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僕とあなたの紅い日常  作者: かツぢ
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紅と獣

__ここはどこだろう

 僕は目に痛いほど紅い紅葉の並木を見上げながら紅葉が作る道の先へ、先へと歩んでいく。生い茂る紅葉の間から覗く青い空は今の季節_夏を思い浮かべた。

 一度は帰ろうと身を翻したものの後ろは全て紅葉で塞がれ帰る術はなかった。僕にできることはこの道を歩き続けこの道の帰り方を知っている人を探すだけだ。

「でもこんなに綺麗な紅葉でもさすがにずっと続くと気が狂いそうになるな…」

 そんなことを呟いて僕は延々と続くような終わりの見えない道の先を見つめた。

 呆れに似たような溜め息をついて再び足を前に運ぼうとした瞬間、強い風が吹いた。

 もしこれがいつも日常であればこんな風はきっと気にしていなかった。

 けれどここは僕の日常とは違う。夏だというのに紅葉の生い茂る道、鳥の鳴き声どころか先ほどの強い風でさえ音を立てない木々そん中で吹く風に気を止めるのはきっと普通なのだろう。いや、普通であってほしい。

 それにしてもさっきの風はあまりにも不自然だった。僕の背中から通り抜けたのなら普通はそのまま前へと通り抜けるのであろうその風は僕の鼻先の寸前で不自然に左へと曲がり風の流れは僕の背中を押していく。まるで僕を導くかのように過ぎ去っていったのだ。

 風が過ぎ去っていった方向を覗き込むとそこは零れ落ちた紅葉が溢れる道とは思えないような道だった。道の奥をじっと見つめてみると奥からまた風が吹きおいで、と誘い込むような声が聞こえた気がした。

 足元の紅葉が乾いた音を立てて道の中へと吸い込まれていく。僕はその紅葉と同じように道の中へと吸い込まれていった。

 道とも呼べないその道は日が差し込んでいるというのに薄暗く、先ほどの風も嘘かのように風が吹いていなかった。

 夜よりも淋しい静けさが冷たい空気となり僕の体に纏わりつく。

 帰ろうと後ろを振り返るとそこには引き返すのを待ち構えていたかのように手入れが入った道が準備してある。

 葉の間から漏れる暖かい陽射し、葉がゆるやかな風に靡くその様子はとても綺麗だった。

(そうか、今僕が歩いている道はきっと間違っているんだ。)

 そんな思いを呼び起こされ、僕は今歩いている道に背を向け綺麗な道へと足を向ける。

 紅葉の葉が靴越しに潰れる感覚とともにぐしゃりと独特の音が鳴る。静かなこの空間ではそんなことさえ大きな音に聞こえる。

 僕が綺麗な歩道へ足を踏み出そうとしたその時だった。


___とても強い風が吹き荒れた。


 風は僕を元の道へと押し込むように吹き、周りの木々は風により折れんばかりにうねる。足元の紅葉は舞い上がり僕の視界を犯していく。

 風を避けるために手を顔の前にやり、指の間から綺麗な道の方をじっと見つめる。

 視界を犯す紅葉の微かな隙間から道は見える。もしかすると、足に力を入れて歩みを進めれば道の方へ行けるかもしれない。

 きっと、この風は何か悪い妖怪が僕のことを騙そうとしているんだ。

 自分に言い聞かせるようにそう思い、ゆっくりと、確実に道の方へ歩みを進めていたその時だった。


 音が止み、風が消えた。


 舞い上がっていた紅葉はゆっくりと地面に落ち、視界が開けていく。

 やっとまともに歩ける…。安心をしてほっと息をついて開けていく視界の中で道の方をじっと見つめた。

 その時、そこにはあるはずがない色に違和感を感じた。


『白』


 それはここにあるはずがない色だ。目を凝らし、もう一度色が見えた場所を見つめる。

 降りていく紅葉の隙間から見えたのは白い毛並みと僕を睨みつける黒い目。黒い目は僕を鋭く睨み、今にも襲わんとばかりに構えていた。

(逃げなくちゃ…)

 自分がそう思っても足は動いてくれない。力が入らない。

「ぁ……」

(怖い。怖い…。足が動かない)

 紅葉は全て落ちきり、獣の姿が顕になった。

 幾つもある尻尾、息をするたびに脈打つ白い身体、口元から覗く牙、その全てが僕の恐怖心を掻き立てる。

 一歩、一歩と獣が近づく度に鼓動が速くなる癖に足は一歩として動いてはくれない。

「…たすけッ」

 乾いた口から漏れるのは掠れた懇願の声。

 これが本当にただの獣や知能のない妖だったとしたらこんな言葉は意味を為さない。

 ただ、もしもこれが知能を持つ妖だとしたら…。そう思い言葉を口にした、がそんなのはどうやら無駄なようだ。

 獣が足を踏み出し僕に襲いかかってくるその瞬間、また強い風が吹いた。

 風は僕の体を押し倒し通り過ぎていく。

 どさ、と僕が倒れる重く乾いた音と共に軽やかに着地する音が聞こえる。

 顔を上げると僕が立っていた場所には獣がその白い牙を剥き出しにしていた。

 偶然…奇跡にも近かった風はもう吹く様子もない。獣は僕の方をじっと見つめ再度襲いかかろうと足をこちらへ向けた。

 その時、僕は本能的に立ち上がり獣のいる反対側…荒れた道に身体を向け走り出した。

(死にたくない。死にたくない。死にたくない)

 助けを呼ぶ声も出せないほど切羽詰まっていた僕はただ走り続けた。

 聞こえるのはガサガサと僕の足元と後ろからする紅葉を踏みつける音、笛のように高く五月蝿い自分の呼吸だけだった。

 不安定な足元は木の根がゴツゴツと盛り上がり走る邪魔をする。

 後ろを向くことさえもできず走り続け、時折聞こえる獣の咆吼とその息遣いが近くにいると実感をさせ僕の心を急き立てる。

 こんなことならもっと体を鍛えるべきだった。

 次第に疲れのせいで動かなくなっていく足を強引に動かして、前へと進み続ける。

「…あっ」

 それは小さな木の根のでっぱりだった。

 引っかかってつまずいて転ぶ。その動作にかかった時間は2秒もないと思う。

 早く立たないと食べられてしまうのに、身体は言うことを聞かず力が入らない。

 せめてもの思いで顔を上げて前を見ると、そこには人が住んでいそうな屋敷があった。

「っ、助けて!誰か!助けて!」

 喉から声を絞り出して叫ぶ。

 収まらない鼓動、荒い呼吸、霞む視界。

 後ろから近づく足音は耳元からしてる気がした。

 酸欠か、ストレスか、意識は薄く夢に落ちるような感覚になっている。どこか繊細で落ち着いていた意識の中で僕は死にたくない、と言葉を零して暗闇に引きずり込まれた。

続き書くのすっごい遅れました!

今、他のとこで溜まってることがあるので当分(?)投稿しません!!!!!!!!!

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