突かれ、硬直してしまう。
しかし、いくら最硬鉱物アルザンタイトでも至近距離の中級魔法の威力に耐えられるわけがない。
それを本能で察知したアルバー。
「[+神天無敵]」
“盾術”の最終派生スキル[+神天無敵]を発動させた。
瞬間、ノブナガの魔法がアルバーに当たる。
しかし、雷の槍はアルバーに当たった瞬間、魔法が消えた。
「ッ!?」
“ライトニング・スピア”が消え、面喰らうノブナガ。
警戒して、ノブナガは急いで後ろに跳び、間合いを開けた。
「なんだ?さっきのスキルは……無敵?」
「や、奴は……“守護師”だ……」
ノブナガの呟きに、今エリーナの治療を受けているベリンが言った。
「“守護師”…………………………そんな天紋ありましたっけ?」
どうもノブナガさんは知らないようです。
ノブナガさんは奴隷だったから……
「“守護師”……聞いた事があります。確か、唯一の“盾術”を使える天紋で、一瞬だけどんな攻撃だって無効化するスキルが使える、とか」
「えー、そんなスキルあんのぉ。面倒くさぁ」
(確かに面倒くさいなぁ)
エリーナの言葉にザンが口に、ノブナガが心で面倒くささを呟く。
(ホント面倒くさい……)
すぐに倒せる相手なのに、面倒なスキルでパパッと倒せないのが本当に面倒くさいようです。
そんな気持ちになりながらも、ノブナガはアルバーに突っ込んだ。
“剣術”の派生スキル[+武器強化]を発動。
一気に斬りかかる。
ノブナガに対し、アルバーはスキル“金剛”を発動させる。
その効果は盾まで発揮し、スキルで強化された剣を受け止める。
剣が受け止められると同時に、ノブナガは“剣術”の[+身体強化]を発動させ、アルバーの背後に回り込みさらに斬りかかる。
それにも反応し、また盾で防ぐ。
そこに“拳闘士”のスキル“豪腕”を発動させ、構えられた盾に向かって左ストレートを放つ。
ズシンッと重たい衝撃がアルバーを襲う。
“金剛”やアルザンタイトの防御力を突破し、アルバーの体勢が崩れる。
構えていた盾が上に跳ね上げられる。
そこにノブナガが仕掛ける。
「我が剣に宿れ雷炎。その刃は煌めき焼き切る稲妻な紅蓮の剣ーー“サンダー・フレイム・ソード”!!」
右手の剣に2つの属性が纏われる。
ベリンに教えてもらい、ノブナガがアレンジした2重付与である。
ノブナガが1つの詠唱で2つの属性を付与した事に、アルバーは驚愕する。
当たり前だ。
これは非公開のベリンの技術で、さらにそれをアレンジしたものなのだから。
アルバーが知っているはずがない。
そして、その知らないものには警戒心が強まる。
「[+神天無敵]」
アルバーは瞬間無敵スキルを発動する。
アルバーの胸元を貫くはずだった剣の攻撃を無効化する。
そう、無効化するはずだった。
「ッ!?」
アルバーは胸元を見下ろす。
そこにはーーーー鎧に突き刺さった剣があった。
自分の無敵の防御が突破され、アルバーは混乱した。
どうして、と頭の中で唱え続ける。
「簡単な話だ。お前の無敵時間は一瞬の間だけ。なら、その一瞬をズラせばいい。ただそれだけだ」
「……」
ノブナガが語っている事は理解しているアルバー。
なんせ自分の弱点であるのだから。
だから、弱点を無くす為に訓練してきた。
フェイントだろうと引っかかる事はない。
ゆえに、アルバーはわからなかった。
タイミングはバッチリだったのにも関わらず、なぜ防げられなかったのかを。
「まぁ、お前がフェイント如きに引っかからない事ぐらい、1合交えればわかる。お前は下の者の技を甘く見過ぎた。それがお前の敗因だ」
ちょっとタイミングをズラしたぐらいでアルバーが引っかからない事は理解していた。
だから、ノブナガはもう1手加えた。
“暗殺者”の“隠形”の派生スキル[+影狼]だ。
[+影狼]は残像を生み出すスキル。
動きの緩急とプレッシャーによって生み出された残像は、“気配探知”でも見分ける事ができないもの。
それを突きの動きに紛れ込ませ、アルバーに偽の突きを知覚させた。
後は、“豪腕”で盾を殴った時にこっそり鎧をアルザンタイトからただの鉄に[+錬金]して、胸元に剣を突き立てるだけ。
そして、これらは低級紋のスキルだけでできる事。
ノブナガの言った通り、アルバーは下の者の技を見下していたのだ。
まぁ、天紋を複数持っているなんて誰も想像できないだろうが……
剣に纏われた雷炎が突き刺さった鎧を粉々に砕ける。
ノブナガの剣はアルバーの鎧だけを貫き、肉体の寸前で止められていた。
「ま、殺しはない。殺すのは後味が悪いからな」
ノブナガはまた“豪腕”を発動させ、無防備になったアルバーを殴りつけた。
軽々と吹き飛ばされたアルバーは痛覚の限界を超え、意識をブラックアウトさせた。
ちょうどザンの前で止まった。
「次はあんただ、精霊」
「……驚いたわ。あなた一体何者?」
ノブナガは振り返り、ネルラの方を振り返る。
ネルラはノブナガを目を見開く。
さすがにあり得ないスキルの組み合わせに驚愕を隠せないようだ。
「さぁな?そんな事よりも……行くぞ!!」
気を取り直し、ノブナガはネルラに駆け出した。




