御田くんとクリスマスの前の日
※付き合ってません。増田くんが今回割と出ています。
身長も高く、運動神経は良い、顔もよし、勉強もまあできるほう。無口だけど優しい私の隣の席の人は、かわいいひと。
名前は御田くんという。剣道をやっていて、ルックスも性格も良しと学校の女の子たちに太鼓判を押されるくらいの人なのに、甘いものが大好きで、それを周りにはバレバレなのに隠している。お菓子が大好きなのに不器用で、お菓子を作ろうとして失敗してはしょぼんと眉を下げていて。私が作ったお菓子を美味しいと食べてくれて。そんな御田くんと私はお菓子を交換したり、手作りお菓子を食べてもらったりと、物理的な甘い関係でできている。御田くんと食べるお菓子は相乗効果で甘くなる気がするのだ。何というか、うまく言えないけれど優しい甘さがプラスされている気がして。だから私にとって御田くんとのおやつタイムは何にも代え難い特別なのだ。最近は御田くんもそう思っていてくれたらいいな、と思って見たりする。どうしてそう思うのかわからないけれど、多分、私の中の友情ゲージが御田くんに対して最高値を上回り始めたんだと思う。その辺が色々と意味不明なのは私も解っていないからです。これは今後ゆっくり考えていく事にしよう。
そんな風に御田くんのことを考えていたからか、気になってしまって私はちらりと左隣の席の御田くんを伺った。御田くんは真剣な顔をしてスマートフォンを眺めている。最近の御田くんはずっとそうだ。何か調べ物でもしてるのかな。あとはHRが終われば帰ることが出来るとあって、教室の中は喧噪で満ちていた。いつもだったら御田くんとお菓子を食べたりしているのだけど、最近はなくてちょっと寂しい。もちろん、休み時間やお昼の時はいつも通りお話したりお菓子を食べたりしているから、御田くんとの時間が全部なくなったわけではないので寂しく感じるところでもないかもしれない。
高校ではクラス替えはないからずっと一緒のクラスだけれど、席替えは割とある。私のクラスも例外ではなくて、結構頻繁に行われるのだけれど、何故か私と御田くんは隣同士のままなのだ。もちろんくじの関係で離れそうだったことはあったのだけれど、クラスの子たちが諸々の事情で変わってくれと言ってくることが続いて何だかんだ御田くんと私は隣同士のまま。気心知れた御田くんとの隣はとても安心できる。クラスの子たちはみんないい子ばかりだし、友達もいないわけではないのだけれど、御田くんは何というか、特別ってやつなのだ。もしかしたらこれが親友というやつかもしれない。今回席替えで私の右隣に御田くんの親友増田くんが座っているので、私は増田君の方に顔を向けた。本を読んでいた増田くんは、視線に気が付いたのか本を閉じて首を傾げた。
「どうした?」
「あのね、増田くん。私ちょっと自分の気持ちが分かったかもしれなくてね」
「自覚、した……だと……?」
増田くんが真顔になってぶつぶつと呟いた途端にクラス中からがたっと音がした。視線が刺さる気がする。
ついでに増田くんの方を向いているせいで振り返れないけれど、御田くんからも強い視線が来ている気がする。気のせいかな。
増田くんは気を取り直したように体を私の方に向けてくれた。増田くんは綺麗な顔立ちをしているので最初は結構緊張していたものだけれど、御田くんを介して話す機会があったおかげでもう慣れた。硬派な御田くんと、正統派王子様のような増田くんは並んでいるだけで絵になると評判である。性格は優しい御田くんと、割と攻撃的な増田くんで見た目を裏切っているけれど。それでも増田くんは面倒見もいいし統率力もあるしで、なかなかにモテるお人である。
増田くんは御田くんと親友と言っても過言ではないほどに、男の子の中では一番仲が良いのだ。ということは、女の子として一番仲が良いはずの私も増田くんと同じポジションなのでは……?
「あのね、増田くんと御田くんは仲が良いでしょう?親友って言っていいと思うの」
ぐん、と顔を近づける。増田くんはひいっと声をあげて勢いよく私が詰めた分だけ顔を離した。そんなにあからさまに避けられると悲しい。ついでに、増田くんはとても複雑そうな顔で私の後ろに視線を送っていた。というか、先ほどから視線が全く合わないのだ。
「増田くん?」
「分かった、もうそれでいい。百歩譲って僕と御田は親友ということにしてやってもいい。北野、頼む。さすがに僕は真剣白羽どりが出来るほど動体視力に優れてないんだだから頼むちょっと顔を離せ!」
「う、うん、近かったよねごめんね」
「僕は全く構わないが、構うやつがいるんだ」
げっそりとした様子で増田くんは私の後ろに向かて両手を上げていた。何が在るのかなとちらりと後ろを振り返ったら、御田くんがスマートフォンを仕舞ってクッキーを片手に食べているところだった。もしかしたら増田くんも甘いものが食べたかったのかもしれない。
御田くんは私に気が付いたらしく、少しだけ笑ってクッキーをつまむとはい、と口のところまで持ってきてくれた。このクッキー、駅前の超人気店のクッキーだ。私が食べたがっていたのを覚えていてくれておすそ分けまでくれるなんてなんていい人なんだろう。
「ありがとう、御田くん」
「北野これが食べたいって言っていただろう、お前の為にも買ってきたんだ。どうだ、美味しいか?」
口の中に入れてくれたクッキーは甘くてほろほろと溶けていく。頬に手を当てて甘さにひったっていると、御田くんが目元をやわらげて私の頬をするっと指の背で撫でて離れていった。最近の御田くんはこういう事が増えた。前から一緒に甘いものを食べに行ったり、一緒に帰ったり、お家にお邪魔して私の作ったお菓子を食べたりとかはあったけれどそれにプラスして私に手ずからものを食べさせてくるという行為が増えたのだ。そうしてその度に私の事を優しく撫でていくので、甘さが二倍になる。御田くんが私を優しく扱うから、私は御田くんから目が離せないし、けれどなんだか心臓がきゅうっとする感覚に慣れないしであたふたしてしまうのだった。
「おい御田、気持ちはわかるが自重しろ。北野、話がないなら僕は寝るぞ」
そんな私の意識を取り戻させたのは増田くんの一言だった。あります、と勢いよく増田くんの方を振り向いた私は首をかしげる。増田くんが先ほどよりぐったりとした疲れ切った様子だったからだ。お父さんが二日酔いでぐったりしていた様子によく似ている。
「どうしたの、増田くん。なんだか疲れてるね……?」
「目の前で砂糖増量キャンペーンが実施中だからな。俺はこのクラスになってから辛党になったんだよ」
「ええ、そんな素敵なキャンペーンが!どこでやってるの?御田くんに教えてあげないと」
「……俺は何も突っ込まないからな」
あははは、と増田くんが笑いながら私の頬に手を伸ばしてきた。むぎゅっとつままれて両手で引っ張られる。いたい、いたいよ増田くん。この人意外と容赦がない。あいたたた。
それでもまた私の後ろを見て今度はにやりと笑った増田くんは頬をつまんだのと同じくらい早急に手を離した。増田くんも割と不思議な人である。
それよりも話が先だ。帰りのHRが始まるまでの時間はあと少ししか残っていない。今日は帰りにケーキの材料を買いに行きたいのだったと思い出す。
「それでね、増田くん」
私はちょっと興奮してきてしまった。この仮説があっているなら、私と御田くんはもう一つ上のすってっぷに行けるはずだ。
「男の子の中で一番仲が良い増田くんが親友なら、女の子として一番仲が良い私は」
「早まるな北野!いいか、お前は何か勘違いしてる」
「えっ」
私の言葉を遮った増田くんが顔を蒼くして立ち上がった。見ればクラス中の人たちが私を見ていた。顔色が悪いけど、教室の中はそんなに寒いのだろうか。
「俺と御田は、親友じゃ、ない」
「ええっ、うそお!」
「御田に聞いてみればわかる。俺と御田は、友人だ。普通の、友人だ!」
増田くんは私の肩を両手でつかんで揺さぶる。友達なのは分かったけどそこまで必死に否定するほどなのかな。
御田くんの方に顔を向けると、何かを悟ったような顔をして頷いていた。ただ手にしたクッキーがひしゃげていたので、増田くんに親友を否定されたのが悲しかったんじゃなかろうかと思うのだけれど。
「北野、」
「御田くん?」
「増田の言う通りだ。俺と増田は親友じゃないからな」
「そうなんだ、じゃあ私と御田くんもまだ親友じゃないんだね」
増田くんが音もなく崩れ落ちた。御田くんはそんな増田くんをスルーして、私の手をそっと握った。増田くんはいいのだろうか。俺はもう無理だこれ以上は無理だとぶつぶつ言っている増田くん、彼のファンが見たら幻滅してしまいそうでちょっと心配。
「北野は俺と親友になりたいのか?」
「ん、ええっと」
御田くんが私の手をきゅっと握って優しく促してくる。私はじっと考えて、御田くんと名前を呼んだ。
「親友、っていうのにこだわってるわけではないの。御田くんと女の子の中では私が一番仲が良いと思っていて、それなら今の友達から、ちょっとレベルアップした関係になるんじゃないかなって、思っただけで……。ごめんね、勝手に」
ぐふう、とどこからか声が聞こえた。びっくりして顔を上げようとしたけれど、御田くんの声がそれを許さない。きたの、って呼ばれるの、好きだなあ。御田くんの声は私を呼ぶとき本当に優しく響くのだ。
「謝ることなんてない。北野がそうやって思ってくれたことが嬉しい。だから、ゆっくりでいいからレベルアップしていこう。俺も北野を特別だと思ってるんだからな」
「御田くん……!よかった、私だけじゃなかったんだね、私ばっかり気持ちが重いかもしれないって思ったから、嬉しい」
感極まって御田くんの手が離れたのをいいことに、御田くんの両手を今度は私から握りしめる。御田くんはびくんと肩を震わせたあと、身体を反転させて机に突っ伏した。手は私が握っているから、何とも体勢が辛そうだ。大丈夫かな。
気が付けば先生がやって来ていたので私は御田くんの手を離して前を向いた。私の両隣は机に突っ伏していて、先生もどことなく涙をこらえているようだった。どうしたのかな、とこっそり前の席の子に聞いてみたら「北野さんは気にしなくていいよ!御田くんのことだけ考えていて!先生は独身貴族だから仕方ないの!」と力説されてしまった。そんなにずっと御田くんのことばかり考えているわけではないけど、何となく、クラスの子たちには御田くんと私はセットという括りにされているようでくすぐったい。御田くんはいい人という認定なので、私もその恩恵にあずかっているというわけだ。なんだかうれしいなあ。
HRも無事に終了したので、私は買い物メモを取り出した。増田くんは最後まで復活しなくて、周りのクラスメイト達に「しなないで!」「増田くんはよく頑張ったよ!」と励まされていた。何があったのかなとみていると、御田くんに名前を呼ばれたので私は御田くんと連れ立って教室を出た。そうして私はもう明日に迫っているクリスマスイブについて考えていた。
そう、クリスマスだ。今年ももう終わってしまうんだなあと思いながら、当然のように御田くんと過ごせるクリスマスが嬉しい。
家が近所なので小さなころから知っている男の子は、高校生になってからぐんと大人びた。変わらない部分も多いけれど、変わった部分もたくさんあると思う。毎年一緒にクリスマスは過ごしていて、けれど大人になるにつれてそういう事も少なくなっていってしまうんだろうか。私はずっと御田くんと、と思うけれど、御田くんもそうだとは限らないのだ。
「ねえ御田くん、今年のケーキはブッシュドノエルにしてみようと思うのだけどどうかな」
「ブッシュドノエルか、いいな。北野の作ったケーキなら俺は何でも楽しみに待つよ」
「御田くん、チョコクリームも好きでしょう?この間練習したらとっても上手にできたの。頑張って作るね。明日は土曜日で学校はお休みだし、もし御田くんさえ良ければお昼くらいにお邪魔しに行ってもいいい?」
御田くんはすぐには頷かないで、何かを考えているようだった。
マフラーとコートをしていても、夕方近い下校時は寒さが増してくるようで身を縮める。冬は甘いものがよりおいしく感じられるけれど、寒いのが難点だ。御田くんの表情を伺いながら、私は手袋を忘れてしまってかじかむ指先が痛い。
「なあ、北野」
御田くんの真面目な声が私を呼んだ。はあ、と指先に息を吹きかけていた私の手を取って御田くんは温めようとするみたいに大きな両手で私の指先を包み込む。御田くんはこうして私のことを大切にしてくれる。私も御田くんのことを大事にしたいなと思うのは、やっぱり御田くんが特別なんだからだと思う。小さなころから知っている、私のとなりの人。
「明日、もし用事がないなら午前中から一緒に出掛けないか。それで、夜に、北野の作ったケーキを一緒に食べたい」
「御田くん、それって」
「せっかく休みなんだ、一日出掛けるのもいいんじゃないかと思ってな。急に悪い……、ずっと考えてたんだが、なかなか言えなくて」
「あっ、もしかして最近スマホを見て考えていたのはその事だったの?」
こくん、と御田くんは頷いた。私の返事を待つように立ち止まる。立ち止まったところは公園の前だったから人気はなくて、私と御田くんの二人だけだった。
一日出かけて、その後で一緒にケーキを食べられることも勿論だけど、ここ最近ずっと私と出掛けることを考えていてくれたことに胸がきゅううっと締め付けられる感じがして私は息を吐いた。一緒に居たいって思ってくれていたこと、御田くんの予定に私が当たり前のように組み込まれていくこと。こういう時、嬉しくて幸せで、胸が締め付けられるこの感情をなんて表したらいいんだろう。
「それで、北野。返事は」
私を見下ろすように顔を近づけた御田くんがうかがうように見ていた。真剣な、あと少し照れくさそうな顔をしている。多分、私も同じ顔をしているんじゃないかな。
「私、御田くんと甘いものを食べてるときが一番好きだと思ってたけど。きっとね、御田くんと一緒だから好きなんだと思う。私で良ければ、お願いします」
「ありがとう、断られなくてよかった」
本当に安心したみたいな声を出すから思わず笑ってしまった。外が寒いからか、私も御田くんも顔が赤くなってしまっていた。それなのになんだか温かく感じるのはなんでだろう。
「明日どこに行きたい?」
「御田くんと一緒ならどこだって楽しいと思うけど……」
「言うと思った」
御田くんはふ、と笑みを零して、悪戯を思いついた子供みたいに笑う。硬派な御田くんと言われている彼が、こんな風に笑うなんてみんな知らないんだろうなあ。
そして、結局私の考えている事なんて御田くんにはお見通しなのだろう。
思いがけない約束に舞い上がりながら、私は浮かれた自分を自覚して笑ってしまう。今夜つくるケーキを失敗しないようにしないと。お店で作るものには負けると思うけど、御田くんに気を遣わせて美味しいと言わせるようなことだけは避けたい。一緒に渡そうと思っていたプレゼントも、今更になって心配になってきてしまった。手袋にしてしまったけど、喜んでくれるだろうか。なんて。
「北野のケーキ、楽しみにしてる」
「私も明日たのしみにしてるよ。今年も御田くんと一緒なんて良いクリスマスイブだなあ」
「クリスマス、は」
「うん?」
「さすがにクリスマスまで北野を独占するのは怒られそうだな」
「そ、そんなことないよ!むしろ私が怒られちゃいそうだけど、でも、私は御田くんと一緒がいいよ」
「そうか。じゃあ、俺と一緒だな」
そうなんだ、と思う。御田くんも一緒がいいって思ってくれていたんだ。そう思うと緩む口元が隠せなくて、二人で笑ってしまった。寒さなんて感じないくらい、わくわくして、明日が楽しみで仕方ない。
御田くんに付き合ってもらってケーキの材料を買いそろえて、家の前で別れる。また明日ね、と手を振って、背の高い御田くんを見送った。明日も会えるんだなあと思うと、いつも顔を見ているのになんだか緊張するような不思議な期待感に満ちてしまう。
家の中に入って、材料を仕舞ってから部屋に引っ込んで服を引っ張り出した。ケーキも作って明日の支度も考えてなんて、時間がいくらあっても足りない気がする。お母さんに洋服の相談をしないと。
そうして、家用のものと御田くんと食べる用のケーキを作り上げた私は、お母さんに相談しながら服装を決めた。ちょっと早いけど、とお母さんがくれた口紅と髪飾りを明日はつけていく事にして、とりあえず自分の中で決めたコーディネートを明日から引きこもりになると宣言して部屋に引っ込んでいるお兄ちゃんにみせに行く。
「変じゃない?だいじょうぶ?」と聞いたところ、お兄ちゃんは色々なものを噛みしめたような顔で私の両肩をがしっと掴んでむせび泣き始めたので困ってしまった。どうしたの、と見に来たお母さんが呆れた顔をしてお兄ちゃんを引きはがしてくれたけれど。
部屋に入って明日の準備をしたあと、ベッドに飛び込んだ。楽しみで仕方なくて目がさえてしまう。寝ないと明日不細工になってしまうのは嫌だな、と思いながら、どきどきと心臓が煩かった。
ちなみに、お兄ちゃんの部屋から「結婚なんて早い!」となく声が聞こえたけれど、誰か結婚するんだろうか。大学生のお兄ちゃんこそ結婚が早そうだけど。
眠くないけれど眠らないといけない。そっと窓の外を覗いて、真っ暗の闇を見る。クリスマスイブだからどきどきするんじゃなくて、多分、御田くんと一緒だからどきどきしているんだろう。私にしてみれば、クリスマスやバレンタインや、そういうイベントの日は御田くんとお菓子が食べられる日という印象だ。
それはつまり特別な日じゃなくても、御田くんと一緒なら、特別になるということ。
明日は晴れるといいな。
御田くんとの一日を思い描きながら、私はそっと目を閉じた。眠れないと言っていた割によく眠れたその日の晩、どうやら少しだけ雪が降ったらしい。
*****
蛇足(という名のクラスメイトの悲劇)
北野さんのまさかの発言に立ち上がったのは増田くんだけじゃない。ほぼクラス中が北野さんのセリフを聞き漏らすまいと集中していた。ついでに御田くんも。というか御田くん、増田くんのこと睨みすぎ。北野さんがぐいぐい増田くんに近づいたからって凄く睨んでいる。増田くんは御田くんの気持ちをよく知っているからか、からかったりしているけど、なんだかんだ協力的だ。ちなみに真剣白羽どり云々は、剣道をやっている御田くんに竹刀でやられそうなところからとっさに出た言葉らしい。御田くん、北野さん以外には結構容赦ないのだ。
――そして私たちは、その後の北野さんのセリフと増田くんの捨て身の作戦、ならびに御田くんとの会話に涙を禁じ得なかった。というかどうしてうちのバカップルはアレで付き合っていないの?独身貴族の先生があてられて泣きながら職員室に戻っていってしまったのを判ってないのは当人たちだけだよ!
「待って北野さん、それは違う!親友なんてくくりじゃない!それは……!」
「増田生きろ!お前はよく頑張った!あれはもう秒読みだ!」
「ていうか御田くん撃沈してたけど、北野さんも御田くんもどうしてアレで気が付かないの?!」
「二人して特別なんじゃん!特別ってもうそういう事じゃん!」
「やめてくれもう僕はあの二人には付き合いきれない!」
「頑張って増田くん、君がいかなきゃ誰があの二人を見守るの!」
「そういうのは僕の仕事じゃない!」
「待てよ、御田はもう自覚済みかもしれないぞ……。俺、御田が【クリスマス 遊びに行くなら】でスマホ使って検索してたの見た」
「なん、だって……?!」
「ちょっと明日尾行!予定ないやつ全員集合!御田と北野見守る会会員は速やかに集合!」
そんなわけで、御田くんと北野さんのお陰で団結したクラス一同は、約束などがない人たちはほぼ全員が集合して、こそこそと街中で御田くんと北野さんのデート(本人たちにその自覚はないらしかった。解せぬ。普通そうなったらデートって浮かれるでしょ?!普段同じようなことしかしてないから分からないだけじゃないのかな!)を尾行したのだった。
御田くんは長身に見合ったシンプルな服装、北野さんは女の子らしいワンピースでどこからどう見ても可愛いカップルです。お似合い。対して私たちはそんな彼らを見守るしょっぱい集団であった。でもいいのだ、私達は彼ら二人が無事にくっつく所を見るまでは安心できないのだから。
ちなみに、集団で行動すると目立つということで数人でグループになって行動したところ何組かのカップルが出来たらしい。御田くんと北野さんの相乗効果だろうか。
それからちなみのちなみに、御田くんと北野さんは二人で映画を見てカフェでランチをして、雑貨屋さんを見て回ったりしてお洒落な喫茶店でプレゼントを交換し合ったそうだ。ふつうこういうのって付き合っている彼氏彼女でやる事全部じゃないんだろうか。
二人の近くまで行って会話を盗み聞きしてきた勇者曰く、この後夜ご飯は御田くんの家で一緒にご家族と食べて、二人でお部屋で北野さん手製のケーキを食べる予定らしい。何ソレリア充じゃん爆発して。
「………ことし、ケーキ要らない」
「一生分くらい甘いもの食べた気分」
私達は口々にそう言って、空しくなったので尾行はそのあたりで終了させた。ひとり寂しくクリスマスイブを過ごす者たちはこぞってカラオケで盛り上がることとなった。
ちなみに、増田くんは昨日の段階で「絶対行かない」とバッサリ切って捨てられたので不参加でした。
というかクリスマスに二人で過ごすとか付き合ってるから。友達じゃないから。御田くんは多分自覚し始めてると思うけど、さっさと自覚して付き合ってよ!と、私達は思うのだった。
【END】