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奴隷からはじまる下克上冒険  作者: 明石 遼太郎
ナルマ街編
13/123

元奴隷の戦い その2

 遡る事、十数分前。


「ノブナガさん、私の願いを聞いてください!」

「はい!」

「ハルサーマンの聖剣入手を阻止します。手伝ってください」

「わかりました。では、行きましょう」


 ノブナガとエリーナは立ち上がる。

 エリーナの太ももは[+自己自動回復]にとって、きっちり治っている。

 ダンジョンに入っても、足手纏いにはならないだろう。

 一気にダンジョンを突っ切り、ハルサーマンの聖剣入手を妨害する。


「あのー、言いづらいんだけど、それは無理じゃないかなぁ」


 ダンジョンに入ろうとするノブナガたちにそう言ったのは、木に繋がれた部隊の1人。

 “魔導師”だった女性だった。


「どうしてだ?」

「だって、このダンジョンに出てくる魔物なんてハルサーマンさんの足元にも及ばないよ?もうすぐ最深部に着く頃だろうし、追いつかないよ?」


 確かに、あのオーラを纏う“剣聖”に低級ダンジョンに出てくる魔物が相手になるとは思えない。

 もう最深部にある扉に着いている可能性は十分にある。


「地図あるか?」

「え?地図なら、そこの鞄の中にあるけど……」


 ノブナガは部隊が持ち運んでいる鞄の中を弄り、ダンジョンの地図を取り出す。

 地図を見て、ふむふむと頷くノブナガ。

 少し考える素振りを見せた後、パッと顔を上げる。


「うん。大丈夫です。まだ間に合います」

「ほ、本当ですか!?」

「えぇ。俺に秘策があります」


 ノブナガはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 それを見たエリーナは思った。

「あ、これはヤバいやつだ」と。

 少し不安になりながらも頷くエリーナさん。


(あ、そういえば……)


 ダンジョンに入ろうとしたノブナガは、部隊の者たちから天紋を奪った事を思い出した。

 あの時は、早く終わらせたい一心でやったせいで何も考えずに“簒奪”してしまった。

 一応、ステータスを確認しておく。


 ======================

 ノブナガ 12歳

 天紋:剣士・暗殺者・投術師・拳闘士・槍術士・斧術士・水術師・闇術師・錬成師・魔法剣士・魔導師・治癒師・魔弓士・魔闘士・魔術師 レベル:20

 HP:11970/11970

 MP:10760/10770

 PHY:12630

 STR:10490

 VIT:10050

 INT:11620

 MND:10640

 AGL:11100

 スキル:簒奪・投擲術[+即擲][+連擲]・剣術[+二刀流][+身体強化][+武器強化]・歩法術[+立体移動][+無拍移動]・短剣術[+二刀流]・気配探知・格闘術[+身体強化]・錬成[+鉱物鑑定][+遠隔錬成]・水魔法[+遅延発動][+並列発動]・闇魔法[+遅延発動][+並列発動]・隠形[+影狼]・遠目・属性付与[+武器強化][+遅延発動]・槍術[+武器強化][+身体強化]・斧術[+身体強化]・金剛・剛力

 ======================


「かはっ」


 ノブナガさんが吐血した!!

 ノブナガさんが膝から崩れ落ちた!!

 ノブナガさんが四つん這い状態になった!!


「ノ、ノブナガさん!?どうしたんですか!?」


 エリーナがなんかもう絶望した状態のノブナガに回復魔法をかける。

 どこから血が出たのかわからない吐血が止まり、ノブナガの心もようやく落ち着いてきた。


(どうしよう……この人たち悪いわけじゃないのに、天紋奪ってしまった……)


 いくらあの時、血が上っていたからと言ってやり過ぎた事を自覚するノブナガ。

 しかも、その血を上らせた対象はまったくの別人である……


 ノブナガは立ち上がり、拘束している部隊の者たちの所に行く。

 そして、ノブナガは拘束しているロープを解いてしまった。


「え?ちょっ、どういう事?」

「??」


 突然拘束を解かれた事に混乱する、元“魔導師”と元“治癒師”。

 そんな2人に、ノブナガは金貨5枚を取り出して渡した。


「いや、ちょっと何がしたいのかわからないです」

「私もわからないです」


 突然金貨を渡され、真顔になる2人。


「ステータスプレートを見てもらったらわかると思うけど、あなたたち5人はもう紋有りじゃない」

「…………え?」

「ッ!?」


 最初は何言ってんだ?という顔だったが、自身のステータスプレートを見て、あるはずの天紋とステータスがなくなっている事に気づく。


「なので、その金貨で他国に渡ってください。他国に行けば、この国の軍も追えないでしょう。ステータスプレートは偽装しますから」


 ノブナガは5人のステータスプレートを手に取り、ステータスプレートの機能を弄る。

 ステータスプレートは大昔に“魔導師”が作った物だから、“魔導師”の天紋を持っていれば弄る事は容易いと考えたのだ。

 その考えは正しかったようで、5人のステータスプレートには非戦闘向けの天紋と適当なステータスが載っていた。


「これで大丈夫です。3人が目覚めたら、すぐにここから立ち去ってくださいね。じゃあ、行きましょう。エリーナさん」

「は、はい!」


 時間も惜しいので、ノブナガは急いでダンジョンに入って行く。

 ダンジョンの中は洞窟のようになっていて、壁に付いてある鉱石が光を放って中を照らしている。


「そ、それで、どうやって追いつくんですか?」

「地図を見た限りだと、このダンジョンは複雑に入り組んだ20層でできています」

「なるほど。それで?」

「つまり、こうするんですよ。“錬成”」


 ノブナガは地面に手を付くとスキルを発動させた。

 すると、ノブナガたちの地面が急に無くなった。


「へ?きゃーーーーーーーーーーー!!」


 突然襲われる浮遊感。

 エリーナは悲鳴を上げながら落下していく。

 そんなエリーナを先に2層にたどり着いたノブナガがキャッチする。


「おっと。大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫じゃないです……」


 ノブナガの腕の中で小動物のように震えるエリーナさん。

 少しやり過ぎたと思った、ノブナガ。


 そう、ノブナガ言っていた秘策とはこの事である。

 要は「馬鹿正直に進まなくても、穴開けちゃえばいいじゃん?」という事だ。

 今まで“錬成師”がダンジョンに入る事がなかったので、誰も思い付かなかったのだ。

 これで、入り組んだ道を進まずに下の層に行ける。


「すいません。俺がこのまま抱えた状態で行きますね」

「お願いします……」


(そこは素直に受け入れるのか……)


 エリーナが遠慮せずに受け入れた事に、そこまで怖かったのかと思うノブナガ。

 それからは、ノブナガが地面を“錬成”で穴を開けていき、あり得ない速度で進んで行く。

 ただ下に移動しているだけなので、魔物に遭遇する事もない。

 たった数十秒で、最深部の20層にたどり着いた。


「ここが20層ですね」

「あ、あの、下ろしてください……」

「あ、すいません」


 抱きかかえていたエリーナを下ろすノブナガ。

 そして、20層を見渡す。

 ドーム状になった広々とした空間だ。


(ここが、このダンジョンの最深部か)


「ノブナガさん。あれ」


 エリーナが指差した方にノブナガは目を向ける。

 そこにはステージのような台の奥に古びた扉があった。

 そこが、聖剣がある場所なのだろう。


 その扉に歩み寄り、前に立つノブナガたち。

 しかし、扉が開く事はない。


「?」


 扉が開かない事に首を傾げるエリーナ。

 そんなエリーナとは裏腹に、ジッと扉を見つめるノブナガ。

 何秒か見つめた後、納得したような声を漏らす。


「ああー、なるほど。そういう事だったのか」

「何かわかったんですか?」

「はい。この扉はアーティファクトの一種です。“剣聖”の天紋を持った者しか入る事ができない仕掛けになっています」

「それを知っていて……だから、ハルサーマンがわざわざやって来たんですね」


 なぜ、ノブナガにそんな事がわかるのかというと、ノブナガが“魔導師”の天紋を得たのが理由である。

 “魔導師”の必須スキル“生成”の派生スキル[+術式鑑定]によって、扉の術式を見破ったのだ。


「それじゃあ、どうやって入れば……」

「いえ、これも“錬成”で行けます」

「え?でも、“剣聖”しか入れない仕掛けなんじゃ……」

「確かに“剣聖”しか入れない仕掛けですけど、その効果が薄い所を狙えば!」


 ノブナガはアーティファクトの扉から1メートルほど右にズレ、「“錬成”!」と唱える。

 アーティファクトの魔力に抵抗されるが、本人も吐血するようなMPでゴリ押しする。

 5秒の拮抗ののち、“錬成”が完了する。

 ノブナガが“錬成”した所に第2の扉が出来上がった。


「扉が無ければ作ればいい、ですよ」


 ただ穴を開けるだけでもよかったのに、なぜ扉を作ったのかは……本人のみぞ知るパッションだった。



 **********************



 てな感じで、現在に至る。


「奪還者?そんな者聞いた事がないな」

「今決めたんだから、当たり前だろ」

「……」


 “剣聖”を前に怯える姿勢を見せないノブナガに、ハルサーマンは観察するような目を向ける。

 一方エリーナは、ノブナガにジト目を向けていた。

 なんとも言えない空気に囲まれ、ノブナガはわざとらしく咳をする。


「んんっ。それで?あんたが今持ってるのが、聖剣か?」

「いかにも。古びていて伝説の剣とは思えんがな。ん?そこの少女。どこか見覚えがあると思っていたが……もしや、エリーナお嬢様!!」


 そこで、エリーナに気がつくハルサーマン。

 エリーナは少し目を瞑って、心の準備をした。


「はい。お久しぶりです、ハルサーマン。あなたが元気そうで何よりです」

「お嬢様こそ、城を抜け出したと聞いた時は驚きました。元気になされていて何よりです」


 エリーナだとわかっても、すぐに剣を抜こうとしないハルサーマン。

 それでもノブナガは、いつでも戦えるようにハルサーマンから視線を逸らしていない。


「して、どうしてお嬢様がここに?聞いた話に寄りますと、王に叛逆したとの事ですが……」

「はい。そんな私はあなたにお願いをします。聖剣を置いて立ち去ってください」

「……それはできません。たとえお嬢様の願いでも、このハルサーマン。王の命令に背く事はできません」

「あなただって、わかっているはずです!あなたが忠誠を誓ったお父様は、正常のお父様ではない事を!!」

「えぇ、わかっております」

「ッ!?」


 エリーナの言葉をあっさりと認めたハルサーマン。

 それにエリーナ、ノブナガも驚く。


「今の王が、私が仕えようと思ったかつての王ではない事ぐらい、すぐにわかります。お嬢様が叛旗を翻した気持ちも、十分わかっております」

「それでは、なぜ?なぜ、お父様の命令に従うのですか?」

「…………妻と娘が、人質に取られているのです」

「「ッ!?」」


 ハルサーマンが放った言葉に、ノブナガたちは目を剥いた。

 エリーナはつい手で口を押さえる。


「いつもは、常に使い魔で監視されているのですが……この“剣聖”しか入れない部屋のおかげで監視が遮断されています。しかし、聖剣を持ち帰らなくては……」


 ハルサーマンの言葉がそこで途切れる。

 それだけでも、その後に言う言葉は想像が付いたノブナガたち。

 暗い空気が、聖剣の部屋に流れる。


「しかし、お嬢様が来てくださって感謝します」

「?」

「私も、国が聖剣を保有するのは気が乗りません。監視の目を誤魔化すためにも……この聖剣、私から力尽くで奪ってください!」


 ハルサーマンが頭に描いたシナリオは、聖剣を手にした所に襲撃に遭い、抵抗したが倒され奪われた、という物だ。

 “剣聖”を倒すほどの者がいるとわかれば、自体はその者の正体を探る方に視点が行くだろう。

 今のこの国なら、喉から手が出るほど欲しいと思うはずだ。


「少年。“剣聖”ハルサーマン。レベルは130。手加減などしない。お前が死ぬかもしれない。それでも、私と戦うか?」

「…………決まっている。俺はエリーナさんのお願いの為に来たんだ。あんたと戦う覚悟はもう出来ている」


 ノブナガは剣を抜きながら、前に歩み出す。

 それを見たハルサーマンはフンと笑う。


「お嬢様の願いの為か。面白い少年だ」


 ハルサーマンも聖剣を手に、台座から降りてノブナガに歩み寄る。

 ノブナガは歩きながら、ハルサーマンを観察する。


(レベル130……100越えはちょっと予想外だけど……頑張るしかない、か)


 ハルサーマンのレベルには驚いたが、ノブナガだってレベル20を15個持っているのだから、単純計算でレベル300だ。

 怖気付くにはまだ早い。

 後は、どれほど力量に差があるのかにかかっている。


 お互いの距離が20メートル離れた所で2人は足を止める。

 睨み合い、お互い剣を構え合う。

 この時、ノブナガは“剣術”の派生スキル[+身体強化]を発動させる。


 室内なので風が吹かない。

 雑音も何もない静かさが聖剣の部屋に流れる。

 お互い隙を見せない睨み合いが続く。


 何秒経っただろうか。

 永遠に感じる時間が流れ、そしてーー


「ハァァァア!!」

「ウォォォオ!!」


 今、元奴隷VS剣聖の戦いが始まった。

ハルサーマンのステータスです。

多分一生載せないと思うので、載せておきます。


======================

ハルサーマン 54歳

天紋:剣聖 レベル:130

HP:11780/11780

MP:10400/10400

PHY:11830

STR:13040

VIT:11750

INT:10400

MND:9110

AGL:11730

スキル:剣術[+身体強化][+武器強化][+振動両断][+無念心斬]・属性付与[+遅延発動]・気配探知[+特定探知]・剛力・金剛・光魔法[+遅延発動][+並列発動][+省略詠唱]・魔力探知[+特定探知]・先読・高速自己回復[+瞑想]・高速魔力回復[+瞑想]

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