元奴隷の戦い その2
遡る事、十数分前。
「ノブナガさん、私の願いを聞いてください!」
「はい!」
「ハルサーマンの聖剣入手を阻止します。手伝ってください」
「わかりました。では、行きましょう」
ノブナガとエリーナは立ち上がる。
エリーナの太ももは[+自己自動回復]にとって、きっちり治っている。
ダンジョンに入っても、足手纏いにはならないだろう。
一気にダンジョンを突っ切り、ハルサーマンの聖剣入手を妨害する。
「あのー、言いづらいんだけど、それは無理じゃないかなぁ」
ダンジョンに入ろうとするノブナガたちにそう言ったのは、木に繋がれた部隊の1人。
“魔導師”だった女性だった。
「どうしてだ?」
「だって、このダンジョンに出てくる魔物なんてハルサーマンさんの足元にも及ばないよ?もうすぐ最深部に着く頃だろうし、追いつかないよ?」
確かに、あのオーラを纏う“剣聖”に低級ダンジョンに出てくる魔物が相手になるとは思えない。
もう最深部にある扉に着いている可能性は十分にある。
「地図あるか?」
「え?地図なら、そこの鞄の中にあるけど……」
ノブナガは部隊が持ち運んでいる鞄の中を弄り、ダンジョンの地図を取り出す。
地図を見て、ふむふむと頷くノブナガ。
少し考える素振りを見せた後、パッと顔を上げる。
「うん。大丈夫です。まだ間に合います」
「ほ、本当ですか!?」
「えぇ。俺に秘策があります」
ノブナガはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
それを見たエリーナは思った。
「あ、これはヤバいやつだ」と。
少し不安になりながらも頷くエリーナさん。
(あ、そういえば……)
ダンジョンに入ろうとしたノブナガは、部隊の者たちから天紋を奪った事を思い出した。
あの時は、早く終わらせたい一心でやったせいで何も考えずに“簒奪”してしまった。
一応、ステータスを確認しておく。
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ノブナガ 12歳
天紋:剣士・暗殺者・投術師・拳闘士・槍術士・斧術士・水術師・闇術師・錬成師・魔法剣士・魔導師・治癒師・魔弓士・魔闘士・魔術師 レベル:20
HP:11970/11970
MP:10760/10770
PHY:12630
STR:10490
VIT:10050
INT:11620
MND:10640
AGL:11100
スキル:簒奪・投擲術[+即擲][+連擲]・剣術[+二刀流][+身体強化][+武器強化]・歩法術[+立体移動][+無拍移動]・短剣術[+二刀流]・気配探知・格闘術[+身体強化]・錬成[+鉱物鑑定][+遠隔錬成]・水魔法[+遅延発動][+並列発動]・闇魔法[+遅延発動][+並列発動]・隠形[+影狼]・遠目・属性付与[+武器強化][+遅延発動]・槍術[+武器強化][+身体強化]・斧術[+身体強化]・金剛・剛力
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「かはっ」
ノブナガさんが吐血した!!
ノブナガさんが膝から崩れ落ちた!!
ノブナガさんが四つん這い状態になった!!
「ノ、ノブナガさん!?どうしたんですか!?」
エリーナがなんかもう絶望した状態のノブナガに回復魔法をかける。
どこから血が出たのかわからない吐血が止まり、ノブナガの心もようやく落ち着いてきた。
(どうしよう……この人たち悪いわけじゃないのに、天紋奪ってしまった……)
いくらあの時、血が上っていたからと言ってやり過ぎた事を自覚するノブナガ。
しかも、その血を上らせた対象はまったくの別人である……
ノブナガは立ち上がり、拘束している部隊の者たちの所に行く。
そして、ノブナガは拘束しているロープを解いてしまった。
「え?ちょっ、どういう事?」
「??」
突然拘束を解かれた事に混乱する、元“魔導師”と元“治癒師”。
そんな2人に、ノブナガは金貨5枚を取り出して渡した。
「いや、ちょっと何がしたいのかわからないです」
「私もわからないです」
突然金貨を渡され、真顔になる2人。
「ステータスプレートを見てもらったらわかると思うけど、あなたたち5人はもう紋有りじゃない」
「…………え?」
「ッ!?」
最初は何言ってんだ?という顔だったが、自身のステータスプレートを見て、あるはずの天紋とステータスがなくなっている事に気づく。
「なので、その金貨で他国に渡ってください。他国に行けば、この国の軍も追えないでしょう。ステータスプレートは偽装しますから」
ノブナガは5人のステータスプレートを手に取り、ステータスプレートの機能を弄る。
ステータスプレートは大昔に“魔導師”が作った物だから、“魔導師”の天紋を持っていれば弄る事は容易いと考えたのだ。
その考えは正しかったようで、5人のステータスプレートには非戦闘向けの天紋と適当なステータスが載っていた。
「これで大丈夫です。3人が目覚めたら、すぐにここから立ち去ってくださいね。じゃあ、行きましょう。エリーナさん」
「は、はい!」
時間も惜しいので、ノブナガは急いでダンジョンに入って行く。
ダンジョンの中は洞窟のようになっていて、壁に付いてある鉱石が光を放って中を照らしている。
「そ、それで、どうやって追いつくんですか?」
「地図を見た限りだと、このダンジョンは複雑に入り組んだ20層でできています」
「なるほど。それで?」
「つまり、こうするんですよ。“錬成”」
ノブナガは地面に手を付くとスキルを発動させた。
すると、ノブナガたちの地面が急に無くなった。
「へ?きゃーーーーーーーーーーー!!」
突然襲われる浮遊感。
エリーナは悲鳴を上げながら落下していく。
そんなエリーナを先に2層にたどり着いたノブナガがキャッチする。
「おっと。大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫じゃないです……」
ノブナガの腕の中で小動物のように震えるエリーナさん。
少しやり過ぎたと思った、ノブナガ。
そう、ノブナガ言っていた秘策とはこの事である。
要は「馬鹿正直に進まなくても、穴開けちゃえばいいじゃん?」という事だ。
今まで“錬成師”がダンジョンに入る事がなかったので、誰も思い付かなかったのだ。
これで、入り組んだ道を進まずに下の層に行ける。
「すいません。俺がこのまま抱えた状態で行きますね」
「お願いします……」
(そこは素直に受け入れるのか……)
エリーナが遠慮せずに受け入れた事に、そこまで怖かったのかと思うノブナガ。
それからは、ノブナガが地面を“錬成”で穴を開けていき、あり得ない速度で進んで行く。
ただ下に移動しているだけなので、魔物に遭遇する事もない。
たった数十秒で、最深部の20層にたどり着いた。
「ここが20層ですね」
「あ、あの、下ろしてください……」
「あ、すいません」
抱きかかえていたエリーナを下ろすノブナガ。
そして、20層を見渡す。
ドーム状になった広々とした空間だ。
(ここが、このダンジョンの最深部か)
「ノブナガさん。あれ」
エリーナが指差した方にノブナガは目を向ける。
そこにはステージのような台の奥に古びた扉があった。
そこが、聖剣がある場所なのだろう。
その扉に歩み寄り、前に立つノブナガたち。
しかし、扉が開く事はない。
「?」
扉が開かない事に首を傾げるエリーナ。
そんなエリーナとは裏腹に、ジッと扉を見つめるノブナガ。
何秒か見つめた後、納得したような声を漏らす。
「ああー、なるほど。そういう事だったのか」
「何かわかったんですか?」
「はい。この扉はアーティファクトの一種です。“剣聖”の天紋を持った者しか入る事ができない仕掛けになっています」
「それを知っていて……だから、ハルサーマンがわざわざやって来たんですね」
なぜ、ノブナガにそんな事がわかるのかというと、ノブナガが“魔導師”の天紋を得たのが理由である。
“魔導師”の必須スキル“生成”の派生スキル[+術式鑑定]によって、扉の術式を見破ったのだ。
「それじゃあ、どうやって入れば……」
「いえ、これも“錬成”で行けます」
「え?でも、“剣聖”しか入れない仕掛けなんじゃ……」
「確かに“剣聖”しか入れない仕掛けですけど、その効果が薄い所を狙えば!」
ノブナガはアーティファクトの扉から1メートルほど右にズレ、「“錬成”!」と唱える。
アーティファクトの魔力に抵抗されるが、本人も吐血するようなMPでゴリ押しする。
5秒の拮抗ののち、“錬成”が完了する。
ノブナガが“錬成”した所に第2の扉が出来上がった。
「扉が無ければ作ればいい、ですよ」
ただ穴を開けるだけでもよかったのに、なぜ扉を作ったのかは……本人のみぞ知るパッションだった。
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てな感じで、現在に至る。
「奪還者?そんな者聞いた事がないな」
「今決めたんだから、当たり前だろ」
「……」
“剣聖”を前に怯える姿勢を見せないノブナガに、ハルサーマンは観察するような目を向ける。
一方エリーナは、ノブナガにジト目を向けていた。
なんとも言えない空気に囲まれ、ノブナガはわざとらしく咳をする。
「んんっ。それで?あんたが今持ってるのが、聖剣か?」
「いかにも。古びていて伝説の剣とは思えんがな。ん?そこの少女。どこか見覚えがあると思っていたが……もしや、エリーナお嬢様!!」
そこで、エリーナに気がつくハルサーマン。
エリーナは少し目を瞑って、心の準備をした。
「はい。お久しぶりです、ハルサーマン。あなたが元気そうで何よりです」
「お嬢様こそ、城を抜け出したと聞いた時は驚きました。元気になされていて何よりです」
エリーナだとわかっても、すぐに剣を抜こうとしないハルサーマン。
それでもノブナガは、いつでも戦えるようにハルサーマンから視線を逸らしていない。
「して、どうしてお嬢様がここに?聞いた話に寄りますと、王に叛逆したとの事ですが……」
「はい。そんな私はあなたにお願いをします。聖剣を置いて立ち去ってください」
「……それはできません。たとえお嬢様の願いでも、このハルサーマン。王の命令に背く事はできません」
「あなただって、わかっているはずです!あなたが忠誠を誓ったお父様は、正常のお父様ではない事を!!」
「えぇ、わかっております」
「ッ!?」
エリーナの言葉をあっさりと認めたハルサーマン。
それにエリーナ、ノブナガも驚く。
「今の王が、私が仕えようと思ったかつての王ではない事ぐらい、すぐにわかります。お嬢様が叛旗を翻した気持ちも、十分わかっております」
「それでは、なぜ?なぜ、お父様の命令に従うのですか?」
「…………妻と娘が、人質に取られているのです」
「「ッ!?」」
ハルサーマンが放った言葉に、ノブナガたちは目を剥いた。
エリーナはつい手で口を押さえる。
「いつもは、常に使い魔で監視されているのですが……この“剣聖”しか入れない部屋のおかげで監視が遮断されています。しかし、聖剣を持ち帰らなくては……」
ハルサーマンの言葉がそこで途切れる。
それだけでも、その後に言う言葉は想像が付いたノブナガたち。
暗い空気が、聖剣の部屋に流れる。
「しかし、お嬢様が来てくださって感謝します」
「?」
「私も、国が聖剣を保有するのは気が乗りません。監視の目を誤魔化すためにも……この聖剣、私から力尽くで奪ってください!」
ハルサーマンが頭に描いたシナリオは、聖剣を手にした所に襲撃に遭い、抵抗したが倒され奪われた、という物だ。
“剣聖”を倒すほどの者がいるとわかれば、自体はその者の正体を探る方に視点が行くだろう。
今のこの国なら、喉から手が出るほど欲しいと思うはずだ。
「少年。“剣聖”ハルサーマン。レベルは130。手加減などしない。お前が死ぬかもしれない。それでも、私と戦うか?」
「…………決まっている。俺はエリーナさんのお願いの為に来たんだ。あんたと戦う覚悟はもう出来ている」
ノブナガは剣を抜きながら、前に歩み出す。
それを見たハルサーマンはフンと笑う。
「お嬢様の願いの為か。面白い少年だ」
ハルサーマンも聖剣を手に、台座から降りてノブナガに歩み寄る。
ノブナガは歩きながら、ハルサーマンを観察する。
(レベル130……100越えはちょっと予想外だけど……頑張るしかない、か)
ハルサーマンのレベルには驚いたが、ノブナガだってレベル20を15個持っているのだから、単純計算でレベル300だ。
怖気付くにはまだ早い。
後は、どれほど力量に差があるのかにかかっている。
お互いの距離が20メートル離れた所で2人は足を止める。
睨み合い、お互い剣を構え合う。
この時、ノブナガは“剣術”の派生スキル[+身体強化]を発動させる。
室内なので風が吹かない。
雑音も何もない静かさが聖剣の部屋に流れる。
お互い隙を見せない睨み合いが続く。
何秒経っただろうか。
永遠に感じる時間が流れ、そしてーー
「ハァァァア!!」
「ウォォォオ!!」
今、元奴隷VS剣聖の戦いが始まった。
ハルサーマンのステータスです。
多分一生載せないと思うので、載せておきます。
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ハルサーマン 54歳
天紋:剣聖 レベル:130
HP:11780/11780
MP:10400/10400
PHY:11830
STR:13040
VIT:11750
INT:10400
MND:9110
AGL:11730
スキル:剣術[+身体強化][+武器強化][+振動両断][+無念心斬]・属性付与[+遅延発動]・気配探知[+特定探知]・剛力・金剛・光魔法[+遅延発動][+並列発動][+省略詠唱]・魔力探知[+特定探知]・先読・高速自己回復[+瞑想]・高速魔力回復[+瞑想]
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