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泣き止まない子供

寮の中に、その子の泣き声が響き渡ってる。

ミシェルや、ちょうど寮にいた他のサンタ達、寮監督もやってきた。


みんな、何かを言ってるけど、泣き声がうるさくて、聞こえない。

今、クラウス先輩が、子供を抱っこしてるけど、僕が代わった。

先輩は、評議会委員を誰でもいいから、連れてくると、出て行った。

僕は、子供を抱っこして、ホールの暖炉を背に向けるようにした。

しばらく、背中をさすってやると、やっと泣き止んだ。


僕は弟妹の世話で慣れてるからかな。この子も少しか、安心したみたいだ。


「やあ、ニコ君、その子だね。空から降って来たの。奇跡的に無傷だなんて、

お手柄だよ。でも、どこの子供だろうね。」

ミシェル先輩、風の能力制御実習してるとこ、見てたんだ。


いかつい顔をした寮監督が、子供を覗きこみ、子供がまた泣きそうになったんで、

あわてて、子供から離れた。


「監督の顔は、子供には刺激が強いんですよ。」

ノッポの先輩サンタがちゃかす。

「うるせいな。ヒヨっこめらが。ところで、この子だけど、

空から落ちて来たって?」

”ありえねえよな”なんて、先輩サンタ達が口々に言ってる。


「この子、もしかしてサンタランドでも、北の方からの客人かも。

おら、お前らも聞いた事あるだろ?”プレゼントを贈る役目のサンタ”

ウチらとは、種族が違うって聞いたことある。」


ミシェル先輩が、子供の白い服をシゲシゲとみてる。

「この生地、人間界でみたことないし、サンタランドの生地店でも

見たことないな。まあ、この辺の生地店だけど」


「先輩、生地店に行ったことあるんですか?」

「まあね。地下アイドルとしては、いつも衣装には工夫をしないと

いけないし。敗れた所を、つくろってみよう。」


ミシェル先輩、そういう特技があるの知らなかった。

洋裁って、サンタの必須?クラウス先輩と針仕事・・不似合すぎて

吹き出しそうになった。


今、空から落ちて来た子供は、泣き止んでるけど、顔色がさえない。

子どもなのに、体温も低くなったまま。

暖炉でガンガン、火を燃やしてくれてるんだけど。


僕にべったりくっついて離れようとしない子を、なんとかごまかしながら、

ミシェル先輩が破れたところを、縫い合わせていく。

すごい、慣れた手つきだ。今度、布絵本の会に連れて行こう。戦力になる。


つくろい終わった時には、ミシェル先輩は、白い肌が暖炉の熱で真っ赤に

なっていた。

「よし、とりあえずだけど、破れたとこだけは、閉じた。

その子、少しか元気になったかな?」


言われてみると、その子は、顔色もよく体温も戻って来た。

名前を聞くと、「アリエル」と小さな声で答えてくれた。


「いろいろ聞きたい事もあるだろうが、とりあえずホットミルクを

アリエルに用意しておいた。お前らの分も鍋にあるぞ」


寮監督は、がさつっぽい印象だけど、こまやかに気がつく人なんだ。

僕は、カップとスプーンを受け取ると、冷ましながら少しづつ、

アリエルにミルクをのませた。

お腹も一杯になったのか、ホっとしたのか、彼は、僕の腕の中で

本格的に眠りだした。

重くはないけど、暖炉の熱がつらい。

僕は、アリエルをおこさないように、少しづつ暖炉から離れた。



「やっぱり、この服、普通の服じゃないよ。この服がこの小さなアリエルを

守る力があるのかもしれない。だから、破れたから力がなくなって、

アリエルが、どんどん体温が下がって行った。

このあたりじゃ、考えられないね。」


ミシェル先輩は、さっき寮監督の言った”プレゼントを贈るサンタ”説を、

他の先輩サンタと話してる。

アリエルを起こさないように、離れてヒソヒソ声だ。寮監督ももちろん中に

はいってる。僕も興味あるんだけどな・・


その時、サンタ評議員議長とクラウス先輩。それと10歳くらいの

これまた白い服をきた子供が二人、入って来た。



「「よかった、アリエル無事で」」

その二人は、ホっとしてへたり込んだ。

「議長、彼らはもしかして”贈る側のサンタ”でしょうか?」

ミシェル先輩が、まっさきに聞いた。


ー・-・-・--・-・-・--・-・-・--・-・-・--・-・-


「僕は、サミュエル、彼がステファン、もう一人いて、今は残りの子と

留守番してる。僕ら3人は君たちと違って

”プレゼントを贈る側のサンタクロース”です。」


10歳でサンタクロースか。。すごいな。僕なんて18で見習いだ。

でも、空から降ってくるなんて、さすがというか、よくわからないというか。

年齢といい白い服姿といい、そっちのサンタは、ちょっと謎だ。


「竜巻に巻き込まれたんですか?この地域には、そういう現象はあまりないはず

なんですけど」

先輩のサンタが興味津々で質問した。

「あの、使長様に聞かないと、答えていいかどうかわからないので・・

ごめんなさい。でも、僕たち3人の配慮が足りなかったんです」


評議会議長が、おもむろに口を開いた。

「ワシも今日、初めて聞いたことなんだがの。”贈る側のサンタ”のチーム長に

あたる人が、今日、アカデミアと市庁舎に話し合いに来るそうだ。

というか、実際のところは、指示に近いかもしれないがの。

その3人はチーム長と一緒にきたのだろうと、思う。

10歳くらいの子供って事はしってたけど、その下の子も連れてくるとは。」


3人は”子供”と言われたことに、一瞬、ムっとしたけど、すぐ、ショボンとなった。

アリエルが、落っこちたのは彼らのミスだし。


ところで、竜巻は地上ではなかった。でも僕は上空で見たし、アリエルは

まきこまれて、落ちて来た。って事は、彼らは空にいたってこと?


二人はアリエルを連れて帰りたいようだったけど、動かそうとすると

起きて泣き出しそうになるので、困ってる。

二人のうち、サミュエルが、僕の顔をしげしげと見て


「アリエルを見てくれてありがとう。本当に感謝してます。

迷惑かけてすみませんでした。

あの、お兄さん、お名前は」


「ニコル、通称ニコね。破れた服を縫ってくれたのが、ミシェル先輩。

議長を呼びにきたのがクラウス先輩。服を縫ったら みるみるうちに元気になってね」

この子達には、白い服の不思議については、答える権限はないかもしれない。

でも、ミシェル先輩がいち早く気づいて、つくろわなければ、アリエルの命は

危なかったかもしれないのだ。


「ミシェル先輩、もしかして服について何かしってらしたんでしょうか?」

「いや、僕も初めてみた。特殊な生地のようだし、もしかしたらって思っただけさ」


二人は、また恐縮してる。

そういえば、ミシェル先輩の応急で縫い合わせた所、今はもう、つくろった跡

どころか、破れた後もない。やっぱり不思議な生地なんだ。


”やっぱり報告するのに、使長を呼んだほうがいい”

二人は、こそこそ打ち合わせしてる。

やっぱ、失敗は隠したいもんだし。


ずっと抱いてる僕から、二人はアリエルを抱きとろうとしたが、

やっぱり無理だった。

ごめんなさい と小声でいう。一瞬、彼らの背中に白い羽が見えた。

今日は、いろいろあって、僕は疲れて幻覚でも見たのかも。

 

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