part1
今日は三月九日、つまり私が愛しくて愛しくてたまらない美玖ちゃんの日なのです。そしてもう一つ、サンキューの日でもあるよね? って事は私は美玖ちゃんにありがとうを言わなきゃダメだよね!? というわけで、きらきらした言葉を考える事にした。できれば、今日だからこそ言える、特別なありがとうを贈れるといいよね。生まれてきてくれてありがとうってのは誕生日っぽいし、私を虜にしてくれてありがとうってのは毎日言ってるし、好き好き好き好き好きありがとうってそれじゃ何も繋がってないし、ああ、どうしよう、ありがとうが言いたいのに、ありがとうの理由が浮かばない。
というわけで本人に電話してみました。
「私って美玖ちゃんの何に一番感謝すべきかな?」
『感謝? 私別に大したことしてないでしょ。じゃあ昨日パン奢ったから、それで』
「ありがとう! 好きだよ!」
『ん、感謝してよね。それじゃ』
ぶつん、つーつーつー。
「終わっちゃった……」
いやいやいや、こんなの何も素敵じゃないよ!
「と、言う訳で遊びに来ました!」
「何がというわけでよ、何で来たのよ……」
今日は平日だけど、うちの高校は入試の関係でお休み、つまり家に押しかける以外に美玖ちゃんに会う方法はない。美玖ちゃんは寝ぼけ眼をこすりながら、いつもより三割増しで素敵なはすきーぼいすで、私をきゅんきゅんさせてくる。あまりにも可愛いから抱き着こうとしたら額を小突かれた。痛い。
「やめなさいっての」
「うぅぅぅ……美玖ちゃんつれないよぉ……」
「はーもう、寒いからさっさと入って」
「あ、入っていいの?」
「別に入っちゃダメとは言わないよ、変な事したらすぐ突っ返すけどね」
「美玖ちゃんの優しさにはいつも胸がきゅんきゅんしちゃうよ! ほんと大好き!」
「声が大きいっての、恥ずかしい……」
ため息交じりに、それでも家の中へ通してくれる美玖ちゃんの優しさに、胸の奥まで甘酸っぱい気持ちになりながら、私はお邪魔しますの声を家の中へと響かせた。