アンドレアの言い訳
もう日も暮れた。サリュエルとステファンは、”もう使長様が帰る時間だ”とあせりだした。
二人は、もうアリエルが泣きだしても、連れて帰ると言って、アリエルを僕から引きはがした。
案の定、彼はすぐ目を覚まし、すごい音量で泣き出し始めた。皆、耳をふさぐことになるくらいだ。
”やっぱり無理なんじゃないか””泣き声がすごくて、何言ってるのか聞こえないよ”
切れ切れに先輩サンタ達の声が聞こえた。
まさに修羅場。そこにサンタ評議会の前の議長と、見た事のない男性が急いで入ってきた。
その男性は、人の社会のサラリーマン風で、体格が良く、髪型もカッチリ整ってる。
ただ背広は、派手な縞模様でネクタイは金色。夜の新宿でクラウス先輩が占いをやった時に
こういう雰囲気の男性は、時々見かけた。
クラウス先輩は ”水商売風・・”と、一言。
ミシェル先輩が”趣味悪いけど、妙に似合ってのかな”と、首を傾げた。
「みなさん、すみません。うちの子達は、大変なご迷惑をかけたようで。
申し遅れました。私、プレゼントを贈る側のサンタで、
アンドレアと申します。今回は年初めのご挨拶と、会議の日程調整のために
こちらに参りました。
風から落ちたアリエルを、こちらで助けて下さったとか。
ご面倒かけて申し訳ありませんでした。元気な泣き声が聞こえ、ホっと
してるところです。本当にありがとうございました。」
アンドレアさんは、二人からアリエルを抱きとった。
彼は泣き止み、すぐにウトウトしはじめた。
「命が助かったのは本当に奇跡です。おや、この子の服をつくろってくださったんですね。
ありがとうございます。この白服は、小さな子供たちを守るための特別仕様でして、
この服を着ると、子供を守るためのシールドが、はられた状態になります。
それじゃ、慌ただしいですが、私たちはこれで 失礼いたします。
後で、正式にお礼に参ります。本当にお騒がせしました」
帰ろうとするアンドレアさんに、評議会の前議長が、
”礼などよろしいですから、道中、お気をつけて”と
挨拶をしてる。
サリュエルとステファン、アリエルを抱いたアンドレアさんは、
外に出、そのまま、上に上っていった。
そのうち、夜の空の中で見えなくなった。
残った僕らは、評議員の二人以外は、唖然としてた。
”なんだったんだ?かれらは?”
”会議の日程調整は、わかるけど、なぜ子連れ?”
”っていうか、質問が出来ないくらいの早口口上だったな”
”背広、趣味悪すぎ”
”なんていうか、威圧感みたいので、口が開かなかったというか”
”そうそう、俺もそうだった。彼の目が怖かった”
ヘンな威圧感は、僕も感じた。怖くはなかったけど。
前議長が言うには、アリエルが落ちてきて助けた顛末は、詳しく
アンドレアさんに報告したそうだ。
直接、助けたのは僕だけど、彼はお礼どころか、僕と目をあわせなかった。
それぞれ、すっきりしないものはあったけど、とりあえず自室にもどった。
僕は、少しの間だけど、抱いていたアリエルがいなくなって、
ちょっと寂しい気分だ。
それに、やっぱりヘンだった。あのアンドレアさん。
忙しいから大急ぎで帰る というのもあるだろうけど、
ああいう態度って、言葉通り、感謝してるようにはみえなかったな。
僕は、彼らが消えてった夜空を、窓から見た。
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「なぜ、あんな目立つ背広をわざわざ着て来るのか、不思議
なんだよね。サンタクロースなら地上のファッションも
わかってると、思うんだけどね。」
「お前の疑問点は、そこなのか?ミシェル。
アンドレアさんは、何もかもおかしいだろう?だいたい。仕事に子供、
それも5歳の子を連れてくるか?
お前が繕った跡は、すぐ見えなくなったのに、彼は一発でわかった
ヘンだろう?それに評議会の二人もおかしかったな。早く帰らせようと誘導してたし」
ミシェル先輩とクラウス先輩は、
ここ、ホールで飲みながら、今日の事について話すつもりらしい。
「ニコ、お前はアルコール禁止な。今、ホットミルクを寮監督に
頼んでもらってくるよ」
ミシェルが、台所に走って行った。
「ニコも、何か気になる点があって、眠れないとか?」
「いや、気になるというか、アンドレアさん、何かヘンなんだ。
具体的には、こうって言えないんだけど。」
クラウス先輩はそれを聞いて、ああそうか と思い出したようだ。
「ニコが助けて、ずっと抱いて面倒みたのに、アンドレアさんは、ニコの
顔すら見なかったんだ。詳細は聞いてるはずなのにな。
それに思い返すと、彼は寮監督や他のサンタの顔も見ないようにしていた。
彼の視点は、僕らの頭一つ上にあった気がする。」
「そういえば、僕は背広の印象が強烈すぎるせいか、アンドレアさんの顔を、
ちゃんと覚えてないな」
ミシェル先輩がそういって、僕にホットミルクをくれた。
「もしかして、魔法で変化してるのかもね。そういえば、サミュエル君らの
姿も、一瞬、へんに見えたし。彼らも変化してたのかな」
そうだ、そういう事かもしれない。何かの理由で変化したけど、不完全だったんだ。
それが、違和感の正体なんだろう。
「ニコ、二人がたぶって見えたって、どういうふうに?」
「二人の背中にね、白い羽が見えたんだよ。一瞬だけどね」
僕の言葉に二人とも黙り込んでしまった。
”白い羽っていうことは、つまりは・・”
”そういう事、二人の子は、”使長”って言ってたし。つまりその言葉の先頭は・・”
”シィ!あっちの事は、秘密って事になってる。
さぐってもいけないって、入学した時にキツくいわれたろ”
僕にはさっぱりわからない。だいたい、そんな事、言われた事ないし。
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「やれやれ、いつの年も、詮索好きの者はいるんだな」
そういいながら、当のアンドレアさんが、窓から入って来た。
鍵はかけてたはずなのに。
僕らは、びっくりして、窓からザザっと遠く離れた。
「ヒヨっ子のくせに、深く立ち入るんじゃない。アカデミアでそう
注意されなかったか?」
”ヒヨっ子”って処にカチンと来たのか、先輩二人の雰囲気が、急にかわった。
確かに、ノック(?)もなしに、窓から入って来たのに、ずいぶんと上から目線だ。
「胡散臭い背広のアンドレアさん、何かお忘れ物ですか」
「なにか、玄関から入ってこれない理由がおありのようですが」
先輩二人と、アンドレアさんが何か険悪な雰囲気になってる。
どうしよう。何とかしなくちゃ。喧嘩になったら、また大騒ぎだ。
「待って、アンドレアさん。その変化をといて元の姿に戻って下さい。
変化の魔法が苦手なのかもしれないけど。
”感謝してる”っていいながら、それが顔に出てない。
目に表情もないし。そんな変化じゃ、何を言っても信じられないから」
アンドレアさんは、僕の言葉を聞いて、アングリ口をあけた。
「変化の魔法がヘタって・・変化してる事自体ばれたのか。
まいったな。しょうがない。すまないが
訳あって、本当の姿になる事は出来ない。
でも、君たちには感謝してる。それは本当だ。
さっき、サリュエル達3人に、事情を聞いてきた所だ。
3人で6人の小さい子の面倒をみてたんだけど、一番、小さいアリエルだけが
風の滑り台遊びに、ついてこれず、運悪く、竜巻にまきこまれた。
3人は、残りの5人を守り竜巻を避けるのが精いっぱいだったそうだ。
おさまったところで、アリエルを探しにでかけた。と
私の判断ミスだ」
「いや、あんな小さな子供を連れてくる事自体・・」
とクラウス先輩が言いかけた所で、ミシェル先輩がクラウス先輩の口をふさいだ
「あなたも、面倒な立場なんでしょうから、これ以上は聞きません。
でも、アリエルを助けてずっと抱いてたニコには、直接、お礼を言ってやってもらえませんか。
ついでに、その背広、ダサいです。かえって目立ちますよ」
「あの、アリエルは、あれで大丈夫なんですか?
落ちてきてから、意識はあるものの、顔色は悪く体温は下がる一方だし。
今、あなたが、離れてても大丈夫ですか?」
僕が抱いて泣かなかったのは不思議だけど、アリエルはアンドレアさんに抱かれて
本当に気持ちよさそうに寝ていた。
まだ小さい子だから油断できない。又、泣き出したら、体調にも影響しそうだし。
僕は、ちょっと心配もあった。
「短時間なら大丈夫。私が来たのは、ニコ君に話しがあったんだ」
僕はサンタ見習いであって、アリエルを上手く寝かしつけたからといって、
保父のスカウトなら応じられないな。




