山本幸三 地方創生大臣の「学芸員はがん」発言について
昨日(2017/04/16)、安倍内閣の山本幸三 内閣府特命担当大臣(地方創生・規制改革)が「学芸員はがん」だという趣旨の発言をしたことが波紋を呼んでいる。
発言要旨は産経新聞のこの記事に記載されているので、詳しくは割愛する。
http://www.sankei.com/politics/news/170417/plt1704170022-n1.html
はじめに、この発言の何が問題なのかについて簡単に説明する。
まず、山本氏は発言の中で「日本ではいったん国の重要文化財に指定されると、火も水も使えない。花も生けるのも駄目、お茶もできないというばかげたことが当然のように行われており、一番のがんは文化学芸員と言われる人たちだ。」として、あたかも文化学芸員が地方創生の“抵抗勢力”であるかのようにレッテル貼りをしている。
しかし本当にそうであろうか。
そもそも文化財の保護については、文化財保護法という法律があるわけで、しっかりと管理されていない状況で客引きのために用いろというのは、政治家が法律を蔑ろにしてもいいと言ったに等しい。曲がりなりにも政治家であるならば、関連法規について多少の知識をつけてから発言してほしい。
以下に掲載するのは、「新詳日本史」(浜島書店,2011)の文化財保護に関するコラムである。
高校日本史の資料集にすら掲載されていることを、現職の国会議員が理解していないのは嘆かわしい。
つづいて、「この連中は普通の観光マインドが全くない。」として文化学芸員をやり玉に挙げているが、当然である。文部科学省のホームページには「学芸員は、博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究その他これと関連する事業を行う『博物館法』に定められた、博物館におかれる専門的職員です。」と明記されており、観光事業はあくまで副業でしかない。
また、学芸員になるために必要な「博物館に関する科目」というのも文部科学省のホームページに記載されているが、観光論にまつわる授業は開講されていない。
もしも本当に「文化学芸員に観光マインドが必要だ」とおっしゃるなら、関連法規を国会で審議してからにしてほしい。根拠なく「文化学芸員が悪だ」と述べたのであれば、職業に対する偏見が甚だしいとして、大臣不適格だとみなされても仕方がないのではないか。
さて、ここまでは山本氏の発言の問題点について述べてきた。しかし、なぜ山本氏がこのような発言をするに至ったかを分析しないことには、今後も似たような失言問題が繰り返されるだけである。
こうした分析は以下のTogetterまとめが詳しいので、そちらに譲ることにする。
山本地方創生相「学芸員はがん」発言の背景
https://togetter.com/li/1101448
山本幸三「学芸員はガン」発言についてのまとめ。
https://togetter.com/li/1101435
ここでは、山本氏の政治経歴の観点から、こうした偏見の原因を探っていくことにする。
山本氏は当選回数7回のベテランであり、選挙区は福岡10区である。
福岡10区は北九州市門司区・小倉北区・小倉南区を抱えており、自由民主党、民進党、共産党が長年競ってきた地域である。選挙区内には「北九州市立文学館」が存在するだけでなく、隣接する福岡9区には先進的な研究機関としても世界的に有名な「北九州市立いのちのたび博物館」が存在する。
北九州市はこうした文化振興に力を入れており、筆者(大学生)の周りでも大変評価が高い。
こうしてみると、山本氏が学芸員に偏見を持つ理由がなさそうに見えるが、実は山本氏の本来の地盤は福岡10区ではない。
これは、小選挙区比例代表並立制の導入に伴い、旧来の福岡4区が福岡10区と福岡11区に分断されたことに起因する。
福岡11区は、行橋市、京都郡(苅田町、みやこ町)、豊前市、築上郡(築上町、吉富町、上毛町)、田川市、田川郡(糸田町、大任町、川崎町、 香春町、添田町、福智町、赤村)を抱えており、根強い保守地盤であった。そのため保守分裂選挙になることが多く、山本氏は前々回の選挙においても比例九州ブロックへの鞍替え選挙を余儀なくされていた。
つまり、自らの選挙区が含まれる北九州市の学芸員の状況について、山本氏が詳しく理解していなかった可能性があるのだ。
さらに言うと、山本氏は大蔵省OBであり、政治家に転身した後も経済産業副大臣を経験するなど、どちらかというと財務畑という印象を強く受ける。ご本人の出身学部も経済学部であり、経済に関する著作も多いことから、文化財については門外漢といっていいだろう。
結局のところ、山本氏は規制改革担当大臣としては適格であっても、地方創生担当大臣としては不適格であるとみなすのが妥当だろう。
そもそも地方創生担当大臣には地方首長経験者や地方議会経験者を持ってくるのが好ましく、そうした経験のない国会議員を任命したというのは明らかな失策である。
今回の問題を踏まえて、適切な人材が適切な役職に就けるような内閣改造が行われるよう、自民党支持者の一員として強く願うものである。
追記 個人的にはもっと言いたいこともあるのだが、「山本氏の発言に関する論評」という趣旨から大きく外れることになりかねないので、今回のエッセイでは省略した。
機会があれば書きます(小並感)