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ヒロインさんと楽しいゲーム生活。

ヒロイン観察楽しいです。

作者: 雪音 蒼

 一途なヒロインが好きです(白眼)。


4/14 感想で指摘され、ルミスの役職が明記されていなかった事に気付いたため、文中にルミスの役職を追記しました。

「マイスイートラブリーエンジェル・ルミス君に届け! 私のラヴ・パワーっ! ルミスくーん! 好きだー!」


 とある女生徒の叫びが森林ダンジョンに木霊する。精神的に力が抜けるのとは裏腹に、暖かな力が体の内から湧き出してきてどうにも釈然としない。

 鬱蒼と生い茂る樹木からバサバサと何かの鳥が羽ばたき、ギェーと潰れた鳴き声を残して大空へと消えた。

 前方で魔物達との戦闘を行っていた少年達の内、紺碧の髪とライトブルーの瞳を持つ少年が片手のナイフを事切れた魔物から引き抜きざまにもう片方の手でずり落ちかけた眼鏡を直しつつ叫んだ少女へと叫び返した。


「大声で人の名前叫ぶのは止めろと何度言わせれば分かるんです! 毎度毎度っ、もう少しマシな応援の仕方は無いんですか!?」


 額に怒りから来る青筋と、頬に羞恥からくる朱をのせた彼こそが、ルミス君…ルミス・レインキャストその人であった。


「いやー、私の能力ってまだ謎だらけだからこれ以外の発動条件わかんないんだよね。でも良いの! 怒ったルミス君もかわ…かっこいいから!」


 とても良い笑顔でサムズアップしながら答えたのは肩ほどまでの黒髪とチョコレート色の瞳を持つ美少女だ。

 愛らしい学園の女子制服に不釣り合いな大きさのリュックサックを背負い、首から双眼鏡を下げ、手には拡声器を持っている。

 彼女は本来ダンジョンの立ち入りを禁止されている非戦闘員だ。しかし彼女は特異な能力を持っており、居るだけでメンバー全員のステータスを底上げするために特例として戦闘に参加している。今やその双眼鏡で戦況を観測し拡声器で的確な指示を飛ばしてパーティーを導く立派な指揮官である。


 同時に、このゲーム世界のヒロインでもある。


 そして、ぴょこぴょこと跳び跳ねながら熱烈なラブコールを続けるヒロイン…キャナ・マーベルランカを守るような立ち位置で魔法の杖を片手に時折攻撃魔法をばらまいている私、エルザマリア・フィス・ローゼマインは本来なら彼女のライバルの一人、のはずだった。


 前世私は『戦女神の恋歌』という乙女ゲームにドはまりしていた。

 世界観は剣と魔法の学園ファンタジー。ある切っ掛けでヒロインに不思議な力が有ることが分かり、それによって彼女が学園の生徒会長に異例の大抜擢をされるところから物語は始まる。

 主人公は生徒会長として学園の様々なイベントをこなしながらも恋に勉強に戦闘にと忙しくも充実した生活を送るのだ。

 最初の選択肢で顧問含めた生徒会関連キャラを攻略する生徒会シナリオと幼なじみや委員長や不良などを攻略するユニークキャラシナリオに分かれて、そこから更に各キャラの恋愛ルートへと分岐していく。

 私は生徒会シナリオで現れるライバルだ。

 エルザマリア・フィス・ローゼマインはこの学園の学園長の孫娘で、攻略キャラの一人である副会長の許嫁だ。

 ゲームでは大好きな副会長に常にべったりで、うざがられようがあしらわれようが無視されようが心折れること無く副会長に付きまとい、無理矢理生徒会補佐という役職まで作って生徒会に自らを捩じ込んできたパワフルな暴走お嬢様だった。

 ただ、ねちっこい嫌がらせだとか裏から手下を使ったいじめだとかいうのとは無縁で、主人公と副会長が一定以上仲良くなると「あなたはクロムに相応しくありませんわっ! どうしてもと言うならわたくしと決闘なさいっ!!」と特攻してくる。

 そして順当に負けたりドジっ子スキルで自爆したりする。

 ユーザーには猪姫だとかアホの子だとか散々言われていた。なお、友情ルートに入ると主人公にべったりになったりする。彼女はなんというか、空気が読めない、他人との距離感を掴むのが下手な残念お嬢様なのだ。

 めんどくさい子だけど憎めない奴というのが彼女の概ねの評価で、副会長ルートに行かなければむしろギャグ要員にされるキャラだった。「エルザたんを(生)温かく見守り隊」というファンが着くくらいだった。私もそこまでではなかったがエルザのことは気に入っていた。

 しかし私は小さい頃に副会長との初対面でこれ等の事含めた前世の記憶を思い出し、そのせいで本来のエルザマリアとは別の人格として固まってしまい、特に何もしなくてもバタフライエフェクト的に色々ゲーム設定が改変されてしまったのであった。残念。


「L・O・V・E・ラブリー・ルミス!! 大サービスでポーズも付けちゃうっ! らぶらぶきゅん♪」


 …でもたぶんヒロインの性格改変には私関わって無いと思うんだ…というかどんな干渉したらこうなるんだよ…。


 ゲームでのヒロインは自称何処にでもいる普通の女の子、の皮を被った聖女だった。

 一見普通の女の子と見せ掛けてこんな普通の女の子がゴロゴロいたら世の中もっと平和だよと言いたくなるくらいには女神だった。

 本来ボーナスステージであるはずのハーレムルートを堕天ルートと言わざるおえない通常ルートでの一途な女神っぷりに、ハーレムルートで言い知れぬ罪悪感に苛まれるユーザーが続出するぐらいだった。かつての私もその一人である。


 それが何故…こんな…良くも悪くも俗っぽく…いや悪い子じゃないし、むしろ良い子なんだけど…なんかギャグ時空に生きてるっていうか…。

 ゲーム時代の面影何処行った?


「あ、貴女は、よくあんなこと恥ずかしげもなく出来ますね…! 僕をからかうのはそんなに楽しいですか…!」

「超たのしーです。…あ、待って帰ろうとしないで。恥ずかしがるルミス君も最高に可愛いから大げさにチョッカイ出してるだけで紛れもない本心を垂れ流しにしてるの! そこんとこ誤解しないでね!」

「どこんとこですか。って、わあっ! ちょっと、近いんですよ距離感が! いきなり引っ付こうとしないでもらえます!?」


 視界から魔物が完全に消えて戦闘も一段落したところで、さっそくヒロインさんことキャナと生徒会書記のルミスがじゃれあっていた。

 さっきまで私の後ろにいたのに、戦闘終了の気配を感じるとすぐに前衛班の元へと走っていき、背中のリュックサックから回復ポーションを出して配りながらルミスにチョッカイを掛ける…という大体いつもの流れだ。

 おそらく彼女も転生者なのだろうと私は思っている。このゲームの知識を持っていないだろうとも。

 というか元日本人かつオタクでもないと「ルミス君マジ天使」「ルミス君はあはあペロペロしたい」「ルミス君は俺の嫁」と呟く事はまずないだろう…。

 起こるイベントのことごとくを斜め上、もしくは下に大幅にずれた対応でブレイクしていくため物語のラブ:コメ成分が軽く1:9ぐらいに変化してしまった事から乙女ゲームや少女漫画にはあまり詳しく無いのかわざと変な対応して楽しんでいるのかどうだろうわからない。

 軽く俺様入ったクール系副会長と、なに考えてるかわからないミステリアス系腹黒会計、という生徒会シナリオの人気2トップに靡くどころか見向きもしない辺りだけが一途な原作ヒロインの面影なのかもしれない。


 なお、件の副会長と会計は「色々あたってるんですよ恥ずかしい! 離れて下さい!」とキャナを引き剥がそうとしているルミスと「あたってるんじゃない、あてているんだ。」とか言いながらルミスの腕にくっついているキャナをニヤニヤしながら生暖かく見守っている。


「わ、笑ってないでクロムからも何か言ってくれませんかっ?」


 とうとうルミスが副会長―私の許嫁でもあるクロム・デュマ・ロヴェンデュールに助けを求めた。クロムはニヤニヤを誤魔化そうともせず楽しそうに言ってやる。


「良いだろ、別に。愛されてるじゃねーか。くくっ」

「そうだよ、私のラヴはルミス君一直線なんだよ。」

「貴女は黙ってて貰えますか。」


 すかさず便乗したキャナのラブコールはあっさり切り捨てられた。しかしそれで諦めるキャナではない。


「言葉ではなく行動で示せという事…? 要するに(性的に)襲ってくれという」

「違う!!」


 ここで会計のキーリス・レイグレインが吹き出した。「ああ、ゴメン、ぷくく…」と取り繕いながら背を向ける。しかし肩を震わせている事から笑いが収まっていないことは明白だ。


 彼女の凄いところは乙ゲーの土台をぶち壊す強烈なキャラクターだと思う。

 嫌いじゃないよ、そういうの。



「めえ、キャナは相変わらずなのです。」

「全くだ、よくやるよホント。」


 ぼーっとヒロイン観察をしていたら、丁度索敵班の二人も戻って来た。


「お疲れ様、クルッカ、メルル。怪我はない?」


 振り返ったそこにいたのは男子制服を着たフクロウと女子制服を着た羊だった。

 彼らは獣人…と、呼ぶのは侮蔑とされるから主に『毛皮ある者達』と呼ばれる種族で、ほとんど服を着たアニマルズにしか見えないが立派に文明を築く人類である。なんという等身大シル○ニアファミリー。

 よくある人間にケモミミと尻尾が生えただけの者達もいるが、そのタイプは半獣人と呼ばれる別の種族だ。

 ちなみに、わが校の制服はポンチョのようなローブのような、体格に縛られない形をしている。毛皮の人達はそのまま毛皮の上から制服を着ているし、我らが人間種はその下に私服を着ている。

 ここはゲーム時代から少し変わっているところで、恐らく毛皮の人達の立ち絵が無かったため普通のファンタジー風ブレザー制服だったのだろう。


「怪我どころか抜け羽すら無いよー。あと、この辺りの魔物はさっきので一掃出来たみたい。いやぁ、人間でも流石に生徒会は戦い慣れているねぇ。」


 首をぐりんと回しながらフクロウ男子…クルッカがいう。隣の羊女子のメルルは自慢の白い毛並みを整えながら穏やかに言った。


「トロい禿げ猿にしては上出来なのです。とっとと貰うもの貰って帰るのです。めえ。」


 愛らしい声と羊な容姿に似合わず軽く高飛車なメルルは実のところ貴族のお嬢様キャラである。トロい剥げ猿と言うのも毛皮の人達が人間種を貶める慣用句だが、貶めながらも一番仲の良い友達がキャナであったりキャナにその事で怒られたらしゅんとして落ち込んでたり話し掛けられたら超嬉しそうにしながらも興味無さげに取り繕ったりと…この羊、ツンデレである。

 本来ゲームでは存在しなかったこの二人、キャナの紹介で生徒会パーティーの支援をしている。

 紹介というより生徒会の仕事で忙しくなったキャナに構って貰えず痺れを切らしたメルルが生徒会に殴り込み…もとい手伝いの名目で乱入し、メルルの幼なじみ兼使用人のクルッカも彼女に付き合って手伝いをしているのだ。


「キャナ! いつまでじゃれあっているのです! とっとと帰るのですよ!」


 メルルはいつまでもじゃれつき続けそうなキャナへと声を上げる。

 ワイワイと賑やかな会話に興じていたキャナはシュバッと挙手の敬礼を決めて「了解でありますメルルたん! アイテム回収して帰投準備~」と逞しく魔物の角やら牙やら毛皮やらの剥ぎ取りを開始する。

 もちろん周りの男子達もそれにならい、私は謎容量の魔法のバックに剥ぎ取られたアイテムを片っ端から突っ込んでいく。メルルとクルッカは辺りの警戒だ。


「んはっ♪ やったよレア魔石ドロップキター! 純度はB以上、硬度は8から9の間と見た。これは鑑定が楽しみですな! そこそこ良いスキルの匂いがします!」


 レアドロップにキャナのテンションが上がった。彼女は恋愛パートよりも、やり込み要素として存在した戦闘パートの方に重きを置いて行動している節がある。


 『戦女神の恋歌』では戦闘要素はあれど、シナリオだけなら全く戦わずに一通り回ることが出来る。この戦闘パートで得られるのは主人公を挟まない攻略キャラ同士の掛け合いやサブイベントだ。

 このサブイベントを進めて手に入る固有アイテムの有無で個別シナリオの台詞などの微妙な差分が見れたり、差分スチルが現れたりする。

 なお、戦闘苦手なお姉様達のためにこの固有アイテムは有料でダウンロードすることも出来る。私も手を出しかけた。


「色的に闇属性! やったね副会長、防具が増えるよ!」

「ああ…、だが何故防具限定」

「だって副会長前衛の癖に火力ユニットで紙装甲気味だからげふんげふん…攻撃は最大の防御的なステータスですし?」

「おい」

「というか生徒会ユニット皆そんな感じだよね。前衛中衛後衛火力一辺倒で回復もキー先輩の『ライトヒール(サブウェポン)』だけとか。そもそも最初は見た目重視のゴミ装備とかSPスキルポイントなんか振り直してやっと運用可能な糞配分……誰だよこれ入れやがったのはって感じでしたしマジで。」

「また訳のわからない事を…。」


 ごめんなさい私です。昔からゲーム知識で戦闘方面サポートしようとちまちま皆のSP振って来ましたが、シナリオ重視でそっちは全く素人だったんです。

 逆にキャナは戦闘畑の人らしく初期の資金資材を装備関係を整えるのに使い切り、それからは積極的に戦闘クエストで経験値と素材集めを重ね、頻発する恋愛イベントのほとんどをスルーかブレイクしていったのでした。

 おかげで私含めた生徒会キャラはメキメキとレベルを上げていき、最近では騎士団でもなければ立ち入らないような高難度ダンジョンにまで手を出している。今現在居るのもそこである。

 ちなみにメルルとクルッカは私達より更にレベルが高かった。1年早くキャナの傍にいたからだろう。彼女等によるパワーレベリングも記憶に新しい出来事だ。


「でもね! ユニット性能なんて愛で補えるの! 器用貧乏タイプのルミス君だって私の愛で世界最強に押し上げてみせるっ! 二軍落ちになんて、させないっ!」

「愛で世界最強って……勝手なこと言わないでもらえますか。」

「できるよ! 世の中にはキャ〇ピーだけで四天王倒して殿堂入りするポケ〇ントレーナーだっているんだよ! なせばなるっ! なさねばならぬなにごともっ!」

「ちょっと」

「うおー! やったったんぞー! 愛の翼、広げちゃうぞー! でもチートツール、てめーはダメだ! 貴様はゲームを舐めきっている! 私は正々堂々最強を目指すっ! あいきゃんふらーい!!」

「めえ…。そろそろ電波の受信を止めるのですよ。ドン引きされてるのです。」

「……………………っは!?」


 魔石を握り締め拳を空へと突き上げていたキャナは、呆れたメルルの声に冷水を浴びたように体を震わせ硬直した。

 気まずい沈黙の後にみるみるうちに顔が真っ赤に染まっていき、ばっと顔を覆ってうずくまった。


「ぐあぁああぁぁぁ~!! 忘れてぇ~!! 今の無し無しっ! リセットぷりーずぅぅぅ~!!」


 その体勢はほぼ土下座だ。耳まで赤い。私はこの子の羞恥のツボが良くわからない。

 普段からだいぶ恥ずかしい所業を(主にルミスに)仕掛けていると言うのに…。


「めえ。今のを忘れたところでキャナが残念な子と言うことに変わりはないのですよ。無意味なのです。」

「げふっ…メルルたん相変わらずキツいっす。ざ、残念キャラじゃないし…電波でも無い……無いよ? 無いよね?」


 真っ赤になって涙目で不安そうに回りのメンバーに同意を求めるものの、ほとんどの人に目を逸らされた。私も逸らした。前世の記憶という電波を受信している仲間として、一緒にされたくなかったと言う気持ちは紛れもない本心だった。

 ごめんなさいキャナさん、私は貴女とは違うのよ……。


「あひん、諸行無常?」


 使い方間違ってると思いますよ。



 その後、まだダメージが抜けきらないキャナをなだめすかして学園への帰路につく。

 普段よりちょっぴり肩を落として歩くその姿を数歩後ろから眺めながら、私は生暖かく微笑んだ。


 ああもうホント、なんなのこの子。面白すぎるんですけど。


 転生に気付いてすぐは前世の記憶にある転生逆ハー系主人公だったらどうしようとか、セオリーどおりざまぁする基盤整えた方が良いのかなでもめんどくさいなとか、色々考えつつ何の行動も起こさないまま月日が経ってゲーム期間が始まってしまった訳だけども。

 まさかこんな、見てるだけで面白い主人公が現れるとは思っても見なかった。私はけっこう彼女が好きだ。


 ですのでここはちょっぴりチョッカイをかけたくなるのが人情と言うもの。予想外の方向へ跳び跳ねまくる彼女をもっと見ていたい。もっと主人公観察したい。


「そこな道行くルミス君。ちょっと宜しくて?」

「……なんですか、ローゼマイン先輩。」


 物凄く嫌そうに警戒心剥き出しで、それでも言葉だけは礼儀正しく応じてくれる出来た後輩に生暖かい笑みのまま小声で話しかける。


「あそこでショボくれている生徒会長さん、彼女があんなに大人しいと調子が狂いませんこと?」

「はあ。静かで良いと思」

「ああ、わかる。わかるよそれ。僕も丁度そう思っていたところなんだ。」


 ルミス君を挟むように私の反対側に現れ台詞を食い気味に同意し出した会計・キーリス。ちらと彼に目を向ければ底知れない笑みをふわりと浮かべてアイコンタクトは終了した。要するに彼もまた彼女の奇行を面白おかしく見守る同類なのである。


「ルミス君ちょっと行って励まして来なさいよ。貴方が行けば一発だから。」

「とても良い考えだ。ルミス君、さあ行ってきておくれよ。大丈夫、僕達は見守っているから。」

「何処に大丈夫な要素があるんですか! 貴方達ただ面白がっているだけでしょう!」

「そんな、僕達はただ同じ学園の仲間を心配してるだけだよ。うん。」

「そうですわ。ほらクロムも何か言ってやって下さいな。」


 私は静観していたクロムの腕を引っ張って会話に引き込んで行く。前方でキャナの隣を歩くメルルの耳がピクピク動いているが会話に交ざる気はないようだ。黙っている。

 逆にクルッカは首を180度回して面白そうにこちらをガン見しているが。怖いからそれ止めてほしい。

 俺様属性をエッセンス程度には持ち合わせている副生徒会長様は、ふむ、とその整った顔で特に表情を作ることもなくキャナの後ろ姿と嫌そうな表情のルミスを見比べ、一言。


「行け、ルミス。」

「ええぇ……」


 クロムを崇拝している(公式設定)ルミスはそれでも嫌そうに唸った後、スッと横にずれてキャナの隣に人一人分のスペースを空けた空気の読めるフクロウ男子を忌々しげに眺め、ノロノロとそのスペースに収まった。


「………………………………あの。」


 メンバー全員が見守る中、とても居心地悪そうに話し掛けたルミスの声は棒読み気味だった。


「ちょ、調子が狂うので……いつもみたいに五月蝿くしてて貰えませんか。」


 もうちょっとなんか言い方無かったのか。私は歯痒く魔法の杖を握り締めた。キーリスも私と同じような「うわ~」という感じの表情をしている。クロムの顔色は何の変化もない。


「聞いてますか、キャナ先輩? その、貴女がおかしいのは最初からなので落ち込んでも仕方がないですし……、今更僕達は気にしませんよ。」


 おっと。

 突然、それまで黙々と歩いていたキャナが立ち止まった。一瞬ぶつかりかけて、慌ててこちらも立ち止まる。

 間近で見ると分かるが、キャナは僅かに震えていた。


「………………た………。」


 小さく掠れた呟きが聞こえた。

 次いで、すぅっと息が大きく吸われる音が聞こえて、それは爆発した。


「る、ルミスきゅんがッ! デレたあああぁぁぁッッ!!」


 ずびゃっと両手を万歳の格好に上げてキャナは叫んでいた。


「うわああっ! 聞いたっ!? 聞きましたか奥さん今! 今ルミスきゅんがデレましたよ!! わわ私が変な子でも気にしないって!! 完全にフラグ立ってるよね建設しちゃってるよねッ! やっぱり好きーっ! ルミスきゅん大好きぃー!!」

「うわあくっつくないで下さいませんか、やめっ、止めろーっ!?」


 告白と共に抱き付かれたルミスの敬語が崩れた!!レアなものが見れて私は満足です。


 犬系の半獣なら完全に尻尾が振り千切れんばかりにぶんぶか振り回されているであろう超☆エキサイティン状態になったキャナと、それに振り回されてキャラ崩壊への道をひた走る元・冷静沈着小生意気系後輩眼鏡キャラ・ルミスきゅんを満足感と共に見守った。


 いやあ、ほんと。

 ヒロイン観察楽しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 言わざるおえないでなく言わざるを得ないですよ
2017/04/28 01:38 退会済み
管理
[一言] 面白かったです、けれども読み溢しならすみません。 ルミスの役職(ポジション)は何でしょうか…? そこだけ気になりました。
[一言] これはぜひ連載で!
感想一覧
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