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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
ナルマ街編
14/123

元奴隷の戦い その3

「ハァァァア!!」

「ウォォォオ!!」


 ノブナガとハルサーマンの姿が交差する。

 お互いの剣をぶつけ合い、派手に火花が散る。

 鍔迫り合いになり、押し合う。


 だか、次の瞬間、ハルサーマンの力が急に抜ける。

 ノブナガが一方的に押す形となるが、その力を聖剣を巧みに使って受け流した。

 ノブナガの体勢が崩れ、その背にハルサーマンが斬りかかる。

 ノブナガはすぐさま“金剛”を発動させる。


「くっ」


 切られる事はなかったが、衝撃まで抑えられるわけじゃない。

 不完全な体勢のノブナガは軽々と吹き飛んだ。

 転がりながらも体勢を立て直してしゃがんだ状態のノブナガに、ハルサーマンは追撃。

 聖剣を振り上げ、上段から振り下ろしを放つ。

 その剣を左手の手甲でガード。


 ジーンとくる痛みに顔を歪めながらも、右手の剣で突きを放つ。

 だが、今度は逆にハルサーマンが“金剛”を発動させ受け止めた。

 ノブナガの剣を聖剣で弾き、ノブナガの首に向かって薙ぎ払う。

 しゃがんだ状態の下半身のバネを使って、全力で後ろに飛ぶノブナガ。

 ハルサーマンの聖剣は空を斬った。


 間合いが開かれ、仕切り直しになる。


(ステータスは高い。しかし、技術がやや劣っている。レベルと技術があっていない?なんだ、この矛盾は?)


 ハルサーマンは聖剣を構えながら、ノブナガの実力を観察する。

 ノブナガの力の矛盾に眉を顰めていた。

 しかし、ステータスが高い事は変わらないので、ハルサーマンも[+身体強化]を使う。


(やっぱり、技術じゃ勝てない)


 一方ノブナガは、剣の腕で勝てない事を自覚していた。

 斬撃の鋭さ、受け流し、先を読む力。

 剣を持つ者として、自分はすべて劣っていると。

 しかしーー


(なら、技の多さで勝負するだけだ)


 ノブナガは自分の長所を自覚している。

 “簒奪”で得た、さまざまな(スキル)の数々。

 臨機応変に戦える事が、自分の長所だと。

 ならば、自分の長所を持って挑む。


 そう決めた瞬間、ノブナガは“ストレージ”から短剣を取り出し、ハルサーマンに向かって投擲した。

 ハルサーマンは危なげなくそれを斬り払うと、ノブナガに斬りかかる。

 それにノブナガは剣を構えながら、詠唱する。


「深き闇よ・溢れる煙は・黒き靄ーー“ダーク・スモーク”!!」


 瞬間、ノブナガから黒い霧が溢れ出し部屋に蔓延する。

 “ダーク・スモーク”は要は目眩(めくらま)しである。

 今、この空間を自由に動けるのは術者のノブナガだけだ。

 魔法の目眩しに足を止める、ハルサーマン。


(魔法!?どこに!?)


 魔法が使えない天紋だと思っていたハルサーマンは驚愕しながらも、持ち前の戦闘経験で“気配探知”を発動する。

 しかし、エリーナの気配は掴めてもノブナガの気配を見つけ出す事は出来なかった。


 それもそのはず。

 ノブナガは今、“隠形”を使って全力で気配を消しているのだ。

 いくら“剣聖”といえど、同じぐらいのステータスである以上は捉える事はできない。


 ノブナガの位置を捉えられていないハルサーマンに、ノブナガが仕掛ける。

 霧の中から突然ハルサーマンに飛び出してくる武器。

 ハルサーマンは派生スキル[+無念心斬]でそれを弾く。

 [+無念心斬]は剣を持っている時のみ、常時発動しているスキルで自分に向けられた害意や敵意に反応して斬る“剣術”の最終派生スキルだ。

 同じ場所から何発も得物が飛び出してくる。

 突然手数が増え、何度何度も弾くが攻撃が収まる事はない。


(この感覚……まさか、槍!?)


 ハルサーマンは長年の戦闘経験で、自分が弾いている得物を看破する。

 そう、ノブナガは“隠形”で闇の中に隠れながら剣を鞘に収め、“ストレージ”から取り出した槍で攻撃しているのだ。

 ハルサーマンが聖剣で防いでいるが、次第に剣の返しが遅れてくる。


「くっ」


 そして、とうとうノブナガの槍がハルサーマンに当たる。

 鎧に当たった衝撃に苦悶の声を漏らす、ハルサーマン。

 しかし、攻撃が当たるも与えられたダメージは衝撃のみ。

 ハルサーマンの鎧は無傷のままである。


 そこで“ダーク・スモーク”の効果が切れ、黒い霧が晴れる。

 目眩しが晴れれば、“剣聖”に“隠形”は効果がない。

 すぐにノブナガの位置はバレた。

 それでも、ノブナガの攻める手は緩めない。


 剣の間合い外から槍の連突を浴びせる。

 しかし、目眩しがあった時のようにいかず、ハルサーマンは聖剣で弾きながら間合いを詰めてくる。

 そして、ノブナガの槍を弾き上げるハルサーマン。

 そこまま懐に入って聖剣を薙ぎ払おうした。


 だが、ハルサーマンは足を止めた。

 理由は、ノブナガが槍を手放したからだ。

 槍を手放したノブナガの手には、いつの間にか出現した大きな斧が握られている。

 それをノブナガは“剛力”を使いながら振り下ろす。

 間一髪でバックステップを踏んだハルサーマンには当たらず、地面に深々と減り込んだ。

 コンクリートでできた地面に蜘蛛の巣のようなクレーターが出来上がる。


「剣に魔法に槍に斧。随分と多芸なのだな、少年」

「まぁな。技量で勝てない以上、技の数で勝負するのは当然だろ」

「まさに、その通りだ」


 会話しながらも、ノブナガは攻撃の隙を伺う。

 しかし、ハルサーマンのどこにも隙を見出せない。

 常に視野を広く捉えているせいで、[+無拍移動]も意味を成さない。


「それにしても……これは本当に聖剣なのか?切れ味は悪いし、妙に重い。これは使えんな」


 ハルサーマンは自身が持つ聖剣を見ながら、そう言う。

 聖剣を地面に滑らせて部屋の隅にやると、自身の腰に携えてある剣を抜剣する。


「やはり、この剣の方が馴染む」


 何度か試し振りをし、手に馴染む感覚に満足気に頷くハルサーマン。

 ノブナガは[+鉱物鑑定]で、剣を見てみた。


(アルザンタイト……俺の手甲と同じ素材だ。鎧もアルザンタイトで出来てやがる。道理で硬いわけだ)


 未だにアルザンタイトが最硬鉱物である事を知らないノブナガさん。

 ただし、とても硬いという事だけはわかっているようだ。


 どんなに隙を窺っても、隙を見せないとわかったノブナガは仕掛ける事にした。

 “ストレージ”から短剣を取り出し、左手に転移させてくる。

 左手を振るって投擲。

 隙のないハルサーマンにそんな物が当たるわけがなく、軽く剣で払われてしまった。

 第1射目は(・・・・・)


「ッ!?」


 短剣を斬り払ったハルサーマンは驚いたように目を剥きながら、サイドステップを踏む。

 直後、さっきまでハルサーマンの顔があった場所にある物が通り過ぎた。

 それは、ノブナガが放った短剣である。


(初手の短剣に隠れるように投擲したのか!?)


 そう、“投擲術”の派生スキル[+連擲]だ。

 ノブナガが第1射目を投擲した瞬間、腰に装備してある短剣を抜いて第2射目を投擲。

 第1射目に投げた短剣と同じ軌道で投げられた第2射目の短剣はハルサーマンには見えない。

 1本だと思っていたハルサーマンは第1射を斬り払うまでわからない。

 目にした時には、時すでに遅し、だ。


 だが、さすがは“剣聖”と言うべきか。

 咄嗟に右にズレたおかげで、躱す事ができた。

 しかし、完全には躱す事が出来ず、頰から血がタラリと垂れる。


 そこにノブナガが隙を見つけ、[+無拍移動]で懐に入り込む。

 両手で斧を持ち、ハルサーマンに向かって薙ぎ払う。

 それをバックステップで躱すハルサーマン。

 そこで左手を突き出し、詠唱する。


「光・散弾・撃ち抜けーー“フォトン・バレット”!6門!!」


 [+省略詠唱]で唱えた魔法を[+並列発動]させる。

 “フォトン・バレット”は通常3つの光の玉を相手に放つ初級魔法、なのだが。

 ハルサーマンが[+並列発動]させた事で、計18つの光玉が出現、ノブナガに襲いかかる。


 今から詠唱しても間に合わないと悟ったノブナガは、瞬時にしゃがんで左手を地面に付いた。


「“錬成”!!」


 瞬間、ノブナガの前の地面が隆起し防壁を築いた。

 “フォトン・バレット”が防壁を崩そうとするが、壊れそうになる寸前で“錬成”し直す事で、すべての光玉を防いだ。


 今度は、防壁から飛び出したノブナガが詠唱する。


「清らかな水よ・噴き出る放射は・粉砕の一撃ーー“アクア・スプラッシュ”!!」


 左手から飛び出した水がハルサーマンに迫る。

 それにハルサーマンは動じた様子もなく唱える。


「光・阻む・防壁ーー“ライト・シールド”!!」


 ハルサーマンの左手に光の盾が出現し、ノブナガの魔法を防ぐ。

 防ぐだけに留まらず、光の盾で魔法を防ぎながら間合いを詰めてくる。

 それにノブナガは“アクア・スプラッシュ”を止め、その場で身体を捻る。

 身体を1回転させて勢いをつけ、両手に持つ斧をハルサーマンに投げつけた。


 綺麗に回転しながら、地面と水平に飛んでいく斧。

 それをハルサーマンは、まるでハリウッド映画のマト○ックスのような動きで躱し、さらに間合いを詰める。

 ノブナガは背中の剣を抜剣し、さらに“ストレージ”からもう1本の剣を左手に転移させる。


 2本の剣を持ってハルサーマンに挑むノブナガ。

 お互いの剣が交差し合い、一歩も引かない攻防が続く。


 しかし、攻防を続けるに連れて、ノブナガがハルサーマンの動きに付いていけなくなる。

 ノブナガは“剣術”の[+身体強化]だけでなく、“格闘術”、“槍術”、“斧術”の[+身体強化]も発動する。

 ノブナガのステータスが16倍され、ハルサーマンの動きに喰らい付いていく。


 ハルサーマンの剣を弾いて反撃に出るが、“金剛”の防御を突破する事ができない。

 ハルサーマンが着ている鎧はアルザンタイト製。

 そこに“金剛”まで重ねられては、ハルサーマンにダメージを負わすのは強力な攻撃が必要になる。

 2人の攻防は続く。


 斬って防いでの攻防がずっと続くかと思われた瞬間、事態は動いた。


 ピキッ


「ッ!?」


 攻防を続ける度に、そんな音が聞こえた。

 ノブナガはその音の発信源に目を向ければ、自分が持つ剣にヒビが入っている事に気がついた。

 世界最硬鉱物と打ち合ったのだ。

 ここまでよく耐えたと称賛しても良いぐらいだ。


 攻防を続けるに連れ、剣のヒビは広がっていき、ついにーー


 バキンッ、バキンッ!!


「ッ!?」


 ノブナガの剣が砕けた。

 得物を失ったノブナガにハルサーマンは剣を薙ぎ払う。

 ノブナガは瞬時に“金剛”を発動させる。

 それを見たハルサーマンは“剣術”の派生スキル[+武器強化]を使う。

 魔力が纏われた刃を受けたノブナガは、今まで感じた事のない衝撃に襲われ、吹き飛ばされた。


「かはっ!」


 口から血を出しながら、背中から部屋の壁に衝突する。

 受け身すらとる事ができず、地面に倒れ込んでしまう。

 蹲り、痛みに耐えているのが目に見えてわかる。

 そんなノブナガにハルサーマンは言う。


「勝負ありでいいか?少年。確かにステータスは高いが、技量は私の方が上だ。少年は私には勝てない。諦めろ」


 その言葉は本当だった。

 悔しいが今までの経験の数が違い過ぎる。

 それは剣を交えたノブナガには痛いほどわかった。


(けどっ)


「だからって……諦めるわけないだろ」


 内臓が破壊された痛みに耐え、立ち上がるノブナガ。

 その目には口先だけじゃない、燃える闘志があった。

 その目を見て、ハルサーマンは驚いたような顔を見せる。


「どうして、少年は立ち上がる?戦う前、少年はエリーナお嬢様の願いの為と言った。他人の願いの為だけに、少年は立ち上がれるのか?」


 所詮は他人の望みだ。

 諦めたって誰も文句を言われる道理はない。

 誰にも責める権利などない。

 なのに、なぜ目の前の少年は立ち上がれるのだろうか?

 それは、ハルサーマンの純粋な疑問だった。


「立つに決まってるだろ」


 ボソリと呟かれた声。

 しかし、その呟きはしっかり聞き取る事ができた。


「俺は……奴隷だった。天紋なんてない、運命を持たない者だった」

「「ッ!?」」


 ノブナガの衝撃的な告白に、エリーナもハルサーマンも目を剥いて驚いた。


「何もない俺には、ずっと何もないのだと思っていた。けど、先天性スキルがあった。それで俺は人の運命を奪った。だけど……空っぽなのは何も変わらなかった」


 自分の主人から“剣士”の天紋を奪った時、結局自分の中には何もなくて、生きる目的すらなかった。

 奴隷から解放されても、生きる理由なんてない。

 親もいなければ、友達も知り合いもいない。


「けど、出会えたんだ。エリーナさんと。エリーナさんと出会えたから、俺はヤヘンとの戦いで生きたいって思えたんだ」


 実際に、ノブナガは宿で盗賊に襲われた時、死の恐怖を感じなかった。

 けど、ヤヘンと戦った時、ノブナガは生きようとした。


「俺はエリーナさんから大切な気持ちを貰った。だから、今度は俺の番だ。今度は、俺がエリーナさんの願いを叶える。その為に、俺はここに立ってんだよ!」


 ノブナガにとって、他人の望みではないのだ。

 仲間であり、大切な人の願いなのだ。

 ここで奮い立たなくて、いつ奮い立つ!?


「天空の息吹を帰還せし戦士たちへーー“天回”!!」


 そこにエリーナが回復魔法をかける。

 ノブナガの傷が癒え、内臓の痛みも和らぐ。

 ノブナガは回復魔法をかけてくれたエリーナの方を向く。


「負けないで……負けないでください!自分の道を切り開いたノブナガさんならっ、きっと勝てます!!」

「エリーナさん……」


(あぁ、そうだ。もう俺の心は、空っぽなんかじゃない)


 ノブナガの心にはエリーナがいる。

 それに、ヤヘンの意思だってある。


「俺は!俺が決めた道を進む!!」


 そう言った瞬間、部屋の隅から光が放たれた。

 一同は、その光の発生源に目を向ける。


 そこには、先ほどハルサーマンが部屋の隅に滑らせた聖剣があった。

 聖剣が急に光出し、宙に浮かぶ。

 そして、まるで意思があるかのように動き出した。


「うっ」


 ハルサーマンを突き刺すように動き、ハルサーマンは咄嗟に躱す。

 そして、そんなハルサーマンを素通りし、ノブナガへと迫っていく。

 一瞬身構えるノブナガだったが、聖剣はノブナガの前で止まり、地面に突き刺さった。


 その光景はまるで、聖剣がノブナガに「抜け」と言っているかのようだった。

 ノブナガは恐る恐る手を伸ばし、聖剣の柄を握った。



 **********************



 瞬間、ノブナガの目の前の光景が変わった。

 白い空間。

 何もない、ただただ白い世界が広がっていた。


「こ、ここは?」

「はじめまして〜」

「ッ!?」


 何もない空間に、ノブナガ以外の声が聞こえた。

 気の抜けそうな緩い声。

 ノブナガが声の方へ振り返れば、そこにはノブナガと変わらない年齢のピンクの髪の少女がいた。


「あ、あなたは?」

「わたし?わたしはねー、ザンガルド。ザンって呼んでね」

「は、はぁ。で、ここは?」

「ここはねぇ、まぁ簡単に言うとノブちゃんの精神の中だよ」

「ノ、ノブちゃん?」


 可愛い呼ばれ方に翻弄されながらも、ここの場所を理解しようとするノブナガ。


「で、ザンは何者なの?」

「わたしは聖剣。正確には精霊なんだけど」

「聖剣!?てか、精霊!?」

「そ。剣の形に成れる精霊。それがノブちゃんが手にする聖剣の正体だよ」


 魔法がありのファンタジー世界だと思っていたが、まさか精霊がいるとは思わなかったノブナガ。

 精霊は希少な存在で、一生に一度見れただけでも奇跡と云われる存在なので、ノブナガが知らないのも無理はない。


「でね。早速、本題に入るよ?」

「は、はい」

「わたし、ザンガルドはノブナガ・ヒグラを契約者に選びました。これからわたしはノブちゃんの剣です」

「はぁ。契約ですか」

「は、反応薄いなぁ。もっと驚いてよ!」

「い、いや。その、契約?ってのがよくわからなくてですね……」


 どうも、この精霊さんはノリという物を大事にしているようである。

 こんな謎空間に連れてこられて、それを求めるのはどうかと思うが……


「契約って言っても、使命とか与えないよ?どっちかっていうと得する事の方が多いから」

「……ザンと契約すれば、あの“剣聖”に勝てますか?」

「うん。わたしの力とノブちゃんの力を合わせればね」

「……なら、契約します」

「オッケー。じゃ、契約するよー。契約が終わったら、現実の世界に戻っちゃうから気をつけてね」

「はい。わかりました」


 ザンはノブナガの手を取り、その手にキスをする。

 次の瞬間、ノブナガの中に何かが流れ込んでくる感覚に襲われる。

 でも、ノブナガはそれを甘んじて受け入れる。



 **********************



 次の瞬間、ノブナガの意識は現実世界に戻ってきた。

 エリーナとハルサーマンの位置的に、それほど時間は経っていないようだ。

 2人を見ると、ノブナガを見て驚いた顔をしている事にノブナガは気づく。

 さらに、その目線が自分の手元を見ている事に気がついたノブナガは、自分の手ーー正確には手を持った聖剣を見る。


「ッ!?」


 ノブナガが手にした聖剣は、明らかに変わっていた。

 古びたような錆びた剣ではない、銀色の剣。

 刀身は鏡のように反射し輝く様は、まさしく聖剣として相応しい姿だった。


(やっほー、ノブちゃん。契約は無事成功したよ〜)


「ッ!?ザン!?」


 突然、ノブナガの頭にザンの声が響く。

 耳から入ってきた声ではなく、頭に直接話しかけているようだ。


(あ、驚かせちゃった?ごめんごめん。ノブちゃんも念じれば、会話できるよ?)

(こ、これでいいですか?)

(オッケーオッケー。バッチリだよ!)


 頭の中に陽気な声が響く。

 ある意味、剣の姿になっても会話できるのはいい事である。


(じゃ、さっさと相手を倒そうか。ノブちゃん)

(あ、はい)


 ノブナガはザンに言われながら、ハルサーマンに歩み寄る。

 内臓の痛みは、エリーナの回復魔法で癒え切った。


「しょ、少年……その聖剣は……」


 ハルサーマンは驚きが止まらないのか、聖剣を指差しながらも声が震えている。


「聖剣は俺を選んでくれた。これで、あんたと戦う理由はなくなったが……そうはいかないんだろ?」

「ッ!?……あぁ。私は妻や娘の為にも戦わなくてはならない。私にも曲げられない物がある」

「なら、これ以上言葉を交わす必要はない、な」

「……その通りだ」


 ハルサーマンは剣を、ノブナガは聖剣を構える。

 その時、ノブナガの中に魔力とは違う力が脈打っている事に気がつく。


(なんだ?この力は?)

(それは通力だよ。あらゆる力を強化できる、精霊の力の源)

(精霊の力の源?)


 ザンが言っている事が理解し辛かったノブナガ。

 意識を少し、ハルサーマンから逸らしてしまった。

 そこをハルサーマンが狙ってくる。


 ハルサーマンが振るってきた剣を受け止めるノブナガ。

 よくわからないが、ノブナガは通力を操作して腕に集める。

 すると、まるで“剛力”を発動させた時のように力が湧き上がり、あっさりとハルサーマンの剣を弾いてしまった。


(ッ!?これが通力……)

(そうだよ。ほら、次が来る!)


 ザンの言葉でハッと正面を向くと、ハルサーマンがすでに斬りかかって来ていた。

 ノブナガはそれを正面から受けて立った。

 斬って、防いでの攻防が始まる。

 金属音が何度も響き渡り、まるで演奏のように奏でている。


 そして、この攻防が続いていくうちに追いつけなくなったのはーーハルサーマンの方だった。

 ハルサーマンは次第にノブナガの剣に付いていけず、腕や足に切傷を負っていく。


(わかる。剣の技が。剣の高みが)


 ノブナガはザンと契約した事によって、天紋では得られなかった剣の感覚を得たのだ。

 そして、ザンガルドの切れ味。

 聖剣の切れ味が、世界最硬鉱物アルザンタイトを紙切れのように切り裂いていく。


 ピキッ


「ッ!?」


 もちろん、それはアルザンタイト製の剣も例外ではない。

 ハルサーマンの剣にヒビが走り、次第に大きくなる。

 そして、ついにーー


 パキンッ!!


 金属が粉々になる音が響き渡る。

 宙に散った鉱物の破片が光を反射し、キラキラと輝く。


(ノブちゃん!通力をわたしに流し込んで!)

(はい!)


 ザンの言った通り、ノブナガは渾身の通力を聖剣に流し込む。

 ザンガルドが強い光を放ち、強く輝く。

 そして、渾身の通力が乗った聖剣をハルサーマンに振るう。


 アルザンタイトの鎧を軽く斬り裂き、そしてハルサーマンの肉体に届く。

 少しの間、斬られた大勢のまま停止する。


 そして、ついに……“剣聖”は倒れた。

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