猫姿で活躍?
次に来たお客さんは、25歳前後で、ベージュのスーツで地味な女性。
元気なく椅子に座る彼女は、顔色が悪く、目の下に隈も出来てる。
僕は、また黒猫の姿で先輩の膝にいる。
”いらしゃいませ”
僕は占い用の台にあがり、僕は彼女の腕に体を擦りつけた。
女性と触したいとかじゃなくて、自然と体が動いたんだ。
「あら、綺麗な猫ちゃんね。お名前は?」
「ノワールっていいますのよ。フランス語で”黒”って意味です。
ほほほ。クロのほうが呼びやすいですわね」
僕は正しくはニコル、ニコって呼ばれてもいいけど。ノワールでもクロでもない。
プンプン気分で、長い尾を振ると女性にあたった。おっと。
「猫っていいですわね。見てて癒されます。」
「そうですわね。で、どんな事を占いましょう?」
「転職を考えてるのですけど、上手くいくかどうか占ってほしいのです」
彼女の元気のないのは、サンタ並みのブラック企業で働いてるのかも。
だから転職するつもりなのかな。
「今はどういったお仕事なんでしょうか?さしつかえなければ
教えて下さいますか?」
「普通の会社の事務職です。パートなので、5時に勤務が終わったあと、
居酒屋で皿洗いのパートをしてます。ダブルワーキングです。
それでも、生活が苦しくて・・。時給の高い水商売にでも転身しようかと」
さっきの30男のようなイヤなニオイはしない。
嘘は言ってない。僕は先輩を振り返ると、先輩もわかってるみたい。
ところで、水商売って どんな商売?
「そうですね。あっと、ちょっと待っていてくださいませんでしょうか。
先ほどお忘れ物をされたお客様がいらっしゃまして、今、似た人を見かけたので
確認してきます。申し訳ございません」
女性に謝ると、先輩は僕と女性を、放置して席を外した。
「。。ねえ、ノワール。あの方、商売に向いていないんじゃないかしら」
へ?僕に話しかけてる?いや、先輩のこれは、本業じゃないし。
猫の言葉は通じないから、僕はただ、時折、”ニャ”と鳴くばかりで。
「大変、失礼いたしました。先ほどのお客様、おつりを
をもらわぬまま、慌てて行ってしまわれたので、渡ししてきました。」
おいおい、せっかく見料3000円で1万もらって、7000円も余分に貰ったのに?
あの30男、逃げるように帰っていったんだから、おツリ、いらなかったんじゃないの?
「確かに7000円は大きな金額ですもの。
私が居酒屋で4時間、立ちっぱなしで働いてやっと4000円ですものね」
「ええ、先ほどのお役様も、苦笑いしてましたわ。
さて、まず、よろしければお名前と生年月日を教えてくださいませ」
水晶をみるんじゃないのか?サンタには占いの勉強も必要なのか?
「中野 楓 24歳 1991年1月20日です」
「みずがめ座ですね。ちょっと守護星の動きもみてみます。
今は、一番、遠くに離れてる時期ですね。いえいえ、悪いわけじゃないんです
のよ。守護星が遠くにある時は、何か新しい事を始めるのは、有利とはいえないので」
水瓶座っていうなら、水と相性がいいんじゃないのかな。
「先生、あまり上手くいかないと・・」
「いえいえ、そこまででは、ありません。ただ、水瓶座の人は、社交的でクールで現代的。
同時に、嫌いな人と付き合うのは苦手な方もおられます。
楓さんは、20日生まれなので、どちらかというと山羊座の性格も入ってますね」
へ~~。生まれた日で性格の傾向が決まってくるんだ。
サンタランドには、そういう占いはなかったよな。
「そうなんです。友達に、古い!とか保守的とかよく言われます。
元カレからは、別れ際に”ケチな女だ”って捨て台詞はかれて・・」
「まあ、それはひどい。山羊座の人は12の星座の中で
一番、堅実で、包容力を持ってるのに。
ただ、水商売の世界は、そんなやさしさとは真逆の世界ですよ。
ちょっと水晶をご覧くださいな」
水晶には、若い女性が数人、たばこを吸いながら お喋りしてた。
なんか、肌の露出が多い服で、ヘアスタイルはバッチリ決めてる。
アカデミアの入学パーティに、こういうふうな母親がいたっけ。
やたらキラキラした宝石をつけて、化粧がばっちり濃い。
”ちょっと、あんた私の客とらないって約束したのに、
何、この間、アフターで焼肉行ったって?”
”ふふ、あの人、私のほうが、若くてかわいいって。先輩、お綺麗ですけど
さすがに年齢には、勝てないかもですね”
・
・
水晶玉には、若い女性のちょっと陰険な会話の様子が映し出されてた。
「水商売の裏側って、私も知りませんでした。
私も実情をよく知らないので、さっき通りかかった水商売風の女性の過去を、
コソっとのぞかせてもらいました。
その映像だったんですけど。
こちらによく占いに来てくれるキャバクラの女性グループが、いらっしゃいますけど
彼女たちは本当に仲が良くて楽しそうでした。
仕事場だとこういう雰囲気の時もあるんですね。
あまりよくない場面でしたね、申し訳ありません。」
水を売る商売じゃなくて、キャバクラで、女性同士が仲が良くて、陰険な会話???
僕はまず人の社会の事を知らないといけないかも。
僕は頭の悪いけど、そういう問題じゃなく、この日本の社会の事を知らないんだ。
こっちで”感謝の心と言葉をもらう”ためには、いろいろ知らないと無理。
それだけは、わかった。
結局、楓さんは水商売の転職はやめることに決めたそうだ。
別れ際、先輩は楓さんに、白い小さな花を渡した。
さっき、席を離れた時に買いに行ったのかな
カモミールという名前の花は、そのいい香りだけで 僕は胸がスっとした。
花の香りに、僕が鼻をヒクヒクさせてると
「猫にもいい香りってわかるのね。目がキラキラしてる」
「まあ、ほほほ。ノワールったら、お腹がすいて、食べるものかと思ったのよ。
食いしん坊だから。ふふ。楓さん。占い師としてじゃなく、お友達としてアドバイス。
もう少し、働く時間を短くして体を休めましょう。
この花の香りは、疲労回復の効能があるんです。枕元に置いておくといいですよ。」
”そうだ。楓さんは働きすぎなんだ。顔色も悪い。もう無理しないで。体壊しちゃうよ。”
僕はニャーニャー楓さんに訴えた。
「まあ、ノワールったら、あなたの事、大好きだって」
「あはは、猫にもててもね。でもうれしい。ありがとう」
先輩は、”楓さんはもう、お友達だから、無料ね”
楓さんは、最初は見料を支払おうとしたけれど、先輩が頑固に受け取らなかった。
お金でいうと、ただ働きってとこなんだけど。
やっと人型に戻してもらったら、ズボンのポッケに、
赤のリボンのかかった黒の小さな箱が、入ってた。
やった、プレゼントもらえた。と喜んでたら、
”はいご苦労さん”と先輩に回収された。
「やれやれ、今日はさっきの男のとあわせて2個か。
二晩続けてはさすがに疲れたな」
クラウス先輩はもとの 背が高く体格のいい黒髪の男性の姿にもどり、背伸びをした。
さっきの男性、おつりを渡したら、ちゃんとお礼したんだ。ちょっと意外。
「ニコ、お前の事が少しわかったぞ。能力はあるけど、ムラがあるんだな。
昨日は、もっと多くプレゼントをもらえるはずなのに1個。
今日はあの状況でももらえた。」
なんかちょっとひっかかる。猫の姿のほうが、有能といわれてるような・・




