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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
ナルマ街編
2/123

冒険に出る前に その1

 詰所を後にしたノブナガ。

 初めて見る街の景色を珍しそうに眺めながら、街道を進んでいる。


 今すぐに旅をしたいところではあるが、もう時刻は夕方。

 旅に必要な物を買い揃える内に日が暮れてしまう。


「仕方ない。今日は宿を借りて泊まろう」


 人通りの多いところから看板が見える宿を探す。

 下手なところに入って騒動に巻き込まれるのは、真っ平である。

 せめて、奴隷から解放された初日ぐらい贅沢をしてもいいだろう。


 しばらく歩いていると、宿の看板が見えた。

 中に入って、空いている部屋があるか確認する。


「はい、空いてますよ」

「じゃあ、一泊します」

「はい。一泊大銅貨6枚です」

「えっと、すいません。金貨1枚で」


 ノブナガは若干申し訳なさそうに金貨1枚を渡した。

 この世界のお金に関する事はあんまりよくわかっていないが、銅貨があるという事は金貨の間に銀貨があるに違いない。

 つまり、元日本人のノブナガ的に20円の買い物に1万円を出してお釣りが面倒になると思ったのだろう。


「はい、金貨1枚ですね。お釣りは……大銀貨9枚と銀貨9枚、大銅貨4枚ですね」

「……すいません。崩してくるで、後払いでいいですか?」

「はい、そうしていただけると嬉しいです」


 さすがにどうかと思った、ノブナガ。

 まさか金貨1枚が大銀貨10枚だとは思わなかったのだろう。

 金貨100枚でさえ重いのに、これ以上皮袋が嵩張るのはごめんだったのもあるに違いない。

 宿屋の店員の女の子も、さすがにそんなお金もないのでお釣りが返せないようだ。

 相場はわからないが、旅道具をまとめて買えばお釣りもなんとかなるだろう。


 後払いを了承してくれたノブナガは、自分の部屋となる2階へと案内してもらった。


「こちらのお部屋になります。夕食は1階の酒場で取れます。その際、食事代と宿泊代は別になるのでお気をつけください」

「わかりました。ありがとうございます」

「それでは、ごゆっくり」


 綺麗なお辞儀をして、静かに立ち去っていった。

 その後ろ姿が見えなくなるまで見つめるノブナガ。


(あの人、すごい接客能力だなぁ)


 とりあえず、部屋の中へ入るノブナガ。

 部屋は広くもないし狭くもない、1人だと十分な広さ。

 木製の机と椅子があって、ベットもある。

 奴隷の時は、檻の中でずっと過ごしていたのでベットがあるのは本当にありがたいことだった。


「さて、行くか」


 宿も取ったのでゆっくりしたいが、ノブナガにはそんな暇はない。

 宿代と夕食代を出すのにお金が要る。

 また金貨を出せば、さっきと同じ事になってしまう。

 よって、今から旅道具を買いに行って、そのお釣りで払わなければいけないのだ。


 すぐに部屋を出るノブナガ。

 1階のフロントにいた店員さんに旅道具が揃えられる店を聞き、宿を出た。


 宿から2分ほど歩いた所にある店にやってくる。

 特に看板があるわけではなかったので、聞いた店で合っているのか不安になったが合っているようだ。


(本当は費用節約の為にも相場とか調べないといけないんだろうけど……今は時間がないし仕方ないか)


 とりあえず、バックを探す。

 最初に思いついたのがバックだから。


(小さいので大銅貨1と銅貨8。担ぐ形の大きいのが大銅貨5と銅貨7。安いのかな?)


 宿代よりは安い。

 でも、これが良心的な金額なのかがわからない。

 やはり、今度ちゃんと相場を調べなくてはならない。

 とりあえず、担ぐ形の大きいバックを買う。


 次に探したのが寝袋だ。

 しかし、いくら探しても見つからない。


(世界観的に、ないのかな?まぁ、なくても一緒だしいいか)


 寝袋は諦め、野外で使える料理器具を購入する。

 それと寝袋の代わりとなる毛布と財布代わりの皮袋数枚。

 そして、ナイフ数本。


 これらをすべて合わせて、銀貨1枚と銅貨9枚。

 ギリギリ銀貨に達することができた。


 これを金貨1枚で購入。

 お釣りは大銀貨9枚、銀貨8枚、大銅貨9枚、銅貨1枚。

 金貨と分ける為に、お釣りは買ったばかりの皮袋に入れた。

 金貨99枚とさっきのお釣りの2袋が出来上がった。


(これぐらいあれば、宿代と夕食代は払えんだろ。あ、明日の朝食代もか)


 購入した道具をバックに詰め、それを抱えて店を後にする。

 ちょっと重いと感じたが、奴隷生活の中で重たい物は持ち慣れていたので問題ない。

 街道を歩いていたノブナガが、ふと足を止めて振り返った。

 そして、裏路地の方をジッと周囲深く見ている。


(気のせい、か)


 少し不安が残るが、足を動かして歩き出した。


 不運にも、ノブナガの直感は当たっていた。

 ノブナガがさっきまで見ていた裏路地で、3人の人影が人知れず動き出した。



 **********************



 宿に戻って、部屋に荷物を降ろすノブナガ。

 もう夕食の時間なのか、1階の方が騒がしい。


「俺も夕食にするか。これからの事や、考えなくちゃいけない事はそれからだ」


 部屋を出て、1階へ。

 酒場はフロントの前を通って行くので、ノブナガは先に宿代を払ってから酒場へ行った。


 酒場は騒がしかった。

 いい歳した男たちが酒を飲んで、ワイワイと騒いでいる。

 騒がしいが、なぜか嫌にならない賑やかさだ。


「いらっしゃい!」

「1人です」

「それでは、カウンターの方へ」


 酒場の店員さんがやってきて、カウンターに案内される。


「いらっしゃい!あんた若いな」

「12歳です」

「うわ、マジ若ぇな」


 カウンターの向こうで料理している屈強な男性が話しかけてきた。

 料理をしているって事は、あの男性の天紋は“調理師”である。


「で、坊主。なに食う?」

「あなたのオススメはなんですか?」

「オススメ?もちろん、俺の得意料理の牛肉の丸焼きだ!」


(それは、焼くだけだな。それでいいのか、“調理師”……)


「料金は銀貨1枚でどうだ?」

「えぇ、それをお願いします」


 さっき旅道具を買った時のお釣りが入った皮袋から銀貨1枚を取り出して、テーブルの上に置く。

 その光景に、ちょっと驚いたように見ている“調理師”の男性。

 それに気づく、ノブナガ。


「?どうかしましたか?」

「あ、いやぁ。大金を臆さずに出してきたもんだからよ。若ぇのに金持ちだな」


(銀貨1枚って大金なのか。ん?じゃあ、金貨って一体なんなんだ?)


 この世界の金銭感覚がまだないノブナガは少し考え込むが、後で考える事にして牛肉の丸焼きを注文する。

 そこで、今度はノブナガの方から調理師に話しかける。


「おじさんは料理しながら会話できる人?」

「へっ、伊達に10年も料理人してねぇよ。何が聞きたい?」

「この国の一般常識を教えてくれませんか?自分の実家は結構な田舎みたいでして。右も左もわからない状態なんです」

「そうなのか。まぁ、いいぜ」


 ノブナガがしたかったのは情報収集だ。

 理由は……もう何回も言うのは面倒なので、これから『奴隷だったから』で片付けます。

 情報はこれからどう動くかを決める為に必要なのだ。

 何も知らずに動いた結果大惨事、なんて事もあり得る。


「この国は軍事国家だ。紋無しは奴隷になっちまうが、紋有りは裕福とは言えないが衣食住に困る事はねぇ」


 天紋の有る無しは世界ルール。

 紋無しが奴隷なのは、どの国でもやっている事である。


「紋有りの中でも、戦闘向けの天紋を持つ奴は国の戦力にされる。儲かるし出世できるが、戦場に赴かなくちゃなんねぇから若いうちに死んじまう奴もいやがる。坊主、天紋は?」

「残念ながら剣士、ですね……」

「そうか。その様子だと、まだ軍には入ってねぇんだろ?」

「はい。今日、この街に来たばかりでして」

「なら、帝都には行かねぇ方がいい」


 調理師のおじさんは一旦料理する手を止めて、ノブナガと向き合った。

 ノブナガとおじさんの目が合う。

 ノブナガにはそのおじさんの目に同情の念を感じなかった。


(この人の知り合いに、軍の人がいたのか……?)


 ノブナガはその目の奥にあるモノを探ろうとしたが、やめた。

 これ以上、考える事を増やすと頭がパンクしそうになったから。


「わかりました。軍には気をつけます」

「そうか……」


 それから話は途切れ、それ以上の情報を得る事はなかった。

 おじさんから出された牛肉の丸焼きは、適度な焼き加減と胡椒の味付けが抜群で美味しかった。


(うまっ!“調理師”ナメてすいません!!)


 注文する前の自分を殴ってやりたい、と思うノブナガであった。



 **********************



「ふぅー、食った食った」


 夕食を食べ終え、部屋に戻ってきたノブナガ。

 ベットに寝転がるなり、お腹を摩って夕食の余韻に浸っていた。


(さて、考えるとするか。まずは……)


 ノブナガは寝転がりながらポケットの中のステータスプレートを取り出す。

 改めて、自分のステータスを見る。


 ======================

 ノブナガ 12歳

 天紋:剣士 レベル:1

 HP:100/100

 MP:30/30

 PHY:150

 STR:90

 VIT:90

 INT:60

 MND:60

 AGL:90

 スキル:簒奪

 ======================


「なんとなくだけど、この表示の意味がわかるな」


 HPは生命力。

 MPは魔力。

 PHYは体力。

 STRは攻撃力。

 VITは防御力。

 INTは魔法攻撃力。

 MNDは魔法防御力。

 AGLは敏捷。である。

 スキルは天紋によって、習得できるスキルと習得できないスキルがある。

 剣士は普通、“剣術”のスキルを先天性スキルとして持っているものなのだが……ノブナガは奴隷だったから。


「本当に、この世界は天紋至上主義なんだな。天紋で王様すら決まる」


 現帝王も王の天紋を持って生まれたからなったのだ。

 王の天紋を持って生まれれば、その時点で次期王に決定される。

 王様の息子が王子でない事だって普通にあるのが、この世界だ。


(この世界で快適に生きるなら、王の天紋を“簒奪”するのが一番だろう。だが……)


 スキル“簒奪”。

 これは運命と言われる天紋を奪うスキルだ。

 それ(すなわ)ち、運命を奪っていると言っていい。

 現にノブナガは、ダニアンの運命を終わらせた。

 天紋を奪って、人を堕とすのはしたくない。


(“簒奪”を使う相手は、ちゃんと選ばないとな)


 ガコ


「ん?」


 扉が開いた時のような音が静かな室内に響き渡った。

 寝転がった状態で扉の方を見てみるが、扉が開いた形跡はない。

 頭に疑問符を浮かべていると、風が吹いた。

 夜の冷たい風だ。


(風?俺、窓なんて開けたっけ?)


 ノブナガは部屋に入って、すぐにベットに寝転がった。

 窓を開けた覚えなんてない。

 まぁ、開けたのを忘れてたんだろ、と思いながら、窓をしてる為に窓の方を向いた。


「ーーッ!?」


 次の瞬間、上体を起こした体に衝撃が走った。

 突然の事で声すら漏らさず、ベットから落とされる。

 立ち上がろうと両手に力を入れるが、その両手を2人の影によって押し込められてしまった。

 両腕がまったく動かない。


「大人しくしろ。素直に有り金全部渡せば、命までは取らねぇよ」

「ひひひ。大人しく言う事聞いた方がいいぜ。俺たち、今までたくさん殺してきたから本当に殺しちまうぜ?」


 ノブナガの左右から2人の男の声が聞こえる。

 目だけ動かすと、そこにはノブナガの両腕を抑えた20代ぐらいの男が2人いた。


「兄貴、ありましか?」

「おう。見つけたぜ。オォ!すげぇ、金貨だぞ!!初めて見たぜ!!」

「き、金貨ッスか!?」

「おい、まだあるんなら素直に出せ」


 ノブナガを奇襲してきたのは3人組の盗賊らしい。

 狙いも単純明快なお金。

 2人が取り押さえている間にもう1人の屈強な男が金を盗む。

 簡単な手口で、もっとも効率的な作戦だ。


 屈強な男が金貨の皮袋を見つけた。

 ノブナガを取り押さえている1人が、金を出せと強請ってくる。

 今度は抜いたナイフをノブナガの喉元に突きつけて、だ。


 そこまで、ノブナガはなんの行動も取っていない。

 腕がビクともしないという事は、相手とのレベル差は結構なものだろう事を察したからだ。

 しかし、ノブナガだってやられてばっかりというわけではない。

 今はただ、ジッとその時が来るのを待つ。


「素直に出しても、結局殺すんだろ?」

「出すっているなら、殺しはしない。出す気なら、さっさと出せ」

「……」


 ノブナガは目を瞑る。

 この状況では、ノブナガが素直に出すか出さないかを考えているようにも見える。


 が、ノブナガはそんな事一切考えていない。

 これはただの時間稼ぎ。

 盗賊たちにはわからない時間が流れる。


 そして、刻は来た。


 急に目をクワッ!と開ける、ノブナガさん。

 それを間近で見ていた2人は若干ビビる。

 そこにノブナガが目を動かして、自分を取り押さえている2人を目を合わせる。

 ただ、それだけでノブナガは2人の天紋を“簒奪”した。


「な、なんだ?今のは?」

「なんか、一瞬目眩いが……」


 一瞬、2人の力が抜ける。

 その瞬間、逆にノブナガが力を入れて拘束を振り解く。

 自由になった腕で突きつけられたナイフを奪い取る。


「なっ!その技は!!俺と同じーーぎゃすっ!!」


 ナイフを奪った時の技に気を取られている隙に、全力の拳を顔面に繰り出した。

 ノブナガが思っていた以上の威力が出、ナイフを持っていた盗賊は部屋の壁まで飛ばされる。


 殴った勢いを利用して身体を捻り、取り押さえていたもう1人に回し蹴りを放つ。


「ほぎゃっ!!」


 そうして、ノブナガを取り押さえていた2人は無力化された。


 さっきまで有利だと思っていた最後の男は、一瞬にして仲間がやられた事に驚愕している。

 ノブナガは内心で上手くいった事にホッとする。


(やっぱり、天紋を失うとステータスやスキルの力も失うんだ)


 半分は賭けだった。

 しかし、上手くいったノブナガの勝ちなのは変わりない。


「くそっ!」


 今度は屈強な男が拳を構えて襲いかかって来る。

 どっからどう見ても、その男の天紋は“拳闘士”だ。


(戦闘向けの天紋持ちは、軍に入るんじゃねぇのかよ!!)


 自分が仕入れた情報と違う事に内心で悪態を吐く、ノブナガ。

 反射的に手にしていたナイフを投げた。

 前世でもナイフを投げた経験はないのだが、なんとなくわかったのだ。

 知識という物とは違う、直感的な物で。


 その直感に任せて投げたナイフは、襲いかかってくる男の額に命中した。

 走った勢いのまま派手に倒れる。


「……」


 ノブナガは恐る恐る倒れ込んだ男の元に行き、首の脈の動きを確認する。

 脈はビクともしていない。

 頭に突き刺さったのだから、当たり前だ。


(俺が、殺したのか……)


 人を殺した事に恐怖を覚える。

 日本人だったノブナガだ。

 人を殺すなんてした事がないし、こんなに恐ろしいものだとは思わなかった。


 でも、逆に心は驚くほど冷たかった。

 この世界の理不尽に浸っていたので、それも仕方ない事だろう。


 だが、それが恐ろしくもあった。

 自分は日本で生きていた、あの頃とは違うんだ。

 そう、実感してしまったから。


「お、お客様!?どうなさいましたか!?」

「!?」


 扉の向こうから声が聞こえてきた。

 声的に、この部屋に案内してくれた時の店員さんだと瞬時に判断した。


 ノブナガは扉を開け、そこにいた店員さんに事情を説明し騎士の人を呼んでくれるように頼んだ。

 最初は宿側の防犯対策の甘さに謝罪していたが、ノブナガは特に気にしていないように受け取った。


 騎士の人たちが来る前に目を覚まされるのも面倒なので、気絶している2人はロープで厳重に縛った。

 1人亡くなった者には顔に布を乗せて、手の平を合わせていた。


「運命を奪うのも、命を奪うのも、こんなに簡単なのか……」


 ボソリと、誰もいない部屋にノブナガの言葉が響き渡る。

 ふと、ベットの方に視線を向けるとノブナガのステータスプレートが落ちていた。


(そう言えば、襲撃を受ける前に眺めてたっけ)


 なんとなく、2人から奪った天紋がなんだったのかが気になり、ステータスを確認する。

 そこにはこう表示されていた。


 ======================

 ノブナガ 12歳

 天紋:剣士・暗殺者・投術師 レベル:1

 HP:300/300

 MP:100/100

 PHY:470

 STR:250

 VIT:240

 INT:200

 MND:200

 AGL:310

 スキル:簒奪・投擲術

 ======================


「バグった?」

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