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カミナリの精霊


 ここはどこだろう。

 私には周りにいくつもの光の玉が浮かんでいる以外に何もわからない。まるで宇宙の彼方に見える煌々と輝く星々の中にいるみたいだ。

 冷静になってみると、私も、他の光の玉たちも、この広大で雄大な空間の中をどこかに向かって移動しているみたいだ。私の意思に関係なく私の視界は揺れ動く。もしかしたら、私も周りに浮かんでいる光の玉と同じような光の玉なのかもしれない。もしそうであるなら意思の疎通が図れるのではないだろうか。私は意を決して叫んでみる。


 「おーい。誰かこの状況がわかる方いませんかー?」


 音になっているかはわからない。私はありったけの力を込めて呼びかけた。

 私も光の玉なのかもしれない。自分の声が聞こえない。耳もなければ骨もないということか。私はそれでも叫び続けた。

 光の玉たちの意思の疎通方法は、光の強弱なのかもしれない。微妙に動くことなのかもしれない。それでも、私には叫ぶことしかできない。


 どれだけの時間がたったのだろう。時間の感覚がない。

 ただわかるのは、私たちが流れていく先になにか大きな光が見えることだ。疲労を感じない私は叫び続ける。このままでは、気が狂ってしまうかもしれない。そんな兆候はないが。私は叫び続ける。者によっては慈愛の光に見えるのかもしれない煌めきは私の心に恐怖を与え続ける。


 「おーい。誰かー! 誰かいないのかー!」

 「ん? なにかの思念を感じる。どこだ?」


 不思議な声がした。初めて私以外の意思を見つけた。私はその彼か彼女かわからない不思議な声の持ち主に語り掛ける。


 「私はここです! どなたか知りませんがここはどこなのでしょう?」

 「うーん。たしかに聞こえるのだが……少し待っていろ」


 返答が聞こえてきた。

 待っていろと言われた。私がその言葉に従いしばらく待っていると、急に周りの景色が変わる。


 「おまえか? わたしに思念を送ったのは?」

 「はい。私です。ここはどこなのでしょう?」


 さっきまでが夜空ならばここは何なのだろう。あたり一面は真っ白で椅子とそれに腰かける一人の人のように見えるものがいる。

 急な状況の変化にも関わらず動揺のない私は、その問いに答え、改めて問いかける。


 「面白い。おまえがさっきまでいたのは天界と冥界の狭間であり、ここは私の持つ空間だ。一種のプライベート空間だな。」


 待ちに待った答えは、全く予想していなかったものだ。いきなり天界だとか冥界だとか言われても意味が分からない。

 そんな中で一番わからないのは今の私の状態だ。天界と冥界の狭間ということは、私は死者ということだろうか。本来なら驚くところなのだろうが、不思議と冷静だ。だが、予想外すぎて、次に何を聞けばいいのかがさっぱりわからない。やっと答えが得られるようになったのに。記憶があまりないので考えが思いつかない。

 日本という国で高校という教育機関を卒業したことまでは思い出せたが、家族や友人といった他者のことは全く思い出せない。知識についても一部が欠落しているのだろうと予想する。

 そんな思考に耽っていると、また声が聞こえた。


 「おまえに問おう。今のおまえの状況をどう認識している?」


 不思議な声の持ち主の新たな問いに数秒の間をあけて、私は答える。


 「私は、死に天国と地獄どちらに行くのかの判決を聞くのを待っていたといったところでしょうか?」

 「少し違うが、まあいい。おまえはあのままでは浄化され新たな命として世界に誕生することになっていた。だが、いまは違う」

 「いまは違う?」

 「そうだ。今のおまえは私が創造神になったときの眷属神候補だ」

 「どういうことでしょう?」


 急な展開でついていけない。だが、なぜか混乱していない自分がいる。


 「順に話そう。私が天界と冥界の狭間にいたのは眷属神候補を探すためだったのだ。そして、おまえの思念を受け取った。本来あそこを漂う魂にはすでに意思はなくなっているはずなのだ。だが、たまに意思を保っている者がいる。今回ではおまえのことだな」


 なるほど。光の玉は魂だったのか。だが、納得した。何度呼びかけても答えないはずだ。意思がないのだから。話の流れからすると、この声の持ち主は、創造神見習い?とかなのだろうか。

 そんなことを考えているとまた声が聞こえてきた。


 「思考の整理はできたか? 意思を保ち続けていた魂というのは魂の格が高いということを示す。ゆえに、その魂を確保し自分の眷属とするのは、他の神々もよくすることなのだ。と言っても、本来は私よりももっと力のある高位の神に拾われ、天使にでもされてこき使われるだけなのだがな。そう考えるとおまえは運がいい」


 私は運がいいらしい。よくわからないが。


 「おまえを拾えたのは私にとっても幸運だった。眷属神といっても所詮は他者だからな。自身の敵になることもある。だからこそ、おまえには我が眷属神になり私の味方になってもらう」


 私には選択肢がなさそうだが、とりあえず聞いておこう。


 「あなたが言っていたように新たな生命として生まれ変わることはできないのでしょうか?」

 「できないだろうな。おまえは騒ぎすぎた。私があの場にいなくても他の神が来ていただろう」


 そうなのか。ならばこの神様の眷属になったほうがいいだろう。こき使われるのは嫌だし。私はこの提案を受ける。この神様にもこき使われる可能性があるが天使より眷属神の方が格が高そうだ。


 「わかりました。あなたの提案を受けます。」

 「うむ。よかった。実によかった。ならば、おまえの今後について話すぞ。よく聞け。おまえには精霊になってもらう」


 精霊。

 私の知る精霊は架空の存在だったはずだけど……

 またも始まる急展開に既に慣れかけている私は冷静に思考を続ける。


 「詳しいことは後で教えるが、精霊は位階を上げることで神格を得ることができるのだ。さらに、精霊がいる世界は精霊が世界の保全を行っていることが多い。そのため、神になるための訓練にもなる。よいか?」


 私がいた世界は精霊のいない世界だったのかな。まあ、神様の言うとおりにするしかない。


 「わかりました。具体的にはどうすればいいのですか?」

 「それについては、おまえの魂に直接焼き付けよう。こっちにこい」


 焼き付けるのか……ちょっと怖いけど仕方ない。

 それよりもどうすれば移動できるのだろうか。うーん。とりあえず神様のいる方に行こうとする。すると、滑るように神様のいる方に進んでいく。


 「よし。では、少し我慢せよ。」


 え? そして私は意識を失った。


 「本当に運が良かったようだな」


 そんな声が聞こえたような気がした。




-------




 目を覚ますと、そこは森の中だった。私は相変わらず光の玉だ。私の周りには大小様々な光の玉がいくつも浮いている。

 もう一度、よく周囲を見回してみる。私の知る森とは少し違うようだ。私の目の前の広場には太陽の光が燦々と降り注いでいる。泉のようなものも見えるがその泉の水もなんか輝いて見える。森といえばどこか薄暗く陰鬱な印象だったが、そんな雰囲気は一切ない。それどころか、温かみを感じる。

 そして、私の記憶と最も違っている部分は、光の玉に見えていたものは実はそれぞれ違う形をしていて、さらに言えば、その姿は物語の妖精のような人型から、犬や猫、ウサギに狸、トカゲに狼、さらに言えば頭が二つある蛇や犬や翼の生えたトカゲ。これはドラゴンでしょうか。

 ここまで違うと自分の姿も気になる。そんなことを考えていると一瞬頭痛が走った。


 私いや、俺は思い出した。

 どうやらあの神に魂をいじられて記憶を失っている間に精霊として転生させらたようだ。そのせいで、いくつか記憶を取り戻した。一番大きなことは前世の俺は男だったこと。そして次は、見知らぬ少年を助けて死んだことだ。

 他にもいくつかあるが、別にいいだろう。今の俺には関係のないことだ。


 あの神によって、俺はいくつか能力と知識を与えられたようだ。

 能力は大まかに三つ。『契約』と『雷』、そして『人の善悪を見る力』。

 知識の方は、神に関する事と精霊に関する事だった。

 これも追々確認していきたいが、今大事なことは、精霊としての格を上げて神格を得ることだ。そのためには、人間と契約して人間の持つ生命力や魔力や気力といったものを貰わないといけないらしい。この二つはいわば肉体の持つ力である。そしてそれを精霊の持つ精霊力と合わせることで神力を作ることができるらしい。その神力を蓄え、自らの力とすることで格を上げていくらしい。


 精霊は魔力または、気力を得るために契約をするらしい。この契約は画一的なものがなく、契約者同士で決めるらしい。そのため、どうしても力が強いものが有利になりやすいそうだ。特に、今の俺のような最下級の精霊は騙されたり脅されたりして不平等な契約をさせられることが多いそうだ。


 俺が与えられた能力のうち二つは、これを回避するための力らしい。


 『人の善悪を見る力』


 これはもともと精霊の持つ力らしいが、俺のはその強化版といったところらしい。普通の精霊のはそのもの自身の善悪をなんとなくしか分からないが、俺のは相手のしぐさや言葉といったものの善悪も明確に分かるらしい。うまく使えば相手の嘘や真意なんかも分かるらしいが、今の俺では格が足りなず、宝の持ち腐れ状態だ。


 もう一つの力。


 『契約』


 これは人や精霊が使うようなものよりも強力な契約が結べるうえに、俺に対して不平等な制約が結ばれないようになるらしい。よくわからないが。とりあえずどんな契約であっても自身の方が有利な契約が結べるみたいだ。といっても、俺に対して不平等なものほど俺に有利になるようにすることが主であって、完全に平等なものではあまり効果を発揮しないらしい。

 ただ俺の『契約』の方が強力なため、対価を払えば契約自体を無理やり破棄することもできないわけではないらしい。今の俺の格ではできないが。


 最後の力に関しては、完全にあの神の都合であるらしい。

 植え付けられた知識によると、神の裁きというのは光だったり雷であったりすることが多いらしいのだ。あの神からすると、裁きの力は味方に持たせておこうという考えのようだ。まさしく、『神の雷』ということだ。そのために俺は雷の精霊にさせられたらしい。

 まあ、表向きは雷の精霊は希少だから強力な術師と契約しやすい上に『契約』の力で不平等な契約にならないからすぐに中級精霊ぐらいになれるよね。ということらしい。神の雷と言っても今の俺の格で出せる雷なんて静電気のから毛が生えた程度なんだがな。




 そんなこんなで始まった俺の精霊生。

 一般的な精霊が最上級になるまでに一般的に千年は掛かるらしいから、気長にやっていこうと思う。

 まずは、世界を見て回りながら最初の契約者でも探すとするかな。


 思い立ったら吉日。早速出発しよう。

 俺は宙に浮きながらも小さな前足を動かして進む。俺の姿は四足歩行する狐の赤子だ。文字通りである。あの神は、なぜ人型にしなかったのだろう。

 今更考えても仕方ないが。

 では今度こそ、行ってきます。


 俺は見知らぬ、しかし、心温まる故郷に別れを告げた。




-------




 行ったか。

 さて、彼がこの物語でどんな出会いをして、どんな別れをするのか。

 私にもわからない。だけどなぜか確信している。

 彼は私の予想を大きく上回って立派な神になることを。

 では、しばしの間、ここ、神界から彼を見守るとするかな。

 そうだ。君も見ていくといい。彼はきっと面白い冒険をしてくれるはずだからさ。


 〈紡がれ廻れ、運命よ。新たな系譜の始まりだ〉








 この物語は、雷の精霊が、神成の精霊になって、ついでに、神稲荷の精霊になる物語。


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