表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

長い長すぎる一日

■休日の朝


 さて、今日は土曜日、いつもならのんびりと自宅で過ごす所だが、

今日はバイトが入っている。

 早番というやつで、朝8時から、夕方4時までの予定だ。


 ちなみに、バイトが無かった時代の休日の過ごし方は、

クロと遊んだり、クロを撫でたり、クロとじゃれたりして過ごしていた。


 おっと、クロが来た。


クロ

「珍しく起きているな」


「まあね、今日はちょっと働かなきゃいけないんだ」


クロ

「そうか、いつもの3匹が来てるぞ」


「はい、今いきます」


野良猫公園に住んでいる3匹の朝食も、日課になってきたな。


「もう、うちの猫になってしまえば良いのに」


クロ

「また、面倒な事を言い出したな」


「別にいいだろう?同居人が増えても」


クロ

「俺の飯の量さえ変わらなければ構わない」


「そっか、ちょっと誘ってみようかな?」


などとクロと会話をしつつ、餌を手に取り、表へと出る。

庭には、3匹が待っていてくれた。


「おはよー」


ドラ太

「おはよう、いつもすまないな」


「気にしちゃダメだって、さて、ご飯にしましょう」


持ってきた餌を器へと移す。


「今日もコンビニで働くから、用があったら、そっちに来てね」


ドラ太

「おう、でも、そろそろ餌をくれる、おばさんが戻ってくるかもしれない」


ヒゲマユゲ

「それで、お前には悪いんだが、うちらは、おばさんの方を優先したい」


ミケ子

「たとえ、こちらの餌が上質でもね、おばさんの方を優先したいのよ」


「それは良いけど、良かったら理由を教えてくれるかな」


ドラ太

「一つは付き合いの長さだな」


ヒゲマユゲ

「もう一つは、おばさんの幸せそうな顔かな」


ミケ子

「もう一つだけ、昔あの公園にもう一匹、野良猫がいたのよ」


「うん」


ミケ子

「だけど、交通事故で死んでしまったのね」


「……うん」


ミケ子

「その時のおばさんの顔は忘れられないのよ、

あんな顔は、できるだけ、させたくないのよ」


「そっか、なるほど、

おばさんが居たら、そっちを優先してあげて、

でも何か困った事があったら、僕を頼ってね」


ドラ太

「ああ、言葉を分るのもお前だけだし、頼りにしてるぜ」


食事を済ませると、野良猫達は公園へと戻っていった。



クロ

(あるじ)、どうやら、あの3匹には、振られてしまったな」


「あの猫達と、おばさんとの関係には、

(かな)いそうに無いや、仕方ないなw」


クロ

「まあ、そうだな、さてうちらも飯にするか」


「行きますか」


 朝食を手早く取り、バイトへ出かけようとする、

しかし、お隣の庭が少し騒がしいようだ。




■鳥たちの勢力図


 お隣の庭は、相変わらず小鳥たちが賑わっている。

 だが今日はちょっと様子が変だ、塀の上にカラスが2羽居た。


カラスA

「お前ら、怪我をしたくなかったら、すぐにでもどけ!」

カラスB

「今日からこの餌場は、俺たち兄弟の縄張りだ!」


 カラスの体格は小鳥達から比べれば、相当デカイ、

束になってでも敵わないだろう。

 ウグイスのカリスマを持ってしても、暴力には敵わないという事か。

 しかし、このままでは小鳥達は追い出されてしまうな……



 あの素敵な庭の平穏を、乱す事はできないな、うん。

 ここは、僕が何とかするか。


「そこのカラス諸君、ちょっといいかな?」


カラスA

「なんか話しかけてくるアホがいるな」


ウグイス

「そいつ、言葉が通じるぜ」


カラスA

「まじかよ!」


「で、悪いんだけど、餌場から身を引いてくれるかな?」


カラスA

「なんで引かなきゃならないんだよ」


カラスB

「そうだ、オメーが餌でもくれるとでも言うのかよ」


「あげるけど」


カラスB

「本当?」


「必要なら、毎日あげるけど」


カラスB

「マジですか?旦那」


カラスA

「わかりました、今すぐ、この餌場から手を引きます」


餌をあげる事が分ると、手のひらを返してきた、変わり身が早いなw


カラスA

「さて、どんな餌をくれるんで、ございましょう?」


「ちょっと待ってて」



一端、自宅へと戻る、餌をさがそう。

しかし鳥の餌か、さすがに鳥の餌は置いてないな、

鳥が食べそうなものを、試しにいくつか持って行くか。


クロ

「どうした主、また餌を物色して」


「いや、カラスに餌をやろうとね、とりあえず適当に持って行くか」


僕は台所から、いくつか食材を手に取ると、表へと出た。


クロ

「面白そうだな、ちょっとついて行こう」


「さて、鳥の餌と猫の餌、持ってきたんだけど、どうする?」


カラスA

「冗談じゃねぇ、猫の餌なんて食えませんぜ、鳥の餌でお願いします」


クロ

「お前ら、食べられるだけでありがたいと思えよ」


「まあまあ揉めないで、じゃあ、まずはこれから」


生米を出してみた、雀とかが食べてるはず、そんな絵を見たことがある。


カラスB

「堅い、まずい、パサパサする」


雀A

「マジかよ、ごちそうじゃないか」

雀から罵声が届く


カラスB

「お前ら、どうゆう味覚してんだ?」


うーん、鳥でもだいぶ味覚が違うのか


では次に、パンを渡してみる


カラスB

「さっきのよりは全然、旨いっす」


カラスA

「でももっと、ガツンとしたものが食べたいです」


「肉っぽい方がいいかな?」


カラスB

「そう、そっちが良いです」


「でも、そうなると、猫の餌かな、

ものは試しだ、ちょっと食べてみてよ」


カラスA

「うーん、じゃあちょっと食べてみますよ」


 そう言うと、カラスは、猫缶を一口、(ついば)んだ。

 え、なにこれ、ついばむって漢字でこう書くのか?

 これ読めないぞ。


 あ、はい、話がそれましたね、話を進めましょうね。



カラスA

「旨いっす、なにこれ、旨いっす」


カラスB

「どれ、おれも一口、うんまぁ~~い」


カラスA

「猫って、いつもこんな旨いの食ってたのか」


クロ

「いや、普通だが」


カラスA

「この贅沢モノめ」


「とりあえず、気に入ってもらって良かった、

この餌だったら、いつでもあげるけど」


カラスA

「旦那に、一生ついて行きます、

俺はカー太郎、こいつはカー次郎と言います」


カー次郎

「これからよろしくな、旦那」


カー太郎

「以後、お見知り置きをお願いしやす」


 ふう、一応カラス達との、話しがまとまった、

これで何とかなったかな。




■バイト本格始動


 さて、近所のコンビニのバイトに入ります。


 まあ、バイトの仕事で、特に書く事はないのだが、

感想を言うと、つかれた。

 まあ、つかれた。

 8時間労働は、つかれた。


 考えてみれば、大学の授業は座ってるだけだからね。

 慣れてくれば、そのうち少しは楽になるのかなぁ。


 まあ、かえりましょ。




凶報(きょうほう)


 家に帰ると、野良猫たちが待っていてくれた。

 ちなみにまだ、夕方、いつもの晩ご飯の時間までは、

かなりの時間がある。



「あれ、どうかしたの」


ドラ太

「ああ、お前を待っていた」


ミケ子

「実は、例の餌をくれるおばさんが退院してね、早速、餌をくれたのよ」


「あっ、なるほど、入院中ずっと餌をもらって無かったと思ったのか」


ミケ子

「うちらに餌をやるために、けっこう無理をしているように見えたけど」


ヒゲマユゲ

「でも、ひとまずは落ち着いたみたいだ」


ドラ太

「という訳で、餌はおばさんから貰うから、

今後しばらくは、ココに顔を出さないと思う」


「いいよ、また何かあったら頼ってね」


ヒゲマユゲ

「すまないな」


ドラ太

「また、何かあったら頼む」


そう言い残すと、野良猫たちは公園へと帰っていった。



「ちょっと寂しくなるかな?」


クロ

「そうか?」


「クロ、久しぶりに遊ぼうか」


クロ

「その前に庭の掃除だろ、鳥の糞が散らかってるぞ」


「つれないな~」


 庭は思ったより汚れてはいなかった、


「まあ10分もすれば掃除終わるかな?」


 確かに、そのまま無事に掃除が進められれば10分も掛らなかっただろう。


 掃除を初めて数分後、先日知り合った、

空き家の番犬マックスが、うちの庭に走り込んできた。


 かなり慌てている様子だ、すぐに緊張がこちらにも伝わって来る。


「どうかしたの」


マックス

「ちょっと来てくれ、長老を見つけたんだが、様子がおかしい」


「分った、今すぐ行こう」


クロ

「俺も連れていけ」


 マックスの後を必死に走ってついて行く、10分ほど走っただろうか、

とある空き地に着いた、そして捨てられていた家具に隠れるように、

ぐったりと、老犬が横たわっていた。


マックス

「この犬が長老だ」


クロ

「だいぶ、弱っているな」


 見た目ですぐに分る、肌の色が黄色くなっている、

黄疸(おうだん)が起こっている

 そして息が浅くて早い。

 かなりまずい状態だと言う事が、僕でも解った。


マックス

「どうにかなりそうか?」


「僕じゃ無理だ、すぐに病院につれていこう」


マックス

「でも、金がかかるんだろう?」


「そんな事、気にしてる場合じゃないよ!」


長老

「若いの、気にするな、儂はもう年だ、諦めろ」


「そんな弱気にならないで、なんとかしますから、

今、病院へ連れていきますね、少し我慢して下さい」


 僕は、両手で抱えて、近くの動物病院まで連れて行く。

 老犬の体は、痩せていて、驚くほど軽かった。


 動物病院は、そう遠くない、いつもクロを連れて行っている病院だ。

 近いはずの道が、いつもより遠く感じる。

 気持ちは焦るが、負担が掛らないよう、ゆっくりと丁寧に歩みを進める。

 そして、ようやっと動物病院にたどり着いた。



「長老、病院に着きましたよ」


マックス

「俺は外で待っている、行って来てくれ」


長老

「まだ、引き返せるぞ、このまま死んでも、お前さんを恨みはしないよ」


長老の声を聞かなかった事にして、僕は動物病院の中へと進んで行く。


「すいません、先生は居ますか、急患です」


獣医

「いるぞ、どうしたんだ」


長老をみるなり、顔色が変わる。


獣医

「どうしてこうなるまで、放って置いたんだ!」


「すいません」


獣医

「しかしずいぶんと汚れているな、それに首輪もないな

ちゃんと管理できていないじゃないか」


「はい……、すいません」


獣医

「もしかして野良犬か?」


「……そうです、でもお金なら払います」


獣医

「……まずは、少し検査をしてみよう、

少しの間、外へ出ていてくれ」



待ち合わせ室で、検査の結果を待つ。


クロ

(あるじ)、生きている限り死は付きまとう、死ぬときは死ぬぞ」


「わかっている、でも出来る事はやってやりたい」


クロ

「うむ、まあ、主の好きなようにすれば良い」


しばらくすると、先生が診察室から出てきた。



獣医

「レントゲンを撮った、採血など、色々と調べたよ」


獣医

「結論から言う、おそらく胆管閉塞で、胆のうが破裂寸前、

手術をしなければ、あと1週間もたないだろう」


「手術お願いできますか?」


獣医

「まあ聞け、手術台は13万円ほどかかる、

それにこの犬は高齢だ、体力が持たないで死ぬかもしれない、

仮に手術が成功しても、1年も生きられないと思う

それでも手術をやるのか?」


診察室の奥から長老が、力のない声で、こう言った。


長老

「聞こえてるぞ、かなりの大金だな、

儂はもう十分に生きた、儂を置いて帰って良いぞ、もう充分だ」


「ちょっと待っていて下さい」


僕は外へと飛び出した。



獣医

「逃げたかな……」


クロ

「にゃー」


獣医

「猫も置き去りにして、

さて、残された、この犬をどうするか?」


獣医

「つらそうだな、息も絶え絶えだな……」


獣医

「安楽死させてやった方がよさそうだ、私もあまり気は進まないが……」


どのくらい時間が立っただろうか、

入り口のドアが勢いよく開いた、そこには森川が立っていた。


「すいません、今、手元に8万円しかなくて」


「来月、バイト台がでたら払いますから」


「これで、なんとかならないでしょうか、お願いします」


獣医

「野良犬だぞ? いいのか?」


「お願いします」


獣医

「知らない犬なんだろ?」


「知らない犬ですが、お願いします」


獣医

「……はぁ、いいよ、負けだ」


「?」


獣医

「負けだよ、8万でやってやるよ」


「本当ですか?」


獣医

「その代わり、お前も手伝え」


「はい、お願いします、僕にできることなら何でもやります」


 僕は長老と共に、手術へと入っていった。


 すぐに手術が行われた、僕が助手を務めた。

 器具を渡したり、計器を読み上げたりと必死だった。

 手術の様子は、緊張のあまり良く覚えていない。



獣医

「手術が終わったぞ」


「終わったんですか?」


獣医

「手術は成功したが、あとはその犬の体力次第だ」


「はい」


獣医

「後の事は任せろ、最善は尽くしてみる

君はもう帰りなさい」


「ありがとうございます」


 長老の手術が終わった。

 病院の外に出ると、クロとマックスが待っていてくれた。



「あとは、長老の体力次第らしい」


マックス

「そうか、後は祈るしかないな」


「そうだね」


マックス

「ところで、お前は、なんで動物に対して、そんなに親身(しんみ)になれるんだ?」


「なんでだろうね?」


クロ

「お前が子供の頃の、あの出来事のせいじゃないか?」


「なにそれ? そんな出来事あったっけ?」


クロ

「覚えてないのか、主がまだ子供の頃、俺がまだ子猫の頃の話だ。

捨てられていた犬の世話を、していた事を覚えているか?」


「うん」


「ところがある日、その犬が居なくなった、

どこかの家に拾われて無事なのか、死んでしまったのかは、まったく解らない」


「うん、覚えてる」


クロ

「居なくなった後、主は落ち込んで、大泣きをしたじゃないか、

飯も3日ほどは食べなかっただろ?」


「そうか、言われてみれば、それが原因かもしれない」


クロ

「あの時から、様子が変わった気がするんだが」


「そう言われれば、そうだね

『出来るときに、やらないと後悔する』

という風に、考え方が変わったかもしれない」


クロ

「それにもしかしたら、感受性が少し強かったのかもな」


マックス

「色々と変わってるな」


クロ

「かなり変わってる、変態だと言ってもいい」


マックス

「確かに変態と言われれば、変態だなw」


「あまり馬鹿にしないでよ」


マックス

「褒めているんだぞ」


クロ

「そうだ褒めている」


「ほんとう? ちょっと嬉しいかな、変態だなんて……

やっぱり馬鹿にしてるでしょ?」


クロ

「ばれたか」


マックス

「ばれたね」


「もう」


こうして長い、長すぎる一日は終わった。

長老の様態は、まだ予断を許さない状態だ

ただただ、良くなることを、祈るばかりだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ