まだ冒険には出れません その3
今日の1時頃にも投稿しているので、まだ読んでない方は前のページに戻ってください。 作者より
夕方の街を1人歩く、ノブナガ。
向かう先は、一昨日旅道具を購入したお店。
昨日の戦闘で、旅服がボロボロになってしまったので新しい旅服を買いに行くのだ。
宿からそれほど離れていないお店に到着し、前に購入した物と同じデザインの服を購入する。
あっさりと目的の物を買ったノブナガは、次の目的地に向かって歩く。
今度向かっているのは、防具屋だ。
戦闘服は旅服でいいとして、殴る際に一々痛いのが面倒だと思ったノブナガは手甲を買う事にしたのだ。
防具としても使えるし、手をカバーできる。
エリーナと約束している時間にはまだ余裕があるので、今日中に揃える事にしたのだ。
旅道具屋の店員さんに聞き、防具屋に行く。
聞けば、防具屋は旅道具屋に行く前に訪れた武器屋の隣らしく、武器屋の時に聞けばよかったと若干後悔しているノブナガさん。
(着いた……)
戻るように歩いて来たノブナガは防具屋にたどり着いた。
中には甲冑がズラリと並んでおり、胸当てや手甲などの軽防具は棚に並べられたり飾られたりしている。
ザッと見回す、ノブナガ。
手甲が並んでいる場所を見つけ、1つ1つ見てみる。
(重くて、ちょっと振りづらいな。素材は……鉄だ。手甲で鉄なんて使うか?)
“錬成”スキルの派生スキル[+鉱物鑑定]によって、使われた素材を看破するノブナガ。
それを使い、次々と手甲を見ていく。
しかし、中々良い物が見つからない。
妥協しかけたその時、ふと飾られている物が目に入った。
(あれは……)
導かれるようにそれを手に取るノブナガ。
光が反射し、輝いているのではと思う銀色のフォルム。
重圧感はあるが、重たいわけではない。
ノブナガは派生スキル[+鉱物鑑定]を発動する。
(素材は……アルザンタイト?)
ノブナガは奴隷だったから(以下略)。
実はアルザンタイトとは、この世界で最も硬い鉱物と言われている物だ。
生産量が少なく、“錬成”するには余程の腕が無ければできないとされ、それを素材とした物は例外なく高額である。
あるのだが……
コンコンコンコンッ
(お!こいつ、すげぇ!すごく硬い!!)
コンコンコンコンッ
商品を叩いて耐久力を確認していた。
良い子の皆さんは、絶対に真似しないでください。
売り物を叩いてはいけませんよ!
(こいつにするか。えーと、値段は……金貨1枚か。よし、買おう)
即決だった。
金貨1枚を見て、即決したノブナガさん。
金貨が国を動かす通貨である事を完全に忘れているノブナガさんであった。
「これ、ください」
「こ、これっすか?」
「はい」
店員さんが顔を引き攣らせていた。
そりゃそうだ。だって、金貨1枚だもん。
しかし、そんな店員など知った事か!と金貨1枚をポイッと出したノブナガさん。
その光景に、さらに顔を引き攣らせた。
もう店員さんの顔が変顔になっている!
もちろん、そんな変顔な店員さんをスルー。
購入した“アルザンタイトの手甲”を持って、防具屋を後にしたノブナガさん。
「うあっ!お前、なんて顔してんだ!?」
後に防具屋に響いたのは、店の奥から出てきた店長が店員の顔を見た、そんな言葉だった。
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「あ、エリーナさん」
「ノブナガさん!すいません、お待たせしてしまって」
「いえ。今来たところですから」
宿の酒場のカウンター席で合流した、ノブナガとエリーナ。
2人共、買い物の方はどうだったかを話している。
「よお!坊主たち!今日はなんにするよ?」
そこで“調理師”のおじさんーータイヤンが入ってくる。
「今日はちゃんとお金がありますから大丈夫です!」
「はははは、そうか。で、今日はなんにするだ?」
「昨日と同じ物をください」
「じゃあ、俺もそれでお願いします」
「はいよ!1人、大銅貨7枚と銅貨5枚だ!」
ノブナガたちはお金を払い、料理を待つ。
タイヤンは料理の為に奥に消えてしまった。
「今日は、俺のせいで狩りに出かけるのが遅くなってすいませんでした。明日は、朝から行けますので今日の倍は稼げるように頑張ります」
「いえ、そんな!戦えない私の代わりに戦ってくださっているのに、文句も何もないですよ!!」
今日は狩りに行く前に薬剤屋に行ったせいで、狩りの時間が減ってしまった事を謝るノブナガ。
そんなノブナガに申し訳ないようなエリーナ。
2人共、未だに敬語だが、昨日と今日で打ち解け合えている気がする。
「そう言えば、戦っていないエリーナさんもレベルアップするのなんでなんでしょう?」
「さあ?わからないです」
そう、今日の魔物とも戦闘でエリーナは戦闘に参加していない。
にも拘わらず、エリーナのレベルは3上がった。
それが、ノブナガにとっては謎なのであった。
(まぁ……それはおいおいわかるかもな。なんとなく、そんな気がする)
運ばれて来た料理に舌鼓を打ちつつ、今後の予定を決める。
料理を食べ終え、自分の部屋に戻る。
(今日は平和だったな)
ベッドに転がりながら、そんな事を思うノブナガ。
ここ連日、事件に巻き込まれてばかりだったノブナガにとって、今日のような平和な1日に飢えていたのである。
その平和な1日をベッドの上で転がりながら噛み締める。
(さて、今日はもう寝よう。明日も狩りだ。しっかり休んで、明日に備えないとな)
瞼を閉じ、意識を落としたノブナガ。
この時のノブナガは、まだ気づいていなかった。
自分の身に降り注ぐ、危機を。
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2日後。
あれからノブナガたちは魔物を狩ってはレベルを上げ、魔石を換金してエリーナの荷造りを進めていった。
これが、現在の2人のステータスだ。
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ノブナガ 12歳
天紋:剣士・暗殺者・投術師・拳闘士・槍術士・斧術士・水術師・闇術師・錬成師・魔法剣士 レベル:20
HP:6750/6750
MP:5610/5610
PHY:7200
STR:6120
VIT:5470
INT:6220
MND:5650
AGL:6330
スキル:簒奪・投擲術[+即擲][+連擲]・剣術[+二刀流][+身体強化][+武器強化]・歩法術[+立体移動][+無拍移動]・短剣術[+二刀流]・気配探知・格闘術[+身体強化]・錬成[+鉱物鑑定][+遠隔錬成]・水魔法[+遅延発動][+並列発動]・闇魔法[+遅延発動][+並列発動]・隠形[+影狼]・遠目・属性付与[+武器強化][+遅延発動]・槍術[+武器強化][+身体強化]・斧術[+身体強化]・金剛・剛力
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エリーナ・アンディエル 13歳
天紋:聖女 レベル:30
HP:2710/2710
MP:2730/2730
PHY:2720
STR:2400
VIT:2400
INT:2720
MND:2720
AGL:2710
スキル:回復魔法[+状態看破][+状態自己回復][+遠隔回復][+広範囲回復][+自己自動回復]
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だんだんノブナガのバグり度が上がって来ていた。
魔物を狩る際に魔法を積極的に使っていた事で、初級魔法の詠唱は完璧に覚えてしまった。
MP的には上級魔法も撃てたりする。
槍術と斧術も使えたり、もう旅に出てもなんの障害もないだろう。
逆に、襲ってきた野盗の方が心配になってしまう。
エリーナも、ノブナガが途轍もない速さで魔物を倒してしまうのでレベルが30になった。
魔石もたくさん手に入り、荷造りも整った。
もう旅に出てもいいだろう。
そんな2人は今、夜の街を歩いている。
この街に来て2人共いろいろあったが為に、街を観光していないのだ。
魔物狩りも終え、2人で街を廻る事にしたのだ。
「こうやって街を廻るのも楽しいですね」
「はい!この街に来て、ドタバタしてばかりでしたから。ゆったりとした時間が楽しいです」
ノブナガたちはいつもとは違う道を進む。
ノブナガたちがいるのは、さまざまな売店が並んだ場所だ。
串肉やコロッケなどを食べ歩きしながら、楽しく会話して歩いている。
そこで、エリーナが小物店を発見し小走りで行く。
それをノブナガは歩きながら追いかけてみると、指輪やイヤリングなどが置いてあった。
「わぁ、綺麗……」
「何か欲しい物がありましたか?」
「え?い、いえ、その……」
ノブナガがそう聞いてみると、エリーナは微妙な反応をする。
チラチラと目を動かしているので、その方向へ視線を向けるノブナガ。
そこには青い石が嵌められたネックレスがあった。
(ああ、なるほど)
そのネックレスを見たノブナガはつい苦笑いする。
値段を見ると、銀貨1枚となっていた。
魔石を換金してお金は持っているものの、金銭的余裕があるわけじゃない。
欲しいが買えば、旅に出るのが遅れてしまう。
そう考えているのだ。
(相変わらず、我儘を言えない人だなぁ。エリーナさんは)
エリーナの心情を察したノブナガは、最良の手を打つ事にした。
「すいません。これください」
「はいよー」
「え?」
ノブナガは店員さんに銀貨1枚を渡し、青い石のネックレスを購入する。
その光景をわからないといった風に見る、エリーナ。
「エリーナさん。少し頭を下げてもらっていいですか?」
「は、はい」
ノブナガとエリーナの身長は一緒ぐらいなので、少し頭下げてもらう。
そこに、頭を通して購入したネックレスを掛けてあげるノブナガ。
「やっぱり。エリーナさんに似合うと思ったんですよ」
「え?そ、そうですか……?」
「はい、とても似合ってますよ。よかったら、受け取ってください。男の俺が付けるのも、あれなんで」
「い、いいんですか?」
「似合う人が付けるのが1番ですよ」
「そ、それじゃあ、頂きます。ありがとうございます!」
エリーナは嬉しそうに笑顔を見せると、ノブナガにお礼を言う。
それを見て、ノブナガは買ってよかったと心の底から思った。
それから歩き続けるが、これといって何かあったわけじゃないので喫茶店のような所に入った。
外の街路が見てる席に向かい合うように座り、運ばれて来た紅茶を飲む。
歩き廻ったので、紅茶が身に染みるようだった。
「今後の予定なんですけど、どうしますか?」
「私はもうすぐ荷造りが完了します。いつ旅に出ても問題ないです」
「そうですか。俺もレベルが申し分ない所まで行けたので、いつでも旅に出られます」
2人共、もう旅立つ準備はできている。
後は旅立つ日と場所を決めるだけだ。
「私は南にいこうと思っていました。南にはさらに田舎の村がありますから、協力者を探すならそこだと思っています」
「わかりました。それじゃあ、旅に出る日ですが……余裕を持って2日後にしましょう。明日は荷物を纏めて、次の日に旅立つという事で」
「はい。2日後ですね」
日程も場所も決まった。
その時、2人は外が騒がしい事に気がつく。
何事かと窓から外を見れば、大勢の人が街路の真ん中を開けるように群がっていた。
その開けられた中央を馬に跨った者たちが、通り過ぎて行く。
格好は別々だが、通り過ぎて行く者たちには共通して、竜の絵の前に2本の剣がクロスされたエンブレムを胸元に付けていた。
そして、1人埒外の威圧を纏った者が通り過ぎた。
腰には剣を帯剣している。
(そういえば、この前“剣聖”が来るって言っていたな。てことは、あれが“剣聖”……なんて威圧だ)
ノブナガは生で“剣聖”を目にし、その者が纏っていたオーラに冷や汗を流す。
あのオーラは、長年戦場で戦い抜いて来た者にしか放てないオーラだと、ノブナガは本能で感じたのだ。
そこでふと、ある事に気づくノブナガ。
「エリーナさん?」
さっきからエリーナが静かな事に気づき、声をかけるノブナガ。
しかし、エリーナはそれに反応しない。
ずっと窓から外を見ている。
そして、ようやく口を開いたかと思うとそれはノブナガに返した言葉ではなかった。
「ハルサーマン……」
「ハルサーマン?」
「この国に長らく仕える……“剣聖”です……私が生まれた時には、もう軍将になっていました。なんで……あの人が、こんな所に……」
怯えたように呟く、エリーナ。
まるで独り言のような小さい声に、ノブナガはもう一度“剣聖”を見る。
(軍将……そんな奴がこの街に?はぁ……面倒がやってきた)
心配のベクトルがおかしい、ノブナガさん。
今日はもう宿に戻り、エリーナを休ませる事にした。




