part2
リビングにいる将来のお義母様に挨拶して、二階にある美玖ちゃんの部屋へ。この部屋はいつ来ても、美玖ちゃんらしくシンプルにまとまってる。一見特徴が無いように見えるけど、本棚に収まっている大量の文庫本だけでも、美玖ちゃんの人となりが見てとれる。お堅いように見えて、そのほとんどは恋愛小説ばっかり、サバサバしてるのは表面だけで、その実結構な乙女さんなのだ。ちなみに私の本棚は少年漫画が多め、いっつも弟が持って行ってそのまま返ってこない。絶対許さない。
「……ねえねえ美玖ちゃん、こっそりエッチな本とか隠してないの?」
無言で額を小突かれた。相変わらず痛い。
「ったく……で、ニナちゃん、一体何しに来たの?」
「うん、美玖ちゃんにありがとうを言いに来たんです!」
「さっき電話で言われたし、今玄関先でも言われたよね? もういいんじゃない?」
「違うの! もっと特別なありがとうを言いたいの!」
「無理して言うもんじゃないでしょ、ありがとうって」
くううう、流石美玖ちゃん、痛いところをついてくる。でも今回ばかりは負けるわけにはいかないの。美玖ちゃんへの感謝は本当に、それこそたくさんある。生まれてきてくれたことは勿論、私をきゅんきゅんさせてくれる事、テスト期間はお勉強教えてくれる事、何かある度に叱ってくれること、いくらでも好きって言わせてくれること、なによりも、
ひとりぼっちの私に手を差し伸べてくれた事。
「そういえば三月九日って記念日だよね。三年前の今日、初めて美玖ちゃんが私に話しかけてくれたんだったね。なつかしいなあ……」
「え、全く覚えてないんだけど」
「ええええええ、私達の初めてを忘れたの!?」
「言い方! 言葉端折りすぎだから! っていうか、そんなの覚えてるわけっ」
「覚えてるよ、私は。だって、本当に嬉しかったから」
「あ、そ、そうなの? それは忘れちゃってごめん……」
「あ、いいんだよ、ただ、ありがとうを言わせて? ひとりぼっちで友達もいなくてふさぎ込んでた私に話しかけてくれて、友達になろうって言ってくれて、本当にありがとう。この感謝は一生忘れないよ! うん、やっぱり今日は美玖ちゃんサンキューの日だね!」
そっか、今分かったよ。私は今日はこれを感謝するために、ここに来たんだね。
私がありがとうを伝えた瞬間、美玖ちゃんは何故か口をあわあわとしたまま固まってしまった。あれ、もしかして照れてるのかな? かわいいいいいいいい。
と思ってたら、予想外の言葉がぼそりと呟かれた。
「ニナちゃんって、本当ばか……」
「えええええええ!? なんでぇ!?」
「ほんと、ばか、いきなりそんな嬉しい事言うのやめてよ」
「……はぇ?」