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心が読める

「え!ニコ、あのおじさんに会ったって?」

「うん、ミシェル先輩にあいがとうと伝えてほしいって。

先輩を呼びに行く前に、帰ってしまったけど」


ミシェル先輩は、碧眼を丸くして、驚いてる。

何、驚く事あるのかな・・ほんの偶然だったんだけどな。


「どうりで。僕に”プレゼント”が出てくるはずだ」

そういって、白に薄いピンクのリボンのかかった小さな箱を見せた。


秋葉原での公演の後、僕とミシェル先輩は、サンタランドに帰った。

寮のホールで そのおじさんの事を報告すると、先輩は予想外にびっくりしてた。

おじさんを見かけてたそうだ。声をかけるひまなく、彼は姿を消してしまってたそうだ。

影からそっと見ていたかったのかもしれない。

遠くからみて、亡くなった娘さんの事を思いでしてたのかな。


”意外だよな・・あのニコがな”

なんて、失礼な言葉を残して、先輩は部屋に戻った。

僕は、これからクラウス先輩から出されてる宿題を少しこなさないと。

サンタ古語の基礎。古語でかかれ現代語訳されてる民話を、また古語に戻す。

という、なんともむなしい気もする宿題だ。

サンタ古語は、魔法の呪文に必要だから、かならず覚えなければ。


とはいっても、疲れからくる睡魔と、古語の複雑な形にギブアップして

12時前には、寝てしまった。


ー・-・-・--・-・-・--・-・-・--・-・-・--・-・

次の日は、午前中は休養で午後から講義。

クラウス先輩も疲れてるようだ。午後は遅れてきた。


僕も疲れ気味である。公演とはいえ、そう働いてないのに。

それに、クラウス先輩は一晩中、働いてたのだろうか。

今日は、顔色が悪い。


「今日は、クラウス先輩の顔色が悪いですよ」

「お前もな、ニコ。フラフラしてるんじゃねえか?」

「いや、そこまでは・・」


といいつつ、たまにフラつく事がある。なんだこれは・・


「ニコ、サンタランドはな、東京のように交通網も発達してないし、電気もない

まあ、魔法があるから必要ないんだけど。でも、空気だけは清浄で汚染されてない。

そんなサンタランドに慣れた俺たちは、人間界に長くいる事と、それだけで疲れるんだ。


ニコは、まだ成人してないのだし、あまり無理できない。

この間の発熱も、おそらく、東京の空気に”あてられた”せいだ」


そういえば、思い当たるふしはある。

「あの地下アイドル公演で、息苦しかったです」

「ああ、あれは、普通の人間でも息苦しさを感じる狭さだからな。

ミシェルは、まだ、ベッドで寝てるだろう」


後でそんなつらい目にあうのなら・・

あ、そうか、そういう事だ。

僕はわかった。ミシェル先輩は、あの中年おじさんの事が心配で、地下アイドルを

続けてたんだ。 でも、やっぱり先輩の趣味だろうか。


午後からは、明日の活動の説明と注意。

いたって、実践的だ。


明日は、山の手線に乗って、田町で降り、その街に拠点のある

見守りボランティアグループの活動に参加。

終わったら、児童生徒の下校時の見守りだ。

で、見守りってなんの??


「佐田さんの助けを借りて、俺は

”日本のボランティア活動を研究する日本語の堪能なドイツ人”というふれこみだ。

ニコは、たまたま遊びにきた俺の従妹という設定。

魔法で変化しなくても、出来る。

見守りは、地域で一人暮らしするお年寄りの安否確認と、お便り描きをする。

児童の見守りはわかるな。子供を無事に家に帰るよう、眼をひからすことだ」


児童のほうはともかく、お年寄りの安否確認について、聞いた。


”近年、東京では一人暮らしのお年寄りの孤独死が増えてるので、そう

ならないための、必要最低限の声掛け運動ってとこかな。

あと、一人暮らしのお年寄りにハガキを出す。

特別な事を書くわけじゃなく、一言、お元気ですか?とかそういうことだ。

とても先進的な取り組みをしてる地区と、佐田さんが言っていた。」


孤独ではないけど、部屋で一人で死んでいった老女の事は、知ってる。

汚部屋の持ち主で、佐田さんでさえ対応に苦慮してた。


見守りの対象の住人が、汚部屋の主でありませんように。

そう思ってた僕は、しょっぱなの山の手線の電車で、苦労した。


ー・-・-・--・-・-・-・--・-・-・-・-・-・-・-・

平日、昼の山の手線は、比較的すいてるほうなのだとか。

それでも、人工密度の低いサンタランドで育った僕にすると、大混雑

に思えて、化粧や香水のニオイ、整髪料や汗のニオイがいるまじって、

僕は、胸が悪くなってきた。

それに、いろんな人が乗ってる。若者から壮年が多いけど、子供一人だけだったり、

年配のご夫婦も多い。やたらトゲトゲした黒い皮ジャンパーの若者もいた。


人の声も断片的に聞こえる


”昼からの授業でラッキー”

”やれやれ、薬代で今月も赤字か”

”♪ ♪~~”

”今日は、報告書を出さなければ”

”塾、さぼりたいな~”


気がつくと、誰も口を開いてない、でも声は聞こえたんだけど。

そのうち、その声が渦のように頭の中で回ってた。

クラクラして、倒れそうになり、先輩に支えてもらった。


ちょうど、田町につき、先輩に肩をかりながら、やっと降りた。

ミネラルウォーターを飲んで、やっと人心地ついた所で、先輩に

電車の中で僕が聞いた声の事を相談した。


先輩は、思いのほか深刻な顔で

「ニコには、人の心の断片を読み取る力もあるんだな。

それが、たまたま今日、出た。

役に立つ能力ともいけるけど、ニコには使いこなせないし、負担が

かかりすぎるな。」




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