新たなる日々
長老が来てから僕の生活サイクルがかなり変わった。
そんな僕の生活を見てみたくないか? 見たいでしょ?
すいません、調子に乗りました、見てやって下さい。
■6:30
朝だ、最近は、目覚まし時計が鳴る前に、ほぼ起きられるようになってきた。
まず、外へ外に出かける準備をしよう。
洋服に袖を通し、スコップを持ち、ビニール袋を用意して、
空のペットボトルに水を入れ、準備OKだ。
「長老、朝の散歩へ出かけますよ」
長老
「もう朝か」
「体調はどうでしょう?」
長老
「大丈夫じゃよ、それでは行こうかのう」
「はい、行きましょう」
ゆっくりと、長老のペースに合わせて歩き出す。
朝の散歩コースは決まっている。
昔、長老の自宅があった駐車場の前を通り、例の神社の前を抜け、
とある売り家の中へ、ちょっとだけ、お邪魔する。
「おはよう、マックス」
マックス
「今日も来たのか」
最近はマックスの世話をする様にしている、
世話といっても餌やりと持ってきた水の交換だけだ。
マックス
「毎日は来なくてもいいのに」
「餌と新鮮な水は、必要でしょ」
マックス
「それはそうだが、ちょっと手間取らせて、悪い気がする」
「そんな風に考えているなら」
長老
「家の犬になっちゃいなよ」
「長老、僕の台詞を取らないで下さいよ」
長老
「毎日の様に聞いていれば、年寄りでも覚えるさ」
マックス
「確かに、そうだなw」
「長老、からかわないで下さい、でマックス返事はどうなの?」
マックス
「いつも通り、NOだ、まだその気になれない」
「という事は、いつかはOK貰えるんだね?」
マックス
「かなり、遠い未来になったら、考えが変わるかもな」
「それは明日かな?」
マックス
「そんなに近い訳はないだろう、ちょっと長老も何とか言って下さいよ」
長老
「こやつはしつこいぞ」
マックス
「そんなこと言わずに、なんとかして下さい」
長老
「諦めろ」
マックス
「そんな、ご無体な」
「明日も来るからね、しつこいから」
マックス
「自分から、しつこいって言うなよ」
「では、今日はこの辺で帰るね」
マックス
「おう、じゃあまたな」
家に帰ってくると、長老を家の中に入れてから、庭の掃除をする。
その理由は、周辺の家へ、鳥の糞害を防ぐ為に、我が家の庭を、
鳥たちのトイレとして提供しているから、これで周りの家は汚れないけど
まあ家は、汚れるよね。
掃除をしていると、雀たちが声を掛けてきた。
雀A
「毎日がんばるな」
雀B
「毎日やらなくても良いんじゃないか、2~3日ぐらいで良いんじゃないか?」
「うーん、でもね、日数が経つと、落ちにくくなるんだよ」
雀A
「バケツと、その上に止まり木を用意しな、気が向いたらそこで用を足してやるよ」
「本当? 用意させてもらうよ」
雀B
「あくまで気が向いたらだぞ、庭の他の場所で用を足すかもしれない」
「それでも助かるよ、ありがとうね」
さてと、朝の一仕事が終わった。
鳥達も協力的になってくれた様だ。
庭の掃除が少しでも楽になると良いな。
■7:20
庭の掃除が済むと、ようやっと朝食タイムに入ります。
まずは長老に老犬様の餌を上げましょう。
長老の食事の準備をしていると、クロが起きてきた。
クロ
「主、最近は早いな」
「長老の散歩があるからね、あと庭掃除もあるし」
クロ
「長老、どうですか、我が主は」
長老
「よくやっとると思う、今のところ不満は無いぞ」
「どうだい、クロ、すごいでしょ」
クロ
「なるほど、ではこの調子で、日々精進に励むようにしてくれ」
「心得ております」
長老
「どっちが主人だか解らんな」
「そんなことは、一目瞭然」
クロ
「私が主人だ」
「そうでございます」
長老
「やれやれ、あきれたわい」
森川・クロ
「ニヤッ」
クロ
「さて、我々も食事にするか」
「行きますか」
僕とクロは、台所へと移動する。
長老
「……あの黒猫は、主人に恵まれているのう」
■12:00
午前中の授業を終え、真理子さんとのランチタイムだ。
食事を早々と済ませて、ブルのマッサージをしていると、
空から声が聞こえる。
カー太郎
「旦那、今日もすこし餌を恵んで下さい」
カー次郎
「くだせえ」
ブル
「また来たな」
最近、カラスのカー太郎、カー次郎はランチタイムに大学に来るようになった。
ブル
「お前ら、朝はどこ行ってんだ?」
カー次郎
「餌を漁ってるんでさぁ」
「漁らずに、家に餌を、もらいに来れば良いんじゃないの?」
カー次郎
「いや、縄張りってもんが有りまして」
カー太郎
「縄張りを維持するには、どうしても毎日見回らないと、いけなんです」
ブル
「まあ、そうだな」
カー太郎
「珍しく意見が一致したな」
「面倒くさそう、少しぐらいサボってもいいんじゃない?」
カー太郎
「うーん、そうですね、ちょっと例えると……
旦那は大学をあまりサボりませんよね」
「うん」
カー太郎
「もし仮にサボりまくるとしましょう」
「仮の話ね」
カー太郎
「ええ、そしたら遅れを取り戻すのに大変でしょう?」
「大変だね、倍くらい時間が掛るかも」
カー太郎
「縄張りも同じような感じで、一度失うと大変なんです」
ブル
「下手すると、2度と戻らないしな」
カー次郎
「カラスは数が多いんで、なかなか大変ですぜ」
「色々と動物も大変そうだな」
ブル
「人間だって同じだろ、縄張りでなくて、勢力争いって言い方だけどな」
「はは、まったくもって、その通りです」
こうして世間話? をしていると、ランチタイムはあっという間に過ぎていった。
■13:10
葉矢水との雑談の時間、じゃなかった、必修科目の授業の時間だ。
葉矢水
「最近どうよ、バイトとか」
「だいぶ慣れてきたよ」
葉矢水
「お前、金使わないから貯まるだろう」
「いや、この間、野良犬の手術台出したんで、手元に無くて大変だよ」
葉矢水
「……おまえなぁ、野良犬だろ」
「そうだけど、今は野良犬じゃ無くなった、家の犬になったよ」
葉矢水
「引き取ったのか?」
「うん」
葉矢水
「あきれた、まあ、お前はそういうヤツだな」
「???」
葉矢水
「犬の飼い方は、大丈夫そうか」
「今のところ大丈夫っぽい、文句も無いらしい」
葉矢水
「まあ、困った事があったら言ってくれ」
「頼りにしてますよ、おっと教授だ」
始まった授業、そして終わる。
「じゃあまた」
葉矢水
「何かあったら、メールでも何でも良いから連絡くれよ」
「うん、その時はよろしく」
■15:40
コンビニでバイトの時間だ、バイトもだいぶ慣れた、ほとんどの仕事は覚えた。
その仕事ぶりは、コンビニマスターと呼んで貰っても構わない、
それほどまでに全てにおいて完璧だ……
嘘です、振り込みの伝票処理とかは、まだマニュアル見ながら、なんとかやってます。
最近は、オーナの田所さんが復帰されたので、そこまでは忙しくない、
すこし短めの4時間とか6時間とかで入れて貰っている。
このくらいの労働が、僕には、ちょうど良い感じだと思う。
オーナーの田所さんは凄い良い人だ。
野良猫を愛しており、毎日餌を上げている。
これだけで、どれだけ素晴らしい人格者か解るであろう。
心は空よりも大きく、その愛は海よりも深く……
すいません、誇張しすぎました、話がずれましたね。
ちなみに、この日の僕のシフトは16時から20時の4時間勤務となっております。
バイトが始まり、淡々と仕事をこなしていく、そして今日のバイトが終わる。
バイトの上がり際に田所さんから声を掛けられた。
田所さん
「森川くん、私は今日はちょっと遅くなりそうなので、
野良猫たちに餌をお願いできないかしら?」
「お安いご用です」
田所さん
「これが今日の分の餌ね、お願いね」
そういって、紙袋に入れられた猫の餌を渡された。
「了解しました」
田所さん
「よろしくね」
■20:15
野良猫達へ餌をやる前に、ちょっとだけ帰宅する。
「長老、夜の散歩に行きましょうか」
長老
「もうそんな時間か、では行こうかの」
長老を散歩へ連れ出し、野良猫公園へと向かう。
公園にはドラ太、ヒゲマユゲ、ミケ子が待っていた。
「こんばんわ、田所さんに頼まれて餌を持ってきたよ」
ヒゲマユゲ
「ありがたい」
食事を用意して野良猫達に振る舞う。
ドラ太
「ところで、長老はコイツの家の犬になったんだろ」
長老
「まあ、そうじゃな、新しい主人だ」
ドラ太
「どうなんだ?」
長老
「かなり快適じゃよ、餌と寝床も良い感じじゃしな」
「君たちさえよければ……」
ミケ子
「その話は、お断りします」
「まだ何もいってないのに」
ヒゲマユゲ
「どうせ『家の猫にならないか』だろ」
「うぐぅ、その通りです」
ドラ太
「ところで、仕事の方はどうなんだ?」
「まあまあ上手くいってるよ」
ヒゲマユゲ
「田所さんも、お前の事を褒めてたぞ」
「本当? うれしいな、優秀な人材とか、そんな事を言っていた?」
ヒゲマユゲ
「いや『仕事はそこそこだけど、猫達の面倒を見る人が増えて嬉しい』とか言ってたな」
「……そっか」
ミケ子
「信頼はされてる様だから、良いんじゃないの」
「そうだね、まあ仕事の方は頑張ろう」
ドラ太
「でもお前が来てから、かなり負担が減って、助かってるみたいだぞ」
ミケ子
「どうしても一人だと無理が出てくるからね」
ヒゲマユゲ
「お前も無理するなよ」
「うん、解ったよ、じゃあそろそろ買えるね」
ヒゲマユゲ
「またな」
家に帰って、夕飯を取った。
夕食後には、少しだけ長老のお世話がある。
軽いブラッシングと、簡単なリハビリだ。
「足の関節を伸ばしますよ、長老」
長老
「ゆっくりな、おお、そこら辺が限界だ」
「関節周りが、だいぶ柔らかくなりましたね」
長老
「うむ、歩くのもだいぶ楽になったわい」
「この調子で、どんどん良くしていきましょう」
長老
「ほどほどにな」
「そうですね、今日はこの辺にしておきますか」
■21:20
ちょっと疲れて来たので、横になってゴロゴロとしている。
だけど、まだ僕には、重要な仕事が残されている。
クロとの時間、クロにスキンシップを取らなければならない。
クロ
「別に取らなくても良いぞ」
「またまた、遊んでほしいんでしょ」
クロは何のかんの言いつつ、僕に近寄ってくれた。
寝転んだままで、クロを両手で持ち上げる。
「おや、体重が軽くなったのかな、痩せた?」
クロ
「変わってないぞ、主が働く様になって、筋力が付いたんじゃないのか?」
「そうかもね」
クロ
「今までは何もして居なかったからな」
「う、うん、まあ、そうだね、そうとも言うね」
クロ
「ところで、先日の神社の話、どう思う?」
「長老の言っていた昔話の事、どうなんだろ?
今度、時間のあるときにでも調べてみるよ」
クロ
「まあ、関係無いと思うがな」
「うん、そうだね…… なんだが眠くなってきた」
クロ
「子供はそろそろ寝る時間だからな」
「またからかって、でも早いけど寝ようかな」
クロ
「眠たい時には寝るのが一番だぞ」
「そうする、じゃあおやすみ」
クロ
「おやすみ」
こうして充実した日々が過ぎていく。




